登場者プロフィール
高山 裕貴 (たかやま ゆうき)
(神奈川県立川和高等学校出身) 2008年3月 慶應義塾大学理工学部物理学科卒業 2010年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻修士課程修了 2013年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻博士後期課程修了 2013年4月 理化学研究所放射光科学総合研究センター基礎科学特別研究員 2016年4月 兵庫県立大学大学院物質理学研究科助教 2021年4月 兵庫県立大学大学院理学研究科助教 (改組) 2022年10月 東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター准教授、大学院農学研究科准教授(兼任) 現在に至る 受賞歴 藤原賞(2012年度) SPring-8ユーザー協同体 Young Scientist Award (2021年度) 日本結晶学会 進歩賞 (2023年度)
高山 裕貴 (たかやま ゆうき)
(神奈川県立川和高等学校出身) 2008年3月 慶應義塾大学理工学部物理学科卒業 2010年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻修士課程修了 2013年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科基礎理工学専攻博士後期課程修了 2013年4月 理化学研究所放射光科学総合研究センター基礎科学特別研究員 2016年4月 兵庫県立大学大学院物質理学研究科助教 2021年4月 兵庫県立大学大学院理学研究科助教 (改組) 2022年10月 東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター准教授、大学院農学研究科准教授(兼任) 現在に至る 受賞歴 藤原賞(2012年度) SPring-8ユーザー協同体 Young Scientist Award (2021年度) 日本結晶学会 進歩賞 (2023年度)
この度は、塾員来往へ寄稿する機会を頂きましてありがとうございます。私は現在、放射光という巨大な施設で発生するX線と情報科学を組み合わせたレンズレスナノイメージング技術の開発と、生命科学や食農科学、ソフトマテリアル分野への応用研究に従事しています。この分野に進んだキッカケは、学部から博士後期課程の指導教官である中迫雅由先生の生物物理学の授業で、生命現象を生体高分子構造レベルで理解するということに強く魅せられたからでした。
物理学科への進学を決めたのは、高校2年生への進級時だったと記憶しています。幼少時から両親に科学館や虫捕りに連れていってもらったりしたこともあり、自然科学に漠然とした興味がありました。高校では1年次に物理・化学・生物を学び、2年次から物理・化学選択と生物・化学選択に別れました。先生方が非常に熱心で学問自体の魅力もひしひしと感じ、特に物理と生物の両方に興味がありましたので、選択を決めかねていました。最終的に、物理なら生物に限らず様々な対象を普遍的な言葉で理解できるだろうと考え、物理に進むことに決めました。
慶應義塾大学理工学部では、物理学科へ進めるのは学門1のみでしたので、迷わず学門1に入学し、2年次の学科分けで物理学科へと進級しました。物理学科は1学年40人程度と比較的小規模でしたが、そのお陰で学年全体で親交を深めることができて良かったように思います。授業の空き時間も講義や実験、プログラミングの課題について図書館で議論したり、良い教科書を教えてもらったり、「ひようら」に出てカラオケをしたりと、友人達との交流のお陰で、目標を高く持ちながら和気あいあいとした学生生活を送ることができました。
さて、物理系に進学しましたが、1・2年次にはまだ具体的な目標がありませんでしたので、前述の通りもう一つの興味であった生命科学や、実験系に進んだ場合に必要になるだろうと機械・電子系の講義、苦手としていたサイエンスライティングなど、幅広く履修して裾野を広げていました。全てを本当の意味で修めることはできていませんが、部分的にでも自身の引き出しに入れたことで現在にも活かされているので、学科横断的な慶應義塾大学理工学部で学べたことも自身にとって良かったと思います。
一方で、自身が本気で取り組みたいと思える物理と生命科学の接点はなかなか見付からず、依然として進路を決めかねていました。そのような中、3年次秋学期に中迫先生の生物物理学を履修しました。生体高分子であるタンパク質が、水存在下で自発的に「ナノマシン」としての立体構造を形成し、動的に構造変化することで機能を発現する。これを0.1 nmスケールの波長のX線で可視化し、物理学の言葉で理解する。これだ!と自身の興味と強く共鳴し、初回か2回目の講義の後に生物物理に進みたいと中迫先生にお話を伺いに行ったことを覚えています。生物物理学も広い分野ですので、自身の興味にぴったり嵌るご研究をされている先生が在籍していたのは本当にラッキーなことでした。
生物物理学研究室には、4年生で配属されてから、修士課程2年と後期博士課程3年の合計6年間在籍しました。各学年2~4名在籍していましたが、忘れることのできないくらい個性的なメンバーで、研究だけでなく趣味についての議論でも毎日盛り上がりながら研究室生活を送ることができました。和気あいあいとした雰囲気は、学科の風土なのかもしれません。
研究室では修士課程まで、タンパク質の構造変化を誘起して可視化するためのX線結晶構造解析の実験技術開発に従事し、修士課程の後半からはその技術を活用して、細胞丸ごとの階層構造をナノスケールで三次元観察するレンズレスX線イメージング技術の開発に取り組み始めました。この研究は、14年経った現在も私の研究のメイントピックです。コヒーレントX線回折イメージングと呼ばれる手法で、レンズで結像する代わりに観察試料由来のX線干渉パターンを計測し、計算機アルゴリズムで顕微鏡像を再生する新しい技術でした。解析可能な明瞭なX線干渉パターンを観測するには、非常に強力かつ波面が揃った(コヒーレントな)X線が必要で、放射光と呼ばれる電子加速器を用いてX線を発生する巨大な施設で実験を行います。兵庫県西播磨のSPring-8(スプリングエイト)という周長約1.5 kmの巨大な宇宙船のような放射光施設で、年に3回程度、1週間程泊まり込んで実験を行いました。研究室で開発した装置を持ち込んでの新しい計測技術の開発はとても大変で、限られたビームタイムの中で睡眠時間を削って課題を解決することもありました。大変ではありましたが、そのお陰で、困難に負けない精神力と課題解決力が鍛えられ、大いに糧になったと思います。また、これまで視えなかったものを視る新しい計測・解析技術を開発できるということは研究者になる上で大きな自信となりました。
博士の学位取得後は、電子顕微鏡技術(理化学研究所)やX線光学技術(兵庫県立大学)を習得しながら、技術の高度化と利用研究を進めてきました。その中で、開発してきた技術を自身の研究のみでなく、学術研究や産業に広く役立てたいという思いも強くなり、兵庫県立大学在籍時にはSPring-8の兵庫県専用ビームラインのスタッフとして、技術の社会実装にも取り組みました。様々な分野の方との交流は、自身の見識を広げたり新たな研究の種を見付けたりと非常に刺激的でした。この経験を活かして、現在は、東北大学の青葉山新キャンパスに建設中の新しい放射光施設NanoTerasu(ナノテラス)の利用に向け、計測技術の開発と生命科学や食農科学、ソフトマテリアル分野の応用研究の開拓を行っています。NanoTerasuのX線で照らすことでどのようなナノの世界が理解できるのか、ワクワクしながら研究開発を進めています。