国立がん研究センターの最新がん統計によると2021年に新たに診断されたがんは988,900例(男性555,918例、女性432,982例)、2024年にがんで死亡した人は384,111人(男性221,786人、女性162,325人)となっています。日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性63.3%、女性50.8%といずれも「2人に1人」に達しており、まさに国民病と言える状況です。一方で、2009~2011年に診断された方の5年相対生存率は男女計で64.1%に向上しており、がんは「長く付き合う疾患」へと変化しています。がんは高齢者に多いという特性から、超高齢社会においてさらなる増加が予想されます。一方、小児、AYA世代と呼ばれる思春期や若い成人、そして働く世代に対する就労支援など、きめ細かい対策が求められています。
現代におけるがん治療の方向性として、個別化医療が挙げられます。次世代シークエンサー(next generation sequencer: NGS)によるゲノム診断で精密医療が実現化しつつある中、慶應義塾大学は、高度な治療と生活の質(QOL)の維持・向上を両立させる社会課題に応えるべく、第4期のがんプロフェッショナル養成講座を推進してまいります。
文部科学省は事業の全体目標として、「誰一人取り残さないがん対策を推進し、すべての国民とがんの克服を目指す。」とし、全体目標の下に、「がん予防」、「がん医療」及び「がんとの共生」に関する分野別目標を定め、これらの3本柱を支える基盤整備の一つとして、「人材育成の強化」を推進することとしています。そのため、事業名を、「次世代がん医療を担う多職種人材養成プラン」とし、3つの分野別目標に呼応すべく、以下の3つのテーマを設け、推進してまいります。
テーマ1:がん医療の現場で顕在化している課題に対応する人材養成
「誰一人取り残さないがん対策の推進」を実践していくためには、患者のニーズにあったきめ細やかな対応が求められます。しかし①患者の苦痛を理解し寄り添う痛みの治療・ケアや終末期医療を担う専門家や、②個別化医療や希少がんの診断、治療を担う様々な職能を有する専門家、③高齢者や心・腎機能に関する併存疾患を抱えるがん患者への安全な医療の提供を可能とする学際領域の専門家が現場では必要とされていますが、十分とは言えません。本事業では、治療の高度化に伴い重要度が増している関連診療科や多職種連携を軸に、参加校の連携を強化し、人材不足が顕在化しているこれらの専門家を養成して、これらの課題解決を目指します。
テーマ2:がん予防の推進を行う人材養成
がんは我が国の死因の第一位の疾患であり、効率的な予防医療の確立は重要な課題です。医療ビッグデータを利用したAI技術の進展は高精度の診断および予後予測法の開発に結びつきつつあります。このような高精度の識別能・予測能をがん予防に展開させていくためには、医療の視点からAIの原理を理解するがん専門医療人の養成が必要です。さらに生存率が向上する中で、がんサバイバー・家族へのケアも大きな課題となっています。個別性のある医療・ケアの提供に関して、必要となる基礎的な知識と技能を習得することで、遺伝性腫瘍患者やがんサバイバーに対して誰一人取り残さない全人的なケアを実践できる多職種人材を養成します。
テーマ3:新たな治療法を開発できる人材の養成
分子生物学の知見の蓄積により、個別化医療の礎となるがん遺伝子パネル検査や、CAR-T療法などの新規治療法が実臨床に導入されつつあります。しかし、これらの新規技術により恩恵を受ける患者は一部に留まっていることは否定できません。がん克服のブレイクスルーを達成するには全ゲノム解析時代を迎え、個別化医療に精通し、基礎および臨床試験を通じて新薬や新規技術の開発、管理を担える人材の育成が必須です。がん治療薬の基本的知識、臨床研究の立案・計画、実施調整、関連する法規制について学び、これらの知識に基づいて創薬ないしレギュラトリーサイエンスを駆使して個々の患者の治療戦略も構築できる人材や医療統計学、ビッグデータやAIを用いた最先端の医療技術開発など創薬研究に関する幅広い知識を持った人材を養成します。さらには、これらの先進医療が、患者さんの身体機能や生活にどのような影響を与えるかという評価視点を持つ、次世代の人材を育成します。
慶應義塾大学においては、大学院修士・博士課程と下記の7つのインテンシブコースを設定いたしました。
がんゲノム医療実装化コース
痛みの集学的治療コース
薬剤師緩和医療実践コース
小児がんコース
骨転移診療コース
ライフステージ別がんリハビリテーション習得コース
がん薬物療法実践コース
連携校は、東京科学大学、国際医療福祉大学、順天堂大学、東海大学、東京歯科大学、東京薬科大学です。人材交流あるいは教育機会の相互提供にも力を入れ、次世代のがん医療を牽引するリーダーの養成に尽力してまいります。
慶應義塾大学
がんプロフェッショナル養成プラン統括責任者
辻 哲也