創造
研究概要
世界に先駆けて日本が直面する超高齢化社会の問題(2040年問題)の解決を目指して、世界最先端の学際的若手研究者集団が結集し、社会課題ドリブンのバックキャスト型チームが誕生しました。「ソフトマターで切り拓く持続可能な文明社会とは?」というキーワドのもとで、人間と機械の融合(社会的調和や身体的融合)をベースとした革新的テクノロジーを発明し、新生活様式としての世界標準モデルを世界に先駆けて提案することを目指します。
2040独立自尊プロジェクトについて:
研究成果報告
■研究概要と総括
本プロジェクトは、来る2040年の未曾有の超高齢社会がもたらす諸問題を技術的創発によって解決を目指すものである。その中でも、労働人口の著しい低下は国家基盤そのものを揺るがしかねない大問題であり、私たちのプロジェクトでは人々の健康寿命を延伸するための技術の開発(IoTヘルスケアデバイスやバイオメディカルデバイス等)や新たな労働力になりうるAIロボティクスの社会実装を目指してきた。しかし、当該領域では多くのデバイスが提案されてきたが、その身体的負担から人類の生活様式を変革させるまでには至っていない。イノベーションを起こすには、「身につけていることすら意識させない、人体と一体化するようなデバイス」の実現こそが鍵であり、ソフトマターと呼ばれる新しい物質群の利活用が最有力と目されている。ソフトマターはタンパク質や細胞のような柔らかい物質の総称であり、自然界が生命体を構成するために用いる最大要素である。
本プロジェクトは、ソフトマターの科学の社会実装の名の下に、分野の垣根を超えた世界最先端の研究者を結集させ、ワンチームとすることで、「人間と機械の融合と調和」を実現することを目指してきた。
大枠のテーマとしては、①バイオセンサーとしてのエクソソーム、②電子人工皮膚、③ヒラム型ソフトロボット、④感性分子ハプティクスという4つの新規デバイスの開発を進めてきた。
①バイオセンサーとしてのエクソソームは、体内のメッセンジャーとして謎に包まれているエクソソームの世界初の単離分析デバイスを目指すプロジェクトであり、実現すれば癌などの多くの疾患に深く関与すると目されているエクソソームの謎を解き明かす学術的インパクトだけではなく、エクソソームを使った病気の将来予測や治療デバイスの開発につながると考えている。我々は、エクソソームの単離デバイスのプロトタイプの開発に成功し、特許申請を行なっている。
②電子人工皮膚とは、我々の皮膚に貼る薄膜エレクトロニクスデバイスのことであり、さまざまなバイオセンサーを搭載することで、人々のバイタルを常時モニタリングすることで、いち早く健康状態の変化を捉えることを目的としたデバイスである。我々は、数nmオーダの極薄の生体親和性の高いゲル素材を用いて、貼っていることを全く認識できない究極の薄膜人工皮膚の開発に成功した。また、液体金属による配線技術を実装し、脈拍計測やディスプレイ表示可能なデバイスを開発した。本プロジェクトは、MIT Innovators Under 35 Global 2022に選出された。
③ヒラムシ型ソフトロボットは、世界的にも類をみない「完全に柔らかい素材のみで駆動する自律型ロボット」であり、ヒラムシという軟体海洋生物の人工的な再現を目指してきた。現在、海洋中の泳動に必要な動力を得るためのソフトアクチュエーターの開発を進めており、改良型IPMCを用いてまだまだ推進力としては弱いものの、水中泳動が可能なプロトタイプが完成し、その泳動実験/解析を実施するに至っている。
④感性分子ハプティクスは、人間の触覚を通して人間の感性を制御する(人間の食欲制御、感情制御、認知機能など)ことを目指すゲルデバイスである。我々は、Tetra-PEGゲルという構造及び粘弾性特性を自在に制御できる唯一無二のゲル素材を用いて、分子レベルのゲルの構造と人間が感じる触り心地の相関を明らかにしてきた。現在、硬さ/柔らかさ知覚とゲルの構造・物性のロバストな回帰モデルを構築することで、触感を定量的に表す法則の探究を進めている。
以上のように、本プロジェクトでは、ソフトマターの技術を積極的に活用した社会実装を目指したテーマを強力に推進してきた。
いずれのテーマも産業界から多くの関心を寄せていただいており、2040独立自尊プロジェクトの協賛企業として多くの企業が積極的に投資いただけるようになってきた。
また、学術的な成果物としては、50の学術論文(投稿中を含む)を発表しており、Nature姉妹誌などを含むHigh Impactジャーナルに多くの論文が掲載されてきた。本プロジェクトは、学術的インパクトはもちろん、社会実装の可能性を社会的にも強く発信しており、産業界から高い評価と関心をいただいており、引き続き精力的に研究開発を進めていく所存である。
単年度(2021年度~2023年度)ごとの計画と計画に対する実績
■各年度事業(活動)計画に対する実施内容、および研究成果と達成度
【2021年度】
初年度は、本プロジェクト立ち上げの重要な時期と位置づけ、「人間と機械の調和と融合」をコンセプトにし、野心的でオリジナリティの高い13の研究テーマを立ち上げた。本プロジェクトのコンセプトに賛同する学内外の20名の先端研究者を集めることができた。
本プロジェクトは、三つサブチーム(「基盤チーム」「実装チーム」「先導チーム」)によって構成されている。
基盤チームでは、本プロジェクトのターゲットである物質であるソフトマテリアルの基礎物性開拓を精力的に進めた。ソフトマテリアルは人工皮膚など人間と機械を融合するために欠かせない物質であり、それらの新しい物性評価法やコンピューターシミュレーションを駆使した新現象の開拓を行った。
実装グループでは、ソフトマテリアルだけで構成されるロボット(ソフトロボット)の基本構造を提案し、複数のプロトタイプを作成した。また、ステルス性の高い人工皮膚の開発も実施した。人間の皮膚に貼り付けても全く違和感のない人工皮膚材料として最適な材料の選定を実施した。さらに、さまざまな疾病情報を有していると目されているエクソソームの基礎物性解明を行うため、まだ達成されていないエクソソームの単離技術の開発を行った。新しい単離デバイスのプロトタイプを作成し、単離実験の試行が開始したところである。
先導グループでは、「人間と機械が調和・融合する社会」に必要な社会的議論を促すために、「健康長寿プロジェクト」「プラットフォームプロジェクト」との情報交換を実施し、連携体制を構築した。投稿準備中のものを含めればすでに7本の学術論文、26回の学会発表につながる成果を得た。本年度は、研究チームの立ち上げ及び研究環境整備だけではなく、すでにいくつかの成果物を得ることが出来たことを踏まえて、当初計画を超える進捗を得たと評価している。
【2022年度】
2022年度は新たなテーマの立ち上げを行った。学内外から4名の新たなメンバーを招集し、24名の先端研究者チームで実施した。
基盤チームでは、昨年度に引き続いて本プロジェクトのターゲットである物質であるソフトマテリアルの基礎物性開拓を精力的に進めた。ソフトマテリアルは人工皮膚など人間と機械を融合するために欠かせない物質であり、それらの新しい物性評価法やコンピューターシミュレーションを駆使した新現象の開拓を行った。
実装グループでは、昨年度に提案した新しいソフトロボット(ヒラムシ型ロボット)のプロトタイプを制作し、水中における遊泳性能を検証した。また、ステルス性の高い人工皮膚の開発においては、数nmオーダーの超極薄の薄膜の人工皮膚を作成し、人間の皮膚に貼り付けても全く違和感のない人工皮膚の開発に成功した。さらに、さまざまな疾病情報を有していると目されているエクソソームの基礎物性解明を行うため、まだ達成されていないエクソソームの単離技術の開発を継続開発した。本開発プロジェクトは、MEMS関連の国際会議の権威であるThe 36th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (IEEE MEMS 2023)にてベストプレゼンテーションを受賞した。
また、先導グループでは、「人間と機械が調和・融合する社会」に必要な社会的議論を促すために、「健康長寿プロジェクト」「プラットフォームプロジェクト」との共同プロジェクトとして、みなとみらいPJの立ち上げを行った。投稿準備中のものを含めればすでに21本の学術論文、2件の特許、49回の国際会議、26回の国内学会発表につながる成果を得た。本年度はプロトタイプに近い成果物が得られており、本年度も計画を上回る進捗を得たと評価している。
【2023年度】
本年度は、各テーマでプロトタイプの完成が相次ぎ、それらの評価報告を学会や論文誌で発表する機会を多く得ることが出来た。特筆すべき成果について以下に簡単にまとめる(一部、研究概要と総括と重複する)。
エクソソームのテーマでは、エクソソーム単離デバイスの初号プロトタイプの開発に成功し、その性能評価を発表した。現在、国際論文誌に投稿中である。また、電子人工皮膚のテーマでは、数nmオーダの極薄の生体親和性の高いゲル素材を用いて、貼っていることを全く認識できない究極の薄膜人工皮膚の開発に成功した。液体金属による配線技術を実装し、脈拍計測やディスプレイ表示可能なデバイスを開発した。
さらに、ヒラムシ型ソフトロボットのテーマにおいては、海洋中の泳動に必要な動力を得るためのソフトアクチュエーターの開発を進めており、改良型IPMCを用いてまだまだ推進力としては弱いものの、水中泳動が可能なプロトタイプが完成し、その泳動実験/解析を実施するに至っている。
また、感性分子ハプティクスのテーマでは、Tetra-PEGゲルと呼ばれる構造及び粘弾性特性を自在に制御できる唯一無二のゲル素材を用いて、分子レベルのゲルの構造と人間が感じる触り心地の相関を明らかにした。現在、硬さ/柔らかさ知覚とゲルの構造・物性のロバストな回帰モデルを構築することで、触感を定量的に表す法則の探究を進めている。
本年度は、2040独立自尊プロジェクトとしても2040年社会を想起する具体的な技術のショーケース用意することで、産業界からの関心を集めることを一つの目標としていた。実際に、いずれのテーマも産業界から多くの関心を寄せていただいており、2040独立自尊プロジェクトの協賛企業として多くの企業が積極的に投資いただけるようになってきた。当然、学術的な成果物を生み出すことも重要と考えており、三年間を通して50の学術論文(投稿中を含む)を発表しており、Nature姉妹誌などを含むHigh Impactジャーナルに多くの論文が掲載されてきた。
本プロジェクトは、学術的インパクトと同時に、産業界から高い評価と関心をいただいており、当初計画を大きく上回る成果を得たと評価している。
■公刊論文数(件数と主たる公刊誌名)、学会発表件数(国内・国際)、受賞歴など
公刊論文数
50件(投稿中含)
主要な掲載論文誌一例:
・Nature Materials
・Physical Review Letters
・Nature Biomedical Engineering
・Science Advances
・Advanced Materials
等
国際学会発表件数
74件(招待講演22件)
主な受賞歴
・MIT Innovators Under 35 Global 2022
・PMI Future 50 2023
・MIT Innovators Under 35 Japan 最終候補 2023
■プロジェクトで活動した人員の規模(重複あり)・分野およびプロジェクトの運営形態
【2021年度】
本プロジェクトでは、図1に示すような三つのサブグループを組織し、研究として目指す方向性を明確に分けて研究活動を行ってきた。以下の20名のメンバーで研究活動を実施した。
図1 本プロジェクトのグループ構造とテーマ
【2022年度】
本年度は新規研究テーマの立ち上げに伴い、4名のメンバーを追加して運営を行なった。以下の24名のメンバーで研究活動を実施した。
【2023年度】
本年度は昨年度とメンバー構成に変更はなく、以下の24名のメンバーで研究活動を実施した。
■プロジェクト活動を通じて特に成果を挙げた事柄
エクソソーム単離デバイスの初号プロトタイプの開発に成功し、その性能評価を発表した。本成果はその過程において、MEMS関連の国際会議の権威であるThe 36th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (IEEE MEMS 2023)にてベストプレゼンテーションを受賞した。(特許申請中)
貼っていることを全く認識できない究極の薄膜電子人工皮膚の開発に成功した。
完全に柔らかい材料だけで構成される水中泳動が可能なヒラムシ型ロボットのプロトタイプが完成した。(特許申請中)
50の学術論文(投稿中を含む)を発表しており、Nature姉妹誌などを含むHigh Impactジャーナルに多くの論文が掲載されてきた。また、22件の招待講演にお招きいただくことが出来た。
本プロジェクトに対する高い社会的関心を集め、社会実装を目指すエコシステムの構築を行うことができた。現在、2040独立自尊プロジェクトに賛同する協賛企業や行政機関などからなる400名超の一大コミュニティに成長している。
本プロジェクトから2040年社会を構築する新しい技術動向と未来の社会像を発信する必要性を感じ、東京エレクトロン様からの強い共感を得て、「Society5.0時代の新しい社会システムと科学技術(東京エレクトロン寄附講座)」を立ち上げることが出来た。2024年度(現在)は223名の理工学研究科の大学院生が受講生として登録されている。
