慶應義塾

論理と感性のグローバル研究センター

公開日:2025.06.30
KGRI

センター概要

21COEとグローバルCOEを継承し、人の判断や行動における論理と感性の関わりについて多層的に解明することを目的とする。特に、哲学、倫理学、論理学、美学・美術史学、文学、考古学などの人文科学系手法と心理学、行動科学、教育学、発達科学、医療人類学などの社会科学系手法を中心に、これに神経科学、認知科学、情報科学系手法を加えて、論理と感性の学際的な研究を行う。これを通じて人間のより深い理解を目指すとともに、成果の社会還元も目指す。学際性、国際性、若手研究者育成を重視している。

2021年度事業計画

■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標

これまでの分野横断的で多層的な方法論による研究テーマを継続的に発展させる。 1. 島皮質における感情処理機能、前頭極の機能およびうつ症状、認知症における進行の指標に関する認知神経科学研究 2. オンライン実験を用いた絵画や顔印象,音楽の評定研究,脳波研究,絵画や写真画像を用いたfMRI研究 3. ・定型,非定型発達乳児の縦断研究(脳機能計測,母子相互作用観察,アイカメラ実験) ・乳幼児の人工文法の階層構造理解についての研究 ・二者間のコミュニケーション活動における脳や生理指標の同期研究 4. 「感性」に関する研究として、鳥類モデルを用い、向社会行動をうみだす「情動」について、神経内分泌的なメカニズムの分析をすすめる。 5. 成人双生児へのweb調査の実施、MRIと採血によるDNA採取(玉川大学のMRIが利用可能になったら)、縦断データの分析、ニュースレターの発行など

■2021年度の新規活動目標と内容、実施の背景

人間の判断や思考における「論理」と「感性」はそれぞれ独立でははなく、互いに補完的に働いていることがこれまでの研究から明らかになってきた。論理的処理系と直観的・感性的処理系はこれまでしばしば独立で対立的デュアルシステムと理解されることが多かった。2021年度の研究において、我々はこの「論理」系と「感性」系の関係をさらに踏み込んで互いにどのように補完的役割を果しているかを明らかにしていく。人文科学的「心」研究、神経科学的「脳」研究、行動科学的「身体」行動研究は充分に成熟した段階にある。これらの成果を基にして、「心―脳―身体」系という学際的観点から「論理」と「感性」の相互依存的―相互補完的関係を多層的に捉える必要があり、学際的研究活動を継続する。より具体的には、

  1. これまでの研究成果の理論面を多層的にさらに整理する。また「論理」的側面と「感性」的側面について、理論的研究、被験者実験、フィールドワークを通じて兼空する。「論理」と「感性」の補完性の研究も研究対象とする。

  2. 我々の新たな研究成果を用いた応用研究をさらに行う。子供の論理と感性の発達の支援、発達障がい児支援、支援者トレーニング、地域へのアウトリーチ、よい意思決定や論理判断ができるグラフィック情報支援、人の健康や安全のための環境デザインへの応用などを考察する。

  3. これまで進めてきた(A)分野融合研究体制、(B)国際連携関係、(C)若手研究者育成の成果の整理をさらに進めて、研究計画に活かしていく。特に、3年後に迎えるセンター10年満期の総合成果まとめに向けて研究を進める。 具体的研究例:Dissagreementの論理と哲学に関する日仏研究、認知症における進行の指標に関する認知神経科学研究、音声言語発話の発達。熟達性と創造性の関係について視線計測や手の動きの分析を行い、客観的指標を開発、オセアニアで切り開く「めぐり合わせ」の歴史人類学。

2020年度事業報告

■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度

新型コロナウイルスの影響により、多くの実験・調査の中断を余儀なくされたが、前年度までの研究成果をもとに更なる成果を上げた。例えば次の点で予想以上の成果が上がった。

  1. 視覚的感性に関する研究を中心に実験的研究を行うとともに、考古学者との共同研究や音楽学の研究者との共同研究をもとに広く美を生みだす心の働きを実験的に検討してきた。

  2. 定型,非定型発達(リスク)乳児の縦断研究はコロナ禍の影響で3ヶ月半ほど中止していたが,7月以降は参加したい方のみ継続して脳機能実験,発達検査,運動実験などの研究を行った。縦断研究で撮影した母子相互作用のビデオデータについて社会的行動以外に音声,運動を含めた項目で追加コーディングをした結果,定型児においては6ヶ月齢での母子遊びにおける母親のリズム発話運動の働きかけがその後の言語獲得に影響を及ぼしているが,非定型児ではそうでないことが示された。

  3. 学童期双生児の来校調査、玉川大学での脳画像調査がいずれもコロナのために中断を余儀なくされていたが、11月より来校調査については大学のコロナ対策委員会の承認を得て再開した。その間、これまでに収集した縦断データをもちいて学会活動を行い、またチーム内で研究発表会を行った。

  4. 1年間に渡りオンライン研究会 "ReproducibiliTea Tokyo" を毎週開催し、国内各地から大学教員、大学院生が参加して、心理学研究が今後向かうべき方向性について、心理学における再現性問題、心理学理論の不在、科学における理論とは何か、心理学知見の一般化可能性、Open Scienceと研究倫理、といったテーマを据えて、集中的に議論を行った。

  5. うつ病と認知症の研究を進めるとともに、バークレー・エジンバラ大学での発表や、Global Social Medicine のネットワーク・ウェルカム財団との共同研究を通じて日本の精神医療に関する国際比較研究を行った。

  6. 人間の「心・脳・行動」の統合的な解明に向けて、特に「心」と「判断・行動」に関わる哲学、認知、情報科学の分野融合的アプローチのもと、センター構成員と共同研究員が論理と感性の研究をさらに進展させた。 達成度:成果は予想以上であり、充分な達成度であったと考える。

■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)

主な出版論文数:71本, 主な雑誌 Neuroimage, Developmental cognitive neuroscience Cognitive Processing,, Brain, Brain Structure and Function, Brain Research, 美学

学会発表件数(国内・国際):84件(うち国内54件、国際30件)

主なイベント: 2021年2月25日 センター主催 センター年度末成果報告会 (三田) 2021年1月14日 センター共催 Disagreement in Logic and Reasoning 会議(オンライン)

メディア取材:雑誌AXIS、NHK-BSプレミアム、毎日新聞、New York Timesなど多数。

■センター活動を通じて特に成果を挙げた事柄

  1. 記憶の神経基盤の障害により、どのような認知機能障害や神経変性に変化が現れるかを詳細に検討した。認知症における変性疾患の進行度合いの予測因子になる可能性のある、fMRIの安静時機能的結合の時間解析データについて詳細に検討した。そして、それが記憶と感情に関するどのような処理と関連するのかを解明するための分析手法を確立させた。

  2. 顔の印象に関する研究では顔形態と顔印象との数理的解析に基づいて顔の特徴量を明らかにすることができ、国際誌に掲載された。

  3. 成人の二者間、母と乳児の二者間の脳同期データを行動データとの関係からも適切に解析する方法を、シミュレーション研究等を通して開発し、実際のデータ解析に応用させた。この他にも乳児の表情筋活動計測を活かす相互作用実験や言語実験を実施した。

  4. 6か国による国際共同研究チームによって、カラスの多種間を用いた行動比較を行い、向社会行動が協同繁殖生態と結びついて進化したことを示唆する発見にいたった。

  5. 日本心理学会第84回大会 若手の会企画シンポジウム「若手が聞きたい再現可能性問題の現状とこれから」において話題提供を行った。

  6. 三田哲学会『哲学』特集号146集(岡田光弘教授退職記念号)2021年3月刊行予定において、哲学・論理・心理学の若手研究者・大学院生総勢10名が寄稿した。

プレスリリース:

センター オリジナルWebサイト:

設置期間

2014/04/01~2024/03/31

メンバー

プロジェクトメンバー

研究代表者

梅田 聡

教授文学部認知心理学、神経心理学、認知神経科学

安藤 寿康

教授文学部教育心理学、行動遺伝学

ヴォルフガング エアトル

教授文学部倫理学史、形而上学、現代倫理学