慶應義塾

[第107回] 長谷川 貴大

登場者プロフィール

  • 長谷川 貴大(はせがわ たかひろ)

    (早稲田高等学校出身) 2001年3月 慶應義塾大学理工学部管理工学科卒業 2003年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻修士課程修了 2003年4月 塩野義製薬株式会社入社 2006年3月 国立保健医療科学院専門課程生物統計分野修了 2010年3月 国立保健医療科学院研究課程修了 現在に至る

    長谷川 貴大(はせがわ たかひろ)

    (早稲田高等学校出身) 2001年3月 慶應義塾大学理工学部管理工学科卒業 2003年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻修士課程修了 2003年4月 塩野義製薬株式会社入社 2006年3月 国立保健医療科学院専門課程生物統計分野修了 2010年3月 国立保健医療科学院研究課程修了 現在に至る

卒業してちょうど10年が経ち、今回、卒業生リレーコラム「塾員来往」に寄稿する機会をいただきました。

私は、管理工学科で統計学の面白さに出会い、これを職業にしたいという思いで、製薬会社へ就職し、現在、biostatistician (生物統計家) として薬の開発業務に携わっております。薬の開発は、候補となる化合物の選定から承認取得まで10年近い期間を要することもあり、また成功確率も低く、できるだけ合理的に進め、開発中の薬のポテンシャルを早期に見極めていく必要があります。そこで、必須になるのが統計的な考え方です。Biostatisticianの仕事は、臨床試験デザインを計画することから始まり、解析を実施し、その結果を解釈していきます。ただ、大学入学時からこの道を目指していたわけではなく、このような職業があるとは知りませんでした。そこへ至った経緯を紹介させていただきたいと思います。

統計学との出会い

私はもともと数学的な考えが好きで、これを何か実用的な場面に活かしたいという思いがあり、経営工学に興味を持っていました。そこで、管理工学科を目指して学門2へ入学しました。この学門制のおかげで、専門性を磨く前に、関連しそうな科目にも幅広く接することができました。“経営工学は何か”ということが分かってくる一方で、今まで視野に入れていなかった学問についても知ることができました。そのひとつが、「統計学」でした。高校まで統計というと、100回コイントスを行い50回表が出れば、表の出る確率は50%というものでした。それが大学に入ってから学んだ統計学は、40%から60%の範囲に表が出る確率がほぼ含まれているであろうと考えるものでした。そして、コイントスの回数を増やすにしたがって、この範囲が狭くなりデータが示す精度まで解釈できるのでした。私にとっては、頭の中がスッコーンとやられた衝撃的な出会いでした。その後、篠崎先生の研究室へ入り、統計学を専門的に学び、この知識を仕事で活かす場として、人々の健康を守る製薬会社でのbiostatisticianという職業へ進みたいという思いに至りました。篠崎先生からは、ある病院のデータを紹介いただき、実際に医師と議論しながら解析を進め、その中で生じていた具体的な問題へ取り組む機会を与えていただきました。課題解決という学問の面白さと解析結果から得られる解釈の面白さの両方を感じることが出来た貴重な体験をし、目指す思いは強くなりました。このような環境を作り上げてくださった篠崎先生には感謝の気持ちでいっぱいです。

篠崎研究室の夏合宿

Biostatisticianとして

Biostatisticianとしての道を歩み始め、実際の臨床試験で扱うデータは膨大であることから、これを正しく取り扱うためにはプログラミングの能力が必要ですし、また開発中の薬の性質を理解するためには臨床的な知識も必要です。大学で学んだ専門的な知識というのは、実社会で必要な知識のほんの一部です。ただ、この専門性が1つのしっかりとした軸としてあることで、様々な壁にぶつかったときの拠り所となり、乗り越えられる力になると思っています。入社3年目には、biostatisticianを育成するコースの受講機会を得て、それまでに経験した実用上の課題を意識しながら改めて学ぶことができました。学問と実務経験の両立が専門性を高める上では重要であることを実感しました。実業務の方でも、開発開始から承認までの一連の流れを経験し、薬を医療現場に届けることができました。開発に関わってきた薬が患者さんのお役に立ち、自分の専門性を社会に活かせたという喜びを感じています。

海外出張でニュージャージー州にあるオフィス前
国立保健医療科学院の先生方と

大学時代は、サークル活動も楽しみました。パソコンサークルでしたが、イベント系の色が強く、講義の合間に部室へ集って、ダベったり、夜には飲みに行ったり、週末にはどこかへ遊びに出かけたりしていました。専門性の高い道を歩む人にとって、専門外の友人の割合は高校時代までよりも低くなるものです。大学2年までの日吉時代に、理工学部以外の友人が出来たことは大きな財産です。また、サークル活動を通じて自然と気心が知れ、卒業旅行でニュージーランドへ行ったときも、卒業式の後の打ち上げもサークル仲間がいつも一緒でした。今でも誰かが一言声を上げると、すぐに集合して飲みに行くというとても良い関係が続いています。

卒業式にて
サークル仲間とニュージーランドへ卒業旅行

最後に

理工学部という様々な問題を取り扱っている環境の中で、素直に面白いと思えるものに出会い、それに対してとことん取り組んでみることで将来の目指すべき姿が見えてくると思います。大学生活の中で、私は運良く自分にあった職業を見つけることができました。この幸運に感謝し、学問的な専門知識と実務経験に基づく応用力を両立したbiostatisticianを目指していきたいと思っています。慶應義塾大学で皆さんも夢中になれる学問に是非出会ってください。