2018年度 KGRI Working Papers
Demographic Power: Tiny Titans, Crumbling Giants, and the Missing Link Between Population & Power
先進諸国を中心に、世界各地において、人口の高齢化が進んでいる。これは一部の新興国にとって発展の原動にはなり、同時に、出産率が低い、少子現象が起きている国々にとって、大きな課題となる。例えば、最も少子高齢化が進んでいる日本の人口は既に減少しつつあり、1990年代と比べ、経済や社会に圧倒的な影響を与えており、国力の弱体と受け捉える。ただ、日本だけでなく、今後何年かして、韓国、中国、台湾、シンガポール等は日本よりも早い高齢化が予測されており、それに伴い、人口減少による様々な問題が生じるであろう。 このような人口動向が、21世紀の国際安全保障環境へ大きな変化をもたらす、重大な要因である。しかしながら、予測できる影響が強大にも関わらず、現在の安全保障論は人口的要因を分析対処として十分に取り入れていない。 本論文では「人口的パワーコンストラクション」という新たなフレームワークを構築し、人口的要因を分析できる安全保障論を提案していく。本フレームワークに基づき歴史的ケーススタディを分析した上、北東アジアの今後のパワーバランスについて仮定し、最後に今後の課題と政策提案を述べる。
Gray Zone Situations in Japan: Focusing on Differences in Understanding between the Ministry of Defense and the Japan Coast Guard
本研究の目的は、グレーゾーンの事態の本質を理論的に明らかにすることである。そのための最大の着眼点は、グレーゾーンの事態における防衛省と海上保安庁の認識の相違であり、日本国内においてグレーゾーンの事態に関する議論が盛んに行なわれるようになった平成23年度以降に係る防衛計画の大綱の作成過程およびそれ以降の国会等における検討過程を分析することにより、防衛省と海上保安庁における認識の深まりと変化について考察する。同時に、有事に際して、日米安全保障条約に基づき自衛隊と共同することになる米軍のグレーゾーンの事態に関する認識を整理する。米国のグレーゾーンの事態に関する認識に加え、ロシアの「ハイブリット戦」や中国の「サラミスライス戦術」といった概念と日本におけるグレーゾーンの事態の認識と比較することで、日本版「グレーゾーンの事態」を再定義する。日本国内におけるグレーゾーンの事態に関する検討は、自衛隊による対処を前提としている。しかし、グレーゾーンの事態は戦争ではないので、自衛隊の出動は、日本がエスカレーションを上げたとする口実を相手に与える危険性がある。また、グレーゾーンの事態には、様々な分野の手段が複合的に用いられる。日本においては、各省庁間に代表される異なる機関との連携が脆弱である。最新の防衛計画の大綱においても、グレーゾーンの事態が今後、更に増加・拡大していく可能性について指摘されている。グレーゾーンの事態においては、法執行機関による対処が必要という認識を防衛省と海上保安庁で共有し、国家安全保障会議を中心とし戦略を確立し、海上保安庁が第一義的な役割を担いつつ、領域横断(クロスドメイン)による対応を検討すべきである。
キーワード
グレーゾーン
防衛省・自衛隊
海上保安庁
ハイブリット戦
クロスドメイン
The Information Technology Industry in North Korea
北朝鮮政府が関与するサイバー攻撃とみられる事象が確認されていることを前提に、本稿は北朝鮮のサイバー攻撃能力についての考察を試みる。ある国における情報通信産業の水準はサイバー攻撃能力の土壌ととらえ、北朝鮮における情報通信産業の歩みに着目する。金正日がハードウェア製造大国を目指したこと、ある時点からソフトウェア開発へと目標を転換したことを論ずる。また光ファイバーケーブル、インターネットそして携帯電話の準備と普及の流れを振り返る。現在の北朝鮮国内には情報通信技術者の余剰が生まれており、これが地域の安全保障を不安定化する要因となっていることを主張する。
Between Internationalism and Isolationism: McGovernism in the U.S. Foreign Policy Tradition
近年、アメリカにおいて孤立主義的傾向が強くなっていると評される。ここでいう孤立主義とは、自国の国益を限定的に定義し、対外介入を躊躇うようになった状態を指す。本稿では、オバマ政権からトランプ政権にかけて、そのような消極的態度が続いていることを指摘する。その上で、これまで対外介入政策の是非を問うたびに、党派性や政治イデオロギーごとその正当性を理由づけ、説明されてきたように、近年見受けられるようになった消極性にも、異なる政治グループによる異なる理由づけがあることを説明する。また、オバマ政権に見られた、民主党・リベラル派の消極性に焦点を当てて、その根源を検討する。本稿は、1972年の民主党大統領候補に指名されたジョージ・マクガヴァン(George McGovern)大統領選挙キャンペーンに遡ることで、民主党・リベラル派の対外介入政策に対する消極性を「マクガヴァン主義」に還元する。さらに、外交において超党派合意(コンセンサス)を前提とすることができなくなった現在において、マクガヴァンからオバマに続く民主党外交の連続性を確認することの重要性を主張する。
The U.S. Military Bases in Okinawa and Japan-U.S. Security Arrangements, 1945-1951
第二次世界大戦後、日本が連合国の占領下にあった時期において、日本と米国の関係性は劇的に変化した。初期の数年間、米国政府、とりわけ軍部は、沖縄の領土主権を日本から剥奪することを計画した。しかし、1950年に朝鮮戦争が勃発したことで状況は一変した。1951年にサンフランシスコ講和条約を締結する際、米国政府は沖縄の潜在主権の保持を日本に容認した。従来の研究は、米国にとっての沖縄米軍基地の戦略的重要性から、沖縄が1951年に締結された日米安全保障条約の適用範囲外になったと説明する。しかし、日本に沖縄の潜在主権が残されたことで、沖縄が将来締結される新たな日米安全保障条約の適用範囲に含まれる可能性が生じていた。本研究では、沖縄をめぐる日米の方針が、両国の安全保障条約の展望とどのように関係していたのかを検証する。本稿は、日本の再軍備に伴い、日本への沖縄返還と沖縄米軍基地の整理縮小が実現する可能性があったことを主張する。
Evolution of Traceability and Sharing Economies
ICT によるモノやヒトのトレーサビリティ(追跡可能性)の高まりがシェアリングエコノミーの拡大に果たしてきた役割について分析した。ここで「シェアリングエコノミーの拡大」を「(所有権販売型に対する)利用権販売型のビジネスモデルの拡大」と同義で議論している。また、トレーサビリティを「ある物財や知財について財産権や製造物責任を有している主体が、その財がどんな状態にあり,誰が利用しているかについて継続的に確認できる状態」と定義する。基本的論理はICT の進化によってトレーサビリティが高まり、商品が誰によって利用されているかを提供者が把握し続けることができるようになると、売り渡すかわりに、特定の時間内の利用権だけを与え、別の時間には別の利用者に提供するモデルを採用することが容易となって拡大する、というものである。バーコードやモバイル通信の導入とともにトレーサビリティとシェアリングが拡大してきた過程を例示している。