執筆者プロフィール

鳥居 希(とりい のぞみ)
その他 : 株式会社バリューブックス取締役塾員

鳥居 希(とりい のぞみ)
その他 : 株式会社バリューブックス取締役塾員
2021/07/20
みなさんは「B Corporation(以下、B Corp)」という言葉を見聞きしたことはありますか? BはベネフィットのB。社会的な責任を果たしている営利企業を認証する世界標準の仕組みでありムーブメント、それがB Corpです。
本稿では、B Corpが具体的にどのようなものかを紹介し、日本における現在地と、私が思い描くこれからの道のりについて述べていきます。私は長野県で生まれ育ち、大学卒業後、モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社に15年間勤務しました。2015年7月から長野県で古本の買取販売を行う、株式会社バリューブックスで働いています。2年ほど本を活用した寄付事業に携わり、現在は経営陣の1人として、財務を担うとともに、会社の指針となるであろうB Corp 認証の取得に向けて取り組んでいます。
バリューブックスについて
バリューブックスは2007年7月に創業し、まもなく14周年を迎える会社です。創業者の中村大樹が1冊の本をネットで販売したところから始まり、現在は長野県上田市の拠点に120万点の在庫を持ち、約330名の社員で、本の買取とネット販売を中心とした事業を行っています。全国から毎日2万冊ほどの本を当社に送っていただいており、その仕入れの方法は2つ。通常の買取とともに、本を送ってくださった方からの寄付金として買取金額をNPOや大学、自治体に寄付する「チャリボン」という寄付プログラムを行っています。「チャリボン」は2010年に始まり、今までに、のべ22万人以上の方に2500万冊以上の本をお送りいただき、累計寄付金額は5億円を超えています。
最近では自社サイトでの販売を開始したり、上田市内には実店舗を構えたり、移動式の本屋「ブックバス」を走らせたり、本を届けるためのさまざまなかたちを模索しています。
全国から毎日届く2万冊ほどの本が支えですが、実際に値段をつけて買い取れるのは約半分。この課題を解消すべく、できるだけスムーズな買取につながるようなデジタルツール「本棚スキャン」を開発したり、買い取れなかった本もできるだけ次の読者にお届けできるよう、保育園や小学校、老人ホーム、病院などを中心に寄贈をする「ブックギフト プロジェクト」にも取り組んでいます。
まだ小さな活動ながら、リユース率の高い出版社とパートナーシップを結んで、「バリューブックス・エコシステム」という売上の一部を特定の出版社に還元する取り組みも行っています。
「日本および世界中の人々が本を自由に読み・学び・楽しむ環境を整える」。これが、本のより良い循環を試行錯誤する当社のミッションです。
B Corporation とは?
B Corpは、非営利団体の「B Lab」によって運営される、社会や環境に配慮し、ビジネスを通してそれらの課題をできるだけ生み出さないと同時に解決する営利企業の認証制度です。パタゴニアやダノン、ベン&ジェリーズ、ガーディアン・メディア・グループなど、現在、認証を受けた企業は4,000社、153の業種にわたり、77カ国に拡がる国際的なムーブメントになりつつあります(2021年6月14日現在)。
B Labは「ビジネスにおける『成功』を再定義する」ことを目指して、2006年に米国のペンシルバニア州で活動を開始し、この認証制度をつくりました。株主だけではなく、全てのステークホルダー(社会・環境)のベネフィットを重視し、成果にコミットする。それが再定義の意味するところです。株主や経営者が変わっても会社のミッションを守ってビジネスを続けるための制度でもあります。
認証を受けるためには、社会や環境に対する成果を高い基準に基づいて評価する「Bインパクトアセスメント」を企業が自ら行い、一定の基準を満たしたところで認証取得を申請し、B Labによる審査を受けます。アセスメントの根拠となるデータや資料などを交えた審査の後、B Labが定める社会的・環境的ミッション、社員やサプライチェーン、地域のコミュニティ、顧客などすべてのステークホルダーに対する責任などの条件をもとに定款を改定し( 国の法制度による)、The B Corp Declaration of Interdependenceに署名します。一度認証を受けた後も、認証を更新するためには、「Bインパクトアセスメント」を3年に1度行い、その結果を公開する必要があります。
Bインパクトアセスメントの評価項目は次の5つの柱で構成されています。①Governance(ガバナンス)、②Workers(ワーカー)、③ Community(コミュニティ)、④ Environment(環境)、⑤ Customer(顧客)。
たとえば、ガバナンスのなかでは、ミッションステートメントに関する質問があり、社会や環境にコミットしていることがどの程度具体的に明文化されているかを問われたり、環境については、自然を保護したり、再生するようなビジネスモデルやオペレーションになっているか、というようなことが問われます。
Bインパクトアセスメントは、国や業種、会社の規模などに応じて質問の組み合わせが決まり、アセスメントを進めるなかで、回答によって少しずつその後の質問も変わっていきます。質問数は約200。認証を取得するために必要な最低限のスコアは、200ポイント中80ポイント。意外と低いスコアのように思えますが、完璧ではない状態でもB Corp認証企業とすることによって、社会や環境に対して継続的により良いインパクトを出すことにコミットする状態をつくっているのではないかと解釈しています。
バリューブックスとB Corp
当社は2015年にB Corpと出会い、16年に米国でパタゴニアやベター・ワールド・ブックス、そしてB Lab のサンフランシスコオフィスを訪問する機会に恵まれ、B Corpに関する理解を深めました。その後、同年に最初のBインパクトアセスメントを行い、20年の初めに、認証取得に向けてアセスメントを再開。この時のアセスメントでは社内で関心のある人が集まり、手分けをしてひととおりの回答づくりや、そのための調査を行い、参加した全員でお互いの回答結果を見直すプロセスを経て、現在は最終の見直しを行っています。
「なぜバリューブックスはB Corp認証を取得しようとしているのか?」。よく聞かれる質問ですが、「自分たちの価値観にフィットし、さまざまな取り組みを包括的、かつ客観的に見られる指標が欲しいから」というのが、B Corp認証が必要だと思う理由です。真っ当にビジネスをするため、とも言えます。「実利を求めていないのか?」と問われることも多いのですが、この指標を道しるべとしてビジネスをしていくことが、長期的に見た最終的なベネフィット(経済的・社会的・環境的)につながると考えています。
コミュニティで翻訳する入門書
B Corpの概念を知るための、認証取得の入門書とも言える書籍が『The B Corp Handbook』です。
2014年に初版、2019年にダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンについてより丁寧に書かれた増補版が発売されたこのハンドブックには、B Corp の概念、Bインパクトアセスメントの説明、認証取得のプロセスなどが詳細に書かれています。
日本には、2021年6月現在、B Corp認証企業は6社しかありません。世界で4,000社のうち6社です。ここ数年その数は増えておらず、その理由の1つが言葉の壁であると考えた私たちは、ハンドブック第2版の日本語版を当社の出版事業第1弾として出版することにしました。まだ当社も認証取得に向けて動いているところですが、その歩みを進めながらも、同時に仲間を増やしていきたいと思っての決断です。ビジネスにおける成功の再定義は1社では到底できません。
日本語版の出版プロジェクトは、コンテンツレーベル・黒鳥社と共同で行っています。題して「あたらしい会社の学校『B Corp ハンドブック翻訳ゼミ』」。
当初は、どなたかお1人に翻訳をお願いしようと考えていました。黒鳥社のコンテンツ・ディレクターである若林恵さん、編集者の矢代真也さん、当社のメンバーと数カ月にわたって構想を練るうちに「オープンなかたちでの翻訳」に話がスッと収束しました。この翻訳自体が、日本でのB Corpの意味をつくっていくのに重要なプロセスであり、さまざまな視点を入れることが、しっくりくるかたちだと思えたのです。そこからB Corp認証取得に関心があり、かつ翻訳に関わりたい人を広く募り、最終的に30名ほどのメンバーで、今年の1月から月に1回(全6回)のゼミを中心に翻訳を進めています。業種としては製造業、製材業、小売、金融、メディア、PRなど、職種も経営者、職人、弁護士、営業職、研究者など、所属している会社の規模も、大企業から中小企業、スタートアップまで、多様なメンバーのチームです。
ゼミでは、分担した翻訳原稿を持ち寄り、B Corpで問われていることの背景を、それが生まれた米国を中心とした歴史・社会・文化を勉強しながら読み解き、日本の文脈に落とし込んだり、メンバー同士、働くなかでの経験を共有したりして議論を行っています。
思い描くB Corp ムーブメントの姿
月1回のゼミの他にも、メンバーの自主企画で個人にフォーカスして話を聞く会や、翻訳の見直しを行う会が継続的に行われ、徐々にコミュニティとなってきているのが、6月現在の様子です。ゼミ自体は6月で終了となりますが、今までの半年は、ここから先に向けての土台であり、このコミュニティは、それぞれが関わりたい頻度や濃度で続いていきそうです。自社やクライアントの認証取得に向けて動きを加速する人もいるかもしれません。もちろん当社も、そのうちの一社です。
少し先になるかもしれませんが、このゼミを通して、みんなで育んできたコミュニティをより開いたものにしていきたいと考えています。B Corpに関する理解を深めたり、認証取得に向けて動きたい時、行動しやすく、協力し合えるようなコミュニティです。企業やそこで働く個人の力が解放され、それぞれのミッションが達成されることで、B Corpムーブメントは自然と成長するように思います。
B Corp の概念を伝える“ Use Business as a Force for Good”。この表現は、証券会社で働いていた時に感じたビジネスのパワーを、次の仕事で少し違う角度からも生かしたいとぼんやり考えていたことと、私自身が今B Corp に取り組む理由をうまくつなげてくれているように感じています。
〈参考資料〉
「B Corp」はみんなでつくるもの
https://atarashi-kaisha.medium.com/interview-nozomi-torii-5a2ce276c3e0
【バリューブックス出版記】なぜバリューブックスが出版をはじめるのか?
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。