慶應義塾

身近にもある「数学の種」

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  • 石井 一平

    石井 一平

私の研究分野は、数学の中の「トポロジー」と呼ばれる幾何学の分野です。ここでは、そのトポロジーの周辺から、ごく身近に思えるような対象が大きな数学理論の「種」だったという例を紹介してみましょう。

図1 の左右の図を見比べてください。左はサッカーボール、右は正五角形と正六角形を組み合せてできる多面体です。このように眺めてみると、サッカーボールの模様は右の多面体をモデルにした「球面のタイル貼り」であることがわかると思います。他の多面体をモデルにしても、球面のタイル貼りが出来ます。そのような多面体の代表的な例は図2 にある”正多面体”です。ところで、このような球面のタイル貼りについて

(頂点の数)-(辺の数)+(面の数)

という量を調べてみると、どのタイル貼りでも2 になっていることがわかります。

図1: 球面(サッカーボール)のタイル貼り
図2: 正多面体

ところが、球面ではなく、図3にある”トーラス”と呼ばれるドーナッツの表面のような曲面のタイル貼りで同じ量を考えると2 ではなく0 になります(トーラスのタイル貼りを考えて、数えてみてください)。このことは、球面とトーラスが本質的に異なる曲面であることを示すもので、オイラー(L. Euler, 1707 - 1783)によって発見されたといわれています。そして、この発見は「ホモロジー理論」といわれる大きな理論に発展しました。

図3: トーラス

この他にも「四色定理」や「結び目理論」などは、もっと身近な対象が大きな数学に発展した例でしょう。

数百年前のヨーロッパの地図製作職人が経験上「どのような地図でも国を色分けするためには四色あれば十分」と言い出したことから始まる問題が、「四色問題」です。1976 年に解決され、いまでは「四色定理」と呼ばれる大定理です。

ロープやネクタイなどのいろいろな結び目の違いを数学的に定式化する試みから始まったのが「結び目理論」です。ロープやネクタイにも数学が潜んでいたのです。この「結び目理論」は、いまやDNA とも関連する大理論に発展しています。

誰も気付いていない「数学の種」が、身近にまだまだ沢山あるのかも知れません。