登場者プロフィール
神原 陽一(かみはら よういち)
(東京都立町田高校出身) 2000年3月 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科 卒業 2002年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科応用物理情報工学専攻修士課程修了 2005年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科応用物理情報工学専攻博士課程修了 2005年4月 科学技術振興機構ERATO SORST細野透明電子活性プロジェクト研究員 2008年10月 科学技術振興機構TRIP新規材料による高温超電導基盤技術研究員
神原 陽一(かみはら よういち)
(東京都立町田高校出身) 2000年3月 慶應義塾大学理工学部物理情報工学科 卒業 2002年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科応用物理情報工学専攻修士課程修了 2005年3月 慶應義塾大学大学院理工学研究科応用物理情報工学専攻博士課程修了 2005年4月 科学技術振興機構ERATO SORST細野透明電子活性プロジェクト研究員 2008年10月 科学技術振興機構TRIP新規材料による高温超電導基盤技術研究員
私は、科学技術振興機構の研究員として超伝導体の探索に従事しています。
超伝導とは、金属の温度を冷やしていくと、ある温度(Tc)以下で、電気抵抗がゼロになる現象です。慶應在学時より一貫して、未知の物質を「作って、測る」研究を続けた結果、鉄系高温超伝導体の発見に関わることができました。本稿では、在学時代の思い出と併せて、本発見を紹介します。
学部時代は、綜合美術団体パレットクラブに所属し、油絵を描いていました。油絵のキャンバスに向かって、無心で筆を動かすことで、予想外の色や形が現れることが、快感でした。話かわって、物理情報工学科では、制御工学から、固体の相転移の現象論まで、広い分野の学問に触れることができました。現役学生のみなさんには、「知っておく」程度のモチベーションで十分ですので、授業はなるたけ多く受け、学費を無駄にしないことを勧めます。理解は浅くとも、知識を広げることは「予想外の結果」に直面したときに、必ず役に立ちます。
物理情報工学科にて、的場 正憲 先生の指導の下、層状オキシサルファイド(酸化物 + 硫化物の意味)という結晶の合成と機能探索を卒業研究として行いました。このとき初めて「作って、測る」研究を行いました。硫黄(S)は酸素(O)と結合し、陽イオン(カチオン)になりやすい元素であるにも関わらず、オキシサルファイドの場合、Sの陰イオン(アニオン)とOのアニオンが、同じ単位格子中に存在します。この結晶は、混合アニオン化合物とよばれる不思議な物質の1つです。 この構造には、隠れた機能(電子物性)があると考え、研究を継続し、博士課程に進みました。しかしながら、機能の実証は、学生時代では果たせませんでした。ところが、混合アニオン化合物を「作って、測る」経験が、超伝導体の探索を行うきっかけとなります。
学生時代、シアトルにて学会発表
学位を取得した2005年当時、前述の混合アニオン化合物の研究は、細野 秀雄 教授 (東京工業大学 応用セラミックス研究所)のグループが世界の最先端でした。その技術を修得したいと考え、ポスドクとして応募したところ、「作って、測る」経験のおかげで、採用されました。細野グループでは、当時、オキシプニクタイド [酸化物 + プニコゲン(リン、ヒ素、アンチモンなど)化物の意味] という混合アニオン化合物の機能探索が「ホット」となっていました。この物質は、図の(a)に示すように、ランタノイド(Ln)の酸化物(LnO)層と遷移金属[例えば、鉄(Fe)]のプニコゲン化物(FePn)層が積層した構造をしています。当初想定したテーマは、強磁性半導体をオキシプニクタイドを利用して、実証することでした。
速やかにプライオリティを押さえることは、研究として重要です。そのために、複数の人員で、テーマを分け、偶然 LaFePOという組成の化合物を担当しました。LaFePOを作って、磁性を調べた結果、典型的な磁性元素である鉄を含むにも関わらず、銅やアルミニウムのような、非磁性であることがわかりました。これは、予想外の結果でした。興味本位に、この化合物の電気抵抗を4 Kまで測定したところ、抵抗がゼロになるという、さらに予想外の結果(= 発見)を得ました。当時、私は超伝導の研究の素人でしたので、研究の継続は微妙な問題でした。しかし、LaFePOの結晶と、学生時代に授業で知っておいた銅酸化物高温超伝導体の結晶の構造が似ていたために、この物質が金鉱脈に見えました。
その旨を、上司に相談したところ、研究継続の了承を得ました。幸いなことに、リン(P)をヒ素(As)に置換した物質でTcが26 K に上昇しました。また、本発見を皮切りに、世界中のグループが関連化合物の探索を行い、Tcが 50 Kを超える物質まで見つかりました。図に示す結晶構造は、いずれも2008年に発見された超伝導体のものです。これらは、銅酸化物高温超伝導体に次ぐ高いTcを示すため、鉄系高温超伝導体として認識されています。
本発見は、米国サイエンス誌の2008年の科学十大ニュースの一つに選ばれました。
目新しい結果が得られるか、否か不明なテーマに対しても、「作って、測る」労力を惜しまなかったことは、予測外の結果、すなわち鉄の超伝導体を与えてくれました。さらに、得られた結果に対して、持てる知識を総動員して、適切にテーマを変更したことにより、鉄系高温超伝導体の発見という、科学の進歩は実現したと考えています。