卒業生 佐竹晃太君(医学部卒)
2018/06/27
佐竹晃太(さたけ こうた)/株式会社キュア・アップ代表取締役社長 医師
2007年医学部卒業。日本赤十字社医療センター呼吸器内科臨床医等を経て、2012年上海の中欧国際工商学院(CEIBS[シーブス])に留学し経営学修士(MBA)取得。2014年米国ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院にて修士(MPH)取得。帰国後、2014年7月に後輩の鈴木晋君(2010年医学部卒業)と共に株式会社キュア・アップを創業。同時に医師として診療も続けている。
禁煙を成功させるために"医師が処方する治療アプリ®"
- 佐竹晃太さんは医学部を卒業後、研修医、臨床医として5年間の経験を積んだのち、中国上海で経営学修士(MBA)を、さらにアメリカで公衆衛生学修士(MPH)の学位を取得しました。帰国後の2014年7月に株式会社キュア・アップを医学部後輩の鈴木晋さんと共に立ち上げ、医療機関向けのニコチン依存症治療アプリ「CureApp禁煙」を開発。スマートフォンが広く普及する中、ダイエットや体重管理などのためのいわゆる健康アプリとは異なった、診療現場における治療用のアプリとはどんなものなのか教えてください。
佐竹:私たちが始めた会社、キュア・アップの「キュア」は治療・治療効用、「アップ」はアプリケーション・ソフトウェアを意味しています。その目的は病気に対して治療効果を持つ医療用アプリケーションの開発です。これは健康増進のために個人で使う健康アプリとは根本的に異なり、医師が患者の病気に対して治療効用を有するもので、ひと言でいえば"医師が処方する治療アプリ"ということです。
現在、病気の患者に医師が行うことの一つは薬による治療であり、もう一つは医療機器を用いた手術を含む治療です。キュア・アップの"治療アプリ®"(キュア・アップの登録商標)は、ソフトウェアという新しいツールを用いて病気を治す第3の治療法であると考えています。その第1号が禁煙治療アプリです。日本初の治療用医療アプリとして薬事承認を得るために、昨年10月から慶應義塾大学病院を中心に、治験に取り組んでいるところです。
- 禁煙外来という言葉が広く知られているように、たばこをやめたい多くの人が病院を訪れています。ニコチンパッチといわれる貼り薬や飲み薬を医師に処方され治療を受けますが、1年以上の禁煙に成功した人は3割未満で、7割以上の人が禁煙の継続に失敗したというデータが出ています。喫煙はなかなか手ごわい依存なのですね。
佐竹:禁煙しなくてはと強く思いながら、忙しい中、長期間にわたって通院し、決して安くはない治療費を払いながらも、禁煙できない方が7割以上というのが現状です。これを何とか改善したいという思いで禁煙治療アプリを開発しました 。
禁煙治療には行動療法という心理療法が使われます。従来の通院治療では、薬の服用とともに、病院で医師や看護師が指導を行います。しかし、家にいるときは誰も禁煙指導はしてくれません。禁煙は孤独な闘いなのです。禁煙アプリを使えば、処方された薬で治療を続けながら、自宅や会社でも、スマートフォンによってチャットや動画を活用しながら治療を継続できます。アプリのベースになっているアルゴリズムやガイダンスのコンテンツは、これまでの医学の歴史の中で蓄積されたエビデンスや医師が日常の治療で暗黙知として得ている知識を解きほぐしてソフトウェア化したものです。治療終了後の再喫煙を防ぐ支援機能も備え、患者に喫煙しない習慣を身につけてもらいます。
また、禁煙ができているかどうかの目安となる呼気一酸化炭素(CO)濃度を測るための小型測定器を開発し、併用することで、これまで病院でしか測定できなかった呼気CO濃度を自宅でも高頻度で測定することができます。
- 生活習慣に関わる病気の克服には、高血圧の人が家庭用血圧計で毎日血圧を測るように、目に見える数値を日々確認できることが励みになります。ポータブル呼気CO測定器を連動させるアプリでの禁煙治療は期待できそうです。
佐竹:ブルートゥースを使ったIoT(モノのインターネット)デバイスですから、測定データをスマートフォンで確認できますし、簡単に担当医に送ることもできます。これから広まると思われるテレビ電話での遠隔・オンライン診療にも役立ちます。
第2弾としては、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療用アプリ「CureApp脂肪肝」を東京大学医学部附属病院と共同開発し、臨床研究中です。将来は禁煙アプリのように薬事承認を目指しています。その他にも、生活習慣病やメンタルヘルス疾患に治療効果のあるアプリをつくるため、すでにいろいろな医療機関等と共同開発に取り組んでいます。また日本発のイノベーションとしてアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認取得を目指し、同時に中国での展開も考えています。
医学部ヨット部の仲間と江の島合宿の熱い日々
- まず医師になり、その後に医療ビジネスの起業家を兼ねたわけですが、もともと医師を目指していたのですか。
佐竹:実は宇宙飛行士に憧れていました。大学は義塾の医学部と東京大学理科一類に合格しました。塾員の向井千秋さんが医師になって宇宙へ行ったことを知り、医学部から宇宙飛行士になるルートもあるのかと。きっと理工系の学部には宇宙へ行きたい人はたくさんいるけれど、医学部で学んで宇宙を目指す人は少ないし、確率は高いはずと、高校生の私なりに考えて、医学部を選びました。
- 学生生活は充実していましたか。
佐竹:兄が他大学の医学部で学んでいて、授業の出欠などがとても厳しいと聞いていたのですが、義塾には自由な空気もあり、忙しいながらも大いに大学生活を楽しむことができました。
入学直後に医学部ヨット部から勧誘を受け、実際に江の島でヨットに乗せてもらい、その面白さを実感しました。さらに魅力的な先輩たちに出会ったことで入部を決めました。
塾員の方が所有している江の島の宿舎で、土日はもちろん、東医体(東日本医科学生総合体育大会)前の7月~8月には長期合宿も行いました。仲間と寝食を共にした合宿は、学生時代ならではの思い出です。東医体前には他大学の医学部生も江の島周辺で合宿していて、ライバル心を燃やしながら、競って練習をしたものです。一方で、こっちはまじめに練習に明け暮れているのに、周りを見ると楽しそうな海水浴客であふれかえり、少々悲しい思いをしたことも。
在学中には東医体の団体戦で優勝。私が主将のときは残念ながら準優勝でしたが、個人としては、オリンピック選手も参加する全日本470(よんななまる)級ヨット選手権大会に出場しました。医学部の選手としてはかなり珍しく、貴重な経験となりました。
なお、キュア・アップ創業時からのメンバーである鈴木晋君は、ヨット部の3年後輩でプログラミング技術に長けた医師です。私が最高経営責任者(CEO)、彼が最高開発責任者(CDO)として一緒に頑張っています。
医師経験の後、上海でMBA、アメリカでMPHを取得
- 卒業後、北海道の北見赤十字病院で研修医を、続いて日本赤十字社医療センターで呼吸器内科の臨床医を務め、その後上海でMBAを取得しています。
佐竹:大学で6年、医師として5年、トータル11年間医学に集中していたのですが、自分の中で新しい世界を見てみたいという思いが芽生えていました。それに海外に住んでみたいとの思いが重なって上海の中欧国際工商学院(CEIBS(シーブス))に留学しました。アジアでは1位、世界全体でも10位以内にランキングされているトップビジネススクールです。アメリカに行くのも一つの方法ですが、中国で学ぶのも面白いと思ったのです。中国は学生時代にバックパックで旅したことがあり、その後すごい勢いで変貌する中国を、内側から見てみたいとも思いました。
CEIBSには、アジアと欧米20カ国以上から学生が集まっており、バックグラウンドも文化も異なる人たちとのケーススタディや議論はとても刺激的でした。当時の友人とは今も交流があります。
- その後、アメリカで公衆衛生学修士の学位を取っています。
佐竹:CEIBS留学中、翌年からCEIBSとジョンズ・ホプキンス大学の大学院とのデュアルディグリープログラムが始まると聞き、予定を1年早めてほしいと大学にかけ合い、提携プログラムの1期生になりました。
アメリカでは公衆衛生学の概念が広く、同大学院では統計と疫学だけでなく、グローバルヘルスや災害医療、医療インフォマティクス(情報科学)も体系的に学べます。ここで糖尿病患者向けの医療ソフトウェアが開発されていると知ったことが、現在のキュア・アップを立ち上げる一つのきっかけになりました。
私の専門は呼吸器内科ですから、まずは禁煙治療アプリ開発を目指しました。また現在も医師として、週1回日本赤十字社医療センターで診療を続けていますし、会社の近くに夜間クリニックも開業しています。臨床医としての現場経験がアプリケーションの開発にも生かされています。
- 最後に塾生へのメッセージをお願いします。
佐竹:ソフトウェアを通じて病気で困っている患者の生命を支えたいと創業したキュア・アップは、自分の仕事として大きなやりがいを感じています。しかし、最初から治療アプリ事業を狙っていたわけではありません。医師として働いていたことに加えて、留学先の中国でマーケティングやファイナンスなどのビジネスに触れ、アメリカで医療インフォマティクスを学ぶなど、その都度その都度、自分の心が躍るものに取り組んできました。そうしたことがストーリーとしてつながり、結果的にITを使って起業して、人生を切り拓くことになったのです。塾生の皆さんは、将来について迷い悩むこともあるでしょうが、周りの人がやっているからとか、誰かがそう言っているからなどではなく、自分の心が躍ることに対して、突き進んでください。それが結果としてやりがいのある仕事、より豊かな人生につながるはずです。
- 本日はありがとうございました。
撮影:日詰 眞治(3枚目以降を除く)
この記事は、『塾』2018 SPRING(No.298)の「塾員山脈」に掲載したものです。
※所属・職名等は取材時のものです。