登場者プロフィール

足立 修一

足立 修一
1990年代には「ファジー制御」という言葉が流行して、ファジー洗濯機などといった電化製品が販売されました。このような具体的な製品名になっていなくてもわれわれの身の回りには「制御(コントロール)」の考え方がたくさん使われています。たとえば、自転車を倒れないように運転するのも制御ですし、エアコンで部屋を快適な環境に保つことも温度や湿度の制御です。また、ロボットが二本足で歩くためにも制御は必要です(写真1)。さらに、皆さんが乗っている自動車にもエンジン制御をはじめとして電子制御技術がたくさん使われています。いまの自動車は制御の力なくしては動くことができないでしょう。
われわれの研究室では、ふだん何気なく使っている制御の考え方を理論的に体系化した「制御工学」について研究しています。通常の工学は、たとえば電気工学であれば電気を対象とするように、対象が明確に決まっています。しかし、制御工学は、小さいものではナノメータ精度が要求されるハードディスクのヘッド位置制御から、大きなものでは宇宙ステーションの姿勢制御、高層ビルの振動制御、石油精製プラントのような化学システムの圧力・流量制御、さらには最近では、システムバイオロジーや量子システムまで幅広い対象に適用されています。このように、ダイナミクス(時間的な動きのことです)をもつ制御対象であれば何にでも制御理論を適用することができるのです。たとえば、最も偉大な制御の成果であるカルマンフィルタは、自動車のナビゲーションシステムやコンピュータビジョンなど、さまざまな分野で活発に応用されています。
さて、制御を行うためには制御対象の数学モデルが必要になります。モデルに基づく制御系設計法は「モデルベース制御」と呼ばれ、自動車業界を中心に積極的にこの方法論が実用化され始めています。通常、制御対象の物理的法則(たとえばニュートンの運動方程式)に基づいてモデリングを行う第一原理モデリングが主流ですが、最近、対象をブラックボックスとみなし、その入出力データから主に統計的な手法でモデリングを行うシステム同定が注目されています。ブラックボックスの入出力データ(結果)からブラックボックスの中身(原因)を調べようとするもので、数学的には逆問題と呼ばれる難しい問題に分類されます。しかし、この研究には推理小説で犯人を推理するような面白さがあり、われわれの研究室ではシステム同定に基づく制御のためのモデリングについて精力的に研究しています。
最近の技術革新はすさまじく、世の中にはブラックボックスが満ち溢れています。テレビや携帯電話の仕組み(中身)がわからなくても小学生でも操作できます。それが技術の進歩なのだと思います。しかしながら、日本国民全員ユーザになってしまっては国が滅びてしまいます。特に、外からよく見える具体的なことは理解できても、その中身である抽象的なことを理解するのが苦手な人が増えているような気がします。これは、余裕のない今の日本社会が、すぐに目に見える結果を出せと連呼し続けていることに関係しているように思えてなりません。私はブラックボックスの中身に興味をもつ学生や技術者がたくさん出てきてほしいと思います。
写真1:二足歩行ロボットの中にも制御が入っている
写真2:カルマン教授(右)と著者(左)(2006.9.ケンブリッジにて)
図1:物理情報工学科では物理と情報の両面について研究していますが、モデリングと制御は「物理と情報」の橋渡しをしています