何か動いている物体を見て、なぜそのように動くのかと疑問に思ったことはないでしょうか。風に揺れる木の枝、跳ねるボール、水の中で泳ぐ魚、それらの背後には、目には見えない「力」が働いています。
古代ギリシャの哲学者エンペドクレスは、世界は「愛(フィリア)」と「憎しみ(ネイコス)」という二つの力によって結び付けられ、また引き裂かれると考えていました。これはきわめて抽象的な考え方ですが、離れたもの同士が影響し合うという直観を「力」として捉えた、最初期の発想と言えます。
17世紀になると、ニュートンが運動を支配する普遍的な法則を見出しました。力は物体に加速度として作用するというニュートンの運動方程式は、惑星の運動からリンゴの落下までを、同一の原理で説明することができます。
その後、物理学の視点は、古典力学からさらに小さな世界へと広がり、量子力学へと移っていきます。量子の世界でも、原子核(+)と電子(-)の間には電磁気力が働いています。さらに、陽子と中性子からなる原子核が崩壊せずに保たれているのは、短い距離で強く働く力があり、電気的な反発に打ち勝って核子を結び付けているためです。
スケールが大きくなると、原子や分子は粒子として扱えるようになります。分子動力学法では、各原子間に働く力を仮定し、ニュートンの運動方程式を時間発展させることで、分子の運動や構造を再現します。分子同士に働く力は、一般にファンデアワールス相互作用やクーロン相互作用として表されますが、分子の種類や大きさが変わると、それらが集まった粒子同士の相互作用は、異なる形を取るようになります。つまり、考えるスケールによって、着目する物体同士に働く力、言い換えれば「そのスケールで見たときの力の表れ方」は変化します。
さらに粗視化した視点で考えると、粒子は周囲からの摩擦を受けながら、ランダムに揺さぶられて動いているように見えます。このとき、細かな衝突の効果は「摩擦」と「揺らぎ」としてまとめて表されます。細かな自由度を平均化すると、本質的な相互作用だけが残り、異なる物質が同じ法則に従う理由が見えてきます。愛や引力として直観された力は、いまや理論と計測の往復によって多層的に理解されており、分子や粒子に働く力を正しく理解することは、新しい現象の解明にとどまらず、私たちの生活を支える様々な「もの」や技術の開発にもつながっています。