慶應義塾

量子コンピューティングセンター

公開日:2025.06.30
KGRI

センター概要

量子コンピュータとは、"量子力学的な効果を用いて行う複雑な計算"(量子コンピューティング)を実現するデバイスである。素因数分解や最適化といった問題では、計算時間(ステップ数)が問題の規模に対して指数関数的に伸びるものがあり、それらは従来コンピュータでは計算不可能な問題とされる。量子コンピューティングはこれらの計算困難な問題を解決することが期待されており、それを実現する手法の開発が望まれている。そこで、本センターでは、社会や産業界の発展に資する量子コンピュータで解くべき問題を特定し、その目的に向けたソフトとハードを開発することを目的とする。とくに、国に加えて、複数の民間企業が出資する研究拠点を整備し、産業界や一般社会に存在する問題を対象とした量子コンピューティングの道を切り拓くことを目指す。

2021年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

1) 新規モンテカルロアルゴリズムの開発と実機評価:本センターで開発した量子アルゴリズムを、ノイズ存在下でも機能するように拡張する。

2) 化学反応計算のための変分型量子アルゴリズムの開発と実機評価:これまでの研究で浮き彫りとなった、実機上で変分型量子アルゴリズムを動作させる際に生ずる問題点を改善していく。

3) 量子機械学習器の開発と実機評価:前年度に開発したQRACベースのカーネル設計法を発展させる。また、量子SGANの方法を拡大した系で実装し、どのような問題に有効か評価する。

4) 量子コンピュータインターフェイスの開発:並列実行された量子計算を後処理することで実効的にエラーを抑制し、高精度な結果を得るための方法を開発する。

■2021年度の新規活動目標と内容、実施の背景

センターでターゲットとしている中規模量子計算機(いわゆるNISQ)ではノイズの影響が避けられないため、ノイズの影響を受けにくいソフトウェア開発と、ノイズを減らすミドルウェア開発が今後も重要である。上記の事業計画項目はこの思想に則るものである。

2020年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

センターは IBM が開発した量子コンピュータ実機 IBM Q を利用できる環境 IBM Q Hub を内包している。2020年度は、この IBM Q Hub と協働しながら、以下の研究を実施し、成果を挙げた。

1) 新規モンテカルロアルゴリズムの開発と実機評価:前年度に開発した振幅推定アルゴリズムを実機検証し、ノイズ存在下の振幅推定精度を評価した。また、手法はいわゆるグローバー演算という量子操作を基本としているが、この部分を修正することで推定精度が向上することを示した。

2) 化学反応計算のための変分型量子アルゴリズムの開発と実機評価:有機LED材料として産業的に重要な熱励起遅延蛍光(TADF)材料に対して、VQEアルゴリズムを適用し、実機で性能評価を行った。これらの手法では基底状態を算出しそれを参照しながら励起エネルギーを計算するため、基底状態計算の精度向上が重要となる。そこでエラーミティゲーションと状態トモグラフィを用いて基底状態計算におけるノイズを極力取り除き、精度を向上できることを示した。

3) 量子機械学習器の開発と実機評価:離散データを量子計算機に埋め込む、量子ランダムアクセスコードに基づく新しい方法を開発した。これを実機で動作させ、心臓疾患データなどを分類する実証実験を行った。また、量子回路の表現能力を評価し、量子回路選択の指針を与える基盤を構築した。また、半教師付き敵対的生成ネットワーク(SGAN)の量子版を考案した。これは量子計算機を用いて古典分類器を鍛えるというNISQ向きスキームであり、ある分類問題で古典ニューラルネットと同等の分類性能を達成した。

4) 量子コンピュータインターフェイスの開発:単一量子プロセッサ上で複数の量子回路を並列実行するコンパイラを開発した。これにより量子プロセッサ使用時間あたりの処理能力が向上した。また量子ビット間のクロストークを解析し、並列実行する回路の組み合わせ・密度を最適化することでIBM Q提供のコンパイラよりも高精度な計算結果が得られた。

■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

公刊論文数9件(以下に記載)、学会発表件数26件

  1. Yutaka Shikano, Kentaro Tamura, and Rudy Raymond, Detecting Temporal Correlation via Quantum Random Number Generation, Proceedings 9th International Conference on Quantum Simulation and Quantum Walks (QSQW 2020), http://dx.doi.org/10.4204/EPTCS.315.2(査読あり)

  2. Hiroaki Wakamura and Tatsuhiko Koike, A general formulation of time-optimal quantum control and optimality of singular protocols, New Journal of Physics, https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1367-2630/ab8ab3(査読あり)

  3. Poramet Pathumsoot, Takaaki Matsuo, Takahiko Satoh, Michal Hajdušek, Sujin Suwanna, and Rodney Van Meter, Modeling of measurement-based quantum network coding on a superconducting quantum processor, APS PHYSICAL REVIEW A 101, 052301, https://journals.aps.org/pra/abstract/10.1103/PhysRevA.101.052301(査読あり)

  4. Shin Nishio , Yulu Pan, Takahiko Satoh, Hideharu Amano, Rodney Van Meter Extracting Success from IBM's 20-Qubit Machines Using Error-Aware Compilation ACM Journal on Emerging Technologies in Computing Systems Vol. 16, No. 32 https://dl.acm.org/doi/10.1145/3386162(査読あり)

  5. H. Yano, Y. Suzuki, R. Raymond, and N. Yamamoto, Efficient discrete feature encoding for variational quantum classifier, to appear in Proceedings of IEEE International Conference on Quantum Computing(査読あり)

  6. J. Chen, H. I. Nurdin, and N. Yamamoto, Temporal information processing on noisy quantum computers, Phys. Rev. Applied 14, 024065 (2020)(査読あり)

  7. Y. Suzuki, H. Yano, Q. Gao, S. Uno, T. Tanaka, M. Akiyama, and N. Yamamoto, Analysis and synthesis of feature map for kernel-based quantum classifier, Quantum Machine Intelligence, 2, 1-9 (2020)(査読あり)

  8. Takahiko Satoh, Yasuhiro Ohkura, Rodney Van Meter, Subdivided Phase Oracle for NISQ Search Algorithms, IEEE Transactions on Quantum Engineering(査読あり)

  9. K. Endo, T. Nakamura, K. Fujii, and N. Yamamoto, Quantum self-learning Monte Carlo and quantum-inspired Fourier transform sampler, Phys. Rev. Research 2, 043442 (2020)(査読あり)

■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

今年度もIBMと共催でバーチャル量子プログラミングコンテスト''Quantum Challenge''を開催した。

センター オリジナルWebサイト:

設置期間

2018/07/01~2026/03/31

メンバー

プロジェクトメンバー

研究代表者

山本 直樹

教授理工学部原子・分子・量子エレクトロニクス、制御・システム工学

伊藤 公平(-2021/5/27)

教授理工学部薄膜・表面界面物性、結晶工学、応用物性

神成 文彦

教授理工学部光工学、光量子科学