慶應義塾

ようこそ、権力が織りなす世界へ

執筆者プロフィール

  • 田上 雅徳

    法学部 政治学科教授(西欧政治思想史)

    田上 雅徳

    法学部 政治学科教授(西欧政治思想史)

政治って素敵ですか?

実は、それほど美しい言葉ではないのが「政治」です。日常会話でも、「あいつの言動は『政治』的だ」とは、人を非難する表現です。また、お笑い芸人がTV番組で時の政権を揶揄しようものなら、「『政治』的な発言を控えないと、スポンサーが降りるぞ」との書き込みでネットが炎上します(面白いことに、政権を擁護する言動が「政治的だ」と非難されることは、あまりありません)。  

つまり「政治」という日本語には、「その人ひとりの利益や理想のために、もっともらしい理屈を用いて、人びとからの支持を得ようとする腹黒さ」という意味合いがあります。そして、その言葉を冠した学科で勉強しようというわけですから、目をキラキラさせた新入生を前にすると、正直、私は何ともいえない気持ちになります。  

にもかかわらず、政治学の魅力をここでは訴えなくてはなりません。しかも、この学問で駆使される用語の中でもとりわけ否定的なニュアンスの強い「権力」に引き付けて、政治学のセールスポイント述べようとするのですから、屈折した話になります。

そもそも、多様性を尊ぶのが政治学

さて、権力には否定的なニュアンスがある、と述べました。というのも、権力という強制力も突き詰めれば暴力だからです。けれどもそんな物騒なものを、どうして人間は必要とするのでしょうか。それは、「権力をチラつかせて脅さないと、そして最悪の場合には(最悪の場合、です)権力を実際に行使しないと、どうにもこうにもまとめられない。それほど、人びとが抱いている理想や利害は多種多様なんだ」と、人間が意識したからに違いありません。結論を急ぎますが、その意味では、政治と政治学が存在する世界とは、人びとや集団の個性がバラエティに富むことを大前提にしている世界です。政治学とは、多様性をめぐる知なのです。あるいはグローバルな視点から、あるいは制度に関心をむけつつ、またあるいは哲学的に、権力とそれが織りなす政治が私たちに必要とされていることの意味を考えてもらいたい。そういう思いを抱いて、私は毎年、日吉の教壇に立ち、皆さんをお迎えしています。