慶應義塾

KGRI Grant 2026: 日本の小児慢性疾患における Financial Toxicity の発生・波及構造の解明と概念モデルの構築

公開日:2026.07.13
KGRI

研究概要

Financial toxicity(FT)とは、疾病や治療に伴う経済的負担が、患者や家族に物質的困難、心理的苦痛、行動の変化をもたらし、受療行動や臨床転帰にも影響しうるという概念である。もともとはがん領域を中心に研究されてきたが、近年では、成人のさまざまな慢性疾患にも対象が広がっている。小児領域でも、海外では小児がんを中心に知見が蓄積されつつある。小児では、経済的負担の主な担い手が患児本人ではなく家族、とりわけ保護者である点に特徴がある。

長期にわたる治療や療養によって経済的負担が継続・蓄積し、FTが生じる可能性は、がん以外の小児慢性疾患にも共通する。一方で、通院頻度、治療内容、日常的な医療ケアや療育の必要性、保護者の就労への影響は、疾患や病期によって大きく異なる。そのため、小児慢性疾患におけるFTは、単なる医療費負担としてではなく、疾患特性、家族が担うケア、就労や所得への影響、利用可能な社会的支援が相互に関係する過程として捉える必要がある。

経済的負担の大きさや現れ方は、各国の経済状況や医療・福祉制度によっても異なる。日本では、医療費助成や障害児福祉サービス、各種手当などの公的支援が設けられている一方、その対象や給付範囲は制度ごとに異なる。所得制限や所得に応じた自己負担が設けられている制度もあり、ケアの必要性が変わらないにもかかわらず、支援の対象から外れる世帯もある。また、これらの制度は、通院、療育、日常的なケアを家族が担うことによる時間的負担や、就労の縮小、休職、離職に伴う所得喪失を包括的に補償するものではない。さらに、患児の年齢に応じて利用できる制度や支援内容が変化するため、家族の経済的負担も時間とともに変わりうる。

本研究では、こうした日本の制度的背景を踏まえ、小児慢性疾患におけるFTの形成過程を概念モデルとして整理する。さらに、年齢要件や所得要件などによって公的支援の内容が変化する時点に着目し、その前後における医療費、治療の継続、受療行動、臨床転帰の変化をレセプトデータから検証する。これにより、公的支援のあり方が家族の経済的負担を介して、治療継続や患児の健康にどのように結びつきうるのかを明らかにする。

2026年度事業計画

■2026年度の新規活動目標と内容、実施の背景

【実施の背景】

Financial toxicity(FT)とは、疾病や治療に伴う経済的負担が、患者や家族に物質的困難、心理的苦痛、行動の変化をもたらす概念である。小児では、海外でがん領域を中心に研究が進められてきたが、複数の医療費助成制度や福祉制度が併存する日本において、小児慢性疾患のFTがどのように形成されるかは十分に整理されていない。また、小児慢性特定疾病医療費助成(小慢)の年齢要件到達に伴って支援内容が変化する移行期に、受療行動や臨床転帰がどのように変化するかについても、実証的な検討は乏しい。

【2026年度の目標と内容】

本事業は2年間で実施し、初年度となる2026年度には以下の2点に取り組む。第一に、成人およびがん領域の既存のFT概念モデルを出発点として、日本の小児慢性疾患に伴う経済的負担に関する文献をレビューする。直接的・間接的な経済的負担、経済的不安、家族の対処行動、受療行動、患児の臨床転帰、家族の健康や生活への影響、および公的支援との関係を整理し、日本の制度的背景に即した小児慢性疾患のFT概念モデルを構築する。

第二に、概念モデルに基づく実証分析として、小慢の対象である一方、成人期には指定難病の医療費助成へ移行しない疾患を対象に、JMDCレセプトデータベースを用いた研究計画を具体化する。対象集団、観察期間、曝露、アウトカム、共変量および解析手法を確定したうえで、データ抽出、変数作成、対象者数と主要変数の分布の確認までを行い、本解析の実行可能性を評価する。これにより、2年目に予定する本解析、成果公表および外部研究資金への申請に向けた基盤を整備する。

メンバー

研究代表者

本多 貴実子

特任講師健康マネジメント研究科医療経済評価、小児科学、腎臓病学