執筆者プロフィール
寺田 奈々(てらだ なな)
その他 : ことばの相談室ことり主宰、言語聴覚士文学部 卒業2012文
寺田 奈々(てらだ なな)
その他 : ことばの相談室ことり主宰、言語聴覚士文学部 卒業2012文
言語聴覚士という職業をご存じでしょうか。
言語・コミュニケーションに困難を抱える方々に伴走する国家資格です。私は「ことばの相談室ことり」を主宰し、現在は東京蔵前、熊本、大阪の3拠点で、6名のスタッフと共に、言葉の遅れや吃音、構音障害、読み書き障害、難聴といった相談に応じています。
大学では美学美術史学を専攻し、クリエイティブにかかわる仕事に就きたいとぼんやり思っていました。しかし、就職活動は上手くいかず、その最中に出会ったのが言語聴覚士という仕事です。「これだ!」という直感に従い、卒業後2年間の養成課程へ進みました。美学美術史学と言語聴覚療法は、一見、かけ離れているように思えるかもしれませんが、両者には多くの共通点があります。
たとえば、その人らしさを大切にすること。「伝えること」を分析的に観察、実践すること。1人ひとりの感じ方には千差万別の「ミクロの差異」と多様な評価軸が存在すること。多くの人にはとるに足らないことが別の誰かにとっては人生を変えるほどに価値あるものになり得ること。大学での学びと現在の仕事は、私の中では深く繋がっています。
現在、言語聴覚士の支援を必要とする子どもたちが急増している一方で、小児領域の言語聴覚士が圧倒的に不足しているという深刻な課題があります。1対1の支援には物理的な限界があり、支援を必要とするすべてのお子さんに届けることができないことです。
私は、言語聴覚士の従来の枠組みに捉われず、商品開発や書籍執筆など多角的な事業を展開しています。それは、悩みの形に合わせて届ける形も多様であるべきだと考えているからです。ここでも、在学中に学んだアートマネジメントなどが役立っています。学問を通して社会との関係性を問う方法を知ることができました。
コミュニケーションは他者との共同的な営みであり、障害は個人の中にあるのではなく、人と人の「間」に存在します。これは「障害の社会モデル」──すなわち、障害は周囲や社会の在り方によって生じるという考え方です。当事者にのみ内的な変化を求めるのではなく、それを取り巻く社会との関係性そのものをデザインしていく。そんな言語聴覚士でありたいと思います。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。