慶應義塾

LSIで未来を創る

登場者プロフィール

  • 黒田 忠広

    黒田 忠広

コンピュータや通信端末は、年々小さくなり安くなっています(写真1)。例えばコンピュータは、60年間でおよそ100万分の1のサイズと値段になりました。演算時間も約10億分の1に短縮されています。これをダウンサイジングと呼びます。ダウンサイジングを可能にしたのは、大規模集積回路(LSI)です。

LSIの性能やコストは、チップの加工寸法を微細化することで指数関数的に改善できます。メモリの記憶容量は、3年で4倍ずつ増えています。10年後には100倍になり、15年後には1000倍に増えます。また、マイクロプロセッサの動作速度は、2年で2倍高速になり、10年後には32倍高速になります。これほど急速に進歩した技術は、人類史上例がありません。

微細化にはナノテクノロジ(ナノは10の-9乗)を使います(写真2)。例えばトランジスタの動作を制御するゲート酸化膜の厚さは1.2nmですから、分子4個程度の薄さです。一方、集積度や動作速度はギガの性能(ギガは10の9乗)です(写真3)。最先端の技術を使うと、1cm角のチップに数十億個のトランジスタを集積できます。16Gb(16億ビット)のメモリや、80個のマイクロプロセッサを1つのチップに集積できます。また、毎秒2000億回の浮動小数点演算ができます。これはかつてのスーパーコンピュータを凌ぐ性能です。

チップに集積できるトランジスタの数は、2007年に世界の人口に達し、2010年には人間の脳のニューロンの数を超えるでしょう。

更に集積度を高めるために、私たちの研究室では半導体チップを複数枚重ね合わせて1枚のようにまとめる技術を研究しています(写真4)。例えて言えば、平屋建てを高層ビルにするようなもので、敷地面積は減り、フロア同士が近くなって情報(信号)の伝達が速くなります。

こうした大規模集積回路は、最先端のコンピュータを駆使して設計します。最先端の技術から未来の技術と社会が生まれるのです。しかし、何を生み出すのか、どのような未来を創るのか、それを考える人間の創造力が最も重要なことは言うまでもありません。

私の考える未来は次のような社会です。コンピュータや通信機器は、更にダウンサイジングして、やがて私たちの日常に溶け込みその姿を消すでしょう。 1ccサイズのコンピュータや通信機器が出現し、それがいろいろなモノに埋め込まれることで、モノが考え連携し、人間の意図を汲むようになります。つまり私たちの周りの空間が知性を有して、私たちの生活を支援してくれるでしょう。こうして、安心・安全で豊かな社会のしくみが築かれるというのが、私の描く未来予想図であり、設計図です。

LSIは、このように急速な進化を遂げ、未来の社会や文明を創造していきます。LSIの持つ潜在能力を引き出し、未来文明の夢を形にしていくのがLSIの研究の楽しさです。

写真1:1946年に完成した世界初のコンピュータENIACは、全長24m、総重量30トンで、開発費は総額49万ドル(現在の貨幣価値で数千億円)もしました(上図)。1988年に発売された携帯電話は、重量が2.5kgと重く、費用も十数万円かかりました(下図)。
写真2:LSIの断面写真です。トランジスタをつなぐ配線は立体交差しています(上図)。トランジスタの動作を制御するゲート酸化膜の厚さは、分子4個程度の薄さです(下図)。
写真3:Cellプロセッサのチップ写真です。2億3400万個のトランジスタを集積し、200 GFLOPS(毎秒2,000億回の浮動小数点演算に相当) の最大性能を実現しました
写真4:チップを平屋建てから高層ビルにすることで集積度を高めることができます。 私たちは、上下階をワイヤレスで高速に繋ぐ技術を発明し、世界最高速度(1000Gb/s)、最小エネルギー(0.00014nJ/b)、最小コストの技術開発に成功しました。 半導体のオリンピックと称される国際会議で4年連続発表し、新聞でも大きく報道されました。