慶應義塾

KGRI Grant 2026: 人工冬眠による心停止後症候群の克服に向けた新規脳保護戦略基盤の構築

公開日:2026.07.09
KGRI

研究概要

心停止後の蘇生においては、有効な治療を行うための時間的猶予(治療ウィンドウ)が極めて短く、救命や脳機能の回復が困難になることが大きな課題となっています。本研究では、自己心拍再開後に休眠様極低代謝状態(人工冬眠)を誘導することで、臓器障害の進行を遅らせ、治療のための時間的猶予を拡大できるかを基礎研究によって検証します。

本研究の成果は、患者の社会復帰率を飛躍的に向上させるという多大な社会的意義を持つとともに、蘇生科学の分野に人為的に休眠状態を作り出して臓器を保護するという新たな概念を確立するものです。

さらに、この治療法は心停止のみならず、他の重篤な救急疾患にも応用可能な拡張性の高い基盤技術であり、将来的には多くの救急患者の救命に貢献することが期待されます。

2026年度事業計画

■2026年度の新規活動目標と内容、実施の背景

■ 新しい研究の目標と内容

この研究では、「心停止から蘇生したマウス」を人工冬眠状態にすることで、細胞が死んでいく連鎖反応を急ブレーキのように遅らせることができるかを確かめます。これにより、臓器のダメージ進行を食い止め、「治療が間に合うタイムリミット(治療の猶予時間)」を延ばせるかを検証します。

具体的な手順は以下の通りです:

ダメージ進行の観察

心拍が再開した後のマウスを人工冬眠させ、本来であれば急速に進んでしまう臓器のダメージが、どのように変化・進行していくかを詳しく調べます。

現在の標準治療との比較

現在、医療現場で行われている「体温を下げる(または平熱に保つ)治療」と、「人工冬眠」を比較します。脳の機能や生存率がどう変わるかを比べることで、「体を冷やすこと」と「冬眠のように体のエネルギー消費(代謝)を極端に下げること」のどちらが、より回復に役立つのかを明らかにします。

■ 研究を行う背景

救急医療の世界では、「急いで救う」という言葉の通り、治療が間に合うタイムリミットが非常に短いことが大きな課題です。とくに心停止はその時間が極端に短く、動物実験で効果があった画期的な治療法であっても、人間の実際の医療では時間切れとなり、実用化に至らない原因の一つになっています。心停止から心拍が再開した直後には、止まっていた血流が再び急激に流れることで、全身の臓器に大きな負担がかかります。とくに脳や心臓へのダメージは深刻で、これが早期に命を落としてしまう主な原因となっています。

動物の「冬眠」のスイッチとなる「QRFP」という脳内の物質があります。近年の研究で、この物質はマウスや人間のような本来は冬眠しない動物の体の中にも存在していることがわかりました。さらに、通常は冬眠しないマウスであっても、このQRFPを刺激することで、人工的に冬眠のような状態(エネルギー消費を極端に抑えた状態)を作り出せることが報告されています。

もし、この「人工冬眠」によって患者さんの時間をゆっくりに進め、治療のタイムリミットを延ばすことができればどうなるでしょうか。より適切な精密集中治療を行ったり、設備が整った遠くの病院へ安全に搬送したりする時間が生まれます。結果として、命を救える確率や、後遺症なく社会復帰できる確率を大きく引き上げることができると私たちは期待しています。

メンバー

研究代表者

多村 知剛

専任講師医学部心停止蘇生、脳障害、水素ガス、免疫応答