慶應義塾大学AI・高度プログラミングコンソーシアム
2022/03/31
学生たちが牽引する、最先端のAI学習コミュニティ ‐ダイジェスト‐(2分1秒)
学生たちが牽引する、最先端のAI学習コミュニティ ‐ダイジェスト‐(2分1秒)
近年、金融や物流、製造業、医療や教育などあらゆる分野で、加速度的にその活用の幅を広げている人工知能(AI)。一方、これを応用するために必要とされるAI人材は、日本だけでなく世界中で不足しており、熾烈な獲得競争が繰り広げられています。
こうした時代の潮流を受け、慶應義塾大学で2019年に発足したのが「AI・高度プログラミングコンソーシアム(AIC)」。理系から文系まで学部、学年を問わず、AIの知識や技術を習得したい学生たちが集う、他大学に類を見ない画期的な学びのコミュニティです。
半学半教が宿る、AIの学び場
伊藤公平塾長が理工学部長であった頃に立ち上げられたAICのコンセプトは、「塾生の塾生による塾生のためのAIプログラミング・ビジネス学習団体」。特筆すべきは、AIやプログラミングを専門的に極めている学生や、AIのビジネス活用などに長けた学生たちが、自分たちで講習会を開き、学びたい学生たちに教えるというシステム。現在、AICの代表を務める矢向高弘准教授は、この「半学半教」の精神に基づいた取り組みは、学生にとって非常に有効なものだと語ります。
「パイロットプログラムを始めた2018年頃には、文理問わず学生たちの間でAIを学びたいという声が、すでに高まってきていました。日進月歩のAI技術は大学の授業で網羅するには限界があり、専属の教員を雇用するのも難しい。ならば、高いスキルと最新の知識を持つ学生たちが、自らカリキュラムを立案し、講師となることで、より先進的な学びの場になるのではという結論に至りました。結果的に、教職員たちはあくまでサポート役に徹することで、学びたい学生たちのニーズを満たした、より良い講座へと毎年進化を遂げています」(矢向准教授)。
また、AICでは組織運営も学生たちが主体で行っています。講習会の講師やアシスタント、サーバーの管理や受講生を募る広報活動。さらには、AICを支援する会員企業と協働で行うコンテストやイベントの企画・運営なども学生たちが担うことで、より自由度の高いプロジェクトが次々と立ち上げられています。
「組織の予算も会員企業からの協賛金で運営しているため、より柔軟性が高く、自由な発想で展開が広がっています。現在、AICで学んだことを証明する認定制度や、幼稚舎から高校まで一貫教育校生徒に向けたコンテンツ提供や学生講師の派遣も検討中です。学んだ知識や技術だけでなく、AICで共に学び活動した経験や人脈が、学生たちの将来により役立つようになればと願っています」(矢向准教授)。
過去4年間で受講希望者はのべ9千人突破
AICでは春・秋学期にそれぞれ約15講座ほどの講習会が開催され、すべて無料で参加できます。AIの基礎知識やPythonなどのプログラミング言語を学ぶものから、機械学習やディープ・ラーニングの実践まで、あらゆるレベルやニーズに沿った講習会から選択が可能です。さらに、リアルタイムやオンデマンドの配信、対面形式など、それぞれ講座内容に合わせた授業形態も、受講しやすさの秘訣。AICの開設以来、受講申し込み数は4年間で約9千人にも上ります。
そこで、今回はAIビジネス関連の知識が学べることで、文理問わず人気の高い、ビギナー向けの2講座に注目。各講習会の運営に携わる講師や企画・運営を行う学生たちに話を聞いてみました。
スペシャリストに学ぶAIビジネスの最前線
2021年秋学期後半に開催された「AIビジネス基礎」は、現在唯一、AIに関する様々なビジネス経験のある教員を起用している講習会。講師を務めるのは、AIビジネス業界でエキスパートとして知られる椎名茂訪問教授。理工学部を卒業後、大手企業のAI研究者からコンサルティング業界へと転身し、様々な企業のCEOを歴任してきた異色の経歴の持ち主です。伊藤塾長とは学生時代からの盟友で、AICの設立にも深く関わってきました。
「AICの立ち上げ以前に伊藤先生から相談を受け、学部横断、産学連携、学生講師の起用という3つの要素を提案させてもらいました。その後、私自身もAICで講座を持つことになり、コンサルティング経験を生かした、ビジネス目線のカリキュラムを企画しました。この講座ではPCやプログラミングの知識は、一切必要ありません」(椎名訪問教授)。
全5回の講座は、5~6人でチームを組むグループワークが中心で、最終回では各チーム対抗のビジネスコンテストを開催。様々な学部の学生たちがディスカッションを繰り返しながら、新しいビジネスアイデアをAIで具現化するためのプロセスを学びます。講座では、多様な意見から落としどころを見つけるポイント、資料作成やプレゼン時のテクニックなど、ビジネスシーンで活用できる実践的なアドバイスも充実しています。
「AI分野で理論や研究に強い人は、もちろん企業から必要とされています。一方で、AI技術を使った新しいビジネスをどう作るのか、新しい顧客やパートナー企業にどのようにアピールするのかなど、理論だけではビジネスにならない側面もあります。ビジネスを作るためには、天才的なAI技術者はもちろん、マーケティングやプロモーションなど、様々な分野のスペシャリストをチーミングしなければいけません。いまの時代に必要な新規ビジネスを開拓できる、推進力のある人財を育成できるような、カリキュラムにしていきたいと思っています」(椎名訪問教授)。
この「AIビジネス基礎」講座で椎名訪問教授のティーチングアシスタントを務めるのは、法学部4年生の大橋裕樹君。大学1年生の時、アメリカ西海岸の旅で産業とテクノロジーの融合に興味を抱くようになりました。その後AICの設立をきっかけに受講を始め、AIの知識やプログラミングの基礎を学んだことを企業側に伝えると、RPA関連の企業や金融機関のデジタル部門、シリコンバレーにあるベンチャーキャピタルでのリサーチ業務に採用されたといいます。
「在学中に1年半ほどセールスやエンジニアリング業務のインターンとして働いた実績が評価され、志望していた金融機関のデジタル部門への就職も決まりました。テクノロジーは今後どの業界においても、ツールとして必要とされていきます。自分自身がAIのスペシャリストでなくとも、そういう人たちと協業したり、ソフトウエアを扱っていく上で必要な最低限の知識を、AICでは学ぶことができると思います」(大橋君)。
希少な同志と出会えるAI女子会
文系理系はもちろん、男女も問わず、AIに興味を抱いている学生は多くいます。そんな人たちにAI学習を始めるきっかけを作りたいと、2021年春学期からスタートしたのが「AI女子勉強会」。講座立ち上げ時からのメンバーで、秋学期には講師も務めた経済学研究科修士課程2年の笹結希君は、子どもの頃から大のIT好き。しかし、化学が苦手分野だったため、文系科目の中で最も数学を活かせる経済学部に進学しました。大学の授業で統計学に興味を持ち、元々好きだったITとデータ分析を掛け合わせることでAIができることを知ったことが、AIを学ぶきっかけとなったそうです。
「授業ではAIについて学ぶ機会がなかったので、2年生の頃からPythonの本などを買って、独学でプログラミングの勉強を始めました。当時、AIやプログラミングをやっている女性はとても少なく、仲間を見つけることがまず大きなハードルでした。そんな経験から、『AI女子勉強会』ではPythonやAIのスキルを身につけることはもちろん、AIに挑戦してみたい女子同士の、コミュニティを作ることにもフォーカスしています。学部を問わず、同じ目的を持つ仲間ができることで、情報交換やスキルアップにも必ず役に立つと思います」(笹君)。
全10回の講座では、前半はAIやプログラミングの知識や経験のない人に向けた、基礎知識を中心としたレクチャーや、AIクイズなど参加型カリキュラムをオンラインで実施。後半からは対面のグループワークで、新たなAIビジネスのプランを作り上げ、最終回では会員企業であるGoogleの社員もリスナーとして参加する、ビジネスシーンさながらのプレゼンを開催しています。
「AIやプログラミングは開発という職種が中心に思われがちですが、教育やAI自体を広めていくなど、幅広い分野の仕事に活かせることを知ったのは、AICでの大きな発見でした。実際に就職活動をする上で、将来のビジョンにこの経験を生かすことができ、いまではとても感謝しています」(笹君)。
社会のあらゆる産業がその可能性に期待を寄せ、経済だけでなく、学生たちの未来の起爆剤ともなりうるAIのスキル。エンジニアなどの専門分野に限らず、基礎知識を習得しておくことは、近い将来、学生にとってスタンダードになるかもしれません。学びたいと願うその気持ちひとつで、まずはAICの扉を開いてみてください。
インタビューの詳細はYouTubeで公開しています。
※所属・学年・職名等は取材時のものです。