慶應義塾

台所雑感|看護医療学部長 永田 智子

公開日:2026.10.06

SNSを眺めていると、時々気になるレシピが流れてくる。最近のお気に入りは、合挽肉とブロッコリーのみじん切りを塩コショウだけで炒めたそぼろ。フライパンで簡単にできるサンマの酒蒸しは秋の定番になった。マンネリ化した食卓に新顔が並ぶのは嬉しい。

とはいえ以前からの定番も捨てがたい。牛肉の切り落としに、たっぷりのネギとおろしショウガ、醤油と酒を入れて煮るだけの一皿は30年以上のおなじみである。看護師時代、夜勤で余裕がある日には持参のおかずを味見しあうことがあり、先輩ナースにはよく「次の夜勤、またあの牛肉のやつ作ってきて」とリクエストされた。性格上、きっちりレシピ通りに作るのは向いていないので、計量不要で失敗知らずのメニューはありがたい。

失敗知らずと言えば煮込み料理。ブリ大根や筑前煮も良いけど、トマト入りの洋風煮込みも家族の好物である。夏野菜のラタトゥイユは旨味豊かで、トマトとにんにくとオリーブオイルの底力を実感する。大豆入りのミネストローネも定番。缶詰ではなく生のトマトで作るのが好きで、店で完熟トマトを見つけたら多めに買ってヘタだけ取って冷凍しておく。使う時に水をかけると簡単に皮がむけ、煮込みにもパスタにもザクザク切って使えるのでおすすめである。

近くに住む一人暮らしの父には週に2~3回おかずを届けていて、春ごろからは義歯が合わなくなったので柔らかい煮込みやスープが中心になっていた。ラタトゥイユもミネストローネも名前が覚えられなかったが、「この間のこれ、美味しかった」と言いながら、空の容器を返してくれていたものである。

夏には実家にしばらく泊まり込むことになった。介護の合間に料理をする余裕はなく、私はコンビニ、父は市販のレトルト介護食のお世話になった。ある日、どうにもストレスがたまり、家族に数時間代わってもらった。自宅でしたことは、ゆっくり風呂に浸かることと、台所で料理を作ることであった。料理は好きでも得意でもないのだが、使い慣れた台所で好きなものを作っているとき、思いがけずここが居場所だという思いがこみ上げてきた。牛肉の煮物、鶏と玉ねぎの煮込み、冬瓜のスープ、ポテサラを一気に作って、実家に持ち込んで家族と一緒に食べたら、本当に気持ちが楽になって、食の大切さとレスパイトケアの効果を実感した。

介護を終えた今、もう柔らかい食事を作る必要はなくなったが、やっぱり秋は煮込み料理が一番。10月の家族の誕生日には、ミネストローネをたっぷり作る予定である。