慶應義塾

ブラックホールを探る

登場者プロフィール

  • 草上 仁(くさかみ じん)

    その他 : 作家法学部 卒業

    1982年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。在学中に第7回ハヤカワ・SFコンテスト佳作。SF、ミステリー、ホラー、ファンタジーなど幅広いジャンルで多数の短編、長編を発表。

    草上 仁(くさかみ じん)

    その他 : 作家法学部 卒業

    1982年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。在学中に第7回ハヤカワ・SFコンテスト佳作。SF、ミステリー、ホラー、ファンタジーなど幅広いジャンルで多数の短編、長編を発表。

  • 岡 朋治(おか ともはる)

    理工学部 教授

    東京大学理学部天文学科卒業。同大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。博士(理学)。2015年より現職。ブラックホールを第一線で研究。

    岡 朋治(おか ともはる)

    理工学部 教授

    東京大学理学部天文学科卒業。同大学院理学系研究科天文学専攻博士課程修了。博士(理学)。2015年より現職。ブラックホールを第一線で研究。

  • 松本 直記(まつもと なおき)

    一貫教育校 高等学校教諭

    担当は地学。横浜国立大学教育学部(地学専攻)卒業。同大学院修士課程修了。実際の研究データや直接体験を授業にどのように活かすか研究している。

    松本 直記(まつもと なおき)

    一貫教育校 高等学校教諭

    担当は地学。横浜国立大学教育学部(地学専攻)卒業。同大学院修士課程修了。実際の研究データや直接体験を授業にどのように活かすか研究している。

2018/02/01

ブラックホールとは?

ブラックホールというのは、名前からして〝黒い穴〟ですよね。語源は1960年代にジョン・ホイーラーさんというアメリカの物理学者がボソッとつぶやいたものだそうですが、一番簡単に言うと、自身の重力によって、光すら出てこられなくなった天体のことを、ブラックホールというわけです。

草上

分かりやすく言うと、ものすごく大きい星が、自らの重力で支え切れなくなり、どんどん内側に縮んでいってしまって超高密度になった状態になる。そうすると、その中心点から一定の距離以内の場所からは、光すらも出られなくなってしまう。光が出られないということは、すべての情報が出られなくなってしまう。これがブラックホールですね。

そうですね。現在では、「一般相対論(一般相対性理論)的に重力によって時空の歪みが生じた結果、この時空が切り離された領域」という理解がなされているのですが、実はその光が抜け出せない領域というのは別に一般相対論を必要としないんです。ニュートン力学でもそれはあり得る。

ニュートン力学の結果、光が出てこられない領域を計算した人が実は1700年代の後半にいて、ジョン・ミッチェルさんという方です。そのときはまだブラックホールという名前はないのですが。

草上

ブラックホールにも巨大なものや小さいものもある。最近、岡さんが発見されたのは中間質量と呼ばれる中規模のブラックホールということですが。

太陽の30倍位より重い星が超新星爆発を起こした結果、重力を支え切れずに星の形を維持できないときにブラックホールになる。これを恒星質量のブラックホールと言いますが、理論的に生成過程がよく分かっているんです。

草上

小さいほうですね。

ただし、そのときにできるブラックホールの質量は、星の重さを超えられないんですよ。今のところ、200太陽質量(太陽の200倍)よりも重い星というのは見つかっていないから、それより重い星はつくれないんですよ。そして、星の進化の過程で失われるものもかなりあるので、結局、この形でできるブラックホールは、20太陽質量くらいが関の山らしいんです。

草上

わが太陽は小さ過ぎてブラックホールになれない。

お話にならないですね。

草上

1太陽質量というのはキログラムでいうと?

松本

2×1030キログラムです。ちょうど高校の授業でやったところです(笑)。

恒星質量ブラックホールの候補天体は、われわれの天の川銀河を含む局所銀河群の中で60個ほど見つかっているんですが、最大のものでも16太陽質量です。

超巨大ブラックホール

一方、超巨大ブラックホールというのが銀河の中心にあると言われています。渦巻銀河、楕円銀河など宇宙にはたくさんの銀河がありますが、それらの中心には、太陽の百万倍から数百億倍のブラックホールがあると言われています。

例えば、昔は準星と呼ばれたクエーサーという天体があります。これらが代表格ですが、多くの銀河の中心に非常に明るい点状天体があることが分かってきました。この膨大なエネルギーを解放するために、ブラックホールに物を落としたときの重力エネルギーの解放という理論が有力視されて、今に至っているのです。

例えば、物を落とすと壊れますよね。これがガスの場合は熱になるんです。熱のある物体は熱いので、赤外線や可視光、紫外線、X線などを放射するわけです。それが見えていると解釈すればつじつまが非常によく合うんですよ。なので、銀河の中心には、そういう巨大なブラックホールがあると、現在は思われているのです。

松本

ブラックホールそのものは見えないのだけれども、その周りにあるものが光っていて見えているということですね。

そうです。

草上

クエーサーというのは、とても明るい星だけれど、距離が非常に遠い。そんな遠いところなのに明るく見えるためには、銀河の何倍という光を出していないと見えないはずだと。では、その光がどこから来るのかというと、エネルギーとしてはブラックホールとか回転する円盤状のガスである降着円盤みたいなものを持ち出すと説明がしやすいわけですね。

天の川銀河の中心の超巨大ブラックホールは、1つ有望なものがあって、それはいて座A* (いてざ・エー・スター)という電波源として観測できるものです。とても暗いのです。

ところが、この周辺の明るい星の運動は観測されています。電波源の星は暗くて見えないのですが、そこに何かすごく重いものがないといけない運動をしているんですよ。ケプラー運動という太陽を周る惑星みたいな楕円軌道をしているのが見えるんです。

軌道が観測されている恒星は90数個あるのですが、S2という星が、今年、一番ブラックホールとおぼしき天体に近いところを通過するという予報が出ています。そこで相対論的な効果が見えるかもしれません。

松本

楽しみですね。

ブラックホールは小さい

例えば天の川銀河の中心核は400万太陽質量もありますが、ブラックホールの周辺領域である事象の地平面(event horizon)の半径は0.1天文単位。0.08いくつです。

松本

地球―太陽距離の10分の1。1500万キロメートル。質量としてはすごいけれども、大きさとしては本当に小さくなるのですね。

そうなんです。

草上

それも事象の地平面の半径ですからね。

松本

ブラックホール本体はもっと小さいかもしれない。要するにブラックホール自体は小さくても、周りが大きいんですよね。

そうです。ブラックホール自体は暗いので見えませんが、周辺に起きていることから、そこにブラックホールがあるということを推測せざるを得ない。

草上

3点セットと言っているのは、ブラックホールと降着円盤とジェット噴流ですね。

降着円盤があれば、引き込まれているものがあるということなんですよ。ただ、それをつくるためには、どんどんものを落とし込んでやらなければいけない。つまり、落とし込むものが常にブラックホールのすぐ隣にないといけない。

天の川銀河の中でブラックホール候補天体と呼ばれている60個のものは、みんな近接連星系といって、すごく近くにふつうの恒星がある。それがブラックホールの周りを回っていて、表面のガスをどんどんブラックホールに落とし込んでいる。

松本

見つかっているブラックホールは実はほとんどが連星系なんですよね。

でも、私が見つけたのは連星系ではないブラックホール候補なのです。

松本

連星系ではない、「野良ブラックホール」を見つけたというので、すごく意義があるわけですね。

しかも、実はそういうものが多いという予測があるんですよね。今現在見つかっているブラックホール候補は60個ですけれど、本当は1億個以上あるはずだという予測があるので。

中間質量ブラックホールとは?

恒星質量ブラックホールは恒星の最後の姿であることは分かったんですが、超巨大ブラックホールがどうやってできたのかが分かっていない。ただ、いくつかシナリオが考えられているんです。

例えば宇宙ができた初期にすごく大きなガスの塊が、そのままブラックホールになってしまった。あるいは初期にできた星が大爆発を起こして、芯にブラックホールを残し、そういうものが成長していくという説です。成長説の中には、ガスを吸い込んでいって成長していくという説と、ブラックホー同士が合体して成長していくという説があります。

松本

岡さんの説は後者ですね。

そうです。私の観測結果は、ブラックホール同士が合体して成長していくというシナリオを支持するものです。そのシナリオでは、中心核ブラックホールの成長は、中心核だけではなく銀河全体に影響が及ぶんです。

例えば天の川銀河だと中心部分にバルジという丸く膨らんだ構造があります。そのバルジと、中心のブラックホールの重さが割といい関係で比例するという観測データがあります。だから、バルジとブラックホールは一緒に進化していったのではないかと思われている。一緒に進化したということは、両方とも成長していったということになる。そこで合体説が登場するわけです。ブラックホール同士を合体させて、銀河中心核の巨大なブラックホールをどんどん成長させていくシナリオです。

合体はブラックホールだけで行われるのではなく、それが母体となった星々、つまり星団を伴っている場合が考えられます。星団も一緒に中心核で合体をすると、その星団のメンバーの星はバルジの形成に貢献し、ブラックホール同士は合体して、中心核がどんどん大きくなっていくというシナリオが2000年代初頭に出されたんです。

松本

超巨大ブラックホールというのは、各銀河に1つずつあるのですか。

そうです。いろいろな銀河においてブラックホール質量とバルジ質量を描くと、きれいに線に乗る相関関係が示されています。だから、どの銀河の中心のブラックホールもそんな感じで成長したのではないかと。

でも、そのためには成長の途中過程が必要なんですが、この理論には途中過程がすっぽり抜けていたんです。数百万太陽質量から数百億太陽質量の巨大ブラックホールがドーンとある。そして数太陽質量から20太陽質量ぐらいのものもある。でも、中間のものがわれわれの天の川銀河ではまったくなかったんです。

草上

それが中間質量ブラックホールであると。

それを主張しているのが私です(笑)。中間質量ブラックホールは超大質量の巨大なブラックホールをつくる過程で、小さいものが合体していく途中過程として現れるものだと考えているわけです。

草上

それは起因としてはどういうものなのでしょうか。

まず星は、往々にして星団という形で生まれます。われわれがよく知っているのは「すばる」というプレアデス星団ですね。あれはあまり密集していないのですが、中には球状星団という何万個もの星がギュッと丸く集まっているものがあります。

そういうものの中心部はとても星の密度が高くて、星同士が合体する可能性が指摘されています。星同士が合体すると、すごく重い星になり、すごく重い星はすぐ爆発してしまってブラックホールを残す。重いものは、自己重力系といって、どんどん中心に集まる傾向にあるんです。

松本

溜まってくるわけですね。

軽いものを外に飛ばして、重いものはどんどん中心に溜まってくる。そうすると、中心の重いもの同士が合体を繰り返す。すると、星団の中で中質量ブラックホールが成長すると言われています。

松本

球状星団の中にもブラックホールがあるのですか。

10年くらい前から球状星団の中にブラックホールがあるのではないかという説がいくつか出ています。ただX線源が見つからないことから強い反対意見もあるんですね。ブラックホール候補天体というと、はくちょう座X - 1に代表されるX線天体というのが固定観念として皆の頭にあるので。

草上

X線というのは、かなりエネルギーが高くないと放出されないのですね。

松本

温度が高いということですね。

1000万℃くらいないと放出されないんです。だから、ブラックホール候補天体と最初に言われた「はくちょう座X - 1」というのは、X線天文衛星で見つかったものなんです。

重力波による観測

ただ、最近、重力波が検出されましたね。あれはブラックホール同士の合体についての観測ですから、ブラックホールが合体して成長していく様が見えてしまったんです。それを繰り返すと、出来上がるのは中質量ブラックホールなんです。

草上

重力波が観測されたのが最近ですよね。

松本

2年前ですね。検出機器が稼働した直後からどんどん見つかっていますので、本当にそこら中にあるんだなと。ブラックホールが合体して中間質量ブラックホールがどんどんできている様子が年に何回も確認されていますね。

皆すごく遠いんですよね。見ている範囲がすごく広いので、最初の重力波を起こしたブラックホール合体の事象は、13億光年かなたでした。

松本

LIGO(ライゴ)とかVirgo(ヴィルゴ)という重力波検出機ができたばかりで、やっとこの2年間で検出でき始めたところではないですか。だから、ものすごく規模の大きいものだけが見えているというのもありますよね。

そうですね。規模が大きくて、1年に何回も検出されないと認識できないですよね。それが13億光年くらいの広さの範囲を探さないと見つからなかったということです。

松本

この発表は岡さんにとっては追い風なわけですね。

ええ。実は私が中質量ブラックホールがここにあるのではないかという論文をThe Astrophysical JournalLetters に発表したのは、2016年の元旦なんです。2番目が最近の2017年9月のNature Astronomyの論文です。

最初の論文は〝疑い〟で、タイトルは「Signature of(徴候)」で始まっていて、2番目の論文は、「candidate(候補)」という言葉で終わっている。確実度をちょっと増している。

ところが、最初の論文をプレスリリースして2週間後くらいにLIGOの重力波の発表があったのですね。なので、われわれの発表はかすんでしまった(笑)。

草上

ああ、そういうことですか。

それでも結構、海外のメディアには取り上げていただいて、それなりに載せていただきました。今年の論文はそれに輪をかけて海外では評判となった。それはたぶんNatureAstronomy の発信力がすごかったというのがあるんですね。

SFとブラックホール

草上

SF屋の観点からすると、ブラックホールってつまらないんですよ(笑)。なぜかというと、表面がないので。いわゆる事象の地平面というのはあるのですが、それは、そこから出てこなくなるという見えない境界、「ここから先に行ってはいけないよ」という立ち入り禁止ラインみたいなものですから、表面で何者かが暮らすという構想ができない(笑)。

昔、ハル・クレメントという人が『重力の使命』という小説を書いて、700Gくらいの惑星というのを想定した。でも自転しているので、極地方は700Gでも赤道は3Gくらいで、そこから人が入って、そこに住んでいる人と交流するような話だったんです。

1980年くらいに、今度はロバート・フォワードという人が、表面が700億Gという中性子星に住んでいる特殊な知的生命体という作品(『竜の卵』)を書きましたが、ブラックホールはそれができないからつまらないなと思って(笑)。

中性子星の次の段階として、クォーク星というのが想定されているんですよ。

草上

そうなんですか。

ええ、ドロドロな中性子の塊というのをさらに超えて高密度になると、ドロドロなクォークの塊の星というのがあるのではないかと。

ブラックホールになるまでにクォーク星という状態で宇宙に存在し得ることができるということですが、これはまだ確認されていません。

松本

ブラックホールにならずに済むんですか?

はい。一応、表面はクォーク星として宇宙に出ているだけの大きさを保っている。ただ、そのへんはちょっと不定性が大きいので、理論的な計算はまだ完璧にはできていません。だから、まだ中性子の縮退圧が最終手段ではない。

松本

まだまだ先があるということですね。

もっと高密度になっても、支えられる可能性がある。ただ、あまり小さくなってしまうと、支えられようが支えられまいが、事象の地平面がむき出しになった時点でもうブラックホールですから、その中に大きさのあるものがあろうがなかろうが関係ない。

松本

どんどん小さくしていくと、ブラックホールにならずに高密度星がつくれるわけですよね。

草上

ということは表面がある。

表面が事象の地平面に隠れずにあることになります。

草上

そのほうが面白いな。勝手なことを言ってはいけないけれども(笑)。一方、太陽はそこにもいかないので、たぶん最終段階としては、白色矮星という小さい星になってしまうのですね。

中性子の縮退圧で支えられたがゆえに、大きさを保っているわけですが、何らかの理由で太陽でも3キロくらいの半径に縮めるとブラックホールになれると言われているんです。地球の場合は、半径9ミリにすればなれる。

松本

1円玉くらいですか(笑)。

ホワイトホールはあるか?

草上

一方、最近だと、ミニブラックホールとかマイクロブラックホールというのがあって、日本のSFにはマイクロブラックホールをお茶漬けに入れて食べてしまうという話がある。ピリピリするって(笑)。

また、よくあるスターウォーズ的な映画の中で、いわゆるブラックホール、ホワイトホール、ワームホールという光の速度を超えて、宇宙を旅するための道具として設定されているのはよくありますね。

入口のつくり方は何となく分かるけれども、出口のつくり方が難しいですよね。どうやってつくったものか。

草上

いわゆるホワイトホールって、吸い込みっぱなしではないだろう、入ってしまうので、きっとどこかに出ているに違いないという話です(笑)。

理論的には、それはすごく早い時期に提唱されています。ただ観測されていないのと、つくり方がちょっと分からないですよね。ブラックホールは星をギュッとつぶせばできますけれども、ホワイトホールはどうやってつくるのか、まだ誰も分からない。

存在する可能性は否定できないんですよ。理論の枠組み内では許されている。ブラックホールとホワイトホールをつなぐワームホールというものも考えられていますが、キップ・ソーンさんによれば、それはあまり安定ではないらしいです。また、ブラックホール自身、蒸発するという話がありますね。

草上

なくなってしまうと。これ、またホーキング博士の話ですね。

加速器なんかでつくられると思われているようなマイクロブラックホールはとても小さいのですぐ蒸発するといわれているんですよ。

松本

CERN(欧州原子核研究機構)が加速器でつくれるかもしれないので、危ないなんて言っている人がいましたよね。

面白いから研究する

草上

私は大学の学問というのは、なるべく浮世離れしていたほうが面白いと思うのですが、実業界の方などは、ブラックホールの研究って何かの役に立つのだろうかという興味をお持ちだと思うのです。

よく言われますね。でも、そういう場合はにこやかに、「何の役にも立ちません」とお答えするしかないですね(笑)。

草上

でも、皆スマホで位置情報を取っていますけど、あれって相対論がなかったら取れないですよね。人工衛星というのはかなり速い速度で周っているので、相対論に基づいて補正をかけないと、GPSの位置情報は数キロから10数キロくらいずれてしまう。

一般相対論にしろ、特殊相対論にしろ、基礎物理は役に立つ場面が多々ありますが、天文学は何億光年かなたの銀河の中心にブラックホールがありますよっていう話ですからね(笑)。

松本

でも、昔の人が大航海時代に世界地図をつくったのと同じようなことを、ものすごく大きな規模でやっているのでは? 今、われわれはどこにいるんだろうとか、どういうところに住んでいるのか、どうやってできたのだろうっていうのは、人間根源の興味であって、人類の知の地図づくりをしているのかなと。

草上

例えば、降着円盤発電なんてやったら、すごいぞという話とか。

それよりも星の中心の核融合を有効活用したほうが、安全というか安定的だと思います。近いうちに実現の可能性があります。ブラックホールはなかなか制御が難しいですね。

草上

実は核融合に比べると、ブラックホールというのは、もう一段エネルギーを利用する効率がいいらしい。例えばマイクロブラックホール電池みたいなものがあったら(笑)。

ちょっと想像できませんね。だって、怖いですもの。

草上

そんなもの、そばに置きたくないですか。

ええ。うちの実験室にブラックホールがあるとか言えば、誰も近寄らなくなってしまう(笑)。でも、「面白いじゃん」というのがすべてだと私は思うのですね。

松本

無理に理由づけするよりは、「俺が知りたいから調べているんだ」と。

そうです。僕も知りたいですし、あなたも知りたいでしょう? たぶん皆多かれ少なかれ、そういった興味はあるんですよね。「あっ、あそこにあれがある」みたいなものがあると、ちょっと幸せになる。

草上

はい。〝幸せになる〟って、いいですね。

宇宙の構造とダークマター

松本

先ほど銀河の成長の話もバルジとの関係も出てきましたが、アンドロメダ銀河がなんであんなに美しい形をしているのかも、中心のブラックホールが関係しているかもしれないですよね。

今のところ、関係ないという話になっていますね。

松本

関係ないのですか。

アンドロメダとか天の川銀河というとても巨大な1兆太陽質量ぐらいのものの中に、400万太陽質量程度のものがあっても、大した影響はないですよね。全体の構造を決めているのは、全体の角運動量、回り具合とか、ガスの量とかそういうものらしいです。

松本

ダークマターは?

ダークマターもそうです。

草上

ダークマター、いい言葉だな(笑)。

ダークマターという、どうやら宇宙にはわれわれが認識できていない、まったく観測に関わらない暗い物質があるらしいんですね。

これは何から分かるかというと、天の川銀河も含めて、銀河というのは大概、回転している。回っているということは、回ることによってそれ自身が重力的に縮もうとしていることに抗うことができる。それである程度、平衡状態を保っているんです。ということは、回っている速度から、その銀河の中にどれだけの質量の物質があるかが計算できるんです。

それで計算すると、見えない質量がかなり広きにわたって銀河に伴っていないと、つじつまが合わないということになったんですよ。それがダークマター、暗黒物質と呼ばれるものです。どうも星とかガスなどの見える質量の10倍くらいあるらしいですね。

草上

ある方法で銀河とかの重さを推定することができるのだけど、推定した結果を見ると、既知のものを全部足し込んでも、そんなに質量はないはずだから、何かが隠れているというのがダークマターですよね。

はい。ブラックホールや中性子星なんかも、その候補だったんです。それは完全に否定されたわけではないのですが、ちょっと分が悪い観測事実があります。なので、今のところ、ダークマターという暗黒物質の候補は、何か知らないけれども質量がある、そしてほかに相互作用はしない変な粒子ということになっています。

松本

ないと困るんですよね。

ないといろいろ困る。宇宙初期のダークマターの比率というのも計算されていて、全体の23%はダークマターが占めていないといけなくて、70%はダークエネルギーという、これまた謎の暗黒エネルギーが占めていないといけない。

われわれを構成している陽子・中性子・電子といったバリオン物質(重粒子)は宇宙全体の4%に過ぎないという話になっていますので、暗黒物質や暗黒エネルギーがないと困るんです。

宇宙(そら)を見上げて

草上

ところで、松本さんは、高校生にはどんな感じで天文学の魅力を教えていらっしゃるんですか。

松本

地学なので固体地球から気象から皆やるんですが、天文は地質とか気象とかに比べて、よりダイレクトに生徒が反応してくれる感じがしますね。一般的に高校の天文の授業では計算ばかりで、天文嫌いをつくっているとよく言われていましたが、観測など実際の体験を通して、結果が導かれる。そして、これからこれが分かるという目標が明確になったりすると、食いついてきてくれます。

でも天文ファンは減りましたね。コアなのが、みんなおじさんになってしまって(笑)。若者でも、例えばスーパームーンだとかふたご座流星群があるぞといった話題を振ると、「じゃあ、今晩見てみます」とか反応は結構ありますから、そういう直接体験できるときに情報提供をして体験してもらうということは心がけているところです。

草上

最近、美しい天文写真が多いので、実際に望遠鏡をのぞくと、ちょっとがっかりみたいな感じのところはないですか。

松本

望遠鏡をのぞくと、実際は結構しょぼいんですよね(笑)。でも、だんだん慣れてくると、脳内で補完できる。知識が見えないものを見えるようにしますよね。岡さんのやられている電波でも、そうではないですか。

僕ぐらい病気になってしまうと、だいたいスペクトルの並びから何となく頭の中でこういう光景になるというのが分かるのですが、皆がそんなことになったら、世の中はおしまいです(笑)。

松本

頭の中でガスがこう動いていて(笑)。

ええ。でも、皆が天文学者になるわけではないですから、体験して楽しんで幸せになってくれれば、それでいいと思うんですね。

草上

私も初めて望遠鏡で土星の輪を見たときは感動しましたね。小さいひし形だったんだけれども、「あっ、見えた!」って。

松本

慶應高校の屋上にも15センチの屈折望遠鏡があるのですが、今は撮影技術の進歩がすごくて、オリオン大星雲とか、球状星団とか、かなり暗い天体も日吉の街中で軽く写すことができるんですよ。

天体観測も学校に生徒と一緒に泊まり込んでやっていますが、ワイワイ言いながら結構楽しんでいますね。

草上

それこそ流星群とかだったら、寝転がって数を数えたり。

松本

流星をやっているチームもあって、今は流星を電波観測でやっています。受信機を1個買うだけなので。そうすると雨が降っても昼間でも撮れるので、どのくらい流星が流れているかというのが分かります。数が分かるだけですけれど。

草上

なるほど。岡先生も、子どもの頃から天体に興味がおありだったんですか。

ええ。天体望遠鏡は小さいのを買ってもらって、土星で感動したクチですね。小さい頃は、科学者になりたいという漠然としたものがありました。中学のときに大きな流れ星を見たとき、「ああ、宇宙をやろう」と思って以来ですね。

草上

流れ星からですか。

何となく宇宙で、何となく電波になり、何となく銀河系の中心になって、いつのまにかブラックホールになっているという感じです。

草上

電波天文学が出てきたのは、人類にとってものすごい進歩ですよね。

電波天文学でノーベル賞はいくつも出ていますからね。

松本

岡さんの活躍にこれからも期待したいですね。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。