慶應義塾

塾長室だより No.26 パリからパリへ:グローバルな大学アライアンスでの役割

公開日:2026.07.21

常任理事

土屋大洋

[担当]国際ほか

伊藤公平塾長とグローバル本部のスタッフとともにパリのレストランで昼食をとっていた。料理の写真を撮ったついでにメールを確認すると、「至急:エリゼ宮で明日朝食」と題するメールが届いていた。「おお、来たか! でも一日早い。」

パリ訪問の理由は、U7+アライアンスの学長会議のためだ。U7+アライアンスは、先進七カ国首脳会合(G7)に対応した大学連合である。世界にはG7に対応したエンゲージメントグループがいくつかあり、B7(ビジネス・セブン)、W7(ウィメン・セブン)、L7(レイバー・セブン)などが知られている。2019年、フランスのマクロン大統領の呼びかけに応じ、パリ政治学院(シアンスポ)が世界の有力大学に呼びかけてU7+を結成し、慶應義塾も創設メンバーとして参加している。

「U7」は無論、ユニバーシティ・セブンの意味である。では、なぜ「+」がついているのか。メンバー大学をG7の七カ国だけに限らず、他の国々の大学にも広げたからだ。韓国、インド、南アフリカ、ガーナなど民主主義体制をとる国々の大学も招き、約50の大学がメンバーになっている。

2019年に結成されたものの、2020年と2021年には新型コロナウイルスのパンデミックで対面の学長会議は開催されなかった。しかし、2022年にフランスのニースで開かれた学長会議に伊藤塾長とともに参加した。2023年には広島でG7サミットが開かれたことから、それに先だって慶應義塾でU7+学長会議をホストし、岸田文雄首相に共同文書を手渡すなど大成功を収めた。

2024年はイタリアのボッコーニ大学、2025年はカナダのオタワ大学で学長会議を開催し、7年ぶりにU7+はパリに戻ってきた。パリ政治学院、エコール・ポリテクニーク(理工科学校)、パリ・シテ大学の三つの大学の共同ホストである。そして、2025年から伊藤塾長がU7+をリードする学長運営委員会の議長を務めている。2026年は、U7+結成を呼びかけたマクロン大統領に面会し、今の私たちの考えを伝えることが大事なメルクマールだった。

学長会議は4月14日の夕食会から始まり、15日に終日の会議を行うことになっていた。マクロン大統領との面会は14日の夕食会ないし15日の朝に予定されていた。ところが、エリゼ宮殿から予定を前倒しして14日の朝食会にU7+の学長たちを招きたいと連絡があったのだ。

U7+の学長たちの多くは、13日の時点ではパリに到着していなかった。しかし、こうしたこともあるかと想定し、伊藤塾長には1日早くパリに入ってもらっていたことが功を奏した。伊藤塾長に加え、12人の学長および代理の副学長が朝食会に参加した。マクロン大統領は対話の最中、自ら熱心にメモを取り、当初60分の予定だった朝食会は90分になった。会場から出て来た伊藤塾長他の面々はとても満足そうだった。

今回、塾長たちが手渡したU7+の共同文書は、「分断された世界における大学の社会的役割」と題するもので、米国のジョージタウン大学のトム・バンチョフ副学長が中心になってまとめたものだ。その序文にはこのように書かれている。

大学は再生のエンジンです。私たちは次世代の市民とリーダーを育成し、経済や社会に不可欠な最先端の研究を支援し、地域、国家、そして国際的なコミュニティにおいて信頼されるパートナーとしての役割を果たします。

現代の大学は教育と研究だけに専心していれば良いわけではない。共同文書は、G7の政治リーダーたちに、(1)大学の使命への制度的支援、(2)国家的な協議の実施、(3)国際協力の三点を求めた。しかし、私たちはただ求めるだけではない。(1)教育的卓越性、(2)インパクトのための研究、(3)市民的対話の推進の三点を私たち自身へのコミットメントとしている。

かつて象牙の塔と揶揄された大学は、科学の追究に先進していれば良かったのかもしれない。しかし、現代の大学は問題を発見し、解決し、そしてそれを世界に広げていく役割を担う。大学は分断された社会を再生するためのエンジンであり、次世代のリーダーたちとともに学ぶ場だ。U7+は慶應義塾の考え方を世界の有力大学と共有し、そして我々が成長していくための場でもある。