共同研究・競争的資金等の研究課題
櫻井 政寿
生体外増幅造血幹細胞の定量的評価法の開発
- 制度名
- :科学研究費助成事業
- 担当区分
- :研究代表者
- 研究者
- :櫻井 政寿
- 研究種目
- :基盤研究(C)
- 研究費種別
- :補助金
造血幹細胞移植 / 臍帯血 / 造血幹細胞 / 生体外増幅
造血幹細胞(hematopoietic stem cell; HSC)は、骨髄に存在する稀な細胞で、自己複製能とすべての成熟した血球への分化能を持つ。HSCは臍帯血中にも存在するが、含まれる数は限られており、造血再構築を持続させるには十分な数ではないことも多い。今回、申請者は、高分子ポリマーをベースとした培養液を用い、既存の方法を大きく上回る臍帯血由来HSCの体外増幅に成功した。 しかし、増幅したHSCの定量的評価方法は明らかではない。したがって、本研究では増幅後HSCの定量的評価、具体的には増幅後HSCマーカーの同定を行うことを目的とする。 本研究は、臍帯血由来ヒト造血幹細胞(HSC)を効率的に体外増幅するための新規培養法の開発を目的としている。これまでの研究で申請者は、高分子ポリマー(ポリビニルアルコール[PVA]およびpolyvinyl caprolactam-polyvinyl acetate-polyethylene glycol graft copolymer[PCL-PVAc-PEG])をベースとし、PI3K刺激薬、TPO受容体作動薬、UM171等の低分子化合物を組み合わせることで、従来のサイトカイン依存法を大幅に上回るHSCの増幅技術を世界に先駆けて確立した。 一方で、この培養法は、培養期間が延長すると一部のHSCが巨核球系へと望ましくない分化を示すという課題があった。そこで初年度は、この課題を解決し増幅効率をさらに高めるべく、培養条件の改善に取り組んだ。具体的には、既存の培養系で用いていた各種化合物の濃度調整を詳細に検討するとともに、新たな化合物のスクリーニングと導入を進めている。特に、既存の化合物のうちPI3K刺激薬の濃度を細かく調節することで分化制御を試みると同時に、新規化合物については幹細胞維持能を指標として段階的かつ網羅的に評価を進めている。 今後さらにこの取り組みを進めることで、培養条件ごとのHSCの特性変化に関するデータが蓄積され、増幅後細胞の定量評価方法や特異的な機能マーカーの同定といった、本研究が最終目標とする課題への重要な知見となることが期待される。これらの成果は、将来的に臍帯血移植の効率化や造血幹細胞を用いた遺伝子治療技術の発展にも大きく貢献すると考えられる。 本研究は既に示された独自の技術基盤をもとに開始したため、研究開始時点で確立された実験系および評価指標が明確であったことが挙げられる。このため、初年度から試行錯誤の段階を最小限に抑え、具体的かつ的確な課題の改善に集中して取り組むことが可能であった。第二に、初年度の課題であった培養期間の延長に伴う巨核球系分化の問題について、既存の化合物濃度の詳細な最適化に加え、新規化合物のスクリーニングを迅速かつ効率的に実施できている。これにより、初年度の段階でCD34陽性細胞の増幅効率をさらに高めるきっかけがつかめている。 このように、明確な研究基盤と課題解決によって、初年度の研究目標は予定通り達成されていると考える。 今後は、初年度に得られた巨核球系分化抑制とCD34陽性細胞の増幅効率改善の成果を踏まえ、さらに培養系の最適化を進めていく。具体的には、化合物の種類や濃度だけでなく、培養時間や細胞密度、培養温度など細胞培養の物理的条件も体系的に評価し、造血幹細胞(HSC)増幅をより効率化する条件設定を行う。また、増幅後の細胞が真に幹細胞としての機能を有していることを客観的かつ定量的に評価するため、新規HSC特異的マーカーの同定を目指した網羅的解析を開始していきたい。これにより、増幅した細胞集団の定量評価法の確立を目指す。 さらに、近年、CAR-T細胞療法後に持続する血球減少が新たな臨床課題として浮上している。この問題の解決に向けて、本研究で開発・改善している造血幹細胞の効率的な増幅法を活用し、患者自身の末梢血由来HSCを事前に増幅し投与するアプローチも検討している。 これらを円滑に推進するため、新規評価技術の導入や試薬・設備整備等、研究環境の充実にも努めていく。
新たな生体外造血幹細胞培養技術を用いたヒトRUNX1遺伝子の機能解析
- 提供機関
- :文部科学省・日本学術振興会
- 制度名
- :科学研究費助成事業
- 研究機関
- :文部科学省・日本学術振興会
- 担当区分
- :研究代表者
- 研究者
- :櫻井 政寿
- 研究種目
- :若手研究
- 研究費種別
- :補助金
ヒト造血幹細胞 / 生体外増幅 / PI3K/AKT経路 / トロンボポエチン受容体作動薬 / 高分子ポリマー / RUNX1遺伝子 / 造血幹細胞
RUNX1 は造血発生や造血幹細胞機能・血球分化に必須の役割を果たしている。今までRUNX1遺伝子は申請者を含めた多くの研究者が解析を行ってきたが、1)ほとんどの解析はマウスによるもの、2)疾患特異的iPS細胞から誘導したヒト造血前駆細胞は、異種移植実験にも用いることができず、真の意味での造血幹細胞ではないこと、などの問題点があった。本研究では、これらの限界を克服するため、新たに開発されたポリビニルアルコール(PVA)を用いた造血幹細胞の生体外培養技術を用いて、異種移植実験可能な造血幹細胞の増幅を行う。そしてその細胞を用いて、ヒトRUNX1遺伝子の造血幹細胞および白血病発症機序の解明を行う。 RUNX1遺伝子など造血発生や造血幹細胞機能・血球分化に関わる遺伝子の解析は、主にマウスによるもので、ヒトによる解析は困難であった。近年、血清やアルブミンの代わりにポリビニルアルコール(PVA)を用いたマウス造血幹細胞(HSC)の効率的かつ長期的な培養方法が開発された。しかし同じ手法ではヒトHSCは培養できなかったため、まずヒトHSCの長期培養方法樹立から取り掛かった。その結果、ヒトではPI3K/AKT経路が低下していることを見出し、PI3K刺激薬、TPO受容体作動薬、UM171、高分子ポリマーを用いることで、最終的に30日間で約2800倍にヒトHSCを増幅できる全く新しい培養技術を確立した。 本研究における最大の成果は、世界で初めてサイトカインや血清/アルブミンを用いることなく、化合物のみでヒト造血幹細胞の生体外増幅に成功したことである。造血幹細胞はすべての血液細胞のみなもとなる細胞で、難治性血液疾患患者における造血幹細胞移植に用いられている。この細胞を増幅させることができれば、幹細胞研究のみならず、移植医療、輸血医療、またこれから出てくるであろう遺伝子治療において大きなメリットをもたらす。今まで多くの研究者が造血幹細胞の増幅に取り組んできたが、実臨床で用いられるまでに至ったものはない。今回開発した技術は、安価かつシンプルな組成の培養液であり、今後臨床応用を目指したいと考えている。