慶應義塾

塾長室だより No. 27 慶應義塾の防災対策-現況と今後の展望

公開日:2026.10.07

常任理事

駒形哲哉

[担当]施設・管理、危機管理ほか

地震や豪雨などの自然災害が頻発し甚大な被害が発生するなか、教育機関としての総合的な防災・危機管理能力がますます問われています。発災時には、キャンパスにとどまらざるを得なくなった塾生・教職員に適切に対応し、迅速な安否確認を行いながら、業務および教育研究活動の復旧と継続を図らなければなりません。

慶應義塾では、建物の耐震化率100%を達成して地震に対する安全性を確保しているほか、防火訓練も毎年実施しています。また、全般的な防災枠組みとして、2009年に「防災規程」を施行し、2018年には「防災計画」を策定しました。

しかしながら、全塾的な災害対策の推進にあたっては固有の難しさもありました。その一つが、三田、日吉、矢上、湘南藤沢、信濃町、芝共立など、複数のキャンパスが広域に分散している点です。早い段階で高度な防災体制が整えられている信濃町(慶應義塾大学病院)をはじめ、地区ごとの独立性が高く、発災時の学外者の受け入れ条件などもキャンパスによって異なるため、単一キャンパス型の大学と比較すると、全塾的なBCP(事業継続計画)の策定や防災計画の運用スピードにおいて課題を抱えてきたことは否めません。

とはいえ、災害リスクが年々高まるなかで、こうした地理的・構造的な理由から防災対応を遅らせるわけにはいきません。そこで、伊藤塾長の就任1期目より防災対策の具体化を加速させています。まず義塾本部と三田キャンパスを対象とした机上訓練を定例化し、2027年度末までの災害時体制の完成を目指して、一貫教育校を含む全塾および各キャンパスにおける防災体制の見直しと整備を着実に進めています。

2026年3月には「全塾応急対策本部マニュアル」および「三田キャンパス災害対策本部マニュアル」の初版を公開しました。多岐にわたるマニュアルの内容を緊急時に直ちにつなげられるよう、塾長(全塾統括本部長)や危機管理担当理事などの役割に応じた「To Do List」を作成し、迅速な初動体制を整えています。さらに、夜間・休日体制についても警備員を初動の中心とした3段階のフェーズ移行を定義し、実地・机上訓練を通じた実効性の確保を最優先課題として取り組んでいます。

あわせて、災害時の適切な初動対応を徹底するため、多様な媒体を用いた周知活動を行っています。各教室への「初動対応ポスター」掲示に加え、教職員向けの初動対応動画やQ&Aドリルを公開しました。また、生協のデジタルサイネージを活用した防災情報の配信や、防災グッズ特設コーナーの設置など、平常時からの意識向上を図っています。このほか2026年度は、応急対策本部や一時滞在者の収容先となる三田キャンパス南館・南校舎を中心に災害時対応の設備改修工事を進めています。なお、震度6弱以上の地震発生時等に行う安否確認については、塾生・教職員の状況を的確に把握し、事業継続や教育活動の対応検討に資するという目的を改めて整理・共有しました。

災害の発生時期を予測することは困難であり、日常の業務に追われるなかで実効性のある防災対策を切迫感をもって推進していくことは、決して容易ではありません。しかし昨年度、防災専任の職員を配置したことで、義塾の防災推進体制は大きく前進しました。

今後は、訓練の反復によるマニュアルのブラッシュアップ、年々入れ替わる塾生・教員へのデジタル技術を活用した周知徹底、職員の救護対応フローの整理を進めてまいります。さらに、防災倉庫の拡充や非常用電源・給水設備の整備など、長期的な視点に立ったキャンパスインフラの拡充を計画的に進めていく方針です。