慶應義塾大学アート・センター
2017/09/12
慶應義塾大学アート・センターは、現代社会における芸術活動の役割をテーマに、理論研究と実践活動を広く展開しています。1993年の設立当初より、現代の芸術・文化に関する「研究アーカイヴ」の構築に力を入れ、研究成果の収集・蓄積とその情報化を通じて、身体的感性と知が行き交う新しい場の創出をめざしています。
「BUTOH」を知っていますか
舞踏(BUTOH)は、秋田出身のダンサー、土方巽(1928-1986)によって生み出された革新的なダンスです。1960〜70年代にかけて、美術や音楽など、様々な芸術のメディアを横断しながら展開したその先鋭的で強烈な身体の表現は、現代においても色褪せることはありません。舞踏は、ヨーロッパ、アメリカ、そしてアジアなど世界の各地で踊り継がれているだけではなく、他のダンスにも大きな影響を与え続けています。
日本で生み出された舞踏ですが、舞踏を巡る研究や実践は、実は日本よりむしろ海外で盛んで、毎年新しい論文が発表され、公演が行われています。
舞踏に関心を持つ研究者やアーティストの多くが慶應義塾大学アート・センターの土方巽アーカイヴを訪れます。土方巽アーカイヴは、土方巽が残した資料に加え、土方舞踏に関する文献を網羅的に収集するアート・アーカイヴです。アート・センターにしか収蔵されていない土方巽の自筆舞踏譜や映像、写真などを求めて、世界中から研究者が来訪すると同時に、アーカイヴの研究員は、海外の展覧会やシンポジウム、芸術フェスティバルにたびたび招聘されています。
アート・センターの土方巽アーカイヴは、まさに、舞踏研究の国際的な拠点として機能しているのです。たとえば、2015年に主催したパフォーマンス・スタディーズの国際カンファレンス「PSi 2015 TOHOKU」は、このような国際的な活動の一つの成果といえます。
PSi 2015 TOHOKU
青森県立美術館で開催したカンファレンスは、恐山への Cultural Visit で幕をあけ、19ヶ国、のべ700人が参加。地域と連携した学術・文化イベントのモデルを探る試みでもあった
こうした国際的な活動を支えているのが、アート・アーカイヴの存在です。アート・センターは20年にわたって、アート・アーカイヴに関する実践と理論構築に取り組んでおり、日本における現代芸術系アーカイヴのパイオニアとして知られています。
日本の現代芸術をめぐって
アート・センターには舞踏以外にも、国際的に注目を集める研究資料があります。1970年に東京都美術館で開催された展覧会「東京ビエンナーレ1970—人間と物質」は、のちに世界で名を馳せた多くのアーティストが若き日に出品している、伝説的な展覧会です。アート・センターでは、アーカイヴに寄託を受けた資料に基づき、同展の再構成展示を行いました。
この展示は、国内の研究者やアーティスト、美術館学芸員から、高く評価されました。それだけではなく、展覧会カタログをはじめとする情報が発信されることにより、堰を切ったように海外の関係者から問い合わせが寄せられました。待たれていた扉が開いた、ということだったようです。
2016-11-21 Contact Points Yohko Watanabe
アート・センターの渡部葉子教授が、ロンドンでテート・リサーチ・センター:アジアの訪問研究員として研究を行った際に、東京ビエンナーレ '70に関するシンポジウムを企画。日本から批評家の峯村敏明氏、彫刻家の小清水漸氏をロンドンに招聘して共に登壇し、日本の現代美術について生の声を直に届けた
アーカイヴのダイナミズム
メールやチャットなどのリアルタイムでのメッセージが行き交い、画像や動画も簡単に発信できる現在、芸術を取り巻く環境も大きく変化してきています。しかし、逆にそのような時代を迎えて、身体や肉体の問題が、芸術上のトピックスとしてますます重要になっています。身体に強くフォーカスした舞踏に対する高い研究的関心は、このような傾向を映す鏡ともいえます。
研究上の人的交流においても状況は似ていて、研究者同士が直接に討論し、意見交換する機会は極めて重要です。アート・アーカイヴはまさに、このような活動のプラットフォームとして機能する場です。なぜなら、上述の土方巽アーカイヴの例に見られるように、「その場でしか見られない」重要な資料体が存在するアーカイヴには、世界中から研究者やアーティストが集まり、ダイナミックな交流が生まれるからです。
アート・センターではアーカイヴ、とりわけ現代芸術に関わるアート・アーカイヴについて、シンポジウムやワークショップの開催を通じて、理論構築と実践に取り組んでいます。
学問的探求の可能性を広げるディスカッションはそれ自体の価値のみならず、そうした議論の主体を誘引しオーガナイズするダイナミックな「場」としてのアーカイヴや、展覧会の重要性をも同時に浮き彫りにするものです。こうした「場」が生み出すダイナミズムは、知の発展を目的とした活動において、ますます必要とされていくでしょう。
※所属・職名等は取材時のものです。