登場者プロフィール
藤原 由美子(ふじわら ゆみこ)
その他 : 日本在来種みつばちの会事務局長法学部 卒業1979年慶應義塾大学法学部卒業。岩手県の養蜂家と結婚後、2008年岩手大学大学院農学研究科にて博士(農学)の学位を取得。「ミツバチ だいすき」など絵本も執筆。岩手県環境アドバイザー。
藤原 由美子(ふじわら ゆみこ)
その他 : 日本在来種みつばちの会事務局長法学部 卒業1979年慶應義塾大学法学部卒業。岩手県の養蜂家と結婚後、2008年岩手大学大学院農学研究科にて博士(農学)の学位を取得。「ミツバチ だいすき」など絵本も執筆。岩手県環境アドバイザー。
真貝 理香(しんかい りか)
その他 : 総合地球環境学研究所・外来研究員文学部 卒業文学研究科 卒業1989年慶應義塾大学文学部卒業。97年同大学院文学研究科博士課程単位取得退学。日本の養蜂文化・ミツバチと人との関係を研究し、「ニホンミツバチ・養蜂文化ライブラリー」のwebサイトを開設。
真貝 理香(しんかい りか)
その他 : 総合地球環境学研究所・外来研究員文学部 卒業文学研究科 卒業1989年慶應義塾大学文学部卒業。97年同大学院文学研究科博士課程単位取得退学。日本の養蜂文化・ミツバチと人との関係を研究し、「ニホンミツバチ・養蜂文化ライブラリー」のwebサイトを開設。
中村 宜之(なかむら まさゆき)
一貫教育校 中等部理科教諭2000年慶應義塾大学理工学部卒業。早稲田大学教育学部を卒業後、2002年より現職。2020年より、中等部でセイヨウミツバチの飼育を始める。
中村 宜之(なかむら まさゆき)
一貫教育校 中等部理科教諭2000年慶應義塾大学理工学部卒業。早稲田大学教育学部を卒業後、2002年より現職。2020年より、中等部でセイヨウミツバチの飼育を始める。
2021/06/25
ミツバチとの出会い
本日はミツバチの専門家であるお2人にどのようなお話が聞けるか楽しみにしてきました。
私は昨年の6月より中等部で授業の一環としてセイヨウミツバチの飼育を始めました。理科の教師ですが、実はミツバチに関しては全くの素人だったのですが、昨年4月から非常勤講師としてハチの専門家である笹川浩美先生が来てくださっていて、いろいろと指導をお願いして飼い始めたんです。
そうだったんですね。笹川先生はよく存じています。
私は法学部卒業後、一般の会社で仕事をしていたのですが、小さい頃から生き物や自然が大好きだったので、そのような関係の仕事をしてみたいと考えていた時、仕事帰りに通っていたスペイン語教室で、岩手盛岡の藤原養蜂場の養蜂家である夫と出会ったんです。
彼はその時、近い将来南米に行って大規模養蜂をやろうと考えてスペイン語を習いに来ていたんですね。そこで、ミツバチや養蜂の話をたくさん聞いた私は、「もうこれだ!」と(笑)。親も友人も皆、結婚には大反対でしたが、生まれ育った鎌倉を離れて盛岡へ行ったのです。
藤原養蜂場さんは創業から120年の歴史がある養蜂場ですね。
はい。最初は養蜂の手伝いをしていたのですが、子どもが少し大きくなった時に、ミツバチの勉強を本格的にしたいと思い、岩手大学農学部の大学院に社会人入学の枠で、無謀なチャレンジをしました。
入学してからは大変な毎日でしたけれど、衝撃的だったのは、ミツバチを研究したいと思って入ったのに、与えられたテーマがミツバチの天敵のスズメバチだったこと。
それは大変でしたね(笑)。
えー! と思いましたけれど、スズメバチはミツバチと大変関係の深い生き物ですし、気を取り直して実験、研究をし、何とか51歳で農学博士号を取りました。
私は文学部民族学考古学専攻で、博士課程の途中で子どもが生まれて、子育て期は長らく、研究からは遠ざかっていたのですが、2014年に奈良文化財研究所の環境考古学研究室技術補佐員として研究に復帰して、様々なご縁があって今の総合地球環境学研究所の研究員になりました。
もともとミツバチの専門ではなかったのですが、動物考古学という分野で、遺跡から出土した貝や獣骨などを研究していたので、生物と環境に近いことをやっていたのです。ミツバチは生物、食べ物、環境、文化、全部当てはまるんですね。ある時、ドイツ人の同僚から「ドイツは公園にもミツバチの巣箱があったり、どこのスーパーでも地元産のハチミツがあるのに、日本の養蜂のことはよく分からない。詳しく研究したい」と相談を受け、一緒に調べているうちにはまってしまって(笑)。
「いい子」のミツバチって?
ミツバチは本当に環境のこと、すべてに関わってきますよね。中等部ではSDGsに対する取り組みに積極的で、ミツバチを飼うことにしたのもその一環からなんです。
ただ、学校で飼いたいと言ったら、教員会議で子どもが刺されるのではないか、という心配が続出しました。「いや、養蜂園からいい子たちを連れてくるので、刺しません」「いい子って何?」「純血種のあまり気性の荒くない子たちです」という問答があって、もう最後、「近くの別群のミツバチもいるので、刺されても、それがうちの子たちだという証明はできませんよね」と理解してもらいました(笑)。
それはすごいですね。ミツバチは明らかに機嫌がいい時、悪い時があります。例えば暖かくて花の多い時期は、何か特別なことがない限り刺しません。でも気温が下がってきた時や花の少ない時期、スズメバチが来ている時期はイライラしていて、巣箱のふたを開けただけで刺されたりすることもあります。
また、普段の作業の仕方が荒くても機嫌が悪くなってしまいます。例えば巣箱のふたなどでミツバチをつぶしてしまったりすると、毒腺から警報フェロモンが出る。それが重なると、ミツバチたちの気性がどんどん荒くなっていくんです。だから養蜂家は、本当に丁寧に気を付けながら作業しています。
笹川浩美先生に教わりながら一緒にやっていますが、本当にハチの扱いが丁寧なんですね。ハチに語りかけながら箱に近寄って、「巣箱の正面から近寄るのはだめ」と言われて、後ろや横から語りかけながらふたの開け閉めを行っています。
ハチたちを挟まないよう気を付けて、触覚がピーンと張って警戒しているな、という時には急に触らないようにし、燻煙器で煙をかけて落ち着かせてからやっています。するとハチたちの機嫌がどんどん変わっていくのですね。
ニホンミツバチを飼う
ニホンミツバチだともっと丁寧に扱わないといけないんですよ。そうしないとすぐ逃げ出していなくなってしまいます。
そうですよね。一般の方の多くは、ニホンミツバチとセイヨウミツバチの違いをご存知ないのだと思います。日本には在来種のニホンミツバチがずっと住んでいますが、明治時代にアメリカ経由で家畜種であるセイヨウミツバチが入ってくる。藤原養蜂場さんのお祖父様は近代的な商業的養蜂のパイオニアで、東北地方に広めていかれたんですよね。
私共の研究所ではあえてニホンミツバチを飼っています。野生のミツバチなので、セイヨウミツバチとは違う点も多いですよね。巣箱周辺の環境が何らかの理由で悪いと、群ごとどこかに行ってしまうこともありますし、採蜜量は少ないです。
なぜ飼っているかというと、野生のミツバチと付き合うことで、野生とは何か、ミツバチとは何だと考えるようになるからです。ミツバチの機嫌を損ねないように、春も夏もできるだけ周年で花が咲く場所に巣箱を置くといった工夫をしていくと、周りの環境に対するアンテナがだんだん広がっていくんですね。
ニホンミツバチを購入するのはほとんど無理で、今まさに巣分かれ(分封(蜂)、群の一部が分かれて新しい巣をつくること)のシーズンですが、その時に捕まえるのが一般的です。
藤原さんは今、「日本在来種みつばちの会」をされていますが、養蜂場でもニホンミツバチを飼われているわけですか。
藤原養蜂場では商業用としてセイヨウミツバチを飼育し、「日本在来種みつばちの会」で飼っているニホンミツバチは、趣味や研究でという感じですね。この会は1989年に夫が立ち上げて、全国に会員の方が真貝さんを含め、約1100名あまりいらっしゃいます。
今、世界中で在来種は大切だという機運がすごく高まっています。セイヨウミツバチが日本に入ってくる以前から、ニホンミツバチは木々の花なども利用しながら、日本の森や自然を形づくってくれた担い手です。そういった働きをしてきた生き物を何とか守っていきたいし、皆さんにも知っていただきたいです。
ニホンミツバチを守る意義は大きいんですね。
そうですね。ただ、実は今、ニホンミツバチにとって苦難の時です。1つは、アカリンダニという成虫の気管に入ってしまう小さなダニが2010年に長野で初めて発見されて以来、ものすごい勢いで全国に広がっていること。さらに、ウイルス性の病気も西日本から北上しており、この2つが群れを全滅させる恐れがあるのです。
ミツバチは「三密」ですし、いろいろなタイミングで他のコロニーのミツバチと接触しているので、どんどんうつってしまう。
やはりニホンミツバチのほうがデリケートな分、飼うのも難しいのでしょうか?
はい、そう思います。セイヨウミツバチは、人がなるべく飼いやすいおとなしい系統や、なるべく蜜を多く貯める系統が選ばれてきているんですね。ニホンミツバチは、何もそういうことをされていない野生のままです。
性質は敏感で、少し振動を与えただけで翅(はね)を一斉に震わせて「シュワー」という威嚇音を出したりします。そして、何か気に食わないと突然、逃去していなくなってしまう。飼育者は何とか「居ていただく」ために苦心します。でもセイヨウミツバチよりほんの少し小さめで、本当にかわいらしいハチなんですよ。
ミツバチから考える環境
実際に飼い始めると生徒や先生方が「あそこにもいたよ」と言って、学校の内外でいろいろ見つけて報告してくれるので嬉しいです。
一番報告があったのが、アベリアという花のところでした。ツクバネウツギと言っていろいろな家の生垣や道路沿いの植栽にも使われている花です。そして、ミツバチを飼い始めてみると、学校の中にももっと花がほしいと思うようになるんです。そこで昨年からなるべく花期の長い花を植える取り組みをしています。
アベリアやレモンの苗木をたくさん買ってきて植えていますが、まずはとにかく花粉や蜜のある花をたくさん植えていきたいなと思っているんです。
以前養蜂家の方々に、「ミツバチから何を学びますか」というアンケートをとったことがありますが、まさに中村さんがおっしゃったように、ミツバチを飼うことによって皆が花を植え始めたり、今まで気付かなかった街路樹とか山の樹木の種類や花に気が付いたりするのですね。花だけでなく蝶のこと、農薬のことも考え、地球温暖化のことまで考えるようになるようです。
ミツバチかわいさからどんどん生態系全体に目が広がっていく。だから今、中等部でやられているように、ミツバチプロジェクトがどんどん日本でも広がっていくことは、教育上も大きな意味があり、重要なことではないかと思います。
ミツバチの持つ魅力はすごくて、先ほどのお話のように、最初は「刺すんじゃないの?」とおっしゃっていた方々がいつの間にかミツバチファンになっているんですよね。
そうですね。人間では何とか耐えているような温暖化や環境変化の状況も、ハチの様子を見ていると、これはまずいのでは? と気づかされることもあります。
一時期、ハチたちが元気がない様子で、子どもたちがノートの上に乗せて「ハチさんが動かないんだけど」と見せてくれたことがありました。はじめは原因が分からなかったんですが、調べてみると、どうやら農薬が原因ではないかと。というのも、同じ頃にカメムシがたくさん、教室のサッシに止まっていたんです。もしかしたらカメムシ用の農薬が原因で弱ってしまったのではと。
藤原養蜂場でもミツバチの群れが全滅したり弱ったりするひどい農薬被害を受けたことがあります。セイヨウミツバチの場合、大体半径2~3キロの範囲を飛ぶのですが、その範囲内に、お米についたカメムシを退治するためにネオニコチノイド系農薬を撒いた田んぼがあったんです。この農薬は浸透性農薬なので植物体全体に行き渡ってしまう。昆虫や鳥類を激減させ、土や水などの環境にも悪影響を与える農薬です。
また農水省の調査では、ここ30年ぐらいで主な蜜源、例えばニセアカシアとかミカンなどが3分の1ぐらいに減っています。ハチは食べ物も住処もすべて花に頼って生きていますから、本当に由々しきことです。
さらにこの温暖化や気候変動も大変です。花が早く咲いたり、別々に咲いていた花が同時に咲いてしまったり、夏の猛暑時にニホンミツバチの巣が落ちてしまうことも多発しています。ハチは少しの風でも花から花へ飛ぶのに苦労するし、強い風では飛べません。ましてや最近の豪雨や台風では巣箱ごと流されます。このようにミツバチと植物と気候が複雑にかかわりあって養蜂は成り立ちますので、自然環境の変化は今後 ますます大変だなと思っています。
本当に心配ですね。
ミツバチの行動
ミツバチを飼い始めると、1日の行動が分かるようになりますね。朝、日の出とともに、巣箱から出ていく。日中は飛んでいったハチたちがどこにいるかは一人ではとても追えないのですが、時々子どもたちや用務員さんたちから「あ、ここにいたよ」と報告が来る。夏は体育館の屋上のプールのホースから出ている水を求めて周りを飛んでいたりします。
お昼過ぎになると一斉に巣の周りをワーッとたくさん飛んでいる。これは「時さわぎ」という、巣箱の位置や周辺の景色を覚えるための飛行訓練らしいのですが、それからまたどこかに飛んでいって、夜は帰ってきます。
大変記憶力のいい昆虫なんです。ニホンミツバチもセイヨウミツバチも、春から夏に羽化した成虫は大体1カ月で寿命が終わるんですよ。しかも、そのうちの半分ぐらいは巣の中での仕事なんです。掃除をしたり幼虫を育てたり、女王の世話をしたり、巣やハチミツをつくったり。
それが終わると、危険な外の仕事をするんですが、いきなり飛んでいってしまうと自分の巣の位置が分からなくて戻ってこられないんですね。巣の方を見ながらウァンウァンと周辺を飛ぶのは、外の仕事に行って戻って来るのに必要な巣箱の位置を覚えるための飛び方で、これは中村先生がおっしゃった「時さわぎ」です。オリエンテーションフライトとか定位飛行とも言いますが、そうしてから外に行って、花の蜜や花粉、水などを持ってくるわけですね。
藤原さんがおっしゃったように、ミツバチの働きバチのライフサイクルの中で、花の蜜を採りに行くのは本当にその生涯の最後の一時期なんです。そして、働きバチというと何かサラリーマンのようですけど、実は全部雌なんですね。
蜜を集めに行くだけでなく、花粉や水も集めるんです。花粉は幼虫に与えるタンパク質ということで必要だし、水も重要です。そういうことを知っていくと本当に興味深いです。
藤原さんのお話にあったように、ネオニコチノイド系農薬は葉の表面に付くだけではなくて植物内部に浸透するので、花にも茎にも葉にも残る。さらに土壌にも残ってしまうのが大きな問題です。その農薬が田んぼに撒かれた時、ミツバチが田んぼの水を飲みに行ったり、あぜ道のクローバーの花に行くと、農薬を浴びて大量死することがあります。(※ミツバチは吸水に加え、稲の開花時には花粉収集のため田んぼを訪れることがあります。また大量死に至らずとも、微量の農薬成分をとりこむ可能性があります。)
カメムシがお米ができる時に汁を吸うと、斑点米といって白いお米に点々ができるので、それを防ぐために農家の方は農薬を撒くんですが、今は色彩選別機があって、ちょっとでも斑点があればはじいてくれるので、斑点米が消費者に届くことはまずありません。ですから過剰な農薬散布は本当は要らないはずなのですが、お米の等級システム上、一等米基準の確保のために撒いてしまう。
だから、ミツバチのことを知ると、作物の受粉の昆虫の役割や、農業や、フードシステムの問題など、様々なことを学ぶこともできるのです。
自然に触れる教育
最近、子どもたちの虫嫌いが激しくなっているのを感じます。ある調査では虫嫌いの子どもの親は、やはり虫嫌いだそうです。お母さんが「虫なんか、触っちゃだめ」と言えば、子どもはもう絶対嫌いになってしまいますよね。保育者や親は「この花には何の虫が来るかな」と、一緒に観察してほしいです。そうでないと、世代を超えて虫嫌いの連鎖が続いてしまうと思います。ひいては、農薬が減らない遠因になってしまうかもしれません。
好きにならなくてもいいけれど、虫が普通にいるという状態を受け入れて生活できるような環境にしたい。
本当にそうですね。今年、巣から雄バチが追い出されているのを見て、かわいそうだと思い、家に連れて帰ったんです。
雌の産卵管が変化して針になるので、雄バチは産卵管も針もないんですよね。うちの子どもたちも最初はハチを見て驚いていたのですが、「この子は針がないから刺さないよ」と言うと、実際にすぐに触るようになって、それからは公園に行ってもミツバチを探すようになっています。
僕はミツバチを中心に循環をつくりたいと思い、今ミミズコンポストを学校で取り入れているんです。最初はミミズと言うと、皆、気持ち悪がっていたんですが、実際に生ごみの野菜を入れてそれが液体肥料になって出てくるという循環を学んでいくと、分解者であるミミズにあまり嫌悪感を持たなくなる。
こういう姿をどんどん見せていかないといけないだろうなと日々感じています。
ミミズコンポストまでいくのはもう最先端ですよね。私も家に置きたいなと思いながら、まだ取り入れていないのですごいと思います。
素晴らしい活動ですね。私は10年間、藤原養蜂場で体験見学を担当して、小中学生から一般の方まで7千人ぐらいの方にミツバチの生態を体験していただいたのですが、体験の前後ではミツバチに対する気持ちが全然違うんです。
巣枠からハチミツを指で取ってなめたり、巣枠を持って重さや温かみを感じたり、羽音も聞いて五感で感じてもらいます。そうすると意識も変わってくる。「刺されなかったし、ミツバチってすごく大事な働きをしているんだ」と理解される。やはり実際に自然や生き物と触れ合うことはとても大切だと思います。
ハチミツの違い
ハチミツについて伺いたいのですが、ニホンミツバチとセイヨウミツバチでは、やはり違うものになるのでしょうか。
ハチミツの違いは主に採ってくる花の種類によります。セイヨウミツバチの場合は蜜を集める能力が高くて、花ごとに採集することができます。味と色と香りが花ごとにずいぶん違って面白いですよ。
例えば盛岡では、その年初めて採れるのは桜で、その後はリンゴ、トチ、ニセアカシアとかユリノキ、クリという順番でどんどん採っていく。
ニホンミツバチの場合、1年に1~2回の採蜜が多いので、多種の蜜が自然にブレンドされた百花蜜になります。そしてほんの少し酸味が感じられます。
そもそもミツバチが採ってくる蜜の花の種類が違うんですか。
どちらのミツバチも大体同じ花にはいきますけど、頻度が違うのと、ニホンミツバチは目立たない木々の花をより好む傾向があります。それと、飛ぶ範囲が違いますね。セイヨウミツバチは大体半径2、3キロは飛びますが、ニホンミツバチはそれより狭い範囲です。採れるハチミツの量も少なく貴重です。
ハチミツは巣箱周辺の植物環境が反映されたもの。その風景を想像しながら味わっていただけたら!
たまたま家にあったので今持ってきましたけど、桜、ニセアカシア、タイムの三種のハチミツです。色が全然違いますでしょう。藤原養蜂場さんのお店に行くといろいろな種類があって並べてみるとすごく色の違いが分かります。当然味も違います。クリのハチミツとか、ソバとかすごく濃い色ですよね。
ソバなんて真っ黒ですから。
こういうのをテイスティングしていただくと、皆さんが色も香りも味も「あっ、こんなに違うんだ」と一瞬で、花の違いや自然を感じてくださる。私たちはハニートラップと呼んでいますけれど(笑)。
各地の養蜂文化
真貝さんのホームページを拝見すると、日本各地の養蜂のやり方というのはずいぶん違うんですね。
そうですね。ニホンミツバチの養蜂の歴史や養蜂技術の地域差については、知られていないことも多いのでまとめ始めました。
日本と西洋では養蜂の歴史も全然違います。古代エジプトの壁画には養蜂が描かれていますし、聖書の中に「約束の地」として乳と蜜の流れる土地の記述があったり、教会で使うキャンドルにも蜜蠟が使用されていました。日本で養蜂がきちんと行われるようになった資料が多くなるのは江戸時代ぐらいからです。
実際はもう少し前から行われていた可能性はありますし、もちろんそれ以前にも中国などからハチミツや蜜蠟も入っている。平安時代も、地方から中央にハチミツは寄進されているので、各地で採られてはいたようですが、巣箱を置いたいわゆる「養蜂」をどこまでしていたかは分からないところが多いですね。
ニホンミツバチの巣箱は、巣枠が使われる場合もありますが、木の箱がメインなのです。巣自体もちょっとセイヨウミツバチに比べてもろいので、巣箱を頻繁に移動させることが難しいんですね。
なので、地域によっていろいろな巣箱の形があり、木の丸太を利用して中を空洞にしたものから、縦長の巣箱、横長の巣箱、さらに個人の方の工夫が加えられるので、バリエーションが実に豊富なんです。
古座川の伝統養蜂の動画がすごく面白いなと思いました。同じ地域でも人によって使う道具を変えたり、鍛冶屋さんがオーダーメードで道具を作ったりするのですね。
採蜜の道具1つとってもいろいろですね。採蜜をする時は箱の中の巣板を切り取るための道具が必要になるんですが、養蜂の盛んな地域で鍛冶屋さんが残っていると、そこで「マイ道具」を作ってもらう文化が残っている地域があるんです。
また重箱式というタイプは、巣が伸びるたびに新たな箱を下に追加していき、蜜がたまり次第、だるま落としみたいに上から切っていく、効率良く蜜が採れる巣箱です。最近は重箱式が全国に広がってきました。
「熱殺」という生存の手段
セイヨウミツバチとニホンミツバチを両方飼うのは難しいのではないのですか。
できればニホンミツバチとセイヨウミツバチは同じ場所に置かないほうがいいです。というのは、梅雨時~秋頃、蜜が少なくなるとセイヨウミツバチがニホンミツバチの巣に入り込んで、蜜を盗むことが多いんです。逆の場合もありますが。
また、ニホンミツバチはオオスズメバチに対しては「熱殺」で防御することができるのですが、セイヨウミツバチはオオスズメバチによって全滅することもしょっちゅうです。セイヨウミツバチの原産地にはオオスズメバチは存在しませんが、ニホンミツバチは昔からオオスズメバチと共に暮らしてきたので、対抗手段を持っているのだと思います。
熱殺というのは、どういうやり方なんですか。
ニホンミツバチの巣にまず最初に1匹の偵察役のオオスズメバチが来るんです。そして仲間を呼ぶためのフェロモンをミツバチの巣に塗り付ける。この偵察役をやっつけないと、次々とオオスズメバチが来てしまいます。1匹の働き蜂が嚙み殺された次の瞬間、何十匹ものニホンミツバチが一気にその偵察役に飛び付いて団子状になる。1匹1匹が胸の筋肉を振動させることで、48度ぐらいまで温度を上げ、同時に二酸化炭素の濃度も上げて、偵察役のオオスズメバチを殺すんです。
すごいですね。
日本の研究者が発見したのですが、海外の研究者からも「グレイト!」と言われる有名な行動です。
熱殺は失敗することもあり、その場合は次々にオオスズメバチが来てしまう。そうすると、ニホンミツバチは巣を捨てて逃げます。しかし、セイヨウミツバチは最後まで巣を捨てずに、次々とオオスズメバチに向かっていき、あのすごい顎で嚙み殺されていく。そして巣の中のセイヨウミツバチの幼虫や蛹を全部持っていかれて全滅です。スズメバチ類は幼虫が肉食。だから親はミツバチをはじめ、いろいろな虫を捕るのです。
逆に熱殺ができたから、ニホンミツバチとオオスズメバチは共生できたのですね。
そうでしょうね。それと逃げるという性質もあるので。
スズメバチはミツバチを飼っている人間からすると、憎らしい敵なんですが、実は自然界で大きな役割を担っています。クロスズメバチでの面白い調査があり、巣の出入りを観察したら、たった1時間で227匹ものハエを持って入ったそうです。もしスズメバチ類がいなかったら害虫類が多くなって、もしかしたら花も咲かなくなるかもしれない。スズメバチも間接的に、ミツバチが生きていくための役に立っているのかもしれません。
「天与の生き物」
自然の仕組みは計り知れないなと感じています。例えばスズメバチは里山の自然生態系のトップに位置しますが、女王蜂が越冬中に線虫に寄生されると不妊化してしまう。研究によると、越冬しているキイロスズメバチの女王蜂の70%が線虫に寄生されていたそうです。王者のようなスズメバチでも自然の中では決して無敵ではないのです。
そういうことを知るとすごく驚きますよね。レイチェル・カーソンが言った「センス・オブ・ワンダー」、自然の中で不思議さに目を見張るような感性を子どもの頃から育てていくことが、生物多様性を守っていくためにも大切だと思っています。
また、「日本の農業に昆虫がもたらす豊かな実り」という作物の受粉の経済価値を測る調査では、セイヨウミツバチは全体の貢献額の20%ぐらいで、残りの70%ぐらいは、ニホンミツバチを含む野生の昆虫や鳥です。人知れず野生の昆虫たちは作物を受粉してくれている、それはすごく有り難いことですね。
今、藤原さんがおっしゃったように、私たちもいつもミツバチの講座をやる時に、「受粉で役に立っているのはミツバチだけではないんですよ」と必ずトークの随所に入れるようにしています。ミツバチは大事だけれど、私たちがミツバチを通して言いたいのはそれだけではないんだと。
本当にそうですね。でもやはりハチミツが採れるというので話がしやすいし、皆さんの興味を引きやすい生き物であるのは確かですね。
養蜂家の方々はミツバチのことを「天与の生き物」と言います。ハチミツだけではなく、ローヤルゼリーやプロポリス、蜜蠟や花粉、蜂の子や蜂毒もすべて利用できる。ハチミツからはミードという世界最古と言われるお酒もできます。あんな小さな、1.5センチぐらいの働きバチの体で素晴らしい多様な生産物を作るわけですから、本当にすごいなと。感謝と尊敬の念を持っています。
私が幸せな気持ちになるのは、花粉だんごを持って帰ってくる働き蜂を見ている時です。その花粉を幼虫が食べて育ち、花粉からローヤルゼリーが作られて女王蜂の食べ物となり、次世代の女王蜂も生み出される。そんなふうに未来へのつながりがあります。
また、花粉を集めることで様々な植物の花を受粉し実をならせ、多くの生き物の糧となるという広がりや循環もあり、時空を超えた豊かさを感じるんです。
私もそうです。花によって花粉の色が違ったりとてもきれいです。あんなに大きな花粉だんごを体に付けてきて、お尻を振りながらよたよたの状況で巣箱の前にドテッと着地して。ああ、よく頑張ったんだね、と撫でてあげたい(笑)。
ある養蜂家の方が、「いや、あいつら人間より賢いで。人間は一生かかっても、あいつらのことは分からん」とおっしゃっていました。
都会でミツバチを飼う
都会でミツバチを飼うことが盛んになっていますね。これも藤原養蜂場が銀座で始めたのがきっかけだそうですね。
実は、藤原養蜂場では2000年から皇居の近くにあるビルで屋上養蜂をやっていました。そのビルが手狭になって別のビルを探していた時に、後の銀座ミツバチプロジェクトの理事長の方から、「このビル、使ってもいいよ」と言われたんですが、夫が「教えるから、やってみれば」と養蜂の指導をして、2006年から銀座の人たちが始めたのが銀座ミツバチプロジェクトです。今は皆さん養蜂の技術も上がって、何カ所かで年間約1トンほどハチミツを採っているようです。
銀座は老舗や百貨店が多く、採れたハチミツでおいしいお菓子やお料理、お酒を開発、販売し、とても賑やかに活動しています。今、銀座のビルの屋上は、田んぼや菜園、お花畑になっていて、これもミツバチが来たことでそうなったんです。また、銀座は皇居や浜離宮も近いし、周りは公園が多い。そうすると草花や、街路樹のユリノキ、マロニエといった花からたくさん蜜を採ってきます。
思いもしなかったような量が採れているので、たくさん花があるということですね。
このようなミツバチプロジェクトは全国に広がり、今は100カ所ほどで行われているようです。
今後、中等部でもハチミツが採れるようになれば、ブランドになりますね。
そうですね。三田のハチミツとか、ペンマークを付けて出せたらいいかもしれないですね。中等部の周りにはオーストラリア大使館やイタリア大使館、ハンガリー大使館など、セイヨウミツバチの本場の国々の大使館が多数あるので、もしかしたらその中でも養蜂をやっているかもしれないし、将来的には協力ができないかなと夢見ています。
ミツバチと共に生きる未来
ミツバチに関わってから、「蜂友」ではないですけど、知り合いの方が増えて、人生が楽しくなりました。養蜂家の方だけではなくて農家の方や学校の先生やお医者さん、色々な方が趣味で飼っておられます。
先ほどアベリアのお花の例を中村さんが出されましたが、私もたくさんミツバチがとまっているのを見て、この花には蜜がなさそうと思っていたのにそんなにあるんだと再認識して、見るようになりました。だから街を歩いていても楽しくなりますね。
今、養蜂家は皆感じていると思うんですが、花の咲き方が明らかに変わってきています。例えばエゾエンゴサクという北国の花にはマルハナバチが受粉しに来ますが、ある年、花があまりにも早く咲きすぎて、ハチがまだ越冬から目覚めていなかったため、両者が出会えなかった。その結果、結実がすごく少ないということが起きたそうです。温暖化が進めば、このように共生関係が壊れるようなリスクもあります。
大切な蜜源・花粉源植物も減っているので、個人のお庭でも在来種の植物やハーブを植えていただければうれしいですね。
周りに広葉樹林があるソバ畑では、ソバの受粉率が上がるという研究があります。広葉樹林からニホンミツバチをはじめ、様々な受粉昆虫がやって来るからです。広葉樹林は、森のミツバチとも言われるニホンミツバチや昆虫たちの住処になったり、食べ物を提供したりする所ですから、増やしていけたらいいなと思います。
日本在来種みつばちの会でもそういった樹種を選んで、植樹を勧めています。
そうですね。慶應義塾には全国に学校林が160ヘクタールほどあって、一番東が南三陸の志津川の森で、一番西が岡山の真庭にある落合の森です。一昨年、岡山に中等部の子どもたちを連れて行きました。向こうの林業をやっている方も、針葉樹ばかりではなくて広葉樹が大事なんだと言っていました。
ミツバチからスタートしましたが、この先、学校林のことにもつなげて子どもたちと一緒にやっていきたいと感じています。
同僚に森林の専門家がいて、最近、ミツバチに非常に興味を持って研究を進めています。というのは、林業関係者の方々に、蜜源植物に関する意識があまりないそうなんですね。例えばソヨゴという、ありふれた木があるのですが、森を暗くしてしまうような木だから、切ってもいいと思われているようですが、ソヨゴはいい蜜が採れるんです。今、彼女は地域に応じて、どういう樹種を植えていくと良い蜜源の森になる可能性があるかと研究しています。
また、銀座ミツバチプロジェクトは日本中に大きなインパクトを与えましたが、養蜂が盛んなオランダには「ビー・ハイウェイ」という言葉があります。屋上緑化をして花を植えていくとミツバチたちがハイウェイのように都会の中でもビルとビルとの間を行き来できるという考え方です。そういった考えがどんどん広まっていけば楽しいなと思います。
本当に今日は貴重なお話をたくさん伺いました。有り難うございました。
(2021年4月13日、オンラインにより収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。