# 2
手段ではなく、目的として「学問」と向き合う。
~ススメ、その道を~
学部生時代を振り返って
早速ですが、学部時代はどのような生活をしていましたか?
慶應ウィンドアンサンブルという吹奏楽サークルに入っていました。中高の吹奏楽部でも大学のサークルでも、ずっとアルトサックスを担当していました。サークル時代は主に、定期演奏会の責任者のような役割を担っていて、演奏会の企画運営に力を入れていました。
ゼミは文学部の三尾裕子先生と、法学部政治学科の塩原良和先生のゼミ2つに入っていました。どちらもフィールドワークを通して研究するゼミで、その時に学んだ調査方法や考え方は今でも役立っており、本当に良い経験をさせてもらいました。三尾先生のゼミでは学部3年生の頃に石垣島で、塩原先生のゼミでは地域のNPOと協力して作られた高校内の居場所カフェで、それぞれフィールドワークをしました。塩原先生も三尾先生もフィールドと学生とを結びつけてくださり、理論や文献だけでなく、実際に現地で学ぶ機会をいただけたのはとても大きかったです。私にとって、フィールドは単に研究の場ではなく、大学以外のもう一つの居場所のような存在でした。
とても充実した学部時代ですね。そんな生活の後に、文系大学院という少数派の道に進むことに対して葛藤はありましたか?
文系が少ない、院まで行くと就職ができない、などの一般論も頭の中にはもちろんありました。ただ将来の自分をどうするか、これからどう生きていこうか、という漠然とした未来に対する不安もありました。その悩みを考える時間を作るためにも、ひとまずは修士に進学しようと思いました。修士課程進学を決心した際、不安は正直大きかったです。3年が終わる頃でした。そうした不安がありつつも、国際協力や国際開発という分野にはとても関心がありました。後ほどお話しますが、高校の環境の所以もあるのでしょうか。ボランティアではなく、仕事として国際協力を担っていくにはどうしたら良いんだろうって。その分野に関する本を読んだり、院に進学された先輩の話も聞いたりして、自分の関心は更に上がっていったのかなと。その上で、サークルの先輩で院に進まれた方の助言が最後に自分の肩を大きく押してくれました。
慣れ親しんだ日本を離れ、イギリスへ
修士課程はイギリスの大学院に進まれたそうですね。なぜ、わざわざイギリスへ?
関心のあった国際協力や国際開発の分野がイギリスではかなり発展していたからですかね。それに加えて、高校が国際系で留学していた友達が多かったというのもあります。大学に入っても留学する子が割と多いなかで、私は大学に入学して以降サークルに熱中して、留学にいく機会がなかったんです。高校時代の友人をみて、行きたいなと思ってはいた、という感じでした。サークルを中途半端に辞めれなかったんですよね。サークルを辞めて、留学に行くことができなかった自分が、社会人になって留学にいこうと踏み切れる自信はなくて、なら学びたいこともあるし、院進と同時に海外へ学びに出かけようと思いイギリス渡航を決断しました。
しっかりとした目的意識、素晴らしいですね。イギリスでの生活は楽しかったですか?
一言で言うなら、大変でした。私は修士を2年ではなく、1年で取らなきゃいけないコースだったので、プレッシャーはかなりありました。周りの学生達もかなり必死でしたね。ただ、楽しみながら通う社会人経験のある方もいたので、私は見ていて感心していました。学部からそのまま修士に行った自分にとって、進学や学びの形の多様性には驚きました。国も年齢も関係なく学べる環境って素敵だなと思いました。ストライキで講義が中止になったことも、今となっては思い出です。
たくさん努力をされたんですね。努力の過程で、何か気づきはありましたか?
自分が学んでることに自信を持つ、そして楽しむ。主張すべきことは、しっかりと声に出していく。日本にいたら、実感することが難しかったのかもしれないイギリスでの学びです。
再び日本へ、いざ博士課程進学
イギリスでの学びや生活も充実していたんですね!修士課程卒業後はどのような道を選んだのですか?イギリスで就職されたのでしょうか。
イギリスでの修士課程を経て、実は一度日本の民間企業に就職し、働いていました。社会人として働くなかで、自分が本当に向き合いたいテーマが明確になっていきました。地方での勤務を通して、学部生時代にゼミで学んだ「居場所づくり」や「対話」というテーマを研究したいと思って。そこで、博士課程に慶應を選んだのは、学部生時代に出会った恩師の存在が大きな理由でした。塩原先生や三尾先生、といった慶應でお世話になった先生方の顔が思い浮かびましたね。もう一度、恩師がいる環境でじっくりと研究に取り組みたい。こんな具合で、慶應の博士課程に進学することを決めました。
なるほど。師事したい人がいるかどうかって大切ですよね。博士課程はそのようなテーマをメインに研究しているのでしょうか?
現在は、博士課程でフィールドワークを重ねながら、インクルージョンをキーワードに研究を進めています。インクルーシブとか、誰一人取り残さないとか、そんな文言が今頻繁に叫ばれています。それらが、ただ言葉ばかりでなく、社会でどのように取り組まれているか、が私の関心です。修士課程の際、コロナの影響で現地調査ができず、文献研究が中心でした。しかし、今は教育などの現場に出て、実際に教育活動に参加したり、対話的なインタビューを行ったりして、机上の研究では見えなかった新しい視点に日々出会えています。慶應は、学部を超えてゼミに自由に所属でき、様々な分野の先生から直接指導を受けることが可能な点が魅力的であり、自分の研究の下支えにもなっています。豊富な図書資料もあることから、まさに学問の交差点であるな、と。学問を社会に還元し、研究を社会と接続していく。大層な言い分ではありますが、心掛けていきたいです。
凄いですね。実際、研究の先に見据えているものって、何かあったりするんですか?
優しさのある社会、ですかね。社会学やインクルージョンを研究するなかで、学問と現場の間に「優しさのあるつなぎ目」をつくりたい、と感じました。社会にも学術にも属さないような領域にこそ、今の時代に必要な視点があると思っています。研究と仕事を両立しながら、支えてくれる人たちへの感謝を胸に着実に今後も研究を進めていきたいです。
素敵です。新井さんならきっとできます。では最後に、読者へのメッセージをお願いします。
高校時代、学部生時代、などの様々な場面で抱いた疑問が文系院進、そして今の研究に繋がっていると感じています。「なぜ?」という類のものです。読者の皆さんは難しく考えすぎず、日々の関心や違和感を大切にして生きて欲しいです。きっといつか、そのような疑問が、自分だけの問題意識につながっていくはずです。ぜひ、日常に潜む「なぜ?」を見逃さずに、大切に自分の中に留めておいてください。