執筆者プロフィール

鈴木 まなみ(すずき まなみ)
その他 : 一般社団法人MA代表理事塾員

鈴木 まなみ(すずき まなみ)
その他 : 一般社団法人MA代表理事塾員
2024/05/09
欲しいものは自分でつくり、直す
テクノロジーの進化と時代の変化によって、新しい形の自給自足ができる時代が到来しつつある。過去、自給自足は「生きるため」のものだったり、「イデオロギー」を体現し主張するためのものだった。しかし、モノで満たされた現代の自給自足は「自分の満足のため」となり、デジタルテクノロジーの進化がDIY(Do It Yourself :自分自身でやる)の世界を加速させている。
本稿では「欲しいものは自分でつくり、そして直す」、そのような現代の自給自足について、環境配慮を背景とし、メイカームーブメントの観点から追ってみたいと思う。
大量生産・大量消費時代の終焉
大量生産・大量消費の時代が生み出した市場メカニズムは終わりを迎え、プロシューマーの時代が本格化しつつあると筆者は考える。プロシューマーとは、1980年に出版された未来学者アルビン・トフラーの著書『第三の波』に登場する造語で生産=消費者(Producer + Consumer)を意味する。
「消費者」と「生産者」という分断は、産業革命により、生産性が飛躍的に向上し「大量生産・大量消費」が行われ、低いコストで工業製品を手に入れられるようになったことで生まれた。その後、情報革命によって、低いコストでさまざまな情報を手に入れられるようになったと同時に、多くの個人が情報を発信できるようになった。その結果、生産者は消費者の声(レビュー)を無視できない時代となり、分断されていた「消費者」と「生産者」が再び近づき始め、プロシューマーの存在が顕著になってきた。
プロシューマーのあり方は時代によって変化している。1世代前のプロシューマーは、無印良品が2000年ごろに始めた「体にフィットするソファ」の開発のように、消費者自身に開発プロセスに参加してもらうことだった。
しかし現代のプロシューマーは、プロの作成した動画を視聴し消費する一方、自分も動画を作成して配信するなど、自分自身が消費者でありながらも、既製品では飽き足らず、自分のニーズを満たす自分らしい何かを生産するようになった。また、この新世代のプロシューマーは日曜大工や自家農園づくりに代表されるDIY志向を持っており、「モノをつくる過程」にも価値を見出し、楽しんでいる。
修理する権利
「消費」でも「生産」でもない「修理」の重要性がとりあげられている時代の変化も無視できない。
2015年に「SDGs(持続可能な開発目標)」が国連サミットで採択された。2024年2月には、EU理事会と欧州議会で、メーカーに製品の修理サービスへのアクセスを容易にするとともに、修理事業者への部品や必要情報の提供を義務付けるという消費者の「修理する権利(right to repair)」を導入する指令案の政治合意がなされた。米国のいくつかの州では、すでに電子機器や自動車などの故障において消費者の「修理する権利」を認め、修理に必要なパーツやツール、マニュアルなどの提供を義務付ける動きも進んでいる。過去に生産者が担っていたことを消費者が代替することは、時代的にも求められている。この観点からもプロシューマーの存在が一層顕著になっていったと言える。
モノづくりの民主化(メイカームーブメント)
2012年にクリス・アンダーソン著『Makers: The New IndustrialRevolution』が出版され、「モノづくりの民主化」が世界に広く認識されるきっかけとなった。「モノづくりの民主化」とは、3Dプリンタをはじめとするデジタル工作機械やそれらを利用できるメイカースペース(ファブラボのような施設)が登場し、個人によるモノづくりの幅が広がったことを指す。「メイカー」とは、モノづくり企業を意味する「メーカー(製造業)」と対比される概念である。
実は、2011~2017年ごろにかけて爆発的にメイカースペースが増え、勢いを見せていたが、今は閉鎖のニュースが絶えない。ムーブメントを象徴する米国のメイカースペース「TechShop」は2017年に破産し、同国内における全拠点が閉鎖された。また、メイカーイベントの代表格である「Maker Faier(メイカーフェアー)」も、運営していたMaker Mediaが2019年に経営破綻した。「Maker Faier」とは、世界各地で開催されているDIYの展示発表会である。日本では2008年から「Maker Faier Tokyo」が開催され、2018年には約2.5万人の来場者を集めた。
こうした米国の動きからも、メイカームーブメントは縮小していくかと思われたが、日本において、メイカーは減るどころか増えているように思う。というのも、メイカーイベントが日本各地で続々と開催されているからだ。前述の「Maker Faier」だけではなく、「NT金沢」に代表されるNT系など、有志で開催されるイベントが増えたのだ。ちなみにNTとは「なんかつくってみた」の略称である。
作品だけでなく、展示会そのものを自ら開催する人が増え、東京、大阪、愛知、京都、北海道、栃木、岐阜など、日本各地で次々とイベントが立ち上がり、全国的な広がりを感じる。そして、これに呼応するように「部活」と称して従業員個人のモノづくり活動(業務外)を推奨し支援する企業も増えている。
メイカーイベントは、分野横断的に、そして探究的に学習し、創造的にアイデアを出していくSTREAM教育(科学・技術・ロボット工学・工学・芸術・数学の6つの英単語の頭文字を組み合わせた造語で、複雑化する社会を生き抜くためアメリカで提唱されている教育方法)を体現する場でもあり、最近では親子連れの参加が目立つ。
自由なITモノづくり業界での変化
筆者は、このメイカームーブメントが提唱された2012年ごろからITクリエイターたちの「自由なモノづくり」を志向するIT系開発コンテスト「ヒーローズ・リーグ」に携わっている。この12年の間、テクノロジートレンドはSNS、O2O(Online to Offline)、IoT、ビックデータ、XR、ブロックチェーン、生成AI……と目まぐるしく変化しており、さまざまなアウトプットが生まれるのを横で見守ってきた。
その中で感じた一番大きな変化は、アプリなどの画面に閉じられたサービスのモノづくりだけでなく、3Dプリンタなどで造形して出力したものと組み合わせたモノづくりがとても増え、個人が生み出せるモノづくりの幅が格段に上がったことである。
道案内サービスでたとえると、向かうべき目的地までの距離と方向だけを指し示すWEBアプリから、ライトが目的地の方向を照らし教えてくれる懐中電灯型デバイスになるといった変化だ。両者とも地図を使わない道案内だが、ソフトウェアだけでなく物理的な「モノ」を介すことで、表現の幅が大きく広がった。
“つくりたい”という衝動
そして、既製品が、高価だったり自分のニーズが満たされていなかった際、自分でつくり上げる人が多く見られるようになった。タイプライターの打ち心地を再現してつくられた「タイプライター・キーボード」、食券機のボタンを制限なく押してみたい衝動から生まれた「食券機を改造した楽器」など、個人の趣味嗜好が全面に押し出された作品や、草刈りロボット、UFOキャッチャーなど「メーカーから販売されている既製品じゃないの?」と思ってしまうほどの力作もあり、個人ができることの幅に驚く。
「誰かのため」のモノづくりではなく、「自分が」こんなものがほしい・つくりたいという衝動からつくられた作品は、クリエイティビティの宝庫である。
このようなメイカーの領域では、大量生産・大量消費時代には見られない個性豊かなアイデアや、生み出す過程をも楽しんでいる「新世代のプロシューマー」の様子がうかがえる。メイカーイベントでは、「何の役に立つの?」「何が新しいの?」といった消費者的質問ではなく「何がきっかけで思いついたの?」「どうやって形にしたの?」「こだわったところは?」というつくり手に近しい質問が飛び交う。そこには、つくり手同士だからこそのコミュニケーションが存在する。
「自分のため」に手を動かす
メイカーは、大きな目標を掲げつくるのではなく、思いついたアイデアの簡単な試作品(プロトタイプ)をつくり、皆に見せ、その中で作品の新たな用途を見つけたり、進化させたりしている。壊れたら自分で修理すればいいし、販売するわけではないので、品質については必要以上に気にしない。何より、「自分のため」に手を動かしているので、つくる過程も楽しくてワクワクしている。
頭でイメージするだけでなく、手を動かし形にすることは、既製品の仕組みへの興味につながり、リバースエンジニアリング(既製品を分解して構造を理解)する人も多い。メイカーのモノづくりは、好奇心と創造力を加速させるだけでなく、プロの生産者への尊敬の念も生んでおり、「修理する権利」が問われる現代において重要な役割を担っていくと筆者は考えている。
新世代のプロシューマー
「つくる」という行為を取り戻した消費者は、自分のニーズを満たす新しいモノをつくるだけでなく、プロの生産者が生み出したものを消費しながらも、修理・分解することで製品寿命を長くしたり、新しいモノに改造したりもする。ゼロから生み出す「創造」だけでなく、ありあわせの手段や道具でつくったり、違うものに再利用したりといった「生成」も生み出す。
筆者は、新世代のプロシューマーたちが、見たことのない新しいモノを生み出すことも楽しみだが、それ以上に、「使い捨て」から「再生の文化」へ変化していくことに注目している。
ところで、石川県立図書館にはデジタル工作機械を使ってモノづくり体験ができるスペースがあり、その運営には、金沢市でメイカーイベントを主催している市民が携わっている。このように、公共施設でその地域に住むメイカーが運営に携わり、オランダ発祥の「Repair Café」のような場ができたら、おもしろいと妄想する。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。