慶應義塾

未来共生デザインセンター

公開日:2026.06.01
KGRI

センター概要

本センターは多様な他者(マイノリティー、動物、AIなどの非生物)との未来共生の実現のために、人文・社会科学的英知を結集し、人間のこころについてのミクロ、マクロの多層的な基礎研究に基づいた研究を行う。さらに、それらの社会拡張へ向けた価値を創生し実装へつなげることを目指す。

2026年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

・道具使用練習における可塑性,三次元腕運動計画の重力利用の可能性,意味構造の発達的変化と文化比較はいずれも継続する。

・感覚・感情・記憶・思考に関する病態メカニズムの研究を継続。

・神経多様性のある乳幼児の縦断研究を継続。

・モノづくりプロセスの可視化,好みの変容メカニズム,アート評価の質的・量的評価の可視化,美術鑑賞時の心理的背景の検討を継続。

・発達的協調運動症の脳機能病態の解明と読み書き長期コホート調査を継続。

・論理・意思決定研究グループでは眼球運動測定を用いた多属性意思決定過程の研究を継続。

・大規模言語モデルを用いた個別的説得研究を継続。

・石垣島白尾竿根田原洞穴遺跡出土の旧石器人骨と葬送方法についての研究を継続。

・縄文土器文様に関する進化教育学的研究を継続

・前年度末から新年度にかけて慶應ミュージアムコモンズにて《モノたちの眼-メラネシア造形物と密やかなバイオグラフィ》展を開催。

・若者のメンタルヘルス国際比較の特集号を進行・継続。

・戦争遺跡をめぐる公共考古学的調査の成果公開を継続。

・企業体の道徳的責任,AI・技術の倫理などの研究を継続。

・1960-70年代米国映画作品の音声に関する理論的歴史的研究,古代ローマの庭園・別荘における私的彫刻のプログラム解読,17世紀仏国の風景画に関する研究をいずれも継続。

■2026年度の新規活動目標と内容、実施の背景

・実運動と運動イメージの間における運動学習・計画の違いの解明。

・痛覚変調性疼痛の背景にある心的要素の解明と成果物公刊。

・母子愛着や神経多様性による腸内細菌叢の特性,認知機能や内受容感覚の正確性との関連を探る解析に着手。大規模音声コーパスの予備的解析を開始する。

・アートについて,コミュニティに開いた研究展開(Community with Art)を開始する。

・発達性協調運動症の評価尺度の標準化をマルチサイト研究として開始予定。

・論理的思考とコミュニケーション,判断意思決定支援に関する研究を人工知能の論理推論能力の評価研究と結びつけ,人間とAIの協働に資する理論・方法論の構築に取り組む。

・生成AIによる社会科学研究への影響として,特にLLMによる研究自動化の功罪についての現状把握と論文化を予定。

・石垣島遺跡出土人骨の復顔像の科学的意義と社会的意義の検討を開始する。

・オセアニア環礁におけるジオ考古学的調査の研究成果を取りまとめる予定。

・人間に相対する他者としてのAIの道徳的地位と社会的影響の検討を開始する。

・70年代米国映画の音声に関する研究成果をアンソロジー内の一編として刊行予定,古代彫刻,風景画それぞれのテーマについてケーススタディと調査に着手。

2025年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

・道具使用の長期練習による運動学的・心理学的可塑性,三次元腕運動における重力利用の可能性,意味構造の発達的変化と文化比較などを順調に継続。

・感性的こころの働きのメカニズムの解明に実験心理学的手法で進展,多分野協働や企業・公共団体との実践的取り組みへの応用。

・ヒトの感覚・感情・記憶・思考に関連する病態のメカニズムについて脳波・MRI・自律神経活動を通して多角的に検証し10本の論文として出版。

・神経多様性のある乳幼児の社会性と言語発達についての縦断的研究を継続・進展し,これまでの成果を論文として出版。

・発達性協調運動症の脳機能病態の解明が進展し国内誌で特集を主催,読み書きの長期コホート調査を継続。

・大規模言語モデルを用いた個別的説得の研究を開始,先行研究の追試と理論的検討が進展。

・多様性概念の分析,規則性と倫理,自然言語理解とコミュニケーション,判断意思決定支援,AIの論理推論能力の評価検証などを研究。

・ニューハリウッドの歴史的研究,イタリアとドイツの諸都市で古代ローマに関連した作品の調査,近代ドイツ美術の色彩論に関する先行研究の収集,フランス王立絵画彫刻アカデミーの17世紀風景画の調査。

・石垣島白尾竿根田原洞穴遺跡出土の旧石器人骨により当時の葬送方法の解明が進展,旧石器時代人の顔貌の復元作業を進行した。

・日吉キャンパス,鹿児島県鹿屋市,沖縄県における戦争遺跡をめぐる公共考古学的調査を実施し,講演とワークショップを開催。

・縄文土器文様に関する進化教育学的研究が大きく進展。

・クック諸島ラロトンガ島とソサエティ諸島の祭祀遺跡(マラエ)の調査を実施した。

・双生児研究における蓋然的・創発的遺伝観の提示,保育の質の定量的評価尺度の開発に関するプロジェクトを進行。

・企業体における法令逸脱に対して倫理的不正の評価が生まれるメカニズムの理論的基盤の検討,AIや公共空間のELSI課題の整理と理論的検討を実施。

・当事者視点での医療の再構築に関する研究,認知症と自閉症に関する研究で着実な成果を出している。

■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

・公刊論文数:79本,Social Cognitive and Affective Neuroscience, Brain and Development, Anthropological Science, Behavioral Research Methods, Scientific Reports, Empirical Studies of the Arts, Biological Psychiatry: Cognitive Neuroscience and Neuroimaging, Frontiers in Psychiatry, The ancet, Medical Anthropology Quarterly, Translational Psychiatry, Neuroscience of Consciousness, Acta Psychologica, 哲学,現代思想,倫理学研究,企業会計 など

・学会発表件数: 国際37件,国内113件

・取材等:NHKスペシャル「ヒューマンエイジ 不老不死」,NHK沖縄戦特集番組(2本) 沖縄戦における連合艦隊司令部の関わり方について,BSフジLIVEプライムニュース(2025年4月2日),誠勝デジタルアーカイブ教育(Web) デジタルアーカイブと公共考古学の関係について,ウェブメディア:すばるコレクト:学習障害についての一般向け説明(2026/03/上旬公開予定),Yahoo News「植民地が残した“履歴”を問い直す――慶應・山口徹教授が語る文化財と人間の再接続」

・イベント:

2025.5.16 センター共催 Keio-SPRINGセミナー 未来の先導者たちへ ━ 塾員・塾生の集い ━『Sansan R&Dでビジネスの未来を切り拓く』

2025.9.2 センター共催 科学研究費・学術変革領域(A)『マテリアマインド:物心共創人類史学の構築』公開セミナー

2025.9.19 センター共催 慶應赤ちゃんラボセミナーシリーズ:第3回『乳幼児はどのように文字を習得していくのか』

2025.10.3 センター共催 赤ちゃんラボセミナーシリーズ第4回:"Home speech environment of Japanese infants: evidence from long-format recordings"

2025.11.4 センター主催「AIとデジタル環境の説明性と公平性にむけて」国際・学際ワークショップ

2026.1.11 センター共催 科学研究費・学術変革領域(A)『マテリアマインド:物心共創人類史学の構築』公開シンポジウム『心と身体×過去と未来』

2026.1.24 センター後援 日本双生児研究学会 第40回学術講演会

2026.3.9-5.15 センター協力 慶應義塾ミュージアム・コモンズKeMCo展覧会『モノたちの眼ーメラネシア造形物と密やかなバイオグラフィ』

■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

・運動学習における意識的・無意識的戦略の文化差について論文を公刊,日本語意味構造分析における時間と意味の統合手法について論文を公刊。

・マインドワンダリングや反芻など思考のプロセスを可視化し,その背景にある身体ー脳連関性について内受容感覚の視点から解明する論文を多数出版。

・乳幼児の縦断研究に,内受容感覚計測と腸内細菌計測を追加。

・アートと共にある暮らし・働き・社会との共有の理論化につながる実践レベルでの展開を実現。

・発達性協調運動症の読み書きコホート調査研究が小児医学研究振興財団より優秀論文賞を受賞。

・大規模言語モデルによる陰謀論信者への説得効果の研究について米国サンプルの追試を実現,翻訳物を用いた日本サンプルでは説得効果が低減する可能性も示唆。

・石垣島白尾竿根田原洞穴遺跡出土人骨2点について顔貌の復元が完成。

・火焔型土器の製作における定型紋様の伝達が観察・模倣だけではなく、規範の教示があったことを示唆するエビデンスを提示。

・科研費学術変革領域A「マテリアマインド」の全体会議を慶應義塾大学にて開催し,公開シンポジウム「心と身体×過去と未来」のファシリテートした。

・従来の固定的・決定論的遺伝観に対するパラダイム転回をもたらす可能性がある蓋然的・創発的遺伝観を提示。

・担当保育者と親のコミュニケーションが子どもの行動改善にもたらす効果についての論文を公刊。

・科学基礎論学会2025年度研究例会「ロジックフェスタ」(UNESCO世界論理デー)として「論理とAI」ワークショップを主催,関連書籍の刊行。

・絵画鑑賞におけるテキスト情報の影響の統計的検討,第15回ドレスデン色彩フォーラム,王立絵画彫刻アカデミーについてのシンポジウムなど各所での発表,関連書籍・論文の発表。

・企業行為を評価する際の倫理的不正の理論的整理,ビジネス倫理学固有の視座を開拓。また,規範理論上の基礎的論点と応用倫理の接続も提示することができた。

・Lancet誌やTranscultural Psychiatry誌でのシリーズや特集を刊行,医療人類学の新しい教科書Mapping Medical Anthropologyを編著で刊行など。

・鹿屋市と南風原町の戦争遺跡ガイドの意見交換会とワークショップを実施し,異なる視点から沖縄戦を語る人々による対話と協奏の事例を示すことができた。

2024年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

  • 多様な他者との関係から、自然環境、遠い将来世代、AI(人工知能)はステークホルダーになりえるかを検討した。

  • 日本、ミャンマー、中国、インドネシア各地域の遺跡の発掘と化石の分析を進め、論文成果として発表した。

  • 感情と身体の関係性を探る研究、および思考の遷移のメカニズムを探る研究などで具体的な成果をあげた。

  • 教示欲求のパーソナリティとの遺伝・環境構造を精緻に分析したほか、教育の進化についての研究対象として縄文土器の伝達様式をモデルとした研究を開始した。

  • アメリカ・ハリウッドの構造的変化の歴史的研究、ヨーロッパ地域の古代彫刻調査、新出の一次資料からてヒルシュフェルト=マックの色彩論を解明した。

  • 発達障害における多様な乳幼児の認知発達と個体の相互作用の縦断研究を行った。

  • 価値創造に関わる心の働きについて、評価的側面および創作的側面に関する研究を行った。

  • 神経発達症における協調運動機能の脆弱性の解明と、協調運動機能の評価尺度の開発した。

  • 身体と道具の関係に関する運動・知覚面について長期間の道具使用学習実験を進め、複数時間スケールにおけるヒト意味構造ダイナミクスの解明について大規模データの収集と解析プロトコル構築した。

  • 心理学の再現性問題に関する考察を踏まえ、深層学習技術を用いた心理学研究についての理論的検討と実証研究の準備を行った。

  • クック諸島プカプカ環礁の現地調査にて天水田景観の考古学的発掘した。

  • 認知症・自閉症といった脳・神経疾患の人類学的研究と、若者のメンタルヘルス国際比較を行った。

■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

主な出版論文数: 75本, 主な雑誌:

Nature Communications, International Journal of Psychophysiology, Consciousness and Cognition, Translational Psychiatry, Plos Biology, Journal of Cognitive Neuroscience, Scientific Reports, Empirical Studies of the Arts, Cortex, PLoS ONE, IEEE TNSRE, Asia Pacific Journal, 精神療法,現代思想,サステナビリティ経営研究,哲学,美学,ユリイカ

学会発表件数(国内・国際) : 144件(うち国内98件、国際46件)

主なイベント

2024年5月13日:センター主催 パーデュー大学・慶應義塾大学国際交流イベント(日吉)

2024年7月18日:センター主催 未来共生デザインセンター キックオフシンポジウム(三田)

2024年12月6日:センター共催 美の心理学研究の先に描いたモノづくり・コトづくりへの挑戦(三田)

2025年1月14日:センター共催 UNESCO 世界論理デー記念オンライン・ミーティング

2025年1月18日:センター共催 『なぜアートに魅了されるのか』(三田)

2025年1月24日:センター共催 慶應赤ちゃんラボセミナーシリーズ:第1回(日吉)

2025年2月21日:センター共催 慶應赤ちゃんラボセミナーシリーズ:第2回(日吉)

2025年3月5日:センター主催 未来共生デザインセンター2024年度末報告会(三田)

メディア取材

読売新聞、毎日新聞、共同通信、USEN、東洋経済オンライン、AERAdot.com、文化放送、インターエフエム、エフエムフジ,中日新聞,日経新聞,Psy Post,芸術新潮,朝日新聞

■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

特に成果を挙げた点として、次の事項が挙げられる。

  • 遠い未来世代は企業のステークホルダーになりえないことを示し、昨今話題となっている「長期主義(longtermism)」への懸念を示した。

  • 白保遺跡出土人骨が風葬によるものであるとの理解について、国際シンポジウムで発表した。

  • 啓蒙欲求にはナルシシズムとの遺伝的相関があること。火焔型土器は他の土器様式と比較して定形性が著しく高く特殊な学習・教育システムが存在した可能性を示唆。

  • 『アメリカ映画史入門』の刊行、新出の一次資料を通じた推測に依らないヒルシュフェルト=マックの色彩論の直接的解明をした

  • 文法学習に関わる脳機能ネットワークについて新生児から生後半年までの発達を明らかにした論文を出版した。

  • 美術館での鑑賞行動など、高い生態学妥当性のもとでの行動研究を構築・実施した。

  • 自閉スペクトラム症の知覚の特異性が、微細運動機能の低下に影響することを明らかにした。

  • 論文集『分析形而上学の最前線──人、運命、死、真理』の刊行、UNESCO世界論理デーを記念したミーティングを企画・開催した。

  • 深層学習と心理学の関係性について理論的な整理ができた。

  • プカプカ環礁現地発掘調査にて良好な層位発掘が実施できた。

  • Lancet のCase Studies in Global Social Medicine にeditorとして出席・シカゴ大との共催で若者のメンタルヘルス国際比較シンポジウムを香港で開催した。

センター オリジナルWebサイト

設置期間

2024年4月1日~2027年3年31日

メンバー

研究代表者

皆川 泰代

教授文学部認知神経科学、 発達心理学、 心理言語学

梅田 聡

教授文学部認知心理学、神経心理学、認知神経科学

峯島 宏次

教授文学部言語哲学、 論理学、 意味論・語用論、 計算言語学