慶應義塾

「女子高魂」でチームをまとめ 東急百貨店の多彩なプロジェクトを主導。 今、変革の時代に挑む

卒業生 小川妙子君(文学部卒)

2022/08/22

小川妙子(おがわ たえこ)旧姓:平野(ひらの)/株式会社東急百貨店 事業戦略室事業開発部長

1999年文学部卒業。同年、東急百貨店に入社。当時の町田店、東横店などの売り場業務から企画などのバックオフィス業務、さらに婦人ファッションのバイヤー、重役秘書などを経験した後、食料品バイヤーとして商品、売り場や催事などの企画・開発業務に辣腕をふるう。「東横のれん街」「渋谷 東急フードショー」など食料品バイヤー部門の責任者として活躍し、現在は事業戦略室事業開発部長。身体を動かすことが好きで、オフの時間にはスポーツクラブでのダンスやゴルフなどを楽しんでいる。

思いっきりハジけた女子高時代“ダブルスクール”の大学時代

-小川さんは幼稚舎から慶應義塾に通われていたのですね。

小川:祖父、父と幼稚舎から大学まで慶應義塾で学びましたから、当然のように私も幼稚舎を受験しました。幼稚舎6年間の担任は近藤晋二先生です。毎日の日記提出や一日のトピックスを5行でまとめる「今日のニュース」が日課で、国語の授業ではひたすらわからない言葉の「意味調べ」を命じられました。今になってみるとこうした勉強は現在の仕事上でも生きていると気付かされます。近藤先生の「いつか本当の力を出せるように普段は八分目で良い」という言葉が印象に残っています。

-中等部、女子高では弓術部に所属されていたとか。

小川:中等部で先輩の道着姿に憧れて入部し、2年生のときに都大会で2位に。女子高では同好会から部に昇格したばかりの弓術部で主将も務め、日吉キャンパス蝮谷の弓道場で体育会の先輩の方々にご指導いただいたことも良い思い出です。

女子高時代の3年間では女子だけの環境になったことで、男子に頼らない「自律」の大切さを学んだように思います。演劇祭や十月(かんな)祭で、仲間と力を合わせて企画から実行までやり遂げました。十月祭の後夜祭では先生も加わって宝塚歌劇のパロディを演じたり、本当に楽しい毎日を過ごしていました。

弓術部時代

-お話しぶりからもその楽しさがひしひしと伝わってきます。

小川:そんな感じだったので、それほど勉強に打ち込んでいたわけではなく、進学先に文学部を選んだのは「社会に出たら絶対に日々やらないことをやろう」と思ったからです。女子高時代に第二外国語で選んで英語より得意になったドイツ語を生かせるドイツ文学を専攻しました。一方で、女子高時代に人前でパフォーマンスをする楽しさを味わったので、女優になってみたいという夢も芽生えていました。そこで大学の授業が終わった後、池袋にあった演劇の専門学校に通い始め、小劇場の舞台にも立ちました。この“ダブルスクール”を決心したのは、幼い頃から慶應義塾という環境しか知らない自分への不安があったからでもあります。もちろん義塾は素晴らしい環境の学び舎ですが、社会人になる前にそれ以外の世界も知っておきたかったのです。

在学中の思い出といえば、3年生のときのドイツ・ベルリンへの短期語学留学です。私にとって初めての海外経験で、あのベルリンの壁崩壊から10年目。仲の良い4人の女子学生で勉強の後においしいビールとソーセージを味わい、以来、私は大のビール好きになりました。

ドイツ・ベルリンでの短期語学留学で右より3人目が小川さん

-演劇活動は続けられたのですか。

小川:いえ、ダブルスクールは2年生までで一区切りをつけました。実は幼稚舎入学後に両親の別居・離婚という出来事があり、経済的にも大変厳しい状況にありました。私が大学まで卒業できたのは、支えてくれた母のおかげであり、また女子高同窓会の奨学金や小泉信三記念奨学金などの支援があったからこそでした。前述のダブルスクールも飲食店や家庭教師などアルバイトの掛け持ちをして自分で学費を捻出しました。そんな学生時代でしたから、早く自分でお金を稼いで母に楽をさせてあげたいという意識が強く、演劇の道はすっぱりと諦めて就職活動に力を入れることに決めたのです。当時は就職氷河期で新卒採用を中止している企業も多かったのですが、採用を再開した東急百貨店など百貨店を中心に6社の入社試験を受けました。

新入社員時代を通して実感した「スタートダッシュ」の大切さ

-就職先に百貨店を選んだのはなぜですか。

小川:自分がやりたい仕事を考えたとき、私は衣食住など、日々の生活の中での楽しみやうれしい発見を人々に提供できる仕事がしたいと思ったのです。ある程度の企業規模があり、女性が長く働くことができる職場……そう考えると百貨店がふさわしいと思えました。東急百貨店に入社したのは、まず母との買い物などたくさんの思い出が詰まった渋谷を本拠とする百貨店だったからです。もう一つ、社内に慶應義塾の学閥がなさそうだったところも入社理由の一つだったかもしれません。ダブルスクールのときもそうでしたが、当時の私は義塾以外の世界を見たいという意識が強かったのです。

-新入社員時代はどのようなお仕事をされていたのですか。

小川:最初に配属されたのは当時の町田店のタオル売り場でした。売り場の仕事を必死にこなしつつ、当時導入されたばかりの東急百貨店独自のポイントがたまる自社カードの顧客獲得にも力を入れていたら、なんと町田店で獲得数トップの成績を挙げたのです。これが店長の目に留まり、1年目にもかかわらず町田店のリニューアルプロジェクトの一員に抜擢されました。東急百貨店は不景気の余波からしばらく新卒の採用を見送っていて、私が町田店では、久しぶりの大卒女性社員として注目されていたこともあったかもしれません。そうした会社の期待を感じていましたから、私も「やってやろう!」と職場ではいつもギラギラしていましたね(笑)。リニューアルプロジェクトをきっかけに、会社から「IFIビジネス・スクール」というファッションビジネスのプロを育成する教育機関に1年間派遣していただきました。ここでは当時伊勢丹のカリスマバイヤーだった故藤巻幸大(ゆきお)さんをはじめとする第一線で活躍する講師から実践的なビジネスを学び、また同業種の仲間をたくさんつくるなど、その後のキャリアの礎を築くことができたと思っています。

-最初からかなりエネルギー全開で活躍されていたのですね。

小川:入社後の3年間は本当に目まぐるしく、このときの経験を振り返ると私は仕事において「スタートダッシュが重要」だと実感します。最初に思い切って勢いよく飛び出せば、その後も常にそのスピード感を維持するようになるからです。

東横店で働いていた2005年には「渋6組」というプロジェクトを任されました。会社帰りの女性をターゲットに、渋谷でショッピングやグルメを楽しんでもらおうという企画です。そのために若手の女性15名のチームが編成され、当時はまだ珍しかったメルマガ会員を募るなど、みんなでアイデアを出し合いました。企画を形にしていく過程で、あの女子高時代の思い出が頭の中によぎり、“女子高魂”でみんなをまとめていきました。若い女性だからこそできる仕事をすることが大切だと私は思っていて、そうした生意気な私に好きなことをさせてくれる社風が東急百貨店にはあります。

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東急百貨店ならではの食の提案で変革の時代への挑戦を続けていく

-そういう小川さんも、やがて管理職への道を歩まれるようになるわけです。

小川:一つの転機は、2007年に伊勢丹との業務提携に伴い、伊勢丹から派遣された常務の秘書として仕事をサポートすることになったことでした。常務に付いて東急百貨店全店の管理職と会い、その議事録をまとめた経験から、多くのことを学びました。2012年に今度は食料品部門のバイヤーに抜擢されました。食料品の仕事はいわば「切った張った」の男臭い世界でしたが、常務の「小川さんなら大丈夫」という一言で決まったそうです(笑)。

実際に仕事を始めてみると、これが天職ではないかと思うほど楽しかったです。食べることは大好きでしたし、「商品」「取引先」と「売り場」「お客様」をマッチングさせる創意工夫や関係者とのコミュニケーションにも意欲的に取り組むことができました。食品は作る人の気持ちがそのまま表れる商品です。魅力的な商品を提供される取引先の方々は人間的にも真摯で温かく素晴らしい方が多いと感じています。バイヤーとしてそうした取引先など社外の方々と触れ合う機会が増えてきて感じたのは「三田会」の恩恵です。取引先のオーナーには思いのほか三田会の方が多く、言葉には出さずとも同じ慶應義塾で学んだ者同士の温かいつながりを感じ、大先輩の方々からたくさんのことを教えていただきました。

その後も渋谷再開発に伴う「渋谷 東急フードショー」の全面改装や海外までテナント誘致に出向くなど、食料品バイヤーとして幅広い経験をさせていただきました。

-管理職として、現在どのようなことを意識されていますか。

小川:百貨店は今、変革の嵐の真っただ中にいます。これまでと同じやり方のビジネスでは生き残ることはできません。東急百貨店でもベンチャー企業や異業種とのコラボレーションで新たなビジネスの可能性を開拓するための東急株式会社主催「東急アライアンスプラットフォーム(TAP)」など、新しい時代にふさわしい事業の再構築に取り組んでいます。2019年にTAPで最優秀賞となった日本全国の希少食材の魅力を伝えるプロジェクトを、現場担当者として渋谷ヒカリエ ShinQsでの催事に結びつけることができました。こうしたチャレンジと同時に、築き上げてきた自分たちの資産を見直し、活用することも必要でしょう。

昨年12月、東急グループ各社の次世代経営層を育成する教育プログラム「東急アカデミー」に、東急百貨店を代表して参加。経営者として必要な視座や変革に欠かせないリーダーシップなど、実践的なビジネス力を存分に鍛えていただきました。こうしたチャンスを与えてくれる当社や東急グループにはいつも感謝しています。

東急アカデミーでのプレゼンテーション

-最後に塾生へのメッセージをお願いします。

小川:これからの時代はますます自分で考え、判断し、行動することが重要になり、福澤先生の「独立自尊」の精神は時代を超えて有効です。そして私は「独立自尊」に加えて、福澤先生が重要な学問とおっしゃった「人間(じんかん)交際」を図ることが、人生を豊かにする最高の組み合わせだと感じています。さらに若い塾生にはもう一つ「気概」を持つことを意識していただきたいですね。知識や経験はいつでも学べますが、「気概」は自らの意志で生み出し、持ち続けるものだからです。私自身も塾員の名に恥じぬよう、これからも気概を持って自己研鑽に励みたいと思っています。

-本日はありがとうございました。

この記事は、『塾』WINTER 2022(No.313)の「塾員山脈」に掲載したものです。