慶應義塾

「正しく、厳選された医療情報」を伝え、 わが国の医療水準の底上げを図っていく

卒業生 宇津井大祐君(薬学部卒)

2023/09/29

宇津井大祐(うつい だいすけ)/株式会社医学書院 販売・PR 部PR1課 課長

2015年薬学部薬学科卒業。同年、年間約150点の書籍類と専門誌(月刊・隔月刊・季刊)31誌を発行する医学専門出版の最大手である株式会社医学書院に入社。雑誌編集、書籍編集を経て、2018年「販売・PR 部PR 1課」に異動。自社の雑誌・書籍の広告出稿、動画やSNSなどを使った宣伝活動、また、オンラインセミナーなどの業務に携わっている。薬剤師の資格以外に、応用情報技術者の資格を取得しており、医学書院が力を入れている電子サービスやオンラインセミナーなどの展開にもITスキルを生かした貢献を行っている。

命を救う仕事がしたいという思いで野球好きの少年は薬学部を目指す

-宇津井さんが薬学部への入学を志望した理由を教えてください。

宇津井:私が大学入試で薬学部を志望したのは、製薬企業で新薬開発の仕事に携わることが夢だったからです。中学生まで野球少年だった私が医療に関心を抱くようになったきっかけの一つは、父方、母方の二人の祖父が病気のためどちらも50代で亡くなってしまったことでした。もし、新しい医薬品が開発されていれば、祖父の命は助かったかもしれない……身近な人の無念を知る自分だからこそ、多くの命を救う仕事がしたいと思ったのです。薬学部は単科大学が多かったのですが、慶應義塾を志望したのは多彩な学部とキャンパスを有する総合大学だったからです。専門的な分野を目指すにせよ、大学時代は文系・理系関係なく、さまざまな人々と知り合い、自分の視野を広げることができる大学生活を送りたいと思いました。

キャンパスライフを最も満喫できたのは日吉キャンパスで過ごした1年生のときかもしれません。テニスサークルに参加するなど他学部の塾生との交流もありましたし、有機化学や生命科学といった薬学の基盤教育だけでなく幅広い領域の科目も履修していたので「慶應義塾に入学したんだ」という実感が持てました。実は獣医の道を考えたこともあったので「動物行動学」の授業が面白かったという思い出もあります。

5年の薬学部白衣式で友人たちと(写真中央が宇津井さん)

-2年生以降は芝共立キャンパスでいよいよ本格的な薬学教育を受けることになりますね。

宇津井:朝から夕方まで毎日4コマ、日によっては5限目までの授業がありましたから、一転して忙しい学生生活となりました。それでも薬学部の軽音楽部に参加したり、塾講師とコンビニ店員のアルバイトを掛け持ちしていましたから、人からは「いつ寝ているの?」と言われることもありました。私は体力に自信がありましたし、新薬開発という大きな目標がありましたから、なんとか頑張ることができたのだと思います。

3年生のときには夏休みを利用してフィリピンの語学学校に短期留学もしました。5年生以降の薬局や病院での実習もなかなかハードでしたが、実際にさまざまな患者さんと接することで、薬剤師の仕事への理解を深めることができました。ただ私自身は薬剤師ではなく、新薬開発のような仕事を志向していました。所属講座は「医薬品開発規制科学」という分野で、私は新薬開発の治験コーディネーターに必要なスキルや資質を解析する研究に取り組みました。もともと中高生の頃からパソコンが好きでしたので、こうした情報科学的なアプローチは得意分野でもありました。

医学発展の現場に立ち会える専門出版社への就職を決心

-そんな宇津井さんが出版社を就職先として選ぶことになった経緯を教えてください。

宇津井:私は芝学友会(薬学部の学生自治会)の活動や卒業アルバム委員会などの活動にも参加しており、その中で企画・編集という「モノを創り上げる仕事」の魅力を知ったことが、一つのきっかけだったかもしれません。やがて就職活動に取り組む中で、医療・医薬を専門に扱う出版社の存在を知り、情報を正しく伝えることで医療の世界に広く貢献できるのではないかと考えるようになりました。製薬企業での新薬開発の仕事にも興味はありましたが、弊社などの専門出版社の仕事を知るにつれて、より幅広く医学発展の現場に立ち会える医療メディアの世界は、自分の「やりたいこと」に近いと確信するようになったのです。

-医学書院に入社されて、どのようなお仕事をされてきたか教えてください。

宇津井:入社後、最初に担当したのは『看護管理』という看護師長など看護管理者向けの月刊誌の編集でした。看護系の雑誌は弊社から執筆をお願いする依頼原稿が多く編集者の裁量の比重が大きいので、先輩方のご指導もあって編集者としてのスキル習得のためには恵まれた職場環境だったと思います。全国各地の病院などへの出張もあり、忙しいながらも編集者として多くの経験を積むことができました。仕事を通して痛感したのは同じ医療分野でも、医師、看護師、薬剤師など職種によってそれぞれ視点が違うということです。また、同じ看護師でも病院勤務と訪問看護では視点が異なることがあります。編集者として現場に立つことでこうした医療現場の現実が初めて見えてきたと思いますし、相手の考えをうまく引き出すインタビュー取材の難しさも知りました。

この編集部には2年間在籍し、次に配属されたのは書籍の編集部で、およそ1年で『看護学のための多変量解析入門』など4冊の編集に取り組みました。多変量解析は複数データの関連性を分析する解析手法で、学生時代からの得意分野であるデータサイエンスに関する書籍ということもあり、やりがいを持って取り組むことができました。余談ですが、興味の延長で「薬剤師」とともにシステムエンジニアなどが取得する「応用情報技術者」の資格を取得しています。

-その後、現在の販売・PR部に配属されたのですね。

宇津井:はい。自社の雑誌や書籍に関する広告・宣伝ツールの制作を担当する部署で、紙媒体の広告だけではなく、動画やオンラインセミナー開催などにも携わってきました。私は学生時代から、芝学友会の活動やプライベートで動画編集を手がけていたので「ぜひ、その経験を仕事で発揮してほしい」と期待されての異動でした。おそらく毎年20〜30本ぐらいのPR動画を作成していると思います。書籍の宣伝のために著者や編集者が出演するイベントの生配信などでは、私が企画立案からディレクション、配信作業までを任せてもらいました。弊社はコロナ禍以前から、オンラインイベントを行っており、全国の医療関係者から好評を持って迎えられています。もちろん自社の広報、宣伝手段の一つではありますが、インターネット経由のこうした情報提供によって日本全国の医療水準の底上げを図っていくことも、専門メディアとしての重要な使命ではないかと考えています。最近は若い社員がそれぞれ知恵を絞りながらSNSによる情報発信を積極的に進めており、今後も新しいデジタルな広告技法を取り入れながら、弊社ならではの価値ある情報発信を追求していきたいですね。今や出版業は斜陽産業と思われていますが、「正しく、厳選された情報」をしっかり伝えることで、多忙な医療従事者の方々のお役に立つことができるはず。「さすが医学書院!」と読者に思っていただけるよう頑張りたいと思います。

-この3年間で、私たち一般人も正しい医療情報を入手する重要性を痛感しました。

宇津井:そうかもしれません。弊社のオンラインセミナーの講師として、感染症対策と公衆衛生の第一人者であり、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会会長(2022年12月2日当時)である尾身茂先生を講師としてお招きしたことがあります。余人に代えがたい尾身先生ほどの方でも、コロナ禍という非常時におけるリスクコミュニケーションの難しさを痛感されており、時に反省の言葉を口にされました。私はその言葉を聞いてかえって尾身先生の素晴らしい人間性にあらためて尊敬の念を抱きましたし、自らの経験を余すことなく言葉で伝えようとする熱意にも感動しました。セミナーを聞いた多くの医療関係者が私と同様の感想を抱いたと思います。そういえば、尾身先生は医大に進学される前に慶應義塾大学の法学部で学んでいらっしゃったのですね。

人生の可能性を開くのは「かけ算」自分の好きなことを追求しよう !

マンガ『アンサングシンデレラ』とのコラボ企画、『治療薬マニュアル2021』の書籍カバー

-宇津井さんは現在も慶應義塾とのつながりがありますか。

宇津井:はい。薬学部の同窓会組織である薬学部KP会*を通して幅広い活躍をしている薬学部出身者との交流がありますし、芝学友会から招かれ就職相談会で後輩の皆さんにお話をさせてもらったこともありました。テレビドラマ化もされた病院薬剤師が主人公のマンガ『アンサングシンデレラ』と弊社『治療薬マニュアル』のコラボ企画では、マンガ1話分を収録した小冊子に慶應義塾大学薬学部と薬学部KP会の協力による薬学的解説を加え、新入生向けの資料として全国の薬学部で配布していただきました。こうしたこともあって、むしろ卒業してから慶應義塾の伝統である「社中協力」の価値をあらためて実感しているところです。

毎年の早慶戦の勝敗もいまだに気になっていますね。私自身は中学生で選手をやめましたが、野球自体はずっと好きだったので塾生時代は応援のため神宮球場に通っていました。実は私の兄はずっと野球を続けて、立教大学の投手として慶應義塾と対戦したこともあります。私も今は会社の草野球チームでプレーしています。

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-最後に塾生に向けたメッセージをお願いします。

宇津井:実際に社会人となって私が感じたことは「総合大学である慶應義塾で学んで良かった」ということでした。私は人生を充実させるために必要なのは「かけ算」ではないかと思うのです。どういうことかと言えば、「薬学」という専門分野に加えてもう一つ何か深く関心を抱く分野を持つことで、その人が活躍できるフィールドは大きく拡大するはずです。私の場合は「薬学×情報科学」あるいは「薬学×メディア」というわけですね。もちろん主軸である専門分野は決しておろそかにしてはいけません。法学でも、経済学でも、工学でも、主軸さえしっかり定まっていれば、もう一つの得意分野を持つことで、その人の可能性は無限大に拡がるのではないでしょうか。もう一つの得意分野は、学部の専門性と全く関係なくても、あるいは世の中のトレンドと違っていてもいいのです。自分の「面白い」「好きだ」という思いに忠実にさまざまなことにチャレンジしてみてください。学生時代こそ、そうしたことができる最大のチャンスですし、慶應義塾という環境ならそれができるはずです。もう一つだけ付け加えると、どのような分野に進むにしても今後ますます英語力は重要になってくると思います。大学時代にぜひ自分の英語力を磨いてください。やはり将来の可能性がグッと拡がるはずですから。

-本日はありがとうございました。

※旧共立薬科大学卒業生と慶應義塾大学薬学部卒業生で組織する同窓会

この記事は、『塾』SUMMER 2023(No.319)の「塾員山脈」に掲載したものです。