登場者プロフィール
古谷 知華(ふるや ともか)
調香師、プロデューサー、日本草木研究所発起人。東京大学工学部建築学科卒業。調香やハーブ・スパイスに関する知識を活かし、飲食ブランドを設立。日本各地の山に入り食材収穫するのが趣味。
古谷 知華(ふるや ともか)
調香師、プロデューサー、日本草木研究所発起人。東京大学工学部建築学科卒業。調香やハーブ・スパイスに関する知識を活かし、飲食ブランドを設立。日本各地の山に入り食材収穫するのが趣味。
山口 公大(やまぐち こうた)
その他 : 連続起業家その他 : 株式会社TRYPEAKS代表環境情報学部 卒業2010年慶應義塾大学環境情報学部卒業。アフリカ最高峰キリマンジャロ登頂時に麓で飲んだキリマンジャロビールの美味しさに魅せられ、ビール造りに興味を抱く。
山口 公大(やまぐち こうた)
その他 : 連続起業家その他 : 株式会社TRYPEAKS代表環境情報学部 卒業2010年慶應義塾大学環境情報学部卒業。アフリカ最高峰キリマンジャロ登頂時に麓で飲んだキリマンジャロビールの美味しさに魅せられ、ビール造りに興味を抱く。
佐藤 太亮(さとう たいすけ)
その他 : 醸造家その他 : haccoba, Inc.代表その他 : クラフトサケブリュワリー協会副会長。経済学部 卒業2015年慶應義塾大学経済学部卒業。かつて日本で造られていた自家醸造酒「どぶろく」のレシピや文化に魅せられ、福島県南相馬市小高と同県浪江町で酒蔵を営む。
佐藤 太亮(さとう たいすけ)
その他 : 醸造家その他 : haccoba, Inc.代表その他 : クラフトサケブリュワリー協会副会長。経済学部 卒業2015年慶應義塾大学経済学部卒業。かつて日本で造られていた自家醸造酒「どぶろく」のレシピや文化に魅せられ、福島県南相馬市小高と同県浪江町で酒蔵を営む。
2024/07/19
“飲みたいから造る”
僕は、TRYPEAKSという会社でクラフトビールを造っています。レシピなどを開発して工場に製造を委託する、いわゆるOEMでやっています。2018年にクラウドファンディングを立ち上げ、2019年に創業しました。
きっかけは2018年に脱サラしてキリマンジャロに登った時です。帰国したら起業しようと決めて登りました。何をやるかは考えず下山した時に思い浮かんだことをやるつもりでした。
キリマンジャロでは下山するとキリマンジャロビールが振る舞われるのですが、では何をするかと考えていたタイミングでビールが出てきた。乾杯する時に「これをやれ」ということだなと合点したんです(笑)。
近場で見つけましたね(笑)。
そう。僕はそれまで会社員をしながらバーの立ち上げもしていたので、ビールは比較的近い領域でした。
僕は福島県南相馬市の小高で「haccoba(ハッコウバ)」という酒蔵を立ち上げ、2021年からお酒を造っています。造っているのは基本的に米のお酒ですが、米以外の原料も一緒に発酵させています。メディアでは「クラフトサケ」と呼ばれ、新しいジャンルとして紹介されることもあります。
今は酒税法で禁止されていますが、実は日本にはもともと家でお酒を造る文化がありました。お酒を造れない国は世界的に見ても少ない中で、僕は常々日本人は酒造りの喜びを忘れさせられていると思っていました。
自家醸造していた時代のレシピ本を見ると、かつては皆自由にお酒を造っている。米と一緒に土地の果物やハーブを入れたり、あわ(・・)やひえ(・・)ひえなども使っていました。この“飲みたいから造る”楽しさを取り戻したいと思い、日々お酒を造っています。
私は2019年に会社をつくり、クラフトコーラを造って販売しています。ドリンクは今、主に2つやっていて、1つは「ともコーラ」というクラフトコーラの会社です。もう1つの「日本草木(くさき)研究所」はドリンクだけでなく、日本の山に群生する可食植物を原料にお酒などを造っています。
私はもともとマーケティングの仕事をしていました。2018年頃にドリンク市場を調べる中で、クラフトのジンやビールの次は何があり得るかと考え、クラフトコーラに行き着いたのです。そこでまず、自家製のクラフトコーラを造り、クライアントに新規事業として提案しました。スパイスやハーブがもともと好きでいろいろと工夫したのですが、クライアントには好評だったものの実現には至らず、「こんなにいいのにどうしてやらないの?」と思い、自分で始めることにしました。
クラフトドリンクの“特別感”
私はもともと好きだった野草探しが長じてクラフトコーラを造り始めたのですが、「ともコーラ」の発表と同時期に、東京の伊良(いよし)コーラというブランドもした。自分でもイケると思って始めたことですが、クラフトコーラなどというよくわからない概念を同時期に考えていた人がいたのかと驚きました。
野草探しは子どもの頃からやっていたのですか?
そうです。コーラは東アジアや東南アジアのスパイスやハーブで造るのですが、日本の素材でも造れるのではないかと思っていました。それと同時に、コーラだけを造っても、と思い、日本の植物を有効活用できる会社として日本草木研究所を始めたのです。
クラフトコーラを造ってみて面白いなと感じたのは、お酒を飲む人の中にあるパターンを見つけたことです。それは「本当はノンアル(ノンアルコール飲料)を飲みたいけれど、ソフトドリンクは損をしている気分だからお酒を飲む」という考え方。友だちの結婚式でクラフトコーラを出してみると、わりと多くの人がお酒ではなくクラフトコーラを選んだのです。
理由を訊いたところ、同じノンアルでもクラフトだと特別感があるということでした。オレンジジュースやウーロン茶とは違い、お酒に比べて劣っている感じがしないのだそう。クラフトにはノンアルの高級路線の可能性があり得ると感じました。
たしかに普通のコーラは原液を薄めている感じがあります。
だから私は「クラフトサケ」のことが気になっていたのです。これも新しいカテゴリーですよね。
クラフトサケは「その他の醸造酒」に分類されています。
クラフトサケも一斉に広まった印象がありました。醸造家の人たち同士仲がいいし、皆で頑張ろうとしているところが既存の日本酒業界と違って面白い。
クラフトドリンクのコミュニティ
クラフトサケが注目されたのは、製造元が直接顧客に販売するD to C(Direct to Customer)の流行と時期が重なったのも大きいと思います。この時、山下貴嗣さんがやっているチョコレートのMinimal(本誌2021年2月号)や、稲川琢磨さんの日本酒のWAKAZE(同2021年10月号)のように、いろいろなジャンルでプレイヤーが登場しました。僕がクラウドファンディングで始めたのもWAKAZEの影響です。
僕はhaccobaを始める前、WAKAZEで一緒にやらないかと声を掛けられていました。彼らがパリで酒造りを始める話も聞いており、WAKAZEに参画するのもいいけれど、自分でもやりたいと思ったのです。
クラフトサケはWAKAZE以来市民権を得た感じですが、このジャンルのネーミングはいまだに揺れています。「クラフトサケ」でいいのかと。
他に呼び方があるのですか。
いや、ないんです。haccobaは「その他の醸造酒」の蔵元として、WAKAZEと浅草の木花乃醸造所に続き3件目なのですが、ブランド名に「Craft Sake Brewery」を入れたのはうちが最初でした。
「Craft Sake Brewery」を名乗る理由は海外での醸造所設立を想定しているからです。海外ではお米の酒を造っている蔵の多くは、「Craft Sake Brewery」と謳っています。そうしたら国内で予想以上に「クラフトサケ」がジャンルとしての広がりを見せた。
ドリンクで最初に「クラフト」を冠したのは米国のクラフトビールですよね。
そうですね。クラフトビールはブリュワーズ・アソシエーションができ、そこから皆でマーケットをつくる動きが広まりました。僕らもそれを知り、同業者のアソシエーションでマーケットをつくり盛り上げたいと思っています。
クラフトコーラにそういうコミュニティはありますか?
一昨年、伊良コーラとクラフトコーラカルチャーの公式発信基地にしようと「クラフトコーラウェーブ」というウェブメディアを始めました。ともコーラがOEMを委託している大阪の工場も今では50社のコーラを造っています。
産業が生まれていますね。
ただ、マーケティングができているかというとまだ弱いのです。最近はカフェなどで独自にクラフトコーラを造っていたりします。
見かける頻度は増えたので小さな市場ができているのかもしれません。とは言え小さいブランドが集まって盛り上げようとしても、大手飲料メーカーが、一瞬でその売上げを抜き去ってしまう。
誤解されるクラフト
米国では、クラフトビールがきちんと定義付けされているんです。「小規模であること」「独立していること」「伝統的であること」の3つです。ですが、日本では大手飲料メーカーがそれを壊してしまった。
実は、日本のビール業界には地ビールで失敗した過去があります。それをもう一度リブランディングしようと、定義が曖昧なままでいたら、大手が「クラフトビール」を名乗り始めてしまったのです。
クラフトコーラも似ています。やはり大手が「クラフト」と銘打って出したのは、ただのコーラにスパイスの粉を少しまぶしただけの商品でした。それがコンビニで売られているのはジャンルの失墜だと思っています。ワードだけをマーケティング的に借用して文化に敬意を示さないのは残念です。
そうですよね。ほとんどが大規模メーカーで、伝統というよりも大規模生産に最適化された造りをしている。
消費者の問題もありますよね。それが偽物だとしても「聞いたことある」と言って食い付いてしまう。でも、クラフトが100~200円で買えるわけがないんです(笑)。
そう。そういう意味でも、日本酒こそ日本オリジナルのクラフトだと思うんです。海外でもクラフトは小規模で独立的で伝統的だという信頼があります。
だから日本の今のようなクラフト受容を見ていると、「クラフトサケ」と呼ぶのは抵抗があるんです。僕の個人的な思いはジャンルとしての「クラフトサケ」を確立したいわけではない。日本で造られている米の酒がほぼすべて「クラフトサケ」ですからね。
酒蔵の職人さんがイラッとしてしまいそう。以前、日本を代表するある日本酒の酒蔵を見学させていただいた時に、「あそこは商業化したからもう本物ではない」と言われていることに社長が憤っておられました。
「商業化したら本物ではない」という発想が妙ですよね。
モノは良くなっているのに、ファン離れのようなことが起きているそうです。売れたミュージシャンのファンが「もう俺がファンだった頃のあいつじゃない」と言い出すみたいなことなのでしょうか(笑)。日本酒に比べ、ビールでそういう声は聞かれません。皆、よなよなエールが嫌いとは言わない。
よなよなエールはクラフトビールなのでしょうか。
個人的にはクラフトのバランスをとっているイメージです。今やスモールではないかもしれませんが。
「スモール」の定義は都合に合わせて変わっているところもあります。パイオニアの人たちもビッグになっていくからそれに合わせて規模の定義が変えられている。
何をもってクラフトと呼ぶか
クラフトコーラは比較的プレイヤーが少なそうですが、誤った消費を招いていることはないですか?
コーラは誰でも造れるので参入障壁がほとんどないんです。この2年ほどでブランドは150件ほどに増えました。
ともコーラはOEMで製造しているにもかかわらず、OEMを請け負う立場にもなりました。依頼に応じてレシピを開発し、製造・納品も手掛けています。最近は「これから始めたい」と言われても「もう遅いと思います」と返すこともあります。これ以上ブランドが増えても飽和状態になるだけですし、競合が進めば簡単に淘汰される状況でもあります。
これから残るのは地域で愛されるブランドですね。鹿児島の喜界島ではTOBA TOBAコーラが浸透しています。小さな島ですが、空港から居酒屋までどこでも飲めます。そういうものに成長すれば絶対になくなりません。
そういう状況の中で、ともコーラは最近、米国にも輸出を始めました。ですが、「クラフトコーラ」ではなく「ゆずコーラ」と謳っています。というのも向こうではコーラを普通に手造りするから。
なるほど。「クラフトコーラ」が根付いている地域では、クラフトはブランドにならないのですね。
そう。調べると「クラフトコーラ」を打ち出しているところは世界で1つもありませんでした。
では日本でつくられた造語?
そうですね。クラフトビールは米国でも「クラフトビール」ですか?
米国でもそう呼ばれます。日本はビールでも、ジンでも、オリジンの定義から離れた「クラフト○○」が広まってしまいましたね。
ヘンな話ですよね。そうなると、どこまでをクラフトと呼んでいいのか。日本は今、すべてが何となく「クラフト○○」で通用してしまっています。
「クラフトはメディアである」
クラフトはカウンターカルチャーでもあると思うんです。クラフトビールも大手メーカーの寡占状態に対して、「ビールってもともと多様だったよね」というメッセージが込められている。多様性への回帰に美意識があって、僕はそれがクラフトに通底している面白さだと思います。
原点回帰と言う人も多いですね。もともと地域や家庭で各々造って消費していた飲み物がその後大量生産・大量消費化された。それをもう一度民主化しようという動きですよね。
僕は、クラフトサケのようなものに飲み手の方々がどこまで付いてきてくれるかが気になっています。もともとお酒はお酒であって、ジャンルなんてなかったのです。僕らは今、ホップを入れたお酒を造っていますが、昔の日本でもどぶろくを造る時にホップ(カラハナソウ)を入れたりしていました。
ホームブリュワーの人たちはただ美味い飲み物を造ることを追求していた。それが商品となって消費者に消費されるようになると、飲み手が受けとりやすいようにジャンル分けが進んでいく。そういう中で、クラフトを深掘りして本質に戻り過ぎてしまうと、誰も付いてこられないのではないかと思うんです。
古谷さんは凝り過ぎて、お客さんが付いてこなくなったことはありますか。
私は凝ったものを造らないんです。というのも、クラフトはメディアであるべきだとずっと思っているから。実は私自身、もともとコーラは好きではないんです(笑)。
ただ、クラフトには何でも混ぜられる自由がある。地域の果物やハーブを入れると素材そのものに関心がなくてもドリンクに興味をもつ人がいます。私は多分、メディアとして分かりやすいものをつくることにしか興味がないのだと思います。
こだわりをいかに届けるか
そういう視点からクラフトサケを見て気になるのは、お酒のリテラシーが高くない人とどういうコミュニケーションをとるかということです。クラフトサケには美食家の人が飲んでいるイメージがありますが、そうじゃない人には「日本酒に香りを付けただけ」と誤解されてしまいそうです。佐藤さんはどんな工夫をしていますか?
まさにそれが課題です。今は食が好きな人や味覚の探求心が強い人にだけ届いている感じです。そうじゃない人にどう届けるかは大問題です。
クラフトサケは高級店のペアリングで出されますよね。そこで知る人も多いはず。
造り手側からのコミュニケーションで大事にしているのは、「家でお酒を造っていた時代はこういうものだったんです」と言うことです。もちろん今の酒蔵のかたちもあるので、商業化以前の酒造りだけを主張したいわけではありません。ですが、ある意味ではそれが本質ということも初期から言い続けています。するとお客さんだけでなく料理人の方にも喜んでもらえる。
きちんと説明してくれる場所で提供されるのは良いですね。
裾野を広げたいとは思っていますか?
普通の日本酒よりも飲みやすいので、若い世代の裾野は広げられるはずだと思っています。
裾野を広げるか、思い切り深掘りするか、迷いませんか?
その両方のバランスでずっと悩んでいますよ。
クラフトビールもそうです。一番よくできたと思う商品が一番売れていなかったりする(笑)。
それは面白いですね。こだわったものほど売れないという。
イングリッシュペールエールと言って、ビター系でカラメルのような甘みがわずかにある、ちびちび飲むようなビールなんです。最高に良くできたと思ったんだけど……(笑)。
逆に、ヒューガルテンに近づける感じで、皆が飲みやすいように造ったものがすごく売れたりして、日本人の好みは悩ましいと思いました。
ものづくりとビジネスの間で
以前、同じ3本のビールをラベルの色を変えて友人たちに渡す実験をしたことがあります。「どうだった?」と訊くと、皆「○○が一番美味しい」と言う。
面白い。あてにならない。
中には「全部一緒じゃないか」と言う人もいましたが、ほとんどの人は「これが一番美味しかった」と言いました。
嫌な実験ですね(笑)。
それを聞き、多くの人は“雰囲気”で飲んでいるとわかりました。だから最近は味にこだわりつつ、どうすれば雰囲気をつくり出せるかということに関心があります。
ビールの味はどのようにつくっていますか?
僕は基本的に自分でつくりません。飲食店のお土産やスポーツチームのグッズとしてビールを造ることが多いので、まずはそのコミュニティに入り、日本で買える200種類くらいのビールを関係者に振る舞います。そこで好みを聞き、人気の高かったものをチームでレシピにします。全員が納得感を持てるような造り方をします。
多数決っぽくなって味がぼやけたりはしませんか。
そうなる時もあります。この造り方だとエッジがきいたものにはなりません。逆に1人で造っていくとマニアックな味になっていき、売れないものになっていく。
そうなりますよね。
そういう自己満足を避けるために造り方を変えたところもあります。ある程度はビジネスとして成り立っていないと趣味になってしまいます。そのバランスが難しいですね。
コーラの場合は本当に何でも原料になってしまうので、「これを使ってほしい」というオーダーを受けることも多いです。例えば、廃棄する無農薬バナナの皮や、バターを作る時に入れるホエー(乳精)など。変わったオーダーが結構あります。これまでは私がすべて味をつくっていたのですが、最近はそれを確かめてもらう工程を入れています。
私は味をつくるのは独学で、調香や化学の勉強もしたのですが、結局は舌と鼻だなと思い至りました。いろいろな素材を味わい続けると、鼻も訓練されますよね。自分の感覚を養いながら味をつくっています。
僕らも同じです。味覚の幅と深さをどれだけ持てているか。料理、ドリンク、あらゆるものを摂取して、ヒントを探っている感じです。
その一方で課題もあります。haccobaはいつも僕が味を決めて、最終チェックを妻にしてもらうのが基本路線になっています。今度ベルギーで醸造所を始める予定なのですが、すると、僕が日本を離れることになります。酒の味にタッチできなくなる期間が生まれるので、メンバーと味覚の幅を共有しようとしているのですが、これがとても難しい。
どのように味を作るか
haccobaではどんな素材を使っているのですか?
僕らはスパイスもフルーツもハーブも使いますし、先ほど話に出たホエーも使ったりします。基本的には自分たちが飲みたいものを造る感じです。
でも、それは造りたいものを造ることとは違います。飲み手として飲みたいものではなくなると、技術的な追究になってしまうことがあります。とくにある程度商業性があるクラフト的なものは、完全なるアートをやっているわけではないので、飲み手としての自分の気持ちを持ち続けるようにしています。
もちろん、自分たちが飲みたいものの前に、直感的にこの素材を入れたら美味しくなるだろうと発想するのもありだと思います。でも、僕らがそれをやるには、自分たちにとってどういう意味があるのかと最初に問うようにしています。
売れそうだから造るという考え方はありですか?
うちは“なし”にしています。自分たちがやっていることが酒造りの本質であると思っていたいし、そう思ってもらいたい。そう考えると、売れそうだから造るという話で片づけられないという感じですね。
僕は素材を探究するところまではいかないです。ただ、ビールの味はストックしておきます。味覚の体系化は難しいと思うのですが、例えば「あの銘柄のこの風味を少し減らした感じ」と言語化はできます。そのボキャブラリーを増やしたい。ビールもブレンドする麦の種類や、ホップを加える量やタイミングなど、変数がいくつもあります。それをディレクションができるほどには数を飲んできました。
ではその味を実現させるためにどのような素材を使うか、というところは職人さんにお任せします。職人以外にも、うちのメンバーには飲んだビールのレシピを書ける人がいるので、その部分も完全に頼ることにしています。
僕らはコラボレーションも大事にしています。造り手のエゴにならないための“素人”の視点が欲しいからです。飲み手としてのピュアな意見を採り入れることをブランドの仕組みにしたいという考えもあります。
これまでには、例えばチョコレートブランドや、伊良コーラさんとも一緒にやりました。コラボすると「こういう酒を造れませんか?」とフランクに言われます。チョコレートブランドからはガトーショコラを入れられないか、とか。
さすがにガトーショコラは実現しませんでしたが、酒造りに詳しくない人たちに投げかけられると、意外とアリかもと幅を広げてもらえます。他の分野のプロとのコラボは単純に楽しいだけじゃなく、エゴに陥らない仕組みを持てるのも大きい。それはクラフトビールの文化から学んだことでもあります。
クラフトビールはメイカーがコラボをして、ファンを共有したりもしていますね。
クラフトビールにはファンカルチャーをうまくつくっているところがあります。海外ではブリュードッグが世界で一番上手でしょうし、日本ではよなよなエールの戦略も巧みです。
クラフトドリンクの地域性
醸造所の場所や素材へのこだわりはありますか?
日本酒はありそうですよね。ビールはどうだろう。個人的な意見ですが、やはり地ビールで失敗した過去が大きいと思います。
かつて地域ごとの醸造所がお土産ユースのビールを造っては道の駅に卸していたことがありました。しかしその質がとても低かった。今は改善されましたが、世間的には地ビール=劣化版みたいな印象をもたれてしまったのです。その反省から、僕たちは地ビールと受けとめられないようにしています。
僕らは逆にローカルに軸足を置くことを大事にしています。ホップ(カラハナソウ)を使い始めたのもそうです。東北ではもともとホップを使ったどぶろく造りも行われてきました。
実際に使うのは日本に生えているカラハナソウという植物ですが、僕らが最初、何を大切にしたいかと考えた時に出てきたのは素材でした。そこで秋田で山を持っている方とつながり、そのカラハナソウを使い続けています。
製造量が増える中でこのやり方がどこまで通用するかはわかりませんが、ローカルコミュニティを大切にすることも、拠点をもって酒造りをやっている立場では重要です。その地域で愛されて、かつ、1000年単位で続く酒蔵の一歩を刻みたい。日本には500年くらい続いている酒蔵はザラにあるので、数百年というのは普通に考え得る時間軸なんです。
そのためにもローカルコミュニティや地域の自然環境は切っても切り離せない関係です。自然が終わったら酒造りも終わってしまう。すべては時間軸の見きわめに関わります。
日本中の酒蔵が地域を大事にするのはそういうことだと思うんです。酒蔵の十数代目という人たちと話すと、自分たちの代の繁栄の話にならない。やはり皆、孫の世代くらい先を見越して話をします。「50年後はこうありたいから今これをやる」という感じです。
サステナブルであるために
確かに、醸造所をやっていると地域は大きな存在ですね。TRYPEAKSの醸造所は沼津ですが、OEMではB to Bにおけるローカルな関係性を大事にしつつ、B to Cではローカル色を出さずにわりと切り分けているところがあります。
私たちには提携する山主さんが北海道から沖縄まで全国20カ所にいます。これまでは山に生えているものを摘み取っていただけでした。ですが、最近、マタタビの実を年間5千キロ買いたいというオーダーがあり、栽培も始めることになりました。
山主さんと協力して栽培するので、東京を拠点にしつつ、各地の山にも強い思い入れがあります。いくつかの地域が自分たちのローカルになっているところがあります。
今つくっているものが次の世代にも需要が引き継がれるのかということ、さらに製造や栽培が引き継がれるのかという2つの問題があります。マタタビを5000キロ栽培することになったのも、それまで採ってくれていたおばあさんたちを束ねるおじいさんが亡くなったからです。その途端におばあさんたちと連絡が取れなくなってしまいました。
個人的な関係の中での取り引きでは産業にならないのです。ですので、山のものの産業化は私たちには大きな課題です。
うちも同じ事情があります。カラハナソウの安定的な確保が難しくなった場合、どのように材料を調達するかは話し合っています。
私たちはそういう需要を会社として請け負いたいんです。
ともコーラの一番売れている銘柄はほとんど海外の材料を使っています。柑橘は全部国産ですが、ハーブやスパイスは輸入もののカルダモンやシナモンを使います。日本のスパイスだけで造るスペシャルエディションもありますが、それは年に1回、最大でも2000リットルしか製造できません。これを増やそうとすると原料の生産に関わっていくことになります。私たちはその部分を始めた感じです。
原料の調達を安定させようとすると、第1次原料を栽培しながら製造業もやる感じになります。佐藤さんの醸造所も隣にカラハナソウの畑をつくってはいかがですか?
でも、産業にするとその後の代にまで責任が伴いますよね。マタタビを採っていたおばあちゃんたちが産業化したいと思っているのかという問題もあるし。産業化が行き過ぎると、山のバランスが崩れますよね。とても難しそうです。
産業化が行き過ぎることは防げると思います。基本的に自分たちが必要な量だけをつくるのでそれほど多くはない。それによってある地域が少しだけ活性化するような例がつくれれば良いのかなと思います。
現在の原料生産はこうした稼ぎ方のレパートリーが少ないのも課題です。需要があるものを作っていくことで新しい産業を作っていきたいのです。
クラフトから考える日本の植生
お米は地元の農家さんとの関係の下で使えているので、うちも勉強させてもらうつもりで関係を深めています。農家さんがちゃんと稼げるものにしたいので適正価格で売買することが基本ですね。うちの酒かすで有機肥料を作ってもらい、お米を有機栽培することも今年始めます。
お米以外の素材は、例えばホップで言うと、最後に香りや味をつくる段階で西洋のホップを使うんです。日本のハーブやフルーツやスパイスでやりたいのですが、カラハナソウと西洋のホップを比べると、カラハナソウの香りはとても繊細です。入れても入れなくても、一般の消費者にとってわかりやすい美味しさにはならない。
でも、僕らもローカリティを追求しようとしたら、地の素材で造るべきなんです。それが僕らのやりたいカルチャーの到達点。自分たちが山に入って植物を採集するほどのことはまだできていないので是非やってみたい。その意味で古谷さんはすごいことをやっていると感じます。
でも、ホップが美味しいのは、これまでビールで使われる中で品種改良されているからでもあるじゃないですか。カラハナソウもポテンシャルがあると思いますよ。
実は生態学的に言うと、岩手でホップを栽培しているのはナンセンスなんです。というのも群生している場所が近いことでカラハナソウと交配してしまうからです。そうすると日本の種がなくなってしまう。
駆逐されていくんですね。
そうです。長野で今、ヘーゼルナッツがつくられていますが、もともとは日本のヘーゼルナッツと呼ばれるハシバミが生えている土地です。だから群生地が近いとハシバミがなくなってしまう。これと同じことが岩手でも行われています。
本当はホップをつくらずに、むしろカラハナソウを美味しくすればいいと思います。でも誰もそれをやりません。
なるほど。育ちやすいからといって近くで育ててしまうのは生態学的に良くないのですね。
雑種になってしまうのです。だから、私はカラハナソウの品種改良プロジェクトをやりましょうよと言いたい。
それはいいですね。カラハナソウは本当に繊細で、ホップほどの苦みもないし、香りも強いわけではありません。でも、西洋のホップが品種改良されてきたようにカラハナソウでもそういうことが可能かもしれません。
最初は私もどうして悪いのだろうと思っていたのですが、植物学者の人たちと話すとそれがいかにひどいことかというのがわかりました。得てして海外のものは強く、在来種がなくなってしまう。
ブラックバスみたい(笑)。
そうですね。外来種は香りが強く、ということは生命力も強いのでしょう。個体も大きい。クラフトドリンク造りを追究すると素材の問題に直面し、それが植生のあり方を考えることにつながっていくのですね。
(2024年5月20日、三田キャンパスにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。