慶應義塾
Keio LIFE

# 4

4年間のすべてを、4日間の儚さに捧げて

ー三田祭の魔力と受け継がれる慶應文化

#Culture
公開日:2026.04.06
日本最大規模の学園祭である「三田祭」。例年11月末に学生によって三田キャンパスで開催される慶應義塾大学の学園祭で、来場者数は例年約20万人に上り、その熱気はキャンパス全体を包み込む。第67回三田祭(2025年11月21日から24日)を率いた委員長、須藤大喜さんは、そんな巨大プロジェクトのトップに立ちながら、出身は同級生14人の小学校であった。秋田の小さな町から慶應義塾へ、そして約200名の実行委員を束ねるリーダーへ。彼を突き動かしたのは、単なる憧れだけではなかった。なぜ彼は、学生生活における最大の挑戦として三田祭を選んだのか。その原動力と、組織の先頭に立ったからこそ見えた「慶應義塾ならではの文化」の真髄に迫る。

プロフィール

須藤 大喜(すとう だいき)

在学生/慶應義塾大学 法学部政治学科 4年(取材当時)

役職:第67回三田祭実行委員会 委員長 秋田県出身。小中学校時代は野球、高校時代は弓道に打ち込みインターハイにも出場。慶應義塾大学入学後、體育會(体育会)と迷った末に三田祭実行委員会への入会を決意。2年生の冬の選挙を経て委員長に就任し、第67回三田祭の成功を牽引した。

3年の下積み。4年越しの覚悟。

編集部M :

第67回三田祭、本当にお疲れ様でした。三田祭のトップという重責を担われましたが、そもそも三田祭実行委員会に入ろうと決めたきっかけは何だったのでしょうか?

須藤 :

せっかく慶應に入ったからには「慶應らしいことをしたい」という思いが根底にあって。実は體育會(体育会)に入るか迷っていたんです。高校時代は弓道でインターハイに行くくらい打ち込んでいたので。 ただ、学生という立場で挑戦できる最後の期間を何に捧げるべきか。その意味を深く考えた時、より慶應らしく、学生にしかできないことは「三田祭」だろうと。そう決めて、この世界に飛び込みました。今はこれまで感じたことのない達成感と、祭りが終わってしまった虚無感の両方に襲われています。心にぽっかり穴が開いたようで、それだけ僕の大学生活のすべてでしたね。

編集部M :

日本最大規模の学園祭を率いる委員長ですが、その役職に就くまではどのような道のりだったのでしょうか。

須藤 :

実は委員長が決まるのは「2年生の冬」なんです。先輩からの指名ではなく「同期だけの選挙」を行って選ばれます。そこから3年生までは「委員長補佐」として、次期委員長としての準備や後輩の育成を担当します。

編集部M :

2年生の時点で決まるというのは、かなり早くて驚きました。3年生の時は、次は自分が委員長だと分かった状態で補佐に就くのですね。

須藤 :

はい。3年生の時は、委員長補佐として50人の新入生の入会面談を一人で行い、その後はその子たちのお世話係や教育係を主に担っていたので、来年への漠然とした不安に押しつぶされそうになったり「自分が200人の人生の一部を背負えるのか」と焦ったりすることが特に多かったなって思います。ただ、4年生になり委員長を務めてみると、良い意味でのギャップがありました。最初は「自分が引っ張らなければ」と気負っていましたが、実際にはむしろ「200人が後ろから支えてくれている」という実感の方が大きかったんです。何かつらいことがあっても、委員のみんなの笑顔や後ろからのバックアップに何度も救われました。

須藤さん

「互いを愛する三田祭」。人に寄り添うリーダー像

編集部S :

三田祭実行委員長になって、200人もの学生を束ねるのは容易ではなかったと思います。特に苦労された点はどこでしたか?

須藤 :

一番苦労したのは、やはり「人」への向き合い方です。三田祭実行委員会は学生団体なので「4年間続ける」ことが条件となっています。ですが、責任の重さに耐えかねて「辞めたい」と悩むメンバーもいます。そうした仲間にどう寄り添うか。 僕が好きで大切にしている言葉に「人それぞれ事情がある」というものがあります。みんな背景も抱えている事情も違う。だからこそ、無理に引き留めるのではなく、まずはその子の背景を肯定し、「一人ひとりを見ていますよ」と伝え続ける。委員長はすべての委員の味方でいられる唯一の存在だと思っていました。そこに時間をかけたからこそ、結果200人という形で終わることができました。

編集部S :

みんなを置いていかないという姿勢が素敵です。委員のメンバーを楽しませるために他に何か工夫をされましたか?

須藤 :

実は今年「本祭テスト」という新しい取り組みを始めました。元々は委員の知識を底上げすることが目的だったんですが、ただ勉強させるだけじゃ面白くない。そこで、テスト結果に特典をつけるなどゲーム性を持たせて、楽しんでもらえるようにしたんです(笑)。

結局、お祭りって「運営している側」が一番楽しんでいないと、来場者を熱狂させることなんて絶対にできないと思うんです。だから、シフト組みにはこだわりました。 委員長として、準備期間を含めた7日間、200人分の全シフトを組んだのですが、Excelと睨み合いながら「この子にはこのシフトでドラマを作ろう」「ここで最高の思い出を作ってほしい」と、一人ひとりの顔を思い浮かべてパズルを埋めていく作業で。めちゃくちゃ大変でしたが、委員たちが生き生きと楽しんでいる姿を見ると、やってよかったなと思いましたね。

編集部S :

三田祭が始まるまでも様々なことを乗り越えてこられたと思いますが、本番を通じて特に印象に残っていることを教えてください。

須藤 :

3年生までの期間で三田祭に関わる中で、委員同士や、委員と団体の間にリスペクトや寄り添いが欠けていると感じていました。そこで今年は「互いを愛する三田祭」をテーマに掲げ、利益ではなく人と人とのつながりを大切にしてきました。本番後、ある参加団体の代表の方から「須藤さんの掲げていた思いが伝わってきた。参加団体として関われて嬉しかった。」という旨の長文メッセージをいただきました。当たり前のように開催される三田祭は決して当たり前ではない。その思いを共有でき、結果として「塾生としての結束」を強く感じられる三田祭になったと思いました。目標としていたお互いを思いやる環境作りを達成できたのかなと思うと、すごく嬉しかったです。

三田祭の法被

「縦と横の強さ」。受け継がれる慶應のDNA

編集部S :

4年間の活動を通して見つけた「慶應らしさ」や「文化」について教えてください。

須藤 :

自信を持って言えるのは、「縦と横の関係性の強さ」です。慶應の文化は「人と人との繋がり」これに尽きるなと思います。まず「横」で言うと、同期との絆です。実行委員は1学年50人の少数精鋭。4年間苦楽を共にするので、話したことがない人なんていません。お互いを知り尽くしているからこそ、その代ごとの「色」が出せる。僕ら第67回ならではの色が出せたのも、この横のつながりがあったからです。

編集部M :

「縦」のつながりについてはいかがですか?

須藤 :

これには本当に驚かされたことがあって、何のアポイントもなく第30回やそれ以前の元実行委員のOB・OGがふらっと本部を訪ねてくるんですよ。年齢でいうと60歳くらいの方が「私、十何回の委員なんだけど」って(笑)。差し入れをしてくれたり「写真撮っていい?」と一緒に記念撮影をしたり。何十年も変わらない母校愛や、後輩を思う情熱に触れて、4年間捧げた愛や情熱は残り続けるのだといい意味で鳥肌が立ちました。この縦のつながりがあるからこそ、三田祭は続いてきたんだと実感しましたね。

編集部M :

それは驚きですね。 須藤さんも三田祭実行委員会での4年間の活動を通して慶應の文化に染まっていると感じました。そうさせた三田祭の力は何だと思いますか?

須藤 :

準備期間の長さに対して、本番は一瞬で過ぎ去ります。その儚さがまさに「三田祭の魔力」だと思います。三田キャンパスって普段はオフィス街にあるので落ち着いた雰囲気なんですが、祭りの期間だけは一変して非日常の賑わいを見せる。そのギャップがすごいんです。 そして1年間かけて準備しても、本番はたった4日間。終わった後の後夜祭から数時間もすればテントも撤去されて、まるで夢だったかのように元のキャンパスに戻る。自分が感動してからそれが消えるまでのスピード感。その「儚さ」があるからこそ、僕たちはその一瞬にすべてを賭けるし、そこに人が惹きつけられるのだと思います。

編集部M :

須藤さんが次世代に一番伝えたい「三田祭の核」とは何でしょうか?

須藤 :

「塾生主体」というポリシーを守り抜くことですね。なぜこれほどまでに塾生主体にこだわるのか。それは、塾生のパフォーマンスや研究が、それだけで世間を感動させられるレベルにあるからだと思います。 塾生だけで来場者に感動を届けることは、三田祭ならではだと思います。だからこそ、常に「塾生が主役であること」を第一の基準にしてほしい。外部の要素に頼るのではなく、塾生の輝きや情熱をダイレクトに伝える、この軸だけは、後輩たちに守り続けてほしいですね。

須藤さん

「誇らしく、僕ららしく」。未来の塾生たちへ

編集部M :

最後に、記事を読んでいる学生や、未来の慶應生へメッセージをお願いします。

須藤 :

今年のキャッチコピーは「誇らしく、僕ららしく」でした。 「誇らしく」というのは、慶應義塾の一員であるという自覚や誇りを持つこと。そして「僕ららしく」というのは、その誇りを持ちながらひとつにまとまることを楽しむことです。この大学で学べること、この仲間と出会えたことは決して当たり前ではありません。奇跡のような確率でここにいる。だからこそ「塾生であること」に感謝し、「塾生であること」の意味を考え続けてほしいと思います。

また、三田祭は「奇跡の連鎖」です。参加団体の努力、来場者との出会い、運営の裏側、すべてが重なり合って生まれる非日常の空間。そこにスポットライトを当てることが僕たちの使命でした。 僕自身、三田祭実行委員会として活動してきた4年間で考え方が大きく変わりました。人と出会い、多様な価値観に触れることで、自分の世界が広がった。もし今、何かに迷っているなら、ぜひこの「奇跡の連鎖」に飛び込んでみてください。慶應義塾には、その情熱を受け止めてくれる仲間と環境が揃っています。

取材・撮影

N

文学部美学美術史学専攻。西洋建築史における建築のデザインについて研究しています。趣味は漫画とエスプレッソを淹れることです。

S.S

商学部。マーケティングに興味があります。長年続けている書道は、他のことを忘れて自分自身と向き合える、大切な時間です。

R.N

文学部社会学専攻。メディアの情報が人々の認知や判断、行動に与える影響に関心があります。世界遺産検定2級を持っていて、夢は生涯をかけて全ての世界遺産を巡ることです。

R.M.

総合政策学部。主に広告に興味を持って学んでいます。特にお笑い賞レースの広告が好きで、ユーモアの中に強いメッセージ性を持たせるクリエイティブに惹かれています。記事制作では、読者の心に残る表現を大切にしながら、企画や取材に取り組んでいます。

S.M

冬物が大好き。マフラーやコートを気分に合わせて変えるのが最近の楽しみです。来年度はドイツ留学に行く予定で、まだ見ぬクリスマスマーケットにときめきが止まりません。


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