慶應義塾

人間知性研究センター

公開日:2025.06.30
KGRI

センター長 : 岡野 栄之(医学部教授)

活動拠点キャンパス : 信濃町

センター概要

  • 人間知性研究分野におけるわが国の拠点形成 および 世界的研究ネットワーク形成 医学部・文学部・理工学部・経済学部等から構成されている総合大学である慶應義塾大学と、我が国における脳科学研究の拠点である脳科学総合研究センターを擁する理化学研究所との間で2008年12月10日に締結された包括提携を基盤とし、双方から多彩な研究者が集って学際的なチームを形成し、我が国における人間知性研究および当該研究の世界的ネットワークの拠点形成を本センターは目指している。

  • 人間を人間たらしめている「知性」について、生物学的基礎から文化的背景、さらにその将来に至るまで、幅広い視点から世界的規模での研究を発展させる 知性研究には人文科学的研究の長い歴史があるが、近年の認知科学、神経科学、コンピュータサイエンスの発展は、この人類にとっての重要な課題に新たなアプローチの可能性を提供している。このような分野複合的な研究を推進し、研究交流のハブとして機能する総合的な研究組織が成熟していない我が国において、「人間知性研究センター」こそがその先導者となることを目指す。人間知性の「分子生物学・発生工学からの解明」・「比較認知科学からの解明」・「脳科学からの解明」・「ロボット工学からの解明」の4グループがそれぞれ研究を推進し、知識と成果を共有する体制をとっている。

キーワード・主な研究テーマ

認知科学 脳科学 ロボット 社会 文明

2020年度 事業計画

■2019年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

本センターでは、前年度に続いて人間知性の「分子生物学・発生工学からの解明」・「比較認知科学からの解明」・「脳科学からの解明」・「ロボット工学からの解明」という各グループが一致団結して協力し、自然科学分野にとどまらず人文・社会科学分野からのアプローチにより人間知性を分子レベルから行動レベルまで幅広く探求する。事業項目は以下の通りである。

(01) 環境・遺伝子・神経活動との相互作用によるヒト認知進化誘導についての研究においては、霊長類疾患モデルである遺伝子改変マーモセットを用いて精神・神経疾患に関連した行動学的な異常を早期から捉えるための行動解析および画像解析(MRI, PET)を引き続き継続して実施し、成果として発表する準備を行う。

2019年度 事業報告の(02) ~(07) については最終年度にむけて人間知性に関する重要な成果として、論文化または論文化するための目処を立てる。

(07)fMRIを用いたマーモセット脳機能マッピング技術の開発では、マーモセット遺伝子発現と機能的連関がある部位との関連を詳細に解析する。

(08)電子顕微鏡を用いた脳機能マッピング技術の開発として、世界最速のマルチビーム走査電子顕微鏡神経活動を可視化する手法の開発に取り組む。

(09)蛍光カルシウムイメージング技術を用いてマーモセット脳の細胞種特異的長期間イメージングでは、1個2グラムという超小型蛍光顕微鏡を用い、自由行動下環境での脳深部機能マッピングの技術開発を目指す。

(10)蛍光と電顕によるコリレイティブ解析を本センターにて実施し、電顕・光顕で比較解析可能な細胞・組織の標識技術を世界最速のマルチビーム走査電子顕微鏡を用いたアルツハイマー病モデルマウスにおける特徴的な軸索変性像とアルツハイマー病の初期病変関連分子の局在に関しての解析結果を論文にまとめる。

(11)アルツハイマー病ヒト死後脳解析として実際にアルツハイマー病患者脳を入手し、軸索変性像やアルツハイマー病の初期病変関連分子の局在の解析を実施する方針である。

(12)ウナギの空間認知の神経機構をヒトと比較することにより、人間知性の特性を明らかにするプロジェクトでは空間認知の全体的手掛かりと全体的手掛かりの選択を明らかにするとともに、魚類の感覚遮断、脳損傷の交換を検討する。

■2020年度の新規活動目標と内容、実施の背景

新規項目として以下の項目を次年度より開始する。

(13)脳深部蛍光カルシウムイメージング 技術を用いて線条体における複雑な運動制御メカニズムの解明を目指す研究を行う。

(14)患者由来iPS細胞株、もしくはゲノム編集株から神経系の細胞を誘導し、ヒト細胞を用いた、in vitroにおけるてんかん様症状の再現と、アルツハイマー病発症メカニズムの研究を行う。

2019年度 事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

2019年度の研究成果を研究項目ごとに記載する。

(01) 環境・遺伝子・神経活動との相互作用によるヒト認知進化誘導についての研究では、精神・神経疾患の遺伝子改変モデルマーモセットを用いて関連した行動学的な異常を早期から捉えるため睡眠行動などの行動学的な解析および画像解析(MRI, PET)を継続して実施している。

(02) ヒト疾患モデルマーモセットの開発では、αシヌクレインの強制発現トランスジェニックマーモセットの解析を組織学的に行いパーキンソン病の発症初期の変化を継続的に解析し、疾患に関連した変化を早期に捉える解析によって疾患に特異的な障害を見出すことができ論文を投稿する。

(03) ヒト特有の遺伝子導入マーモセットの開発では、ヒトに特異的な遺伝子を改変したマウスの脳を使ったPhenotype解析を実施している。特にヒトの脳で特異的に大きくなっている大脳皮質の厚さを定量的に解析した。また、ヒトに特異的な発生学的に重要な遺伝子を改変したマーモセットモデルの個体の作出に成功し組織学的な解析を実施している。

(04) コミュニケーションによる社会的行動を司る神経基盤の解明では、新規ゲノム編集技術を用いた自閉症モデルマーモセットの作出を進めている。

(05) 遺伝子改変霊長類動物の新規作成法の開発では、新規ゲノム編集技術をマーモセットの遺伝子改変へ応用する取り組みをマーモセット受精卵を使って遺伝子改変効率上昇させることに成功し、現在遺伝子改変個体を作出中である。

(06) 人間知性の特性を同定するための比較認知科学的研究として、実験動物の行動学的な新規解析手法としてマーモセット行動を経時的に解析できるう新規システムを用いて定量的に評価する手法を開発し、解析中である。

(07) fMRIを用いた脳機能マッピング技術の開発では、覚醒状態で実施したfMRIによる脳機能マッピング技術を応用し、遺伝子改変動物のfMRI解析を実施している。

(08)電子顕微鏡を用いたマーモセット脳機能マッピング技術の開発として、超広範囲を高速で撮影可能なマルチビーム走査型電子顕微鏡により広大な面積の連続切片画像取得が可能となり、機能マッピングの手法を完成することに成功した。

(09)蛍光カルシウムイメージング技術を用いてマーモセット脳の細胞種特異的長期間イメージングでは、近年開発された1個2グラムという超小型蛍光顕微鏡nVistaにてフリームービングのマーモセットにおいて神経活動を蛍光プローブで可視化に成功しタスクベースでのイメージングを行っている。

(10)蛍光と電顕によるコリレイティブ解析を本センターにて実施し、本年度は電顕・光顕で共用できるような組織標識技術を応用し、アルツハイマー病モデルマウスにおける特徴的な軸索変性像とアルツハイマー病の初期病変関連分子の局在に関しての成果の一部を論文として発表した。おおむね計画通り順調に目標を達成し、成果を得ている。

(11)アルツハイマー病のヒト死後脳解析として電子顕微鏡を用いてアルツハイマー病患者における軸索変性像やアルツハイマー病の初期病変関連分子の局在に関しての解析を実施するためヒトブレインバンク担当者へコンタクトして脳部位を決定し必要な書類を作成し手続きを実施した。

(12)ウナギの空間認知の神経機構をヒトと比較することにより、人間知性の特性を明らかにする実験については、ウナギの実験系を確立し、その結果をAnimal Cognition誌に報告した。

公刊論文、学会発表、イベントなど社会貢献の実績

公刊論文数 : 18件

01. Tanaka H et al. Nat Commun. 2020 in press.

02. Khazaei M et al. Sci Transl Med. 2020

03. Saeki T, Hosoya M, Shibata S et al. Neurosci Lett. 2020

04. Mohan S et al. J Neuropathol Exp Neurol. 2019

05. Serizawa T et al. Development. 2019

06. Ariyasu D et al. Endocrinology. 2019

07. Hoshino Y et al. Scientific Reports. 2019

08. Li Y, Kanzaki S, Shibata S et al. Neurosci Res. 2019

09. Shibata S, et al. Front Neural Circuits, 2019

10. Kirihara T, et al. iScience 2019

11. Yamazaki Y, Abe Y, Shibata S, et al. J Neurosci. 2019

12. Kinugasa Y, et al. Journal of Cell Science, 2019

13. Abe Y et al. Neurochem Int. 2019

14. Miki F, et al. Biol Reprod. 2019

15. Watanabe,S. Learning and Motivation, 2019

16. Watanabe S & Shinozuka K, Animal Cognition 2020

17. Watanabe S Learning and Behavior (in press)

18. 渡辺茂「動物に心は必要かー擬人主義に立ち向かうー」東京大学出版会)

学会など招待講演件数(国内・国際) :(国内5件、国際1件)

イベントなど社会貢献の実績:3件

01.「脳学問のすゝめ」世界脳週間2019, 慶應義塾大学信濃町キャンパス(脳の世紀推進会議主催・全国の高校生等へ脳研究の現場を研究者が紹介するツアー) 2019/11/2

02.「世界最速の電子顕微鏡で体内の探検をしてみよう」慶應義塾大学信濃町キャンパス(近隣住民や高校生等を対象とした学園祭での研究室見学) 2019/10/19

03. 江戸川図書館市民講座「鳥を通して知る人間の心」2019/5/12

センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

これまでに本センターでは、慶應義塾大学と理化学研究所との包括協定に基づき設置された人間知性研究センターの研究者を中心として、2014年度からスタートしている国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」において、慶應義塾大学が研究機関の一員として重要な研究を担っていることが認められ、世界でもまだ3台しか通常稼働していない世界最高速の広範囲撮影用の61本のビームを有するマルチビーム走査電子顕微鏡が慶應義塾大学に2016年に導入され、64個の検出器を備えた最先端の超高解像度蛍光顕微鏡が慶應義塾大学へ2017年度に設置され、それらを活用した様々な成果が複数報告されつつある。また、蛍光カルシウムイメージング技術を用いてマーモセット脳の細胞種特異的長期間イメージングの項目を実施するために、新規開発された1個2グラムという超小型蛍光顕微鏡nVistaおよび、光刺激も可能となるnVoke顕微鏡が2017,18年にそれぞれ導入され、オートフォーカス機能を搭載するなどしたバージョンアップを2019年2月に実施し、霊長類の生きた脳の中での神経活動を蛍光プローブで可視したり、光刺激により神経活動を人工的に起こすことが可能となり、その成果も論文化されつつある。

プロジェクトメンバー

研究代表者

岡野栄之

教授医学部 生理学

柚崎通介

教授医学部 生理学

仲嶋一範

教授医学部 解剖学