卒業生 大井基行君(商学部卒)
2023/07/28
大井基行(おおい もとゆき)/株式会社ClaN Entertainment 株式会社 代表取締役社長
2017 年商学部卒業。同年、日本テレビ放送網株式会社に入社。翌年に社内ベンチャーとしてVTuber 事業を立ち上げ、責任者となる。VTuber とは、「Virtual YouTuber」の略称。インターネットの動画サイトなどで活動するCG キャラクター(アバター)およびそれらを用いて動画投稿・生配信を行う配信者のこと。日本テレビでは「プロジェクトV」などVTuber を使った多数の番組やイベントのプロデューサーも務める。2022 年4 月には、日本テレビの新会社として株式会社ClaN Entertainmentを設立し、入社5年目、27歳で代表取締役に就任した。
ザ・ドリフターズとSMAPプロフェッショナルな姿勢への共感
-大井さんは、昨年、日本テレビが設立した「VTuber(ブイチューバ―)」に特化したエンターテインメント企業「ClaN Entertainment(以下、ClaN社)」の社長に就任されました。VTuber事業はもともと大井さんが社内で新事業として取り組まれていたそうですね。
大井:私は入社時より、デジタル技術を駆使した全く新しいエンターテインメント事業を始めたいと思っていました。つい5年ほど前のことですが、当時はまだVTuberはほとんど知られていませんでした。今や2万人以上といわれているVTuberも、2018年には1000人ほどだったとされています。現在は3次元仮想空間の「メタバース」という概念も一般に広く知られて、従来は美少女キャラが中心だったVTuberも男性や動物など急速に多様化が進んでいます。私はそこに新しいエンターテインメント事業としての大きな可能性を感じており、急速に進化するこの世界でまだ誰も手掛けていない事業を展開することを目指しています。
-子どもの頃からエンターテインメントが好きだったのですか?
大井:はい。テレビは大好きでしたし、両親も舞台やミュージカルが好きだったので物心ついた頃からさまざまなエンターテインメントに親しんでいました。小学校6年のときに家族旅行で行ったニューヨークで見たブロードウェイの舞台のことは今でもよく覚えています。一方でザ・ドリフターズも大好きでした。
-ザ・ドリフターズは大井さん世代のタレントではありませんよね。
大井:私がドリフを初めて知ったのはリーダーのいかりや長介さんの死でした。小学生のときです。テレビの追悼番組で流れたコントがとても面白くて、お年玉などを貯めた全財産約5万円のうち、2万円近くをはたいてドリフのDVDセットを購入しました。そのDVDを何度も繰り返し見て、数年後にはコントを人前で披露するほどになっていました。子ども心に彼らのお笑いに対するプロフェッショナルな姿勢に心を打たれました。やがて私はSMAPのファンになるのですが、彼らの魅力も歌やダンスはもちろん、演技やお笑いなど新しいことに挑戦し続けて、その上で全てにわたってプロフェッショナルであることでした。また、私が通っていた都立高校は文化祭で全クラスがミュージカルを上演するという伝統がありました。部活より文化祭公演に力を入れる生徒が多く、私自身もすっかりミュージカル制作にのめり込んで、集団でのものづくりの楽しさを知った瞬間でした。
-大井さん自身がパフォーマーになっていたかもしれないですね。
大井:いえ、それはなかったと思います。高校時代には演者も裏方も経験しましたが、それぞれに面白さがあります。私はずっとエンターテインメントを、世の中に送り出す側の仕事がしたいと思っていました。小学生の頃から得意科目は社会科。それは世の中の「仕組み」を学ぶことができる科目だからです。そういう意味では会社経営というのも私が楽しんで取り組めることの一つかもしれません。エンターテインメントへの愛と世の中の仕組みへの探究心。この2つが私の原動力といえると思います。
米国留学を通して世界のトップレベルを体験
-高校卒業後は商学部に進学されました。
大井:義塾の商学部は、上場企業の経営者を数多く輩出していることが魅力でした。やはりその頃から経営に興味があったのだと思います。大学に入学して思ったのは「やっと自由になれた」(笑)。高校までは全員が決められた時間割の中で生活し、勉強していました。しかし、大学では必修科目などを除いて自分で履修科目を選んで、時間割を作ることができます。自分で自分の時間を使える。この自由こそ大学生の素晴らしさです。国際経営や簿記会計などの勉強は楽しかったし、2年生からは夏と春の長期休暇を留学に使っていました。
-大学4年次にはカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)に1年間留学されていますね。
大井:UCLAは米国映画産業の聖地であるハリウッドが近いですし、世界のトップ大学で自分がどれだけ通用するかを試したいという気持ちもありました。このままハリウッドで就職できればいいな……とも思っていましたね。UCLAにはエンターテインメントへの意識が高い学生が多くて刺激になりました。一方で塾生とそれほど知力の面で差を感じなかったというのも事実です。自分自身の考えを伝えられる英語力さえあれば、世界のトップ大学で日本の大学生だって十分「勝ちに行ける」と思います。
-UCLA留学からの帰国後に就職活動を始められたのですね。
大井:ええ、テレビ局=エンターテインメント以外に、外資系コンサル=ビジネスの選択肢も考えていました。最終的にテレビ局に決めたのは、自分とは異なるタイプの人々が多かったからです。私はロジカルに物事を考える傾向がありますが、テレビ局員はもっと直感的に考える人が多かった。自分と同じロジカルシンキングタイプのコンサル企業と感覚派ともいえるテレビ局、どちらが面白いかと考えて後者を選びました。日本テレビから内定をもらったのが自分の誕生日だったというのも何か"ご縁"を感じましたね。
-入社時からデジタル技術を駆使した新しいエンターテインメント事業を手掛けたいと思っていらっしゃったことについてお聞かせください。
大井:入社後はしばらくCM営業の仕事をしながら、新規事業のアイデアをあれこれ考えていました。そしてまだ1年目の頃に、VTuberの草分け的存在である「キズナアイ」と出会ったのです。それは「キズナアイ」の体力測定というコンテンツでした。人物の動きをデジタル化する「モーションキャプチャー」技術によって、仮想空間の中でキャラクターが全力でイキイキと動いている姿に、新しいモノに出会ったワクワク感と衝撃を覚えました。そして直感的にこのジャンルならハリウッドに負けないエンターテインメントを日本から世界に発信できるのではないかと思ったのです。早速そのアイデアをまとめて会社に提案し、社内新規事業制度を利用することで、入社2年目の2018年8月にVTuber事業の立ち上げに至りました。最初はメンバー2名の小さなスタートでしたが、当時から将来的な法人化は想定していました。2020年には、「V-Clan」というVTuberのネットワークを設立。翌年には初のVTuber番組もスタートさせました。そしてこうした活動を基盤に昨年4月、日本テレビが出資する子会社としてClaN社を設立することができました。現在、弊社では約300人のVTuberの活動もサポートしています。
-会社設立にあたってのご苦労はありましたか。
大井:そもそも事業自体が全く新しい挑戦で、これから事業を始めるのではなく、すでにスタートし拡大中の事業と並行しながら会社設立の諸業務と格闘したことでしょうか。今では笑って話せますが、もう2度とあの経験はしたくないですね(笑)。ClaN社の良いところは、独立したスタートアップ企業として事業運営や人事などバックオフィス面の自由度が非常に高いことだと思います。多様なバックグラウンドと高いスキルを持ったスタッフも集まり、スピード感をもって事業に取り組む態勢ができました。一方でテレビ局のノウハウやリソース、信頼性を使って事業を展開できることもClaN社の大きな強みとなっています。
世の中と人生を変える魅力的な新しいコンテンツを発信していく
-今後の事業展開について教えてください。
大井:私たちはいわゆる芸能事務所的な形態ではなく、米国のエージェンシーモデルに近いオープンなネットワーク組織です。その中でVTuberを使ったコンテンツ制作、個々のVTuberやSNSのインフルエンサーの活動サポート、さらに日テレグループとしてVTuberの番組制作なども手掛けています。また、今後の計画ではClaN社オリジナルのコンテンツを数多く世の中に発信したいと考えています。目指すのはVTuberの「マス化」「多様化」「グローバル化」。社会の認知度がかなり向上したとはいえ、まだ世間的にはVTuber=美少女キャラというイメージがあることも事実です。しかし私自身はそうした世間のイメージの向こう側に事業の"伸びしろ"を見ています。
-"伸びしろ"とは?
大井:今やさまざまな層をターゲットにして男性や動物からお年寄りまで、多くのVTuberのキャラクターが登場していますが、その中で知られているのはごく一部です。そこに伸びしろ、すなわちまだ多くの人が知らないままでいるVTuberコンテンツの楽しみや広がりが確実に存在するわけです。そしてコンテンツやそれを支えるテクノロジーは日々進化していますから、今日不可能だったことも数ヵ月後にはそうではなくなっています。急速に進化するVTuberの世界で、世界でまだ誰もやっていないことをClaN社が発信する。こんなにやりがいのある仕事はないと思いませんか?しかもこの分野ではグローバルに見ても日本が圧倒的に進んでいます。地域に合わせて見せ方などを工夫する必要はありますが、「グローバル化」は決して夢ではありません。
-ClaN社のスローガンは「人生を変える、エンターテインメントを」ですね。
大井:はい。私はこれまでつらかったり、苦しかったときにエンターテインメントによって何度も救われ、自分自身を変えることができました。だから今は事業を通してエンターテインメントに対する恩返しをしたいという気持ちもあります。「人生を変える」のは少年時代の私のように楽しむ側だけではなく、新しいエンターテインメントを生み出していく側にも言えることです。エンターテインメントの送り手、受け手、どちらの人生も変える魅力的な新しいコンテンツを次々と生み出すことを実現していきたいです。
-最後に塾生へのメッセージをお願いいたします。
大井:皆さんには4年間で自分にしかできない体験を貪欲に積み重ねてほしいです。学生時代が一番リスクを恐れずに行動できる期間ですし、アイデアを行動に移すことでチャンスが生まれます。今は「異質さ」で輝ける時代だと日々実感しているので、周りと異なることを恐れずに、どんなことでもよいので他人より突き抜けたことを目指してほしいと思っています。大学生活を通して、自分ならではの才能を掘り起こし、ぜひ濃い時間を過ごしてもらえたらうれしいです。
-本日はありがとうございました。
この記事は、『塾』SPRING 2023(No.318)の「塾員山脈」に掲載したものです。