慶應義塾

【特集:大統領選とアメリカのゆくえ】座談会:アメリカの構造変化とトランプ政権がもたらすもの

登場者プロフィール

  • 飯田 健(いいだ たけし)

    同志社大学法学部教授

    1999年同志社大学法学部政治学科卒業。2007年テキサス大学オースティン校大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。専門は政治行動論。早稲田大学、神戸大学を経て2019年より現職。

    飯田 健(いいだ たけし)

    同志社大学法学部教授

    1999年同志社大学法学部政治学科卒業。2007年テキサス大学オースティン校大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。専門は政治行動論。早稲田大学、神戸大学を経て2019年より現職。

  • 松本 俊太(まつもと しゅんた)

    名城大学法学部教授

    1999年京都大学法学部卒業。2006年フロリダ州立大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。専門は政治過程論、現代アメリカ政治。2017年より現職。2015~16年メリーランド大学政治学部客員准教授。

    松本 俊太(まつもと しゅんた)

    名城大学法学部教授

    1999年京都大学法学部卒業。2006年フロリダ州立大学大学院政治学博士課程修了(Ph.D.)。専門は政治過程論、現代アメリカ政治。2017年より現職。2015~16年メリーランド大学政治学部客員准教授。

  • 三牧 聖子(みまき せいこ)

    同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授

    2003年東京大学教養学部卒業。2012年同大学大学院総合文化研究科地域文化専攻修了。博士(学術)。専門は国際関係論、アメリカ政治・外交。早稲田大学、高崎経済大学等を経て2022年より現職。

    三牧 聖子(みまき せいこ)

    同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科准教授

    2003年東京大学教養学部卒業。2012年同大学大学院総合文化研究科地域文化専攻修了。博士(学術)。専門は国際関係論、アメリカ政治・外交。早稲田大学、高崎経済大学等を経て2022年より現職。

  • 烏谷 昌幸(からすだに まさゆき)

    法学部 教授

    塾員(1997法、1999法修、2003法博)。博士(法学)。武蔵野大学現代社会学部、政治経済学部准教授を経て、現職。専門は政治コミュニケーション研究、メディア社会論。

    烏谷 昌幸(からすだに まさゆき)

    法学部 教授

    塾員(1997法、1999法修、2003法博)。博士(法学)。武蔵野大学現代社会学部、政治経済学部准教授を経て、現職。専門は政治コミュニケーション研究、メディア社会論。

  • 岡山 裕(司会)(おかやま ひろし)

    法学部 教授

    1995年東京大学法学部卒業。博士(法学)。コーネル大学歴史学部客員研究員、東京大学大学院総合文化研究科准教授を経て、2011年より現職。専門はアメリカ政治・政治史。

    岡山 裕(司会)(おかやま ひろし)

    法学部 教授

    1995年東京大学法学部卒業。博士(法学)。コーネル大学歴史学部客員研究員、東京大学大学院総合文化研究科准教授を経て、2011年より現職。専門はアメリカ政治・政治史。

2025/02/06

民主党の大統領候補交代の意味

岡山

ご承知のとおり、2024年11月に実施されたアメリカの選挙では、ドナルド・トランプ前大統領が大統領への返り咲きを果たし、連邦議会についても上下両院の多数派を共和党が確保しました。

この座談会ではこの選挙を振り返り、2期目になるトランプ政権のもとでアメリカの政治や社会、あるいは世界とのかかわりがどうなっていくかを検討していきたいと思います。

まずは11月の選挙について考えていきたいと思います。この大統領選挙では大変珍しい事態が起きています。共和党ではトランプが順当に候補指名を勝ち取ったわけですが、民主党では、現職のジョー・バイデン大統領が再選を目指し、予備選挙で指名獲得に必要な代議員を確保していながら、6月の候補者討論会で精彩を欠いたことをきっかけに、最終的に本人が指名を辞退し、副大統領のカマラ・ハリスに候補が交代となりました。

こうして元大統領対再選指名を辞退した政権の副大統領という、前代未聞と言っていい選挙の構図になりました。候補者の交代というのは選挙を考える上で非常に重要なことだと思うのですが、まず、バイデン自身は高齢が問題視されていたにしても、4年間のバイデン政権はどれくらい実績を上げていたのでしょうか。

松本

政権の初期はコロナの渦中で、コロナ対策は業績だとは思うんですが、危機対応というのはあまり歴史に残らないんですよね。

バイデンが選挙公約でやった、インフレ削減のための「ビルドバックベター法案」というものも地味な感じです。実務的には固くやってきたと思いますが、それ以上にやはり高齢ということから、いつ何が起こるかわからないという危惧は常にあり、2期目があるのかと当初から疑問視されていました。

6月の討論が失敗だったのは決定打ですが、その前から言動に不安を感じる部分は多々あり、個人的にはむしろ2期目を目指したことが意外と感じていました。

岡山

選挙での敗北はバイデンのせいだといった話も出ていますが、バイデンはそもそも周囲からの圧力で降りたわけですよね。なぜ候補者がそういう形でしか交代できなかったのか、結局変わってどうだったのか。飯田さんはどう考えていらっしゃいますか。

飯田

まずバイデンがなぜ民主党の候補者として推されたか。彼は誰からも熱烈に支持されることはない人なんです。その人がどうして大統領候補者として担がれるかというと、やはり彼が選挙で勝てる、と思われたところが一番大きかったということです。

2016年にトランプが勝った理由は中西部バトルグラウンドで白人労働者層が支持に動き、そこを制したからです。だから、トランプに勝つためには中西部の白人の労働者層の票が要ると。そうした時に白人労働者層から好かれる特性としては、「白人の男性」ということが重要で、年齢はそれほど問題視されず、バイデンが唯一勝てる候補者ということになりました。

彼以外の主要な候補の誰もが明らかに左に寄り過ぎていて票を逃してしまう。だから、バイデンが落としどころだったということなのだと思います。ただ6月の討論会であまりにもパフォーマンスが悪く、さすがにこれは無理だと降ろしにかかった。そして、結局党大会までの間に候補者になりうるのは副大統領が一番の落としどころだということで、ハリスになったということです。

あとは慌ててリベラルメディアが総出になってハリスを囃し立てた。実はそれほど副大統領として誇るべき実績もなく、リベラルの側からも影の薄い存在だった。また懸念材料の白人労働者層から言えば属性は絶望的。有色人種で女性ということで、白人労働者層の票が取れるのかと懸念され、副大統領候補がウォルズになったということだと思います。

岡山

烏谷さんは陰謀論の研究や、メディアのあり方の視点からアメリカをご覧になっていてお気付きになったことなどいかがでしょうか。

烏谷

私は皆さんのようにアメリカ政治を専門にしているわけではなく専門は政治コミュニケーション研究と言いますが、社会学の研究をしながらメディアと政治のことについて考えてきました。一番関心のある領域がシンボルと政治というテーマで、その関連で陰謀論を一種のシンボリズムとして見て研究してきました。

第1次トランプ政権期の時、アメリカに滞在していましたが、リベラル系のメディアが選挙で負けても何も反省していないことに驚いていました。ひたすらトランプを攻撃し続けていたんですね。アメリカのシンクタンクで働いている研究者に「なぜリベラルメディアは反省しないんですか」と聞いたら、「トランプに関して今さら反省なんて言われても心外だ」と怒られて(笑)。ニューヨークに住んで彼のゴシップを何年も見せられてきた人たちからすると、何か見方が違うようでした。

大勝だったのか、接戦だったのか

岡山

今のお話のようにリベラルが反省していないという話があり、今回の選挙はリベラルが自滅したんだというような話も出てきています。

では、交代したハリスをどう評価するのか。三牧さんは2023年に出された新書の中で、若者を中心にリベラルの中でもハリスに対して批判的な見方があったと書いていらっしゃいますね。全体として今回のハリスはどうだったとお考えですか。

三牧

今回の結果はトランプ大勝なのか、接戦なのかが議論を呼んでいます。激戦州すべてでトランプが勝ち、総得票数でも1.6ポイントという僅差ながらトランプが勝った。2016年大統領選でヒラリーは、一般投票では勝った。ハリスは2020大統領選でのバイデンの得票を、相当下回った。これらを考えるとトランプの大勝あるいは完勝、と見るべきではないでしょうか。民主党には、候補者交代をもっと早く、ミニ予備選など正統性のある形で実現していたら勝てた、といった意見もあるようですが、支持者が離れている厳しい現実を見据えることこそが、次回選挙での挽回につながる。「こうすれば勝てた」という戦術面の話に終始してしまえば、敗北の根本原因から目を逸らすことになりかねません。

今回、マイノリティや若者、民主党が岩盤支持層だと見なしてきた層の民主党離れが可視化されました。トランプは白人労働者に加え、マイノリティ、とりわけヒスパニックの労働者票を積み上げました。Z世代(1990年代半ばから2012年くらいまでに生まれた世代)は全体的にはハリスを支持しましたが、男性の過半数がトランプに投票しました。この世代は環境や人権への関心も高いリベラルな世代とみられ、数年前まで、民主党はZ世代の有権者人口の増加とともに、黄金時代になるという見立てすらありましたが、これが裏切られた形です。

民主党系の重鎮であるバーニー・サンダース上院議員が選挙の結果が判明した直後、Xに「労働者を見捨ててきた民主党が、今回労働者にも見捨てられたのは当然だ」と投稿しましたが、この発言は重く受け止められる必要がある。根本的に労働者が民主党に対して幻滅しつつある。それは共和党のほうが優れた労働者対策を打ち出しているということや、労働者保護の実績があるということでもない。

しかし、共和党よりも民主党のほうが労働者の苦境ときちんと向き合ってきたというのであればなおさら、なぜそのことが有権者に伝わらなかったのか、評価されなかったのか。そのことを有権者目線で考えることが挽回の鍵になると思います。

バイデンやハリスはインフレについて問われると、「マクロの経済はいい」と返しました。さらに9月のトランプとの討論会でハリスは、「ノーベル経済学賞受賞者やゴールドマンサックスが、われわれの経済政策を支持している」と胸を張りました。マクロ経済の堅調さは事実であり、専門家の知見も大事です。しかし今回の選挙で有権者は、「統計上はそうかもしれないけれど、われわれの生活は事実として苦しい」ということを問題にしていた。

当初ハリスは、生活費の引き下げを最優先にするとし、いくつか具体策を掲げましたが、実現性や効果に批判が出ると、あまり語らなくなった。企業から巨額の献金が入ってくる中、大企業批判も影を潜めた。選挙戦後半は、民主主義の脅威や中絶の権利のほうを前面に押し出した。それはもちろん大事なことですが、生活に困窮する人々には、どこか抽象的に響くものでした。

最大の要因はヒスパニック票

岡山

飯田さんは投票行動論がご専門ですが、今回、出口調査などの結果を見て、4年前と比べてこの選挙をどんなふうに捉えていらっしゃいますか。

飯田

まず三牧さんがおっしゃった、今回は接戦ではなくトランプの大勝ではないか、という指摘は私も同意するところです。誰もが選挙人票ではトランプが勝つかもしれないけれど、一般投票では勝つわけないと思っていて、私もそう思っていました。そのような中、90年代以降であれば2004年にブッシュが勝った時以来、共和党はポピュラーボードでも勝ったわけで、これはもうトランプが圧勝したと言ってもいいのではないかと思うのです。

その原因は何かというと、これは明らかに三牧さんもおっしゃったようにヒスパニックの票です。それ以外にあり得ない。CNNの出口調査などを見ていても2020年と2024年で最も投票行動がトランプ寄りになったのはヒスパニックで14ポイント動いています。2020年には32パーセントのヒスパニック、ラティーノしかトランプに投票していなかったのが、今回、46パーセントまで投票した。またカトリックがすごく伸びていて、これもラティーノ、ヒスパニックが共和党に移ったことの影響です。

彼らがなぜ共和党に移ったのかというと、原因はおそらく経済ではない。ではハリスが女性であることの嫌悪感かというと、それでもない。白人の間ではフェミニストに対する嫌悪がハリスに投票しない1つの要因になっていますが、ヒスパニックは違う。では何かというと移民問題です。

これまでヒスパニックの人たちは移民に同情的でトランプに批判的だと言われていた。しかし状況は変わっています。2018年からホンジュラスといった中米からキャラバンで移民が来ると、バイデン政権はその人たちを皆入れて、それに怒ったテキサス州知事がニューヨークへバスで送り、ニューヨーク州がマンハッタンのホテルを貸し切って移民の家族を住まわせるようなことをした。メキシコからの不法移民などに同情的だったヒスパニックの人たちは、今まで頑張って自分たちは地位を築いてきたのにと、そうした人たちに反感がある。そういったものがおそらくヒスパニックをトランプに向かわせたわけです。

だからある意味、選挙の結果はだいぶ前から決まっていたような感じがします。2020年にフロリダでトランプが結構勝った時にキューバからの移民の人たちの投票行動が注目されましたが、その時から地殻変動の前触れがあって、もう完全にフロリダはレッドステートになっていました。

一方で経済はそれほど関係なかったと思っています。インフレ率はバイデン政権下で20パーセント以上上昇したのですが、インフレ率が高い州がバイデンに投票していないわけでもない。ヒスパニックの間ではむしろ現在の自分の経済状況に不安を感じている人ほどハリスに投票している傾向が見られます。つまり経済的に脆弱なヒスパニックは、トランプでは怖いというところがあったのではないかと思います。

逆にヒスパニックで、アメリカ社会において地位を確立した人たちが、バイデン政権下における中米からの移民の人たちを優遇することに反感を募らせた、ということかと思います。

陰謀論は影響したのか

岡山

お話を全体的に伺っていると中期的な構造変化というものが効いていたという話になるのかと思います。

ちょっと話を変えますと、一方で今回の選挙でも陰謀論やフェイクニュースがよく見られました。烏谷さんにご専門の立場からお伺いしたいのですが、洋の東西を問わず一方でオールドメディアが選挙のナラティブを形成できないような状態になりつつある。その一方でSNSなどから陰謀論もフェイクニュースを含めて偏った情報が流れてきて、人々はその影響を受けているのかと思います。

今回、それが結果に影響したかどうかは置いておいて、現象としてそういうものがどういう形で表れ、それがどのようなインパクトを選挙に及ぼしていたとお考えでしょうか。

烏谷

バイデンが交代した話から言うと、きっかけになったのはテレビ討論会だったと思います。不自然な動きや話し方、言葉の選び方など、映像がバイデンの「老い」を残酷なまでに露出してしまった。

トランプ支持者のそれこそQアノンみたいな陰謀論のコミュニティにはバイデンに対する誹謗中傷はずっとありました。それがとうとうリベラルメディアでも彼の老いの問題が現れ、直ちに共有されて、しかも民主党の幹部がすさまじい勢いで危機感を持った。僕にはすごく迅速に引きずり下ろしたように見えたんですが、テレビ映像の力をあらためて確認しました。

陰謀論への関心で言えば、トランプが言う2020年の不正選挙陰謀論自体が私からするとあり得ない話で、なぜもう4件も起訴されている人が大統領候補として大手を振って出てくるのかと。しかし、共和党の支持者の6割から7割がずっと彼の不正選挙陰謀論を支持し続け、何が起きても6割からは下がっていかない。それが結局彼を大統領選の本選にまで押し出して最終的には勝ってしまう。

陰謀論研究の立場からすると、彼が負けたら陰謀論を発動して、全米各地で大変なことになるのではないかと言われていたのですが、結局彼が選挙で勝ってしまったので、いろいろ仕込んでいたかもしれない不正選挙陰謀論も登場する出番はありませんでした。

話題としては左派にも陰謀論が現れ、民主党の色から「ブルーアノン」と呼ぶジャーナリストもいました。しかし結局左派の陰謀論は本格的に武器化されておらず、ネットの中で瞬間風速的に拡散しただけで終わりました。

ですので陰謀論の政治的な武器としての使用が大統領選にどういう影響があったかという点で言うと、いろいろな話題はあったけれど、想定していたより深刻な影響はなかったのかなというのが個人的な結論です。

岡山

2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件はまさにトランプの敗北から生じたわけですが、トランプが勝っていたと世論調査で答える共和党支持者が最近でも半分以上いるということが一方である。ただ他方で共和党支持者の多くはトランプが無茶苦茶なことを言っていることはわかっていて支持している、という感じもします。

つまるところ、共和党支持者の多くがトランプや彼を取り巻く陰謀論的な話をどう思っているのか。どう理解したらよいでしょうか。

飯田

何が言えるかというと、同じ根本の原因があり、それが1つにはトランプへの投票という行動に表れ、もう1つが陰謀論の拡散に表れたということかと思います。

例えば「ハイチ移民がオハイオ州スプリングフィールドでペットを食べている」という話が広がってまことしやかに囁かれたのは、本気で信じていたというより、信じるだけの素地があったと。つまり、移民に対する反感が共和党支持者の間にあって、それが一方ではトランプに対する投票として表れ、また一方ではペットを食べているという陰謀論の拡散に表れている。そのようなことで、私には陰謀論の拡散そのものが実際に投票に影響を与えているとは思えない。烏谷さんのおっしゃる通りだと思っています。

議事堂襲撃の話も、共和党の支持者全員が不正選挙を信じているかと言うとそんなことはないわけです。ただ、自分はトランプを支持しているという表明として不正選挙はあった、と言っているに過ぎない。

結局、民主党に対する反感であれ、アメリカ社会に対する反感であれ、そういったものの一方がトランプへの投票として表れ、一方で陰謀論の拡散として表れるのであって、陰謀論が広がっていることでアメリカ社会がおかしくなっているということではないと思います。陰謀論というのは、アメリカ政治の昔からの華ですから。

松本

私も同感ですが、今、特に感情的分極化といって、相手の党が嫌い、という感情が先に立っている人が増えてきている。陰謀論などは話半分で聞いているのだけど、面白いし、それが何か相手にダメージを与えるのなら乗っかってしまおうというところもあるのかなと。

またトランプ本人が体系的な陰謀論を語っているという感じはそれほどしません。たぶんその場その場で一番面白くて都合のいいところに乗っかっているだけで、トランプは政治的な得点が稼げるものは何でも使うのだと思います。

「分断」の構造変化を検証する

岡山

中期的にみてアメリカはどうなっているのか、という話に入っていきたいのですが、やはりそこで問題になるのは、1つは政治的あるいは社会的な分断の問題だろうと思います。

今、感情的な分極化について言及がありましたが、保守側のある種の極にはどういう反発があるかというと、リベラル側の主張が極端だったり、ここのところ民主党は結局女性や非白人などの権利の話ばかりで、それ以外の人々の生活なんか見ていないじゃないかというところがあるわけです。

一方、三牧さんが注目されてきたZ世代には、まさにリベラルの極北のようなところにいる人も結構いると思うのですが、リベラル側、特に若者の間では構造的な変化はどう捉えたらいいでしょうか。

三牧

確かに、テレビ中継された討論会でバイデンの老いが映し出され、撤退の原因となったことに鑑みれば、テレビは力を失ったとは言えませんが、今回の大統領選はポッドキャストの重要性を知らしめました。トランプは「世界一稼ぐポッドキャスター」と言われるジョー・ローガンなど、とりわけ男性に影響力のあるインフルエンサーの番組に多数出演しました。さらにトランプは、息子バロンのアドバイスに基づき、Z世代の男性に人気のインフルエンサーにも接近し、彼らの番組に出演した。Z世代男性の票を取り込もうとする意図は明らかでした。

これらの番組は、いかにも政治的な番組というものではなく、格闘技やスポーツの話も交えて、長いときは3時間ぐらい雑談をするものです。政治に関心のないリスナーでも気軽に聞けて、トランプに対して親しみが湧いてくる。つまり、その一見した「非政治性」にこそ狙いや魅力がある。

ハリスも対抗してポッドキャストに出演しましたが、この次元ではトランプに太刀打ちできませんでした。世論調査によれば、Z世代女性がますますフェミニズムに目覚めているのに対し、Z世代男性は、フェミニズムを「男性を犠牲にするもの」と捉え、抵抗を感じる人が増えている。トランプはそうした男性たちに、「あなたたちは間違っていない」「男らしくあることを放棄する必要はない」と巧みに呼びかけたのです。

岡山

なるほど。

三牧

今回の選挙で特筆すべきことは、イスラエルの軍事行動が続くパレスチナ自治区ガザの人道状況が刻々と悪化する中で行われたことです。24年の春頃には世論調査でも「イスラエルは軍事行動は止めるべきだ」「イスラエルに武器弾薬を送るべきではない」という意見が多数派になりました。

とりわけそうした意見は民主党支持者に強く、バイデンからハリスに候補者が交代した8月、民主党支持者の8割近くがイスラエルへの武器弾薬輸送を停止すべきだと回答した世論調査もありました(YouGov)。

共和党支持者がイスラエル支持でまとまっているのに対し、民主党支持者は親イスラエル、親パレスチナで割れている。選挙に勝つためには、どちらの層も決定的に怒らせない玉虫色のスタンスをとるしかない。バイデンとハリスはそう考えたのだと思いますし、困難な政治状況は理解しますが、人道上はもちろん、政治的にも賢明な選択であったのか疑問です。パレスチナ人の命や人権について口では同情を示しても、武器弾薬を送り続けるバイデン・ハリスのスタンスは、パレスチナ人の虐殺に怒り、悲しむ人の心をつなぎとめるものではなかった。国際社会におけるアメリカの信用も大きく毀損しました。

ハリスは「リベラルすぎる」と共和党に攻撃されましたが、私はこうした見方は、ポジティブなものであれ、ネガティブなものであれ、本質を外していると考えています。ガザについてのハリスの発言は、どの支持者に対してもいい顔をしようとした機会主義的なものが多く、人権への拘りやリベラルとしての信念を感じるものではなかった。7月、イスラエルのネタニヤフ首相が訪米した際、ハリスは、ガザでは「多くの罪なき市民が死んでいる」「私は黙っていない」と啖呵を切り、8月の大統領候補の指名受諾演説では「パレスチナ人の命、自決権も支持します」と断言しましたが、イスラエルへの武器弾薬輸送の停止については「考えない」と明言し、その姿勢を貫いた。人権や命を語りながら武器を送り続ける。こうした欺瞞的な姿勢ゆえ、失った票もあったのではないでしょうか。

トランプ現象が続く理由

岡山

国内の話からガザの話にわたりましたが、状況としては民主党の中で従来から言われている主流派と左派に分かれていて、左派の人がハリスがどっちつかずで態度をはっきりさせないので、なかなかコミットしがたい面が一方であったと。

他方、民主党の外側から見ると民主党の主流派はそこそこ穏健なのに、全体としてみると実態よりもかなり急進的リベラルに見えているがゆえに彼らを遠ざけることになっていた面があるという感じなのでしょうか。

三牧

民主党主流派は、「穏健」というより「守旧」という面すらあり、そのことで相対的にトランプを「変革」をもたらす候補者に見せてしまった面がある。その最たる例が、ハリスがリズ・チェイニーと共闘したことでした。激戦州も一緒に回りました。チェイニーは連邦議会議事堂襲撃事件以降、トランプと袂を分かち、トランプを明確に批判してきた。この点では共和党の良心というべき存在です。

しかし今回の大統領選は、中東ガザ、さらにはレバノンで多くの人々が、アメリカの武器支援に支えられたイスラエルに殺される中で行われたわけです。リズ・チェイニーといえば、父の元副大統領ディック・チェイニーとともに、ジョージ・W・ブッシュ政権の官僚として、中東や世界で数十万の犠牲を生み出した「テロとの戦い」を支えた人物です。

アメリカは「テロとの戦い」に20年間で8兆ドルも使いましたが、その間に国内ではリーマン・ショックや新型コロナ感染危機などが起こり、アメリカ国内の矛盾が可視化されていった。こうした状況が「アメリカ第一」を掲げ、露骨に国内重視を打ち出すトランプが台頭する背景となりました。

いわばハリスは、トランプを生み出した原因の一端となった政治家と共闘したのです。トランプに格別の魅力を感じていない人でも、かといってブッシュ・チェイニー的な介入路線に未来を見出すわけではないでしょう。

飯田

私の考えだと80年代の民主党と共和党が入れ替わったような感じがします。民主党があまりにもディーセントで上品になり過ぎている。アメリカの汚かった部分に全部蓋をしてしまった二大政党において、底に溜まっていたドロドロとした不満を一気に噴き出させたのがトランプの強さだと思うんです。

その噴き出したものは何かといえば、ある意味人種差別的な意識であったりする。ティーパーティー運動(2009年~)の頃からずっと草の根保守層には白人の有色人種に対する不満が溜まっていましたが、2012年の共和党候補ロムニーはそういう意見を全く代表しなかった。まさにディーセントな上品な共和党のエスタブリッシュメントの代表で、草の根保守層の多くの人たちはどこに投票していいかわからない状態だった。そうした中で出てきて勝ったのがトランプだと思うわけです。

振り返るとかつてのトランプ共和党みたいな政党は1980年代の民主党でした。その頃日本車をバンバン潰していたようなテキサスの労働組合の人がいた。そのような民主党の人はいなくなり、高学歴の人がたくさんいる感じのところになっている。

サンダースが言うように、民主党はもっとトランプ的なところに元に戻る必要があるのかもしれません。

中道路線の蹉跌

烏谷

アメリカ政治がご専門の皆様に聞いておきたいことがあります。私は陰謀論にはまる人たちを生み出した背景を考える際、バックグラウンドが社会学なので、割と格差社会論みたいなものを素直に受け取っているところがあります。会田弘継さんの『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』などを読むと、トランプのゴジラのような生命力はどこから湧いてくるのかという印象的な問いが投げかけられています。

興味深いのは、学歴が低く、いわゆるニューエコノミーの流れに乗り切れなかった工場労働者層がどんどん民主党から離れていったデータを様々なところで確認できることです。

これにはニューデモクラットや第3の道と呼ばれる路線、それまでのリベラルで左派に寄り過ぎた党をもう一度中道に戻そうとした民主党の生き残り戦略が関係していると思います。

この路線は結局、公正な分配と新自由主義的な経済政策を両立させようとしたもののあまり上手くいかず、結果として格差社会を助長してしまった。そのことでいわゆる「忘れられた人々」を生み出し、民主党が今日見捨てられるに至った、ということなのかと思うのです。

いわゆるニューデモクラットや第3の道については、ご専門の皆さんはどう評価されているのでしょうか。

松本

ニューデモクラットは実は私は博士論文で書きました。まず、三牧さん、飯田さんとは違う言い方になるのですが、私は今回の大統領選挙の結果を圧勝と言うのは言い過ぎかなと思っています。中長期的には二大政党は拮抗していて、その範囲内では明確に勝ったということです。もっと圧勝したのは1984年です。

この時、レーガンが49の州の選挙人を取ったわけですが、実はニューデモクラットの起源は、そこで反省をした南部民主党の人たちです。ちょっと前まで南部は民主党の牙城だったのに、なぜ勝てなくなったのかと言い出して、DLC(Democratic Leadership Council =民主党指導者会議)という中道派の政策団体を作ったのが起源です。DLCは一応成功し、大統領ビル・クリントン、副大統領アル・ゴアという南部出身のDLCのペアで92年の大統領選に勝利します。バイデンもDLCの古参のメンバーでした。

ところが、中道的なことを真正直に言っても受けなかったのですね。リベラル派には突き上げられ、共和党側からはビッグガバメントだと言われる。そんなことを言いながらも90年代は妥協ができていたわけですが、ニューデモクラットにとって不幸だったのは2000年がブッシュ(子)とゴアという2人の大統領選挙で、ブッシュは選挙戦ではニューデモクラットとそれほど違うことを言っていなかったのにゴアが負けた。そして8年後に出てきたのがより左派のオバマです。

オバマが2008年の大統領選挙に勝つと、もうニューデモクラットは完全に勢いを失い、DLCという団体は2011年に閉じられ、今、その遺物はクリントン大統領の図書館に所蔵されています。以上が経緯ですが、構造的な要因としては、真面目に中道を言っても受けないし両端から叩かれる時代になったという話です。それは今、万国共通の現象ではないかと思います。

変化した学歴と投票行動の関係

岡山

経済に関して言うと、共和党も民主党も金持ちエリート主導の政党になってしまい、その中で、白人の労働者などに共和党のほうを「まだましだ」ということで選んでいる人が増えていることも言われます。

ただ白人労働者の中でもより社会文化的に保守的な層が共和党に流れていった傾向が続いてきたということになると、「どこまで続くのか」という話になります。今回もうあらかた共和党に回ったので、そこで民主党からの流出はストップするのか、それともまだ続くのか。この問題は、トランプが圧勝したと見るべきなのか、これからも拮抗状況が続くのかの分かれ目にもなるのではないかと思います。

飯田

結局、今回の選挙結果は、白人の非大卒の人がトランプに投票する割合は前回とほとんど変わらなかった。ですから、白人の間のトランプの票の伸びは、ある程度ここでストップしていると思います。

学歴と投票行動の関係は、2012年頃まではそれほど直線的な関係はなく、世論調査でも学歴で重み付けを行わなくても特に精度が狂わなかった。ところが90年代にニューデモクラットが出てきてクリントン、ゴアの下でドットコムバブルが起こり、IT産業が膨らみ、ウェストバージニアの炭鉱が閉じられていき、中西部のラストベルトが広くなっていった。

そんな中でも労働組合の動員によって何とか白人労働者をつなぎ止めていたのが、2016年にトランプが現れて、白人の労働者の利益が失われているということをメッセージとして出し、ここで一気に学歴と投票行動の相関関係がバンと前に出てきた。今では完全に大卒未満が共和党、トランプで、大卒以上が民主党という明確な関係ができたわけです。2016年の選挙の予測があれだけ外れたのは、まさにそこで、世論調査の結果で学歴補正をせずに見て、これはヒラリーが80パーセント勝つ、となってしまったのです。

しかし、白人労働者のこの傾向はこれで打ち止めなのではないかと思います。今回非大卒で若干トランプ支持が上がっているのは、有色人種、アジア系、ヒスパニック系のトランプ支持が伸びたことに連動していると思います。

トランプの政権運営と議会との関係

岡山

さて、このような構造的変化を目の前にしながら、新たにもう一度トランプ政権がやって来るわけです。注目されているのは、やはり重要閣僚などの人事で、これは日本でもかなり報道があります。大変論争的な人選も発表されていますが、1期目と比較して特徴はなんでしょうか。

松本

研究者としては「わからない」と言うのは怖いのですが、あえてわからないと言っておきます。その理由は、やはりトランプの行動の予測可能性が低いんです。トランプ本人も意図的にサプライズを起こそうという節がある。

任命についても、上院も今回共和党は53議席ですから、4人がバツをつけたらダメなわけです。この数字は結構シビアです。加えて1期目でわれわれが学習したのは、今はイエスマンでもいつ関係がこじれるかわからないということです。やはりトランプの個人商店みたいなところが2期目も続くことになるのかと思います。

その中でも最もわからないのがイーロン・マスクです。マスクといつこじれて、それが政権全体にどう影響を及ぼすかということに関しては、まったく予測不可能です。一番よく見ておかなくてはいけないのはマスクとの関係ではないかと私は思います。

岡山

1期目のトランプ政権が結局閣僚となった人と折り合いが悪くなったり、専門性のない人が役職についたりして、やりたいことができない状態になったのは明らかです。もしそこから学習していれば、専門能力が多少はある人間を充てるだろうと考えました。しかし、ここまでの人事を見るとあまりそういう雰囲気はないですね。

そして、アメリカは憲法のシステム上、本格的な政策を実現しようと思うと絶対に立法が必要になるわけです。ですから議会との関係が問題になるわけですが、これだけイデオロギー的、感情的に二大政党が分極化し、かつものすごく拮抗している状況で、これからの4年間はどうなりそうでしょうか。

松本

ここは私の専門ですが、私は今回トランプが圧勝というのであれば議会選挙でも共和党がもっと勝っていたと思います。しかし、下院は議席を減らしています。私は、今回のトランプの当選は、実質的には現職大統領の再選と見たほうがいいのではと思っています。そうであれば議会の議席の増え方、減り方とも整合的です。

また、1期目と2期目の大きな違いは、少なくとも今の憲法下では3期目がないということです。2期目は中間選挙が終わると残り2年はレームダック化する可能性が高い。すると、もう最初の2年しかないということになる。

トランプが立法で何をするかに関してはわかりません。その理由はまず、トランプの選挙公約「AGENDA 47」を読んでも、それをどうやって実現させるか、わからないんです。言わずもがなですが、トランプは、手続とか所管とかリーガルなことへの関心はまったくありません。ずっとワンマン社長の延長線上でリーダーシップを考えている人です。

少なくともやりそうなのは減税ですが、減税は当然立法を経ないといけない。一番ありそうなシナリオは2017年の減税法案の通し方と同じように財政調整法という手法を使って、上院は民主党のフィリバスターを回避する、下院は過半数ぎりぎりの数の力で通すということです。

しかし、実は下院で過半数を失う可能性があります。選挙結果は220対215ですが、トランプ政権の人事等で3人減る見通しです。補欠選挙で3連敗すると過半数も議事運営の権限も全部民主党に行くので、財政調整法でも立法を通せなくなります。

私がトランプを現職大統領と見たほうがいいと思っているもう1つの理由は、この4年間、特に下院共和党を実質的に支配していたところがあることです。今の下院議長の人事は、マッカーシー前議長が降ろされてから、ああだこうだとトランプがSNSでつぶやいて、4人目くらいにマイク・ジョンソンにおさまったわけです。

ですので今のところジョンソンはトランプの下で働くという主従関係が完全にできあがっています。が、この関係もいつこじれるかわかりません。ジョンソンは下院の中で一番強硬な議員連盟のフリーダム・コーカスのメンバーではありません。妥協の産物の下院議長だからです。

これほど拮抗した議席差で一番おいしい思いをするのはフリーダム・コーカスです。つまり、おまえもマッカーシーみたいにしてやろうか、みたいな威嚇をすることができるわけです。トランプも、フリーダム・コーカスをけしかけてジョンソンに言うことをきかせることができます。

岡山

いろいろ考えてみても結局予測は難しいということですね。同感です。とくに今回の選挙はトランプのコートテール効果(大統領選挙の年に大統領候補の人気でその所属政党の議席が上積みされる効果)が全然ない。大統領選挙に勝って下院の議席を減らしたケースは最近では思いつきません。

こういう状況でトランプが立法をするために調整せず、支持者が期待しているような成果が出なかった場合、どうするでしょうか。

松本

1つは立法を通さないといけないような手段を極力迂回することです。そこで大統領令ということになるわけです。が、もし議会で立法して通さなくてはいけない政策が通らなかった場合、非難を回避するような行動をするでしょう。要するに通さなかった議会が悪いんだみたいな話をして、それで有権者に溜飲を下げさせるわけです。トランプはそういうことが上手い。

逆に通ると、妥協の産物のような法案でも「俺がやったんだ」みたいな話をする。1期目のトランプ政権で国境の壁は大したものはできなかったけど「偉大な業績だ」と強弁するようなことを臆面もなくやれてしまう。そこがトランプの強さかと思います。

飯田

先ほどバイデンは誰からも熱狂的に支持されないと言いましたが、トランプは逆で、何があってもトランプに付いていくという岩盤支持層が約3割はいます。やはりそれがトランプの強みです。さらに2期目ですから再選を目指す必要がなく、ある意味何でもできてしまうということもあり、無敵の状態で怖いと思います。

過激主義の行きつく先は?

岡山

一方で、今まさに人事などをやっていて、そこで名前が挙がっている人たちに対して殺害予告なども出てきています。これはトランプに反対している人たちがやっているということになるわけです。先ほど烏谷さんから「ブルーアノン」のような話がありました。これまで陰謀論というのは主に右派の話を中心に出てきていましたが、暴力を伴うような動きは右派だけでなく、かなり広がっていると考えられるのでしょうか。

烏谷

広がりというのは正直計りかねるところがあるのですが、陰謀論を過激主義の問題と一緒に考えることは大切なことだと思います。陰謀論は、偽情報みたいな話で捉えるのではなく、白人至上主義や極右の民間武装勢力の考え方、反ユダヤ主義などと相互に影響を与え合いながら、現在の保守の思想を過激化させる原動力となっているのだと思います。

トランプ政権期に陰謀論が湧き上がってきた時の1つの発生源が、いわゆる「4chan」と呼ばれる匿名掲示板で、そこではいわゆるミソジニストがいたり、白人至上主義者がいたり、アメリカ社会における政治的無意識の一番筋の悪い要素がごった煮になっているようなところで、陰謀論が成長していきました。

陰謀論が広まっていくのと政治的な過激主義の考え方が広まっていくのはかなり軌を一にしている。また、共和党のトランプ派勢力が、陰謀論や白人至上主義など際どいところに手を突っ込んで支持者を増やして過激なメッセージを送るようになるのに対応して、左派の側も、あちらがああいうことをやるんだったらこちらもやろうと、過激主義が刺激し合って拡大していくような面はあります。

左右の両端にどんどん過激主義が広まっていく。このような現象をどうやって止めることができるのか。これもアメリカ政治の研究者の方がどう思われるか興味があります。

バーバラ・ウォルターの『アメリカは内戦に向かうのか』や、映画『シビル・ウォー』が話題になりました。分極化が行き着いた先にあれだけの銃を持っている国民ですから、内戦にまで向かう可能性というのも実際にあると考えていいのでしょうか。

松本

私は、実はアメリカ合衆国憲法は人類の傑作だと思っているところがあります。結局、アメリカが本格的にまずかったのは南北戦争ぐらいで、基本的には安定しているんです。なのでアメリカが危機だとか分断だと言っていますが、それは悪く言い過ぎ、もっと楽観的に見ていいよ、と最近よく言うようになっています。最近亡くなられた阿川尚之先生もそういうことを述べておられました。

『シビル・ウォー』は私も見ましたが、設定にすごくリアリティーのある話で、なぜ内戦が起きているかというと、DCにいる大統領が3期目という設定なんです。つまり憲法を破ると大変なことになる。アメリカ人の憲法に対する忠誠心は相当強いというところを描いているんだろうと思います。

トランプ外交の展望とイスラエル問題

岡山

そろそろ外交の話に移りたいと思います。大統領が何でも動かせるわけではない内政についてもこれだけ不確実性があるとなると、大統領のイニシアティブで相当いろいろなことができる外交に関してはどうでしょうか。

また世界に目を転じれば、イスラエル・ガザ戦争、ウクライナ戦争、さらに最近急展開を迎えたシリア情勢など安全保障面で様々なことが動いている。国際政治がご専門の三牧さん、いかがでしょうか。

三牧

まず圧勝か接戦かの問題なのですが、私は民主党候補が今回、前回の大統領選の得票をかなり下回り、一般投票でも負けたことは、党の路線で支持されていないところがあるということであり、この事実を真剣に受け止め、党を建て直してほしいという意味で、完敗と受け止めるべきだと述べました。ただ、おっしゃるように実態として票は拮抗していたので、認識がすごく違うということではないと思います。

次期トランプ政権は、型破りな人事を進めています。保健福祉長官には、ワクチン懐疑派のロバート・ケネディJr.。情報長官には、シリアのアサド政権を擁護してきたトゥルシー・ギャバード。アメリカの外交や公衆衛生が根本的にどうなってしまうのかとの懸念が高まり、専門家や元官僚から次々と、彼らを承認しないように求める声があがっています。

しかし、国民には根強い支持がある。今回のトランプ当選をもたらした1つの背景に、肥大化した官僚組織や専門家集団による政治への不信感がありました。トランプは大いにこうした人々の感情を掻き立てたのです。専門家たちは、ケネディやギャバードは経験も知識も不足しており、適切な人事ではないと指摘していますが、彼らはむしろ「アマチュア」だからこそ国民にうけている面があるのです。

外交については、アメリカの安全や国益に直接関わらない地域からは撤退していくというトランプ路線が、世界中の民主主義や人権の擁護を掲げるバイデン・ハリス路線より、今のアメリカ市民の心情に訴えかけるものがある。

アメリカの力には限界があり、アメリカは世界で起こっているすべての危機に対応することはできない。こうした考えは党派を超えて広がっています。建国以来、孤立主義を掲げてきたアメリカが、20世紀に2つの世界大戦を経て、介入主義へと転じていった。冷戦終焉後も、9.11同時多発テロ事件のために、介入主義は延命させられた。しかし「テロとの戦い」による疲弊や、国内矛盾の深化を背景に、第2次大戦後の長い介入の時代の終わりに差し掛かっている。そういう時代の局面にいるのかもしれない。こうした歴史的な視座からトランプ外交を見ていくことも重要かと思います。

非介入主義を強めるアメリカでも、重要な例外があります。イスラエルです。トランプ政権の人事を見ていると、アメリカの国益や評判を損なってでも、イスラエル支持を貫く「イスラエル・ファースト」の面子が揃っている。

国連大使にはエリス・ステファニク。2024年から全米の大学キャンパスで広がってきたパレスチナ連帯デモの取り締まりを主導し、学長たちを辞任に追い込みました。すでに「国連はもはや反ユダヤ主義の組織」「資金拠出の停止を」と主張し始めています。駐イスラエル大使にはマイク・ハッカビー。福音派の牧師で、過去には「パレスチナ人なるものは存在しない、イスラエルから土地を奪うために政治的に作られた民族だ」などと発言しています。ヨルダン川西岸のイスラエルの入植地についても、国際法違反ではないと主張し、どんどん促進すべきだという考えです。

もっとも世界も変わってきている。ガザの即時停戦も、パレスチナの国連加盟も、イスラエルによる占領政策の終焉も、国連では圧倒的多数の国々が支持している。イスラエルの軍事行動を無批判的に擁護することで、アメリカのソフトパワーは深刻に揺らぎ、ロシアや中国による軍事力による現状変更の動きにお墨付きを与えかねない。

飯田

トランプの外交は、やはり同盟国を軽視している点が一番不安です。NATO加盟国についても相応の負担をしないと防衛義務を果たさない、というようなことを言っている。日本に対しても当然負担をたくさん求めてくるでしょう。その中で果たして同盟国はどのようなアクションを取るのか。可能性は2つあります。

アメリカに見捨てられないようにと、同盟を強化するような動きがあるかもしれない。一方でNATOの国などからするとむしろアメリカに期待できないということで、アメリカ離れが進んでいく。つまりアメリカが同盟国に見捨てられる、という状況が起きる可能性があるということです。

では、アメリカが今後日本に対してもっと負担をしろと言う中で仮にNATOの国々がアメリカの言うことを聞かなくなった時、日本はどういう立場を取るのかが大きなところかと思います。

日本が攻撃された場合、介入するかどうか。あるいは台湾に進攻があった場合、ロシアがNATO加盟国に侵略した場合、アメリカは介入するのか。当然同盟に基づいて介入すべきなのですが、トランプ支持者は特に対ロシアでは消極的な立場です。

例外はおっしゃるようにイスラエルです。イスラエルに関してはトランプ支持者はハリス支持者と同等かそれ以上に介入することを好んでいる。

三牧さんがおっしゃったように、他の国の利益や国際条約と対立したとしても、アメリカはアメリカの利益を追求するべきだというアメリカファーストの考え方自体は、潜在的には民主党支持者にも響いている。そうしたところで外交政策においてトランプは案外評価されているというところがあるのではないかという気はしています。

三牧

「分断」という言葉は、昨今のアメリカの政治状況をネガティブに語る際に使われる言葉ですが、外交面では、なぜイスラエル問題に関してもっとアメリカに「分断」が生じないのか、疑問に感じます。

世界で多くの国々がイスラエルのパレスチナ政策を糾弾し、世界中の市民がパレスチナ連帯を強める中、米議会は依然、超党派でイスラエルを支持している。7月、国際刑事裁判所(ICC)が戦争犯罪や人道に対する罪で逮捕状を請求しているネタニヤフが訪米し、議会で演説しました。議員たちは大歓迎しました。正式にネタニヤフに逮捕状が請求されると、バイデン政権も議会もICCに猛反発し、関係者への制裁を模索し始めた。ワシントンポスト紙のようなリベラル紙も、「ICCはロシアやスーダンのような国の政治家を裁くためのもので、イスラエルを裁くべきではない」といった論調。イスラエル問題になると、保守もリベラルも共和党も民主党も、イスラエル擁護一辺倒で「分断」がない。

しかし社会は変わりつつある。Z世代では、パレスチナ支持がイスラエル支持を逆転しています。イスラエルによるパレスチナ人への「アパルトヘイト」を批判する人も増えています。

問われる日本の対米距離感

岡山

さて、今後の日米関係ですが、少なくとも表面的には割と良好で来ていますし、何より重要かもしれないのは、それこそ中山俊宏さんの「日本にプランBはない」という話、要するに基本的にはアメリカと仲良くしておくしかないんだ、という認識がかなり広く受け入れられている状況です。

しかし先ほど飯田さんがおっしゃったように他のアメリカの同盟国がアメリカとの付き合い方を今後見直すかもしれない。

アメリカからいきなり離れるというオプションは日本にはないかもしれませんが、今、いろいろな国の首脳がトランプ詣でみたいなものを始めている中、とにかくトランプとラインをつないでおけばいいのか。アメリカ国内の構造的な変化が進んでいることを考えると、いよいよアメリカとの付き合いを真剣に考えないといけないということなのかという感じがします。

三牧

国連で日本はアメリカに安易に追随せず、粘り強さも見せています。パレスチナの国連加盟に賛成し、イスラエルに対し、ヨルダン川西岸の占領をやめるよう求める決議案にも賛成しました。日本政府は日米の「価値の共有」をうたってきましたが、こうした言葉を並べて、国際規範から逸脱するアメリカを直視することを避け続けてきた面はないか。トランプ2期目には、飯田さんがおっしゃった「われわれが見捨てる」という選択肢を考える局面がいよいよくるかもしれません。

石破首相には、かつての安倍–トランプ関係をモデルに、早くトランプと会って個人的な関係を築くべきだという期待が高まっています。しかし両首脳間に「蜜月」関係を構築して、なんとかアメリカからの防衛負担増の要求を乗り切ろうという発想は早晩、限界を迎えるかもしれない。臆面なく「米国第一」を掲げ、同盟関係を否定する発言を繰り返すトランプの台頭は、長い介入の時代の終焉の一局面として捉えられる面がある。なんとか4年しのげば終わるというものでもないかもしれない。日本外交の構想力が問われます。

岡山

今日のお話をまとめますと、まさに従来のイデオロギー的に分極化した「お上品」な保守・リベラルの対立とは違った今の二大政党間の対立があり、トランプ的なものが前面に出てきた。そういう構造的な変化にわれわれは今直面していて、それを内政の面でも外交の面でもある程度直視した状態でアメリカを理解し、それと付き合うことを真剣に考えるタイミングに来ているということかと思います。

ただ、一方でトランプ自身が非常に不確実性の高い人であり、議会が非常に拮抗していることもあり、政策が動くか動かないかという点では、今後の動向はよくわからないと。今回の選挙もそうですが、本当に少しの変化が大きな結果の違いを生み出すという面での不確実性を今のアメリカは抱えているということでしょうか。

皆様、本日は長時間有り難うございました。

(2024年12月12日、オンラインにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。