慶應義塾

鶴岡タウンキャンパス開設20年

2021/08/25

「慶應義塾大学鶴岡タウンキャンパス(TTCK)」の開設から、今年でちょうど20年になる。未来を切り拓く「アカデミックベンチャー」として未知の先端領域に果敢に挑戦し、バイオ分野での新しいテクノロジーの開発などを積極的に推進してきたTTCK。地方創生のモデルケースとしても注目されるその輝かしい足跡を振り返る。

鶴岡タウンキャンパス外観

地域との連携で誕生した「アカデミックベンチャー」

2001年4月、慶應義塾は山形県および庄内地域市町村との連携のもと、鶴岡市に「慶應義塾大学鶴岡タウンキャンパス(TTCK)」を開設した。キャンパス内には中核となる「慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)」のほか、「致道ライブラリー」が設置された。

IABはITと生命科学を融合させた「統合システムバイオロジー」のパイオニアとして、世界最大規模のメタボローム解析(代謝物質の網羅的解析)の施設を有し、「健康・医療」「環境」「農産物・食品」などの分野における多種多様な研究活動に取り組んでいる。

一方、「致道ライブラリー」は鶴岡市と慶應義塾、東北公益文科大学の三者がメディアを共有・共同管理する新しいタイプの図書館としてオープンした。2007年11月には致道ライブラリー内にIABが「からだ館がん情報ステーション(現・からだ館)」を開設。地域貢献の一環として健康や予防に資する情報を広く地域住民に提供している。

致道ライブラリー

新しいサイエンスを創生「研究」と「教育」を融合

TTCKは広々とした自然豊かな環境でこそ、クリエイティブな発想が育まれるという欧米型キャンパスを目指し、美しい自然環境の中で伸び伸びと新しいサイエンスの可能性に挑戦できるキャンパス環境をハード&ソフト両面で整備してきた。

まず大きな理念として、最先端の「研究」と若い発想と情熱を有する学生への「教育」を切り離さず、融合させることを掲げている。その象徴ともいえるのが「バイオキャンプ」だろう。これは環境情報学部および総合政策学部の学生が1年間(または半年間)、TTCK内の学生寮に滞在。最先端実験施設を利用して生命科学の実験実習に取り組み、並行して自分の研究活動を進めて単位を取得する教育カリキュラムである。

さらに大学院進学希望者には政策・メディア研究科「先端生命科学プログラム」を設置している。TTCKにおいてゲノム工学やメタボローム解析などIABの最先端プロジェクトに参加しながら、SFCの授業も遠隔で履修。2つのキャンパスの研究リソースを分野横断的に利用しながら単位を取得できる世界でも類を見ない大学院プログラムである。

メタボローム研究ラボ内

次代のサイエンスを担う志ある高校生を支援

TTCKでは開設した2001年から例年夏に一貫教育校の生徒を対象に実施してきた合宿形式の「慶應サマーバイオカレッジ」のほか、高校生を対象としたプログラムも開催している。

2009年5月には、TTCKに隣接する山形県立鶴岡中央高等学校の生徒が放課後にIABで研究補助業務に従事する「研究助手制度」が発足。2011年からは将来博士号を取得して研究者を目指したい生徒を対象に「特別研究生制度」が開始され、鶴岡市・酒田市の8つの高校・高専から毎年6~20名程度の生徒が参加している。

同じく2011年に山形県と鶴岡市との共催で始まった「高校生バイオサミットin鶴岡」は、全国の高校生が夏休み期間に鶴岡に集まり、2泊3日の日程で生命科学に関する自由研究の成果発表や未来のバイオサイエンスについて議論する貴重な機会となっている。

バイオラボ棟外観

数々のベンチャーを生む最先端研究拠点として

開設から20年を経てTTCKの分野横断的な研究・教育から、これまで多くの独創的な人材やベンチャー企業が生まれている。

まず、2003年に、TTCKで開発したメタボローム解析技術を核に、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社が設立された。2013年には東京証券取引所マザーズ市場に上場、日本バイオベンチャー大賞(2015年)など数々の栄誉に輝いている。

米国の国防総省やNASAも成し遂げられなかったクモの糸を人工的に作り出す研究開発を成功させたことで知られるSpiber株式会社もTTCKで生まれた(塾 SPRING 2021 NO.310「塾員山脈」.pdf参照)。そのほかにもTTCK発ベンチャーは計6社あり、うち5社が鶴岡市内で活動している。

さらに現在、理化学研究所や国立がん研究センターなども鶴岡市内に拠点を設け、IABとの連携による研究活動を展開。最先端の科学技術拠点として、またアカデミアを中心とした地方創生の成功例として、いま、鶴岡に熱いまなざしが注がれている。

この記事は、『塾』SPRING 2021(No.310)の「ステンドグラス」に掲載したものです。