慶應義塾

脳内の「水」の動きを細胞レベルで直接見て測ることに成功

-脳梗塞における水分子拡散の変化を可視化、MRI画像の微視的な理解へ-

公開日:2026.09.28
広報室

慶應義塾大学

慶應義塾大学医学部薬理学教室の塗谷睦生准教授、安井正人教授らの研究グループは、独自に開発した非線形ラマン散乱顕微鏡を用いて、マウス脳実質内における水分子の拡散動態を細胞レベルの解像度で直接見て測ることに世界で初めて成功しました。

脳は重量の約8割が水でできており、水分子の動きは脳内の分子の動きを制御する最も重要な因子です。脳の多くの機能を司る実質においては、水分子の拡散が、生理活性物質、病態関連物質、薬剤などの動きや排出に重要な役割を果たすと考えられます。臨床では水分子の拡散は磁気共鳴画像(MRI)により捉えられ、その変化は脳梗塞の診断にも用いられています。しかしMRI画像の空間分解能は低く、脳の健康や病気に関わる細胞レベルで、どのような水の動きがあり、どのように変化するのかについては明らかになっていませんでした。

そこで本研究では、独自に開発した顕微鏡装置を用い、マウス脳組織内の水分子の拡散とその変化を細胞レベルで見て測ることを試みました。通常の水と区別できる重水を脳組織に導入し、重水が持つ特殊な分子振動を高感度で捉える非線形ラマン散乱顕微鏡により、水分子の動きを高い時間・空間分解能で捉えることに成功しました。実際に拡散する水分子の連続画像を基に、水分子の脳組織内での拡散速度を示す「見かけの拡散係数(ADC)」を直接的に決定することに成功しました。さらに、脳梗塞を模した条件下での実験により、血流が止まった脳組織において細胞内外の水分子の動きが急激に低下し、排出が停滞することを解明しました。

本研究成果は、臨床で広く用いられるMRI画像から得られる正常・疾患脳組織におけるマクロな水の動きの細胞レベルでの基盤を示すもので、将来的に、脳梗塞のより精度の高い診断や病態の理解などにつながることが期待されます。本研究成果は、2026年9月27日(米国東部時間)に国際学術誌Smallに掲載されました。

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