慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラ
2016/06/13
慶應義塾大学の公認学生団体であるワグネル・ソサィエティー・オーケストラは、1901年 に創立した日本最古のアマチュア学生音楽団体、ワグネル・ソサィエティーのオーケストラパートです。ドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナーにちなんで名づけられたその名称には、ワーグナーの先進性・伝統に縛られない自由な発想・そして新しいものへと挑戦する開拓者精神といった理想が込められています。現在、部員は約180名。創立からこれまでに2,500名を超える学生が在籍していたことになります。そんな歴史ある団体で、現在部員として活躍する4名の学生に話を聞きました。
全員で、最高の音楽を届けたい
-ワグネル・ソサィエティー・オーケストラの活動について教えてください。
年3回の定期演奏会を中心に、4年に一度、国内演奏旅行、海外演奏旅行を実施しています。ほかにも、小学校の音楽の授業や地域のイベントなどの依頼を受けて、オーケストラはもちろん室内楽やブラスアンサンブルなどさまざまなかたちでの演奏活動を行っています。
ワグネルの特徴は、全員が参加して演奏会を作り上げることです。大学によっては、4年間在籍していても出演機会がほとんどないオーケストラもありますが、ワグネルではどんなにレベルの差があっても毎回1人最低1曲は定期演奏会に出演すると決めています。皆で協力して頑張ろうという意識がとても強いのだと思います。
海外演奏旅行も在学中に1人1回は必ず経験できます。ウィーンフィルの本拠地、ムジークフェラインザールでの演奏は、何ものにも代えがたい貴重な体験でした。
-みなさんの入部のきっかけを教えてください。
もともと有名なオーケストラなので、ハイレベルな環境で演奏したいという理由から入部した学生が多いと思います。私は大学進学の直前に初めてワグネルの演奏を聴きにいったのですが、あまりのレベルの高さに驚き、ぜひ入りたいと思いました。
-ワグネルに入部してみた感想は?
キャリアの異なる1年生から4年生までが一緒に活動します。多くのサークルでは就職活動が忙しい3・4年生よりも1・2年生が中心となっているのに対し、ワグネルでは演奏面は4年生が、運営面は3年生が全体をリードしています。入学してすぐの1年時は、4年の先輩方と一緒に演奏をしていくことがとても刺激になりました。高校を卒業したばかりだと4年生は本当に大人に見えるのですよね。
高校の部活では、部員の演奏へのモチベーションはまちまちでしたが、ワグネルでは、一緒にいい音楽を奏でたいとか、お客様に最高の音楽を届けたいという目的が全員で共有されていて、オーケストラで演奏することに対する一人ひとりのモチベーションが非常に高いと感じました。
活動から生まれるネットワーク
-練習は普段どのように行っているのですか?
週3日の全体練習はそれぞれ3時間ほどですが、その合間を縫ってパートもしくはセクションごとの練習を行っています。練習の合間に先輩に個人的に練習をみてもらうこともあります。それに加えて、個人練習として空いた時間を見つけて毎日必ず2〜3時間は楽器に触れるようにしています。
1日練習をしないと、それを取り戻すのに1週間かかると言われています。どの楽器も全身のいろいろな筋肉を使って演奏しているのですが、練習をしないとせっかく鍛えた筋肉が落ちてしまいます。私はホルンをやっていますが、金管楽器は特に唇の周りの筋肉が重要になってきます。これを維持するためにも毎日練習する時間を何とか確保しています。
-勉強と活動の両立は大変ではないですか?
通常の活動は、授業が終わったあとの18時から21時までの時間帯です。
日中は図書館で勉強することが多いのですが、演奏会が近づいてきて、吹けないところがあったりすると、勉強は後回しで個人練習に打ち込み、夜遅く家に帰ってから睡眠時間を削って勉強に取り組むこともよくあります。
勉強や個人練習など、それぞれが時間を捻出していると思います。練習のあと、皆でご飯に行ったりするのも楽しみです。オーケストラって、阿吽の呼吸で音を合わせていかなくてはならないものですよね。普段の言葉のキャッチボールでさえときどき難しいことがあるのに、音楽では別のものでコミュニケーションをとらなくてはならない。普段からメンバー同士がコミュニケーションをとっていなければ、質の高いアンサンブルは完成しません。だから必然的に交流は深まりますし、それも楽しく貴重な時間になります。
100人それぞれが技を極め、その上で全員で音楽を作っていく、これが結構大変なことで、自分の技術が劣っていると途中で気持ちが折れそうになったり、逃げ出したくなったり正直大変な部分もあります。そんなときは初心に返り、一緒にいい音楽を作り上げていこうというモチベーションを保ち続けるように意識しています。
-ワグネルは110年以上の長い歴史を持つ団体ですが、OB・OGとの交流もあるのでしょうか?
縦の繋がりはとても強いですね。就活の時にOB・OGの方々にお話を伺うこともあると思いますし、現役とOB・OGを交えての交流会や同窓会なども頻繁に行われています。ワグネル三田会という組織もあり、活発に活動しています。
実は、私の母もワグネルOGなので、母の繋がりからOB・OGの演奏会にお声がけいただくこともあります。
先日、現役とOB・OGによる室内楽大会があったのですが、最初に出演したのは12本のトランペットアンサンブルでした。その年齢差は実に33歳。親子のような関係でも、音楽という共通の言葉の前では年齢は関係ないのだなと感じました。
-ここは慶應義塾らしい、慶應義塾ならではと思うことはありますか?
ワグネルは私にとって憧れの存在でしたが、気がつけばどっぷり浸かっていて、ワグネルを中心に学生生活が回っています。本当に夢中になれるものがありそれに没頭できる、慶應の自由な校風ならではのことではないかと思います。
ワグネルは1901年から今日に至るまで、常に挑戦し続けてきたのだと思います。今でこそ当たり前ですが、大学オケがマーラーやリヒャルト・シュトラウスなどの大曲を演奏するようになったことや海外演奏旅行を始めたことなど、その当時としては大きな挑戦だったと思います。私達も開拓者精神を忘れず、歴史を刻んでいきたいと思っています。
「毎演奏会1人最低1曲は出演する」のは結構大変なことです。当然競争はありますが、日々の練習は自分のためにということではなく、個を極めながらも、それ以上に皆でいい音楽を作りたいという意識で練習しています。学年・パートを超えて教え合い、皆で協力しながら一つの音楽を作っていく、それこそが慶應義塾のワグネルならではと言えると思います。
<取材後記>
2016年3月、東京のサントリーホールにて第217回定期演奏会が開催されました。マーラーの交響曲第1番をはじめとした鬼気迫る演奏は、レベルの高さもさることながら若いエネルギーに満ち溢れていて、聴衆からは惜しみない拍手が送られていました。