常任理事
山内慶太
[担当]一貫教育校、
体育会ほか
高等学校(塾高)野球部が甲子園で優勝してから、一ヶ月余が過ぎましたが、今なお、あの時の夢の中にいるような言葉にし難い気持ちにすぐに戻れます。しかし、時間が経つにつれて、少し落ち着いて優勝の意義を考えるようになると、新たな感慨も湧いてきます。
9月27日、三田演説館で、塾高野球部の選手と3年生全部員、塾高応援指導部、吹奏楽部、女子高等学校バトン部の部員を招いて「高等学校野球部甲子園優勝記念塾長招待会」を行いました。壇上に掲げられた深紅の大優勝旗は、演説館の雰囲気に見事に合ってとても美しく映えていました。
野球部の「常識に対する反骨精神」
時間が経つにつれて深めている感慨は、今回の優勝は、一世紀を超えて慶應義塾が大切にして来た塾のスポーツの在り方、そして「エンジョイ・ベースボール」を本当の意味で継承し、発展させて来たことによる優勝であったということです。
慶應の野球の本質を「エンジョイ・ベースボール」として再確認したのは、体育会野球部の監督を務め、野球殿堂にも入っている前田祐吉さんです。その前田さんのノートには、エンジョイ・ベースボールについてのメモがあります。そこにはこうあります。
1.各人がベストを尽す
2.チームメイトに気配り
3.独自のものを創造する
4.明るく堂々と勝つ
そしてまた、別のページには、この「3.独自のものを創造する」の代わりに「独創の楽しみ 常識に対する反骨精神」とあるのです。みんなが常識と思って当たり前に受け入れていることを当たり前とせず、本当にそうだろうかと疑って考え、そしてそれをひっくり返していく、そしてそれによって勝つ、その楽しさ、ということです。今回、しばしば「常識を変える」という言葉が聞かれましたが、まさに前田さんのメモと重なります。
前田さんは、塾の野球の本質をエンジョイ・ベースボールの一語に集約するにあたって、草創期の野球部を担った方達にも話を聞いたといいます。107年前の優勝時の普通部監督腰本寿さん、初代の大学野球部監督三宅大輔さんらの著述を見ると、実際に精神野球と一線を画したエンジョイ・ベースボールの思想を見出すことが出来ます。そして更に遡れば、福澤先生の、科学的な思考、疑いの精神を重視する「実学」の思想につながるものだと言ってよいと思います。
応援三部の大活躍
優勝については、野球部だけでなく、塾高の応援指導部、吹奏楽部、そして女子高バトン部の「応援三部」の努力を大いに讃えなければなりません。
今春の選抜出場時は、未だ新型コロナ感染症への対応で、肩を組むことも禁じられていましたので、得点時にも「若き血」を直立不動で歌わなければなりませんでした。しかし、本大会は、その禁止もとれ、コロナ前の甲子園にようやく戻った大会となりました。
一方で、甲子園での応援にあたっては、事前に配布される7頁に及ぶ「応援に関する注意事項」に対応する必要もあります。部員諸君は、それを丁寧に読み込み、疑問点は確認し、その上で慶應らしい応援を作る努力をしていました。その結果として、本当に見事な、そして気持ちのよい応援を率いていました。
さらに嬉しかったことは、幼稚舎・初等部から大学・大学院までの多くの塾生、幅広い世代の塾員(卒業生)、あるいはその家族に加えて、慶應義塾に直接関係のない方々まで、多数の方々が日本中から甲子園に集まり、また甲子園の外でもテレビやラジオ、そして海外ではインターネット中継をとおして、塾高野球部を応援してくださったことです。
塾史展示館へ
かつて福澤先生が、疑いの精神、社中の気風などを繰り返し塾生達に語り掛けた場所は、三田演説館でした。そして、今回の野球部の姿に、また応援三部の努力に、そのつながりがあることを感じる時、優勝を讃えるには演説館が最も相応しいように思いました。その演説館で会を開けたのは喜びに花を添えることであったと思います。
また報告会の後は、図書館旧館2階の慶應義塾史展示館に移動して、前述の前田祐吉さんのノート、107年前の優勝時の腰本寿監督が練習時に愛用したストップウォッチ等を、直接に見る機会を持ちました。
この度の優勝は、塾高や慶應義塾に直接関係している否かに関わりなく、応援してくださった方々全員と喜びを共にしたいと思います。そこで、「深紅の大優勝旗」は、三田山上の慶應義塾史展示館に展示されることになっています。是非、前田ノートと共に見て頂きたいと思います。
早慶戦へ
慶應義塾は、塾生や塾員が義塾社中の一員であることを実感できる場として、春秋の東京六大学野球の早慶戦を120年に亘って大切にしてきました。世代を超えて、キャンパスを超えて、学部や学校を超えて、共有できる体験を持てる場が早慶戦の応援であって、それによって維持され確かなものとなってきた慶應義塾の気風があります。だからこそ、この夏、塾高に直接関係あるか否かに関わりなく、皆が我が事として一喜一憂、その気持ちを共に出来たのだと思います。
さて、今春の早慶戦では4年ぶりにコロナ前の応援が可能になりました。どの学年の大学生にとっても初めての応援でしたが、塾の一体感の中で、塾生であることを感じる貴重なそして愉しい時間となっていたようでした。また、塾生も、塾員も、旧友との久々の偶然の出会いを喜んでいる姿があちこちで見られたことも印象的でした。
今月末には東京六大学野球早慶戦があります。多くの塾生・塾員が集まることを楽しみにしています。特に、大学4年生は、入学以来コロナによって制限の多い学生生活を送って来ました。是非、塾生としての最後の早慶戦に、ゼミやサークルの友人と足を運び、早慶戦の応援を楽しんで欲しいと思います。その時間の中で、私たちは日常の授業やサークル活動だけでは得られない、キャンパスライフの思い出を作ることも出来ます。そしてそのことが、卒業後の長い人生をより裕かにする貴重な種まきになるかもしれません。