研究概要
本研究は、「教育と創造を通じて地域エコシステムを築く」という理念のもと、農業、食、物流、クリエイティブ産業、教育といった複数分野を横断的に接続し、持続可能かつ創造的な地域社会の構築を目指す学際的な取り組みである。FeED(Forge Ecosystems, through Education and Design)プロジェクトでは、データ駆動型の農業教育モデルと地域連携による担い手育成を主軸として、熟練農家の暗黙知をデジタル技術で可視化・体系化し、新たな就農希望者が効率的に技能を習得できる学習環境の構築を推進する。2026年度は、前年度に整備した設計基盤をもとに、学習システムの開発・実証へと展開し、農業教育のDX化と地域の担い手育成を加速させる。
2026年度事業計画
■前年度より継続する活動内容について、継続する背景・根拠と目標
前年度に構築した農業技能・知識モデル、要求仕様、コンテンツ骨格を基盤として、学習システムの開発・実証フェーズへと移行する。アジャイル開発の手法を導入し、短期サイクルでの開発・フィードバック・改善を繰り返すことで、研修現場の実態に即したシステムを迅速に構築する。前年度に取材・編集が未完了のコンテンツについても追加整備を進め、学習教材の網羅性を高める。また、産学官の関係者による検討会を継続して開催し、開発方針の確認と合意形成を図るとともに、退職予定自衛官をはじめとする多様な就農希望者の視点を取り込むため、関係機関との連携体制をさらに拡充する。前年度の基盤整備の成果を着実にシステムとして具現化し、現場での検証につなげることが本年度の中核的な目標である。
■2026年度の新規活動目標と内容、実施の背景
2026年度は、学習システムの実証(PoC)を新たに開始する。新規就農希望者や退職予定自衛官を対象に実際の研修場面でシステムを試行し、学習効果を定量的に検証する。これにより、デジタル学習が従来のOJT中心の研修をどの程度補完・強化しうるかを実証データとして示すことを目指す。また、前年度に整理した適用方向性をもとに、既存の就農研修プログラムへの具体的な組み込みを関係者と協議し試行する。独立就農希望者に加え、雇用就農を目指す層に対する研修のあり方についても検討を広げる。さらに、対象品目の拡大に向け、前年度に確立したデータ収集・コンテンツ化のプロセスを標準化し、他の作物や他地域への展開を見据えた準備を並行して進める。地域全体としての就農者受け入れ態勢の構築に向け、行政や地元金融機関との連携を含む地域エコシステムの形成にも本事業の知見を活かしていく。
2025年度事業報告
■当該年度事業計画に対する実施内容、および研究成果と達成度
2025年度は、FeEDプロジェクトが掲げる「教育とデータの融合による地域エコシステムの構築」を農業分野において具体化する年度として位置づけ、静岡県との連携のもと、社会人の就農を支援するデータ駆動型学習システムの基盤整備に取り組んだ。農作業を「状況把握→判断→農作業」の3段階で構造化する農業技能・知識モデルを構築し、熟練農家が長年の経験を通じて蓄積してきた暗黙知を、デジタル技術により可視化・体系化して伝達可能にするための枠組みを設計した。この枠組みに基づき、栽培現場での映像記録・環境データの収集、学習コンテンツの先行開発、および学習システムの要求仕様策定を一体的に推進した。また、県内の既存就農研修プログラムを分析し、研修プロセスを「理解」「現場体験」「問題対応」「内省」の4フェーズで再整理することで、デジタル学習と現場でのOJTを補完的に統合する新たな研修モデルの方向性を提示した。生産者・行政・教育機関・民間企業が参画する検討会を通じた合意形成も進め、3か年計画の初年度として設定した基盤整備の目標をおおむね達成し、次年度のシステム開発・実証に向けた準備が整った。
■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、イベントなど社会貢献の実績(年月日、場所)
初年度の活動としては、社会貢献活動を主軸に実施した。
論文数 0
学会発表件数 0
社会貢献:2
FeEDセミナー
1)「個益・公益のデザイン」神成淳司(FeED代表)、 2026年1月、内閣府
2)「人口減少下の日本の医療への処方箋」武藤真佑氏(招待講演)、2026年2月 慶應義塾大学三田キャンパス北別館レクチャールーム
■プロジェクト活動を通じて特に成果を挙げた事柄
最も大きな成果は、農業における技能伝承の課題に対して、「教育×データ×地域連携」という学際的なアプローチから具体的な解決の道筋を示したことである。熟練農家の暗黙知を構造化し学習コンテンツとして伝達可能にするモデルの構築は、農業分野に限らず、経験知の継承が課題となる他産業への応用可能性を持つ。また、研修プロセスを4フェーズで再整理し、デジタル学習と現場研修の統合モデルを提示したことで、地方における職業教育のDX化に向けた実践的なフレームワークを示すことができた。さらに、農林水産省のガイドラインを踏まえたデータ知財の取扱い方針を設計し、データ提供者の利益保護と利活用促進の両立を図る枠組みを要求仕様に組み込んだことは、農業データの社会的活用を進めるうえでの基盤的な貢献といえる。
