慶應義塾

キャンパスの植栽

登場者プロフィール

  • 細野 哲央(ほその てつお)

    その他 : 一般社団法人地域緑花技術普及協会代表理事その他 : 樹木医法学部 卒業

    博士(農学)。2000年慶應義塾大学法学部卒業。千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。同大学院園芸学研究科特任助教等を経て現職。千葉大学客員研究員。

    細野 哲央(ほその てつお)

    その他 : 一般社団法人地域緑花技術普及協会代表理事その他 : 樹木医法学部 卒業

    博士(農学)。2000年慶應義塾大学法学部卒業。千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。同大学院園芸学研究科特任助教等を経て現職。千葉大学客員研究員。

  • 澤藤 正哉(さわふじ まさや)

    研究所・センター 日吉キャンパス事務センター運営サービス担当(用度)課長

    1997年慶應義塾大学環境情報学部卒業。99年同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。99年慶應義塾入職。

    澤藤 正哉(さわふじ まさや)

    研究所・センター 日吉キャンパス事務センター運営サービス担当(用度)課長

    1997年慶應義塾大学環境情報学部卒業。99年同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。99年慶應義塾入職。

  • 岩淵 聡(いわぶち さとし)

    事務局 管財部職員

    2001年青山学院大学経営学部卒業。同年、大日本印刷株式会社入社(出版印刷事業部営業)。2005年慶應義塾入職。学生部を経て、13年より管財部へ配属。樹木管理等を担当。

    岩淵 聡(いわぶち さとし)

    事務局 管財部職員

    2001年青山学院大学経営学部卒業。同年、大日本印刷株式会社入社(出版印刷事業部営業)。2005年慶應義塾入職。学生部を経て、13年より管財部へ配属。樹木管理等を担当。

2020/05/25

「倒木」の責任とは?

澤藤

慶應の三田・日吉のキャンパスは歴史もあり、古い樹木が多くあります。日吉には何といってもキャンパスの「顔」であるイチョウ並木があり、またその奥の蝮谷には森が広がっている。三田は中庭の大イチョウが有名です。

これらの樹木はキャンパスの景観に欠かせないものであり、卒業生にとっても思い出深いものだと思いますが、一方で倒木などの管理の問題もあります。今日は、塾出身の樹木医、細野さんを交え、話していきたいと思います。

細野

私は変わった経歴ですが、塾の法学部法律学科を出てから千葉大へ行き、樹木医になりました。理由を話すと長くなりますが、簡単に言うと、樹木が好きだったからというのが一番の理由です。

澤藤

シンプルですね。

細野

実は司法試験受験生だったんですが、進路を考えた時に、「そんなに法律好きじゃないな」と気付いてしまいまして(笑)。

もともと祖父が園芸が好きでした。私も家の庭で合間、合間にいろいろな植物を育てているうちに、専門的に樹木を育ててみたいという気持ちが大きくなり、剪定や管理技術、造園などを研究している千葉大の大学院に行きました。

ある時、研究室の教授から、「今までやってきたことを生かせば」という助言を受けて、樹木と法律的な社会問題などを組み合わせて研究することにしたんです。

よく「木が倒れた」という報道がありますよね。一つ間違えば大変な事故が起きます。当然所有者だったり管理者がいるので、その人たちの責任はどうなのか、ということがある。そこを専門にしている人は全然いなかったんです。

事故が起きたら必ず責任を負わなければいけないということではなく、その管理者が事故を予見できたかどうかが重要になってくる。つまり、日頃管理者がどういう管理をしていたかが重要なのですね。

澤藤

まさに、去年、台風19号、21号で、日吉キャンパスの樹木が、慶應が土地を貸している横浜市の認可保育園のフェンスと屋根を傷つける事故が起きました。その時も責任の問題が浮上しましたが、樹木の定期的な剪定を行っている管理記録をきちんと取っていたので、相手方は「これじゃあお金は取れませんよね」となりました。

私が日吉のこの部署に来た時は、樹木管理にあまり予算措置をしていませんでした。何かトラブルが起きたら切るくらいで、イチョウ並木にもなかなかお金をかけられずにいました。

また、桜に寿命が来ているタイミングなのか、倒木騒ぎがよくありました。そのためキャンパス内の危険箇所についてはここ2、3年、予算を多く付けて樹木管理に力を入れています。もし倒木で通行人や学生にケガをさせてしまったら、それこそ多大なコストになる。そこで、東急グリーンシステムという会社と組んで日々の巡回や、緊急時対応の体制をようやく整えたところです。

細野

日々の巡回というのはどのくらいの頻度ですか。

澤藤

東急グリーンシステムの人が常駐して毎日やってくれていますが、日吉の管理範囲は下田も含めると相当広くて全部を1日で回りきれません。エリアを分けて、危険度の高いところを重点的に見ながら、すべての場所について、最低でも月に1度は点検するようにしています。

日吉キャンパスは丘になっていて斜面地が多いので、湧き水がないかなど、防災面でのチェックも同時に行っています。

岩淵

私は、現在三田の管財部で、業務の1つとして樹木管理を担当するようになりました。

三田キャンパスの敷地は狭いとはいえ、樹木の数は相当な本数あります。なかなか1年で全ての樹木を剪定することはできませんが、部分的にでも切って、整えてあげるとキャンパスに光が差し込みとても明るくなり、外から見える景色も美しくなります。そこに通い、過ごす学生も心地良く感じてくれていると思うことがあります。

また、日吉ほど広くありませんが、三田も丘で、崖地があって危険な箇所もあります。

イチョウ並木を守る

澤藤

日吉のイチョウ並木は、近年調査と整備を積極的に進めています。私が来た時には、6、7年くらい枝を切っていないという状況でした。下のほうの枝は日が当たらないのでちょっと元気がなく、風が強い日は折れてしまうことがありました。上のほうの枝は隣の木の枝と干渉し合っていたりもした。そこでまず樹木医に見てもらったんですね。

樹勢調査をすると、剪定をした後の状態が一気に悪くなり、3、4年かけて何とか復活するということを繰り返していたようです。また胴枯(どうがれ)病もあったようで、樹皮が何かしらおかしいものと、空洞率が高くなってしまっている木がありました。

やはり切り方の影響が大きいようでしたので、東急グリーンシステムの中で棟梁の中の棟梁と言われている人に切ってもらうことにしました。わざわざ、見本剪定といって、1本木を決めて先に切って、1年おいて、影響がないことを確認した上で他の木を切っていくことにしました。

細野

1年、見本剪定を見るわけですか。相当丁寧なことをしましたね。

澤藤

そうですね。イチョウ並木はキャンパスの顔なので、これは大事にしていくべきだということと、やはり倒れた時の影響が相当大きい。また、シンボルなので円錐形にきれいに切るのはなかなか難しいみたいですね。

細野

イチョウはもともと、自然な樹形は円錐形ではないのです。三田のイチョウの樹形は違いますよね。おおらかな丸い形が本来のイチョウの樹形なのです。でも、神宮外苑の絵画館前のイチョウが有名になり、イチョウはああいうものだと皆、思ってしまっている。

ただ、日吉のイチョウ並木は記念館へのビスタ(見通し景観)をつくるという意味もありますから、円錐形がいいと思います。

澤藤

日吉のイチョウは、調べてみると、117本中3本くらい空洞率が高いものがありました。これらの木はワイヤーを張って倒れないようにしているのですが、このまま空洞率が高くなるようであれば、いよいよどこかで植え替えが必要なのかなと思っています。

植え替えについてはまだノープランで、とても難しいと思っているんです。117本のイチョウをいっぺんに替えるのは無理で、もちろん、並木がまったくなくなる状態はつくれない。

かといって、半分ずつ替えるのも難しいだろうと。そうすると間引きで替えていくのかとか、今後考えないといけないなと思っています。

細野

危ない木は、どのあたりにあるのですか。

澤藤

1本は入口のところにある木で、これは一番気にしています。昔は小さかったので幹の周りの土の部分も小さくて済んでいたのが、どんどん大きくなって結局アスファルトのほうに根が行ってしまって、そこを人が踏んで菌が入ったり、いろいろな理由で空洞化が起きているのだと思います。

細野

たぶん、入口の近くとか向かって右手側は保健管理センターや道路もあって、いろいろいじっている部分だろうと思うのですね。おそらくそれで根を傷つけて、下から菌が入っているのではないかと思います。

樹木の寿命

岩淵

イチョウ並木は日本中にたくさんありますね。植え替えをしているところはありますか。

細野

昔植えた街路樹が大きくなり過ぎて困っている自治体は多いと思います。

イチョウの場合はまだ剪定に強いので、大きく切り詰めて縮小しても耐えてくれますが、ケヤキなんかだと扇形に開いている樹形なので、一次枝という幹から直接出ている太い枝を切り詰めてしまうと、もう一気に枝が枯れ、樹形も崩壊してしまい、樹木の元気がなくなってしまう。根っこも駄目になって倒木の危険が出ます。

日吉のイチョウ並木は皆さんから大事にされている。1本1本を大事にしたいのか、それともあのイチョウの並木を大事にしたいのかと言えば、それはやはり並木なのだと思います。日吉駅から記念館へと向かうあの景観を大事にするために、並木をどうやって維持していくかですね。

例えば、丁寧にやっている並木としては、宮崎のワシントンヤシの並木があります。あれは何十年計画で端から少しずつ植え替えていくという計画ですが、でも、日吉の場合、並木全体の更新を考えなければならないほど傷んでいないですよね。

澤藤

そうですね。私は専門家ではないのですが、いわゆる成長率が止まっている感があります。根が張れる環境がもうあまりないので頭打ちになったのか、それとも成長する元気がなくなって止まってしまったのか、この10年くらいは、幹回りはほとんど成長が見られない状態になっているようなのです。

細野

ただ、私は一昨年に見た感じだと、まだ大丈夫だと思います。空洞率が高くて危ないと言われているものも3本くらいということですし。

この並木は植えられて何年くらい経っていましたか。

澤藤

1935(昭和10)年、日吉キャンパスができた翌年に植えられたんです。

岩淵

イチョウは、ものによっては1000年くらい超えて残っているものもあると聞きます。

細野

はい。鶴岡八幡宮のイチョウなどは、数年前に倒れましたが、鎌倉時代からあったものですね。

澤藤

源実朝を暗殺した時、公暁が隠れたと言われる……。

細野

それもおそらくあとの人が、言い伝えとして作った可能性は高いですが、それくらい生きてもおかしくない。

先ほど桜の話もありましたが、「ソメイヨシノ60年寿命説」も、そんなことはないと思います。

岩淵

そうなんですね。それはもう、環境によるということでしょうか?

細野

環境にもよりますし、管理にもよります。樹木ってもともと人間よりよほど長生きなのです。60年って誰が言い出したのか知りませんが、やはりソメイヨシノの場合、人がたくさん集まるところに植えるので、環境圧がすごくかかりやすい。人がどんどん踏みしめて土を固めてしまうからです。

砧公園にソメイヨシノの自然樹形がありますが、放っておくと本当にお椀をかぶせたような、下枝がウワーッと横に伸びていく木なのです。でも、そうすると、通行する車両にぶつかったり、見通しが悪くなったりするので、ある段階で太くなった枝を下ろしてしまう管理をしていることが多い。

太い枝を切ってしまうと、当然、相当大きな断面積が残ってしまいます。樹木は樹皮により、外部からの細菌や虫などに耐えられるような防御機構を持っているわけですが、むき出しになってしまうと、もうそこから腐っていってしまう。

よく、桜は腐りやすいと言われますが、親指くらいの太さの枝をバンバン切っても全く腐りません。太くなった枝を下ろすからいけないのです。そういう意味から、剪定の頻度は多くしたいですね。

澤藤

なるほど、そうなんですね。

細野

手を入れるほど樹勢、樹木の元気さはコントロールできるのです。要は枝葉を摘むと、光合成産物の全体量が減りますので、樹木の成長量は抑えられます。丁寧に手を入れてあげればあげるほど、だんだん手がかからなくなってくる。

放っておくと枝がたくさんついてきて樹木がどんどん肥大成長する。つまり太り方が早くなる。それを放置しておいて、ある時、バサッバサッと太い枝を切るから状態がまた一気に悪くなるんです。

植樹された頃のイチョウ並木。背後は第二校舎(慶應義塾福澤研究センター蔵)

三田の桜

岩淵

三田キャンパスには、ソメイヨシノは35本ありましたが、大雨や強風で5本倒れてしまい、最近の調査では「問題あり」が13本と診断されています。

幻の門の近くの崖に立っていた桜が、根元から崖の下のほうへ倒れてしまったこともありました。これも、寿命というわけではないのですね。

細野

寿命というよりは、根株の腐朽が進んでいるということだと思います。

岩淵

崖地にあった弱っているソメイヨシノは思いきって切りました。崖地の向こう側は近隣の方の敷地なので危ないですから。

残っているソメイヨシノのうち、「問題あり」と診断された木は、安全を第1に考え小さくしました。一方で、5年くらい前までの桜はとてもきれいで、皆が写真を撮っていました。今はもうぱらぱらとしか花が見られなくなったことが残念です。

今後の桜の管理のあり方を考えるべき時期にあると思います。

細野

桜は成長が早いですから、今、傷んでいる樹木をそのまま残しておくよりは、早めに植え替えてしまったほうがよいと思います。10年経てば花がきれいに咲きますから。

岩淵

植え替えする時の桜は、ソメイヨシノを選択しないほうがいいのでしょうか。

細野

ソメイヨシノは、てんぐ巣病という病気になりやすいんですね。てんぐ巣病というのは糸状菌(カビ)が原因で、枝がモシャモシャッとした状態になって、花も咲かなくなってしまう。それが天狗の巣にたとえられるのです。いずれは枯れていってしまうという病気です。

桜の名所づくりなどで有名な(公財)日本花の会も、これまで行っていたソメイヨシノの頒布をやめてしまいました。現在はジンダイアケボノという種類を代わりに頒布するようになったようです。ちょうど咲く時期が近く雰囲気も似ている。ソメイヨシノほど枝が広がらないので、最近はこれが注目されていますね。

カラスのねぐらはなぜできる?

岩淵

三田キャンパスの桜は、ソメイヨシノに次いでカンザクラが多く植えられています。カンザクラのほうが倒れる件数は少ないですね。

細野

カンザクラはそれほど大きくならないのではないですか。だから、倒れたとしても特に大きな被害にはならないということだと思います。

岩淵

そういうことですね。卒業、入学の季節と桜が満開になる季節は重なりますが、そのころに桜が少ないのはとても寂しいです。施設管理者としてはどうにかしたいという思いがあります。

一方で、桜は虫が付きやすく管理が難しいという面もあります。

細野

ただ、自然のものですからね。木のほうは虫が付いてもどうということもないんです(笑)。

これは完全に人間側の問題で、樹木自体がそれで弱るということは普通はないですし、葉っぱが食べられるだけなのでまた出してくれます。モンクロシャチホコという赤黒くてちょっと気持ち悪いのが夏の終わりくらいにワーッと付いたりするんですね。

岩淵

また、日吉も同じ状況と思いますが、春先になるとカラスが樹木に巣をつくり通行人を襲うことがあり困っています。

澤藤

カラスは、日吉は大変な集合場所になっているようです。記念館の屋根だったり、日吉の森だったり。4時半くらいに一斉にそれぞれのねぐらに帰って行くんです。だから、園芸業者の方たちは、「カラスも解散したから、我々もそろそろ帰るか」ってなるみたいです。

細野

ちょうど教えてくれる(笑)。カラスは樹木への害はないですが、子育て中にかなり気が立っていて、人が突つかれたりすることがあるので、樹木の管理者の方は気にされていることが多いです。やはり枝がモサモサになってくるとカラスやムクドリも集まりやすい状況になるので、枝を抜いてあげることが大事になってきます。

5、6年経ってからバツッと切り詰めてしまうのが一番まずいやり方で、これをやると切ったあとに箒状に大量に枝が出てしまう。あれは当然樹木の形としても乱れるし、鳥からすると、すごく安全なねぐらができた状態になってしまうんです。

そうではなくて、枝を分岐のところで抜いてあげる。日本の伝統の透かし剪定という方法が庭木でありますので、それをしっかり気を付けながらやってあげるとずいぶん違います。

歴史を刻む大イチョウ

岩淵

三田の大イチョウの形は、ドスンと太い幹があって、相当な高さまで枝が広がらずに伸びていて、そこから一気に広がっていくような形をしています。この特徴的な形はイチョウの形としてよい形なのでしょうか。

細野

先ほど見てきたのですが、どこかの段階で太い枝を落として下枝を上げた状態ではないです。昔からああいう形で整えていたのだと思います。

下枝というのは、一番下から出ている太い枝ですが、その下枝をもう少し残してあげたほうがよかったですね。少しプロポーションが崩れている。あれだったら、もう少し樹高を上げたいなとは思います。ただ、歴史は感じさせますよね。

岩淵

はい。特に南校舎から階段を上がってきた時に見える大イチョウの姿は、とても雄大で絵になります。

細野

やはりあれがないと、三田のキャンパスではないですね。もちろん古い建物もたくさんあるのですが、やはり樹木が長い間生きてきた、その成長を刻んでいるということがキャンパスの風格を出していると思うのです。三田の建物で言うと、やはり敷地全体が狭いこともあって、かなりぎゅうぎゅうな状態で、寄木のように新しい建物をつくっている印象があります。通路に対して建物がかなり大きいので、何か見上げる感じになってしまいますね。1個1個の建物としては素晴らしいのですが、それを全体の空間で見た時にてんでんばらばらという感じがして、そこが残念です。

やはり植栽を大事に使っていただくと面白い見せ方ができると思います。植栽は空間と空間をつなげられるんです。大きい樹木を植えると、建物を隠して覆ってまた次の空間に入るというような構成が考えられるのですね。

日本庭園の回遊式庭園はそういう構成です。三田のキャンパスももともと江戸の大名屋敷で、当然庭もあったでしょうから、そういうところから植栽を新たに植えたり設計してみたりということも考えてみてもいいのではないかと思います。

岩淵

とても参考になります。確かに三田は日吉に比べるとキャンパスの敷地は狭く、教室も不足しがちなため、建物を限界まで建てざるを得ない事情があります。

南校舎を建て替えた時には、学生たちからも意見をずいぶん聞いたそうです。例えば法政大学や明治大学は30何階というタワー型の校舎を建てましたが、同じことをすれば、お金はかかりますが、建物の数を減らして、多くの教室もできます。その一方で、高い建物が圧迫感を与えてしまいます。中庭が日陰になってしまうことは嫌だ、という声が多くの学生から寄せられ、そのこともあって建物の高層化はしていません。

細野

私が卒業した時は幻の門のところの建物(東館)もなかったので、だんだん何か要塞みたいになっていくなあと。中に入ると割と、まだ中心の広場がありますけど。

岩淵

周りの建物が防音壁になって、三田キャンパスの中庭というのは実は驚くほど静かです。

細野

福澤公園や南館の前の庭園みたいなところが、残念な植栽空間になってしまっているようですね……。

岩淵

福澤公園は、南校舎を建て替える時に屋外に学生たちのいる場所をつくるために整備しました。

その時、林業三田会さんから、落葉広葉樹を残すと、それが夏は天然の屋根になって直射日光を防ぎ、冬は葉が落ちて温もりを与える、とアドバイスをいただきました。福澤公園は透水性のタイルを敷いて、少し明かりが入るように雑木を切って、それで落葉広葉樹の屋根につくりかえました。

三田キャンパスは都心のキャンパスのため、わずかな敷地を有効活用して、学生がベンチで座って集うような場にもしたかったのです。その後、成長した根が伸びて、通行人が通るところまで届いたものもあります。根の保護を優先するのか、別の用途を優先するのかは難しい問題です。三田キャンパスをどのように使っていきたいかの考えは様々です。その中で植物にとってベストな環境を確保し続けることの難しさがあります。

細野

そうですね。樹木第一ではなく、やはり人間側から一番心地いい使い方をするためにはどうしたらいいかということだと思います。

ただ、樹木を傷めると結果的にその空間も劣化してしまいますから、そこをしっかり考えましょうということですね。その時に、植物の専門家が入るだけでかなり変わってくると思います。

三田の大イチョウ

「こまめな散髪」がよい

澤藤

景観もそうですが、イチョウは清掃との戦いもあります。あれだけのイチョウ並木になると100リットル袋が1日で60袋とか出ていくわけです。樹木医さんは、切った葉っぱとかも木の根元のところに置いておけば木も守られるし、水も保てると言うのですが、風が舞った瞬間にブワッと道路に散ってしまって(笑)。

細野

そうですね。イチョウは油分が多いので、坂道だと滑ったりするので放置するのはちょっとおすすめできないですね。

ただ、これは言っておきたいのですが、落葉を減らすために強い剪定をかけることがよくありますが、強く切り詰めると、葉っぱが減るように思っても、実は枝を丁寧に抜いた場合と比べて、次の年に出てくる葉っぱの総重量は変わらないのです。

枝葉が少なくなってくると樹木は光合成産物、エネルギーが少なくなるので一生懸命葉っぱを出そうとします。強い剪定をかけた年は、外から見るとすごく葉っぱが大きくなったように見えますが、実は細かい葉っぱもたくさん出てきています。合わせて乾燥重量を量ると枝を抜く剪定と有意差がない。

それであれば、丁寧に枝を抜くような形で樹勢をコントロールするのがよいでしょう。樹木を人間の持つ技術でコントロールするような管理ができるんです。

澤藤

こまめな散髪をしなさいということですよね。

細野

そうです。また、忘れてはいけないのは、「そもそも何で植えたのか」を考えることです。やはり人間の側からここに樹木があるといいよね、という理由があって植えているわけで、それを大事にしたい。

植栽の効用としては、まずは「緑陰」です。これだけ夏が暑くなってきている都市の環境の中で、枝葉を広げて緑陰を落としてくれるのはすごく大きな機能ですよね。しかも、樹木は中には水が通っているから涼しいのです。

次に「防災、減災」。まとまった樹木があるということで火災を防げる。焼け止まりです。

また、植物の緑を見ることで、心理的、あるいは生理的な部分でストレスが軽減されるという結果が実験で出ています。大学では、いろいろなストレスを受けながら皆さん勉強しているわけですから、それを緩和できるような空間は絶対に必要です。

あと並木で言えば、先ほどから言っているビスタ(見通し景観)ですね。日吉のキャンパスの風格や威厳といったものを訪れる人に強く印象付ける役割は大きなものがあります。三田で言えば、大イチョウもそうでしょう。

あとは、年代も様々な人たちが、緑を中心にして集まるというコミュニティ形成機能があります。大学には、環境のことに興味のある学生さんもいますし、一緒に連携しながらキャンパスの中の樹木の管理や、新しい設計などをやれると思うのです。

植え替えをどうするか

澤藤

日吉は風致地区に指定されているので、木を切ったら植えなければいけないんですね。奥にはとても豊かな自然があるので、そこで、これはちょっと倒木の危険があるので伐採をしましょうとなると、では、伐採した後に何を植えていくか、ということになります。

ヒマラヤスギやメタセコイアもあるのですが、あれらの木々はどんどん上に伸びていくわけです。最初のうちは見た目もいいとメタセコイアの並木を植えても、そのうち樹高が伸びると切るのが手に負えなくなってくる。

いつも何をどういう方針を持って植えていくか、ということがなかなか決まらない。日吉の生物の先生方からは生物多様性の観点からご意見をいただきます。

細野

エリアを分けて全体的な計画を立てておくべきだと思います。森の中であれば、生物多様性に資するような樹種を植えたらいいと思います。しかし、従来そこになかったものを植えるのはかえって攪乱することになるので、そこをしっかり考えられる人がいないといけない。

また、道路に面していたり、街路樹的な植栽のされ方をするような樹木であれば、世の中にたくさん街路樹として植わっている樹種がいいでしょう。そういった樹木は管理しやすかったり、都市環境に強いからという理由で明治時代以降選ばれているわけですから。

澤藤

下田地区という日吉駅の反対側に体育会の野球部のグラウンドなどがある場所があるのですが、ここが一切手を付けられていなかったんですね。住まわれている方にもいろいろ意見があって、自然のままにしておいてほしいという方と、防犯の面からもきれいさっぱり切ってくれという方がいて意見が合わない。

でも、今年、倒木の危険があるものはいっせいに伐採したんです。特に桜はもう花も咲かなくなってきたくらい弱っていたので。では、代わりに何を植えるかと、これまたいろいろなご意見があり……。何か皆がハッピーになるテーマで植えられたらいいなと思っているのですが。

細野

そういうことならワークショップができるといいですね。それは大学の強みだと思いますので。

澤藤

そうか。先生、今度よろしくお願いします(笑)。

下田は桜が有名だったのですが、本当に弱ってしまって。一斉に駄目になってしまったなと。

岩淵

桜はなかなか切りにくいですよね。将来的にはそのほうがいいのでしょうけれども、その後に植えられるのが今よりずっと小さいものになるだろうと思うと……。

細野

桜の伐採は大変です。いろいろな人が見ている木ですから。特に街路樹であれば、そこをいつも通っている人がいる。その中で、特に春の時期は、入学式、卒業式があり、その人の思い出と強く結び付いてしまっている。

これを切るとなると半身をもぎ取られたように感じる人も当然います。その思いを汲み取りながらやっていくのが大事なことですね。やはり桜はお葬式を上げなくてはいけないと思います。

岩淵

大学には桜以外にも関係者の思い入れが強くあるものが多くあります。寄贈いただいた樹木や記念樹もある。

南校舎の建て替え時には、旧校舎の前にあった大きなタイサンボクとオリーブの木、そしてタブノキの一部を南館の前に移植しました。いずれも記念樹で、タイサンボクは特に大きな木なので、中庭のアスファルトを傷めないように厚い鉄板を敷いて、トレーラーのトラックで構内を運ぶということをしました。

また、大きなタイサンボクを切るために2年がかりで準備をして、「根回し」をしました。この「根回し」は、われわれがよく使う「根回し」の語源だと言われますが、根の部分を2年ほど前に切って、3本全部根回しをした上で一番生命力の強い木を1つだけ最終的に移動しました。寄贈者やそれに関係する方々に喜んでいただくことができました。

物語のある樹木管理を

澤藤

せっかく学塾にあるのだから、日吉の森は、何か物語(明確な方針)が欲しいなと思うんです。

管理をせずに自然のままにしたほうがよいという意見もある。一方、もともと日吉のキャンパスがあるところが台地で、縄文時代はその下はずっと海だったと言われます。だから貝塚が出てきたり、住居址もある。そうすると、日吉の森というのは、その時から人の手で切り開かれて管理されていたという面があると思います。そのようにある意味管理されてきた自然だとも言える。

そういった歴史を考えるところまで皆が話ができるようになり、「ああ、なるほど、だからこうした管理をしているのね」みたいな物語が欲しいなと。

職員はしょっちゅう人事異動で人が代わるので、そういう物語があると担当者が代わっても、大きなよりどころになって管理をしていくことができると思います。そうやって日吉の森を維持していけたらと思うんですね。

細野

おっしゃる通り、あのあたりは相当、貝塚が出てきますし、古くから人の営みがあった地域なので、おそらく二次林で、人が入らないような森ではなかったはずです。二次林というのは落葉樹中心の森になりますので、関東だと、おそらくクヌギ、コナラが中心だったでしょう。

何のためにそういう林になっていったかというと、薪炭林として薪にするためです。落葉樹なのですごく明るい空間になります。明るい林というのは学生たちが安心してキャンパスの中で生活していくということでもすごく大事な観点だと思います。やはり落葉樹を中心とした二次林として、今後も考えていくのがいいと思います。

後は、やはり管理の目標、計画、そして樹木の1本1本についての樹形の目標ですよね。「この木はこの場所に植わっているのであればこのくらいの大きさにしておきましょう」というものをしっかりつくっておいてほしいと思うのです。

今、アメリカなどの大都市だと、GIS(地理情報システム)で全部樹木の情報を紐づけてホームページで公開されているところが多い。地図をズームしていくと、その樹木の写真が出て、この樹種はどういうものだと全部出てくる。キャンパスでもそういう取り組みをしているところがあります。そうやって市民の皆さんに親しみを持ってもらうのですね。

岩淵

そのような取り組みもあるのですね。

細野

私は高校から日吉のイチョウ並木を見ていたのに、そんなにいいものだとは気付きませんでした。いろいろ勉強をしてあらためて来訪すると、すごいところに通っていたな、とあらためて感動しました。

知らないと見えないものはたくさんありますね。キャンパスの緑景観についての情報や知識を皆さんに知っていただけるような取り組みができれば、緑を介した交流や面白い活動も生まれてくるかもしれません。

澤藤

三田ももちろんそうですが、日吉は、もう街の人も普段からあのイチョウ並木のところを通っている。そういう意味では、日吉の並木というのは横浜市の街並み景観賞をもらうくらいで公共財という役割が非常に強い。日吉キャンパスの森も含めて非常に貴重なものなので、これからも大切にしていきたと思います。

今日は有り難うございました。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。