執筆者プロフィール

浜田 萌(はまだ もえ)
読売新聞東京本社社会部記者
浜田 萌(はまだ もえ)
読売新聞東京本社社会部記者
子どものSNS利用について、世界各国で議論が活発化している。スマートフォンやSNSは、今や情報収集やコミュニケーションに欠かせない生活必需品となった。子どもにとっても、同級生との連絡や学校外の友人との交流に重要なツールであるだけでなく、学習や創作活動にも使われている。その反面、過度な依存に加え、ネット空間でのいじめや犯罪に巻き込まれかねない有害情報への接触といった負の側面も顕在化している。世界各国では、年齢によって一律でSNSの利用を制限する動きが相次ぐ。海外の事例を踏まえつつ、対策を考えたい。
豪州の「SNS禁止法」
SNS規制で世界的な注目を集めているのが、豪州だ。2024年11月に16未満の子どものSNS利用を一律で禁止した「SNS禁止法」が成立し、今年12月に施行が予定されている。SNS事業者に16歳未満のアカウント取得を防ぐ措置を義務づけ、違反すれば最大で4950万豪ドル(約50億円)の罰金を科す。
国レベルでの規制に踏み切った背景には、SNSが原因で命を絶った子どもの遺族らによる切実な訴えがある。
豪州第二の都市・メルボルンに住むマック・ホールズワースさんは16歳だった22年に、インスタグラムでやりとりをしていた「18歳の女性」にせがまれ、自身の裸の画像を送った。その後、見知らぬ男から電話があり、「金を払わないと、画像を友だちや親にばらまくぞ」と脅された。実は、この男が女性になりすまし、マックさんに接触していた。
マックさんは言われるままに約5万円を払うも、画像はSNS上で拡散した。男は逮捕されたが、マックさんは翌年、「もう耐えられない。ごめんなさい」と遺書を残し、自殺した。YouTubeには、「自殺の方法」を検索した跡が残っていたという。父親のウェインさんは取材に対し、「危険に満ちたSNSから子どもを遠ざけ守るのが、大人の責任だ」と訴え、法律の施行を心待ちにしている。
利用開始年齢の引き上げ
多くのSNS事業者が利用者の最低年齢を13歳としている中、豪州の禁止法が16歳未満の利用を制限したことにも、遺族の思いが反映されている。
同じくメルボルンに住む15歳のオリビア・エバンスさんは、学校で「太っている」といじめられ、摂食障害に陥った。夢中になったのは、インスタグラムやTikTok上にあふれるダイエット情報だった。家族が何度注意しても、「SNSでは、1日200キロカロリーでも健康的だと言われている」と受け入れなかった。やがて心身のバランスを崩し、23年に薬を過剰摂取して命を落とした。
父親のロブさんは、利用者の興味のある情報を次々と表示させるSNSのアルゴリズムがオリビアさんの精神をむしばんだとして規制を訴えてきた。特にオリビアさんが15歳だったことを踏まえ、16歳未満に対する利用規制にこだわった。「周囲からの影響を受けやすい成長途中の子どもたちにSNSは危険すぎる。この法律で子どもたちとSNSの接触年齢を少しでも遅くできる」と禁止法の意義を強調する。
実効性は未知数
法規制に対し豪州国民の賛否は分かれている。
保護者への取材では、「娘を見ているとSNSには中毒性があると思う」「SNSは子どもに悪影響だという国の後ろ盾があると助かる」と規制に賛成する声が上がった。これに対し、「SNSは情報収集や友だちとの連絡手段に使う重要なツールだ。利用禁止は子どもたちの可能性を狭めることになる」「禁止することで一般に知られていない怪しげなSNSを使い出すのではないか。かえって危険だ」と反対する声も多数聞かれた。
SNS禁止法の実効性は未知数だ。規制の成否はSNS事業者が年齢確認を確実に行えるかにかかっている。禁止法は個人情報保護の観点から、SNS事業者が利用者に公的な身分証明書を提出させることを禁じている。
事業者は別の方法で年齢確認をする必要があり、豪政府は今年1月から、年齢認証技術の実証実験を行ってきた。そこでは、AI(人工知能)による顔や声などの生体情報の分析や、就学情報などからの年齢推定など、48事業者による60以上の技術が対象となった。
今年8月末に豪政府が公表した報告書では、顔認証技術などで利用者の年齢を見誤るケースが確認された。どの技術を採用するかは事業者に委ねられるが、どこまで正確に年齢を確認できるのかという課題は、解決されていない。
各国で規制の動き
他国でもSNSの利用規制に向けた動きが進んでいる。
ニュージーランドでは今年5月、16歳未満のSNS利用禁止法案が議会に提出された。6月にはフランスのマクロン大統領が、15歳未満のSNS利用禁止について、欧州連合(EU)での制度化を目指す方針を示した。ノルウェーは24年10月に、SNSの利用開始年齢を15歳とする新たな規制の導入を検討すると表明している。
アメリカでは州ごとに規制の動きがみられる。ユタ州では24年、SNS事業者に利用者の年齢確認を義務づける州法が制定された。ニューヨーク州も事業者に対し、保護者の同意なしに18歳未満の利用者へ個人データに基づくアルゴリズムでコンテンツを提供してはならないと定めた。
日本は利用制限よりリテラシー教育
日本では自治体レベルでスマホやネットの利用時間を制限する動きが出始めている。
香川県は20年、「ネット・ゲーム依存症対策条例」を制定した。中学生以下のスマートフォン等の利用について「午後9時まで」との目安を示した。愛知県豊明市では今年8月、全市民を対象に仕事や勉強以外でのスマートフォンやタブレット端末の使用について「1日2時間以内」を目安とする条例案が市議会に提出された。いずれも罰則はなく、理念法にとどまる。
NTTドコモモバイル社会研究所が24年に実施した調査では、日本の中学生のSNS利用率(SNSを1つ以上利用している割合)は、92%に上った。小学4~6年で63%、小学1~3年でも31%だった。総務省によると、10代の平日の平均利用時間は、SNSが1時間7分、動画共有サービスは1時間56分で、SNSや動画の視聴が子どもの生活の一部となっていることがうかがえる。
時間があると、ついスマホを触ってしまうというならまだしも、四六時中SNSや動画を見ている状態となれば健全とは言えない。市民からは「行政が家庭の問題に介入するのか」などと批判的な声も出ているが、スマホの「使い過ぎ」に一石を投じたと言える。
一方、国では子どものSNS利用を一律規制する動きは見られない。国は24年11月から、有識者らも交えた「インターネットの利用を巡る青少年の保護の在り方に関するワーキンググループ」(WG)を開催。子どもがインターネット利用時に直面する危険と安全な利用に関し、課題と論点を整理した。
WGは8月に公表した報告書で、子どもにも幅広い情報にアクセスできる「知る権利」や「表現の自由」があるとの観点から、年齢で一律にSNSの利用制限をするよりも、子どもの発達段階に応じたサービスを提供し、情報の真偽などを読み解く「情報リテラシー教育」の強化を図るとの方向性を示した。SNSなどのオンライン空間は、いじめや不登校児童の居場所や相談窓口にもなっているとして、子どもの保護とネット活用のバランスを重視した形だ。
「送信リスク」へ対策を
確かに、一律の利用禁止は子どもを「無菌室」に閉じ込めることになりかねない。ある年齢になった途端、SNS空間に放り出されれば、結果として子どもが危険にさらされる可能性は否定できない。だが、今子どもを取り巻くSNSの状況は看過しがたい。
警察庁によると、昨年、SNSやオンラインゲームを通じて犯罪に巻き込まれた18歳未満の子どもは、1486人に上った。中学生が715人、高校生が582人で、小学生は136人だった。類型別では、不同意わいせつや略取誘拐などの「重要犯罪」が最多で、「児童ポルノ」「青少年保護育成条例違反」が続いた。きっかけとなったSNSは「インスタグラム」「X(旧ツイッター)」「TikTok」の順だった。
子どもと加害者が知り合うきっかけとなったSNS投稿の7割超が、子どもによるものだった。投稿内容は趣味や日常生活、友だち募集など犯罪とは直接関係ないものだが、その後、悩み相談やゲーム攻略などで親しくなるうちに個人情報を教えてしまい、被害に遭うケースが目立つ。WGの委員を務め、子どもとネットの問題に詳しい上沼紫野弁護士は「大人は実際に会ったことがないと、『知らない人』として警戒するが、子どもはSNSやオンラインゲームでやりとりすると、『親しい人』と受け止め、警戒心なしに個人情報や画像を送る傾向にある」と話す。
送信画像や内容によっては、子どもが加害者となる可能性もある。東京第二弁護士会が実施する子ども向けのLINE無料相談には、「自分の投稿が誹謗中傷と言われた」「児童ポルノを転送してしまったが、捕まるのか」といった中高生からの相談が相次いでいる。
こうした状況を受け、WGでも、SNSにおける「送信リスク」への対応が議論された。現行の対策は、アダルトサイトや出会い系サイトなどから配信される有害情報を受信できないようにする「フィルタリング」が中心となっている。
だが、トラブルや犯罪被害を未然に防ぐには、受信対策のフィルタリングだけでは不十分なことは明らかだ。子どもが不適切な文言や画像、個人情報を送れなくするといった対策が公示されるべきだろう。
活用と保護の両立へ
現在のSNS空間には、生成AIによる偽画像「ディープフェイク」などの偽誤情報もあふれている。同級生らの写真を使った性的ディープフェイクは世界的に問題となっている。
警察庁によると、2024年の未成年の性的な偽画像に関する警察への相談や通報は100件を超えた。被害者の多くは中高生だが小学生も含まれ、「自分の顔写真で作られた裸の画像がSNSに出ている」などと訴えている。
海外で性的なディープフェイク画像そのものを規制する動きが広がり、日本では鳥取県が条例を改正し、子どもの写真で性的な偽画像を作ることを罰則付きで禁止した。国のWGでも法整備を含めた対応を求める意見が出たが、議論はまだ深まっておらず、一部のSNSには画像があふれている。
近年の研究では、SNSの過度な利用によるメンタルヘルスへの影響も明らかになってきている。
国立精神・神経医療研究センターなどは、思春期におけるネットに時間を使いすぎたり、使い始めるとやめられなかったりなどの不適切な使い方は、幻覚や妄想、抑うつといったメンタルヘルスの不調につながることを確認したとしている。
そんな中、SNS事業者の自主的な取り組みが進みつつある。一例が、事業者が問題ある投稿を監視し、削除する「コンテンツモデレーション」だ。LINEヤフーは、2024年度に「LINE VOOM」に投稿されたショート動画約4億件のうち、性的な表現や自殺に関する内容が含まれるものなど約305万件(0.8%)を削除した。
子どもの保護策も始まっている。インスタグラムは今年1月から、日本国内で13~17歳の利用者を対象に、暴力的な表現や性的な画像、過度なダイエットを促すものなど不適切な内容を含む投稿の表示を自動的に制限する「ティーンアカウント」というサービスを始めた。1日あたりの利用時間が1時間を超えると、アプリの利用を中止するよう促す通知が届くなど、依存の防止も図っている。
SNSは多様な情報への扉として、子どもたちの視野を広げ、可能性を引き出すツールであることは言うまでもない。しかし、事業者が利益を優先し、SNSへの依存を招くような手法を用いることは許されない。健全な利用を促すことは事業者の責務であり、国は事業者の取り組みを促す施策を進めていくべきだ。子どもが安心してSNSを活用できる環境をどう確保するのか。対策は待ったなしだ。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。