慶應義塾

【特集:ソーシャルメディアと社会】座談会:加速するアテンション・エコノミーとソーシャルメディアのゆくえ

公開日:2025.10.06

登場者プロフィール

  • 今子 さゆり(いまこ さゆり)

    LINEヤフー株式会社メディア統括本部シニア トラスト&セーフティー マネージャー

    早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。2000年ヤフー株式会社入社、知財・法務・政策企画担当。17年よりヤフーニュース。文化審議会著作権分科会基本政策小委員会委員、日本知的財産協会・常務理事等を歴任。

    今子 さゆり(いまこ さゆり)

    LINEヤフー株式会社メディア統括本部シニア トラスト&セーフティー マネージャー

    早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。2000年ヤフー株式会社入社、知財・法務・政策企画担当。17年よりヤフーニュース。文化審議会著作権分科会基本政策小委員会委員、日本知的財産協会・常務理事等を歴任。

  • 馬籠 太郎(まごめ たろう)

    株式会社電通デジタル マーケティングコミュニケーション領域 パフォーマンスマネジメント部門 ソリューション開発部 マネージャー

    中央大学商学部卒業。複数の広告代理店を経て、2015年より電通デジタル入社。SNS広告をはじめとしたデジタル広告業務の企画や開発に従事。23年より現職。慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート共同研究員。

    馬籠 太郎(まごめ たろう)

    株式会社電通デジタル マーケティングコミュニケーション領域 パフォーマンスマネジメント部門 ソリューション開発部 マネージャー

    中央大学商学部卒業。複数の広告代理店を経て、2015年より電通デジタル入社。SNS広告をはじめとしたデジタル広告業務の企画や開発に従事。23年より現職。慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート共同研究員。

  • 絹川 千晴(きぬがわ ちはる)

    NHK報道局取材センター 科学・文化部記者

    一橋大学社会学部卒業。2016年NHK入局。和歌山放送局、京都放送局勤務を経て、23年より科学・文化部で消費者問題やIT関連の話題を幅広く取材。

    絹川 千晴(きぬがわ ちはる)

    NHK報道局取材センター 科学・文化部記者

    一橋大学社会学部卒業。2016年NHK入局。和歌山放送局、京都放送局勤務を経て、23年より科学・文化部で消費者問題やIT関連の話題を幅広く取材。

  • 谷原 つかさ(たにはら つかさ)

    その他 : 立命館大学産業社会学部准教授社会学研究科 卒業

    塾員(2022社博)。2010年東京大学経済学部卒業。中央官庁勤務後、博士号(社会学)を取得し、神田外語大学講師を経て24年より現職。ソーシャルメディアの定量的研究やガバナンスなどが専門。

    谷原 つかさ(たにはら つかさ)

    その他 : 立命館大学産業社会学部准教授社会学研究科 卒業

    塾員(2022社博)。2010年東京大学経済学部卒業。中央官庁勤務後、博士号(社会学)を取得し、神田外語大学講師を経て24年より現職。ソーシャルメディアの定量的研究やガバナンスなどが専門。

  • 水谷 瑛嗣郎(司会)(みずたに えいじろう)

    研究所・センター メディア・コミュニケーション研究所准教授

    塾員(2011法修、16法博)。2009年同志社大学法学部卒業。帝京大学、関西大学を経て、2025年より現職。博士(法学)。専門は情報法、メディア法、憲法。

    水谷 瑛嗣郎(司会)(みずたに えいじろう)

    研究所・センター メディア・コミュニケーション研究所准教授

    塾員(2011法修、16法博)。2009年同志社大学法学部卒業。帝京大学、関西大学を経て、2025年より現職。博士(法学)。専門は情報法、メディア法、憲法。

ソーシャルメディアの現在地

水谷

本日は「ソーシャルメディアと社会」をテーマに皆様と議論していきたいと思います。

現在、ⅩやYouTube、TikTok、Instagramなどは、日本社会の情報流通にとって不可欠な存在になり、影響力も増す一方ですが、偽・誤情報、陰謀論、誹謗中傷の拡散などといった様々な課題も出てきています。その中で今日は「デジタル空間の健全化」「よりよい情報インフラ、公共空間の形成」に向けて少しでも建設的な議論ができればと思っています。

はじめに、皆さんに現在のお仕事と、今、ソーシャルメディア(SNS)について気になっている点を教えていただければと思います。それでは、よろしくお願いいたします。

絹川

私はNHKの科学・文化部で記者をしています。今年で10年目ですが、所属がIT班なので、ソーシャルメディアやサイバーセキュリティに関しても取材しています。

今、特に取材テーマにすることが多いのは広告関係です。悪質な広告がソーシャルメディアに紛れ込む問題や、なりすまし広告やブランド品の偽広告、悪質なセミナーにつながるような広告、また、子どもに見せたくないような過激な性的な表現を含むような広告といった問題をよく取材しています。

他に関心があるところは、広告費を集めるための釣り見出し的なコンテンツの氾濫や、不透明なアルゴリズムによって利用者にどんな影響が出ているのかなどです。そういう話も今後取材していきたいと思っています。

また、旬の話題としては、ソーシャルメディアによる分断の助長という問題、偽・誤情報が氾濫する問題なども幅広く取材しています。

今子

私は旧ヤフー株式会社に入社したのが2000年で、25年この業界におります。当初は法務・政策企画部門において、主に著作権業務に携わり、著作権制度の在り方について検討してきましたが、2017年に主務をヤフーニュースに移し、情報空間の健全性に関わる仕事をしています。ヤフーニュース内でのルールメイキングと言いますか、メディア各社に配信いただく記事のガイドラインを整備したり、ヤフーニュースをどういう考えのもとに運営していくかを「ヤフーニュースの運営方針」という形で透明化する、有識者の先生方にご説明してお話を伺う、といった仕事をしてきました。

ソーシャルメディアについて最近気になっている点は、特に今般の参院選などを見ていると、公共性の高い情報が、若い人を中心にしっかり届いているのだろうか、という点です。プロミネンスと言われますが、選挙や災害などをはじめとした公共性の高い情報、質の高い日々のニュースがしっかり人々に届くようにしていかなければならないと思っています。

馬籠

私は最初にシステムエンジニアの会社に入った後、広告系の会社に転職をし、今に至るという形です。15年ほどデジタル広告に携わっています。

私が気になっているところで言うと、先日、郷里の鹿児島に帰ったのですが、現在72歳で塾をやっている私の母親が、デジタル広告を出していたのです。「このCTR(クリック率)は、どうなの」と母親に聞かれた時、すでにここまで浸透しているんだなと思いました。地方の小さい塾の経営者にとってもデジタルマーケティングが一般的になってきている。一般のユーザーが現在デジタルマーケティングをどう思い、捉えているのかというところが、一番今気になっている点です。

他に気になる点は、ヘイトコメントにつく広告です。これは出稿者の単価の問題や掲載する媒体のマネタイズの問題、広告自体の課金方法の問題などが絡み合っていて一筋縄ではいきません。テクノロジーとユーザーの知識と意識の部分で、解決できる方法を検討できればと思っています。

谷原

私は20代は霞が関で国家公務員をやっていて、30代になってからアカデミアの扉を叩いたのですが、いつの間にかソーシャルメディアの研究を中心に、主にデータサイエンス的なアプローチで研究しています。YouTubeやXのデジタルデータをとったりして、人々の情報行動についての論文を書いています。

最近関心を持って勉強しているのが、EUのDigital Markets Act(DMA=デジタル市場法)の6条の9にあるデータのポータビリティに関する規定です。これは要はソーシャルメディア上で利用者、エンドユーザーが生成したネットワークデータをポータブルにしなさい、ということを言っている。そのことによってプラットフォームが占有している強力なネットワーク効果を低減させて、人々がソーシャルメディアを自由に選べるような未来を目指しているのだと思っています。

よくメディアの方から今後SNSに対してどのように規制をするのがいいのかと聞かれるのですが、今検討されているような、表現内容に基づいた規制は憲法との関係でとても筋が悪い。それをやるのであれば、例えばXが嫌な人はBlueskyやMastodonといった、自分の好きな情報空間を選べる方向でルールを整えていくのが1つの出口なのかなと思っています。

ソーシャルメディアの功罪

水谷

皆様有り難うございます。様々な問題関心や課題を挙げていただきましたが、まず、ソーシャルメディアの「インタラクティブなメディアとしての功罪」について議論をしていきたいと思います。

まず、ソーシャルメディアの「功」の部分で言うと、まさに皆が発信者になる機会を得たということがやはり大きいと思います。それ以前のメディア環境というのは、基本的にはマスメディア中心で、「送り手」と「受け手」が明確に分かれていました。それが、ソーシャルメディアの普及で、発信者となるための参入障壁がかなり低下しました。今は誰でも評論家やジャーナリスト「のように」なれるわけです。

その一方で、今まで情報発信の媒体を独占してきた、いわゆる既存メディアの影響力が低下してきているのでは、とも言われています。

次に「罪」の部分でいえば、偽・誤情報や陰謀論、ヘイトスピーチのような有害情報、さらに、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)の対象にもなっていますが、違法な誹謗中傷の問題もあります。つまり双方向型メディアとなったことで、ユーザーが発信するコンテンツが有害な影響を発生させる点についてどう考えるかというのが1つです。

それから広告の話です。いわゆる詐欺広告やなりすまし広告など、広告自体が有害性をもつものもありますが、広告自体には問題がなくても、広告が付いてしまうことで偽・誤情報や陰謀論、あるいはヘイトコンテンツなどを発信する者の収益源となってしまい、経済的インセンティブを与えてしまうという問題もあります。

まず絹川さん、記者になられてから、こうしたソーシャルメディア関連の課題を追っている中で、転換点と感じられるような出来事はありましたか。

絹川

私は大学に入って初めてスマホを持った世代で、その時はまだ当時のTwitterも牧歌的でした。2016年に社会人になった当初は自治体などでもソーシャルメディアをどんどん使っていこうという流れがあったかと思います。これは本当に肌感覚ですが、ソーシャルメディアの存在感がすごく高まったのは2020年、コロナ禍前後かなという気がします。

もともと私は和歌山局や京都局では警察担当としての事件取材が長かったのですが、以前はサイバー系で話題になる話と言えば、若年層の不正アクセスや青少年が犯罪に巻き込まれる話などで、ソーシャルメディアやネットは若者や詳しい人が使うもの、詐欺の被害には高齢者が電話で遭いやすい、と結構分かれていました。それがだんだん混ざってきて、年齢関係なくソーシャルメディア経由で被害に遭う人が続出するようになっていると思います。

はっきりとした転換点はわかりませんが、コロナ禍でオンラインでつながろうという動きがでてきた時にソーシャルメディアが身近になり、犯罪やトラブルもSNS空間に広がってきたという印象があります。

水谷

なるほど。今子さんはどのように感じられていますか。

今子

ソーシャルメディアからは少しずれるかもしれませんが、ヤフコメ(ヤフーニュースのコメント欄)についてお話しいたします。ヤフコメは2007年に設置され、様々な社会課題が活発に議論される場として発展したのですが、一方で、誹謗中傷などの問題もあり、ヤフーニュースでも集中的に議論し、積極的に対策をしてきました。人の目によるパトロールだけでなくAIを活用して自動的に削除を行う等を進めており、また、各分野の専門家に公式コメンテーターとしてコメントをしていただき、上位に表示するなどの工夫を行った結果、これらの対策が功を奏していると感じています。

2020年度からは、毎年自主的にメディア透明性レポートを公開し、投稿型サービスでどのような体制でどういった対策を行っているか、どれくらいの件数が投稿され、そのうちどれくらい削除されたのか等について開示しています。ヤフー・ジャパンの投稿型サービス全体で見ると、2021年度と比較して、24年度は投稿件数自体は減ってはいないものの、投稿削除件数は4分の1程度まで減っています。

こうした数値を見ると、一歩前進しているとは思います。とはいえ、新しい様々な課題が次々出てくるので、その都度真摯に対応していかざるを得ませんし、透明性を高く保つことが大切だと思っています。

水谷

有り難うございます。馬籠さん、デジタル広告の分野ではここ10年ぐらいで何か大きな変化はありましたか。アテンション・エコノミーが加速しているという点などがあるのではと思うのですが。

馬籠

私がこの業界に入った時は、広告枠は運用型ではなく枠売りをしていたのですが、その頃とはまったく様相が変わり、運用型広告、さらにはSNS広告の普及という変化があります。

SNS広告を売り始めた当初は、ターゲティングが今より柔軟にできました。ターゲティング精度が高かったので跳ね返ってくる効果もすごく高かったのです。その後、個人情報等への規制が厳しくなり、今の状態に至ります。

現在のSNS広告は、他の運用型広告と比べても、遜色なく効果が高い。これは、プラットフォームのアルゴリズムが秀逸でターゲティングの精度が優れているのだと思います。そのため非常に売れていますし、成長を続けています。この傾向は不可逆で戻ることはないと思います。

水谷

今、馬籠さんがおっしゃったことは、たぶんアテンション・エコノミーの根本の部分にすごく関係するところですね。我々も今の傾向が「不可逆」であるという点は心に留めておく必要がありそうです。

参院選とソーシャルメディア

水谷

最近ではソーシャルメディアに関するデータサイエンスの知見を新聞などでも拝見することが多くなりました。直近だと参院選が特にそうですね。ソーシャルメディアは民主主義を支えるツールでもあるので、選挙などの時にユーザー、有権者がどのような情報摂取行動をしているかという部分は重要かと思うのですが、谷原さん、直近でソーシャルメディアから見えた課題や問題点はありますでしょうか。

谷原

7月の参議院選の時には結構しっかりとした調査を選挙前後でやり、YouTubeのデジタルデータも追跡していました。大きく言えば、やはり今回メディア接触と支持政党の関係については年齢によって完全に断層ができているという結果が出ています。

50代ぐらいを境にして60代、70代はテレビ、新聞、選挙公報から情報を得ていて、この層は自民と立憲、公明を支持している。40代以下は、主にYouTubeやXといったソーシャルメディア媒体から情報を得ていて、国民民主党と参政党を支持している。これは本当にきれいに断層ができていて、右と左の分断ではなく、まさにメディア接触と年齢層の分断がかなりはっきりしていたのが今回の参院選だったと言えると思います。

今回、投票率も全体で前回より6%ぐらい上がっているのですが、若年層はソーシャルメディア、特にYouTubeを通じて、これまで政治情報を得てこなかった層もそれを得ていると思われます。もちろんYouTube上の情報も玉石混交ですが、どんな形であるにせよ、選挙の情報を得て投票率が上がることは、私は基本的にいいことだと思うのですね。

ただ同時に、参院選関連のYouTube上の動画のうち40数パーセントが第三者による切り抜き動画だと言われています。政党の公式が出している動画は全体の1割から2割。残りがテレビ局や新聞社がYouTubeに下ろしている動画やWebメディアによる動画です。

今まであまり政治参加に積極的でなかった若年層が、中小政党も含めていろいろな政党の主張を見られることは、基本的に悪いことではないと思います。若い人がSNSに感化されて適当に投票しているとは私は思っていません。

水谷

なるほど。

谷原

少し気になったのは、既存メディアの信頼性やネットの信頼性について、様々なアンケートがありますが、あれは何を測定しているのかよくわかりません。例えば同じテレビでも、昼間のワイドショーと「ワールドビジネスサテライト」だったら、全然信頼度が違うはずです。

ですから私のやった調査では、YouTubeではいくつかの政治経済系のチャンネルを具体的に挙げて、「あなたが見ているのはどれで、それをどれくらい信頼していますか」と聞いたのです。ざっくりと聞くと、YouTubeやXより、テレビ、新聞のほうが信頼度が高い。しかし、「PIVOT」とテレビでは、それなりの差で「PIVOT」のほうが信頼度が高いのです。だから、ネット一般が玉石混交であることは理解しながら、自分の見ているチャンネルはテレビより信頼できる、という感覚だと思うのです。

もう1つ付け加えると、日本と欧米の一番の違いは、欧米は2024、5年の選挙では主な媒体はショート動画に移行しています。具体的にはTikTokです。イタリアのメローニ首相はフォロワーが250万人、フランスの国民連合党首バルデラ氏も200万人フォロワーがいて日本とは桁違いです。日本はまだYouTubeが主流です。ただ、各政党ともTikTokにも力を入れ始めているので、ショートが主流になるのは時間の問題かなという気はします。

今回の参院選も最後の1週間ぐらいで急に各政党がTikTokに力を入れ始めて、そこで参政党と国民民主党が急にグッと来た。別に欧米の人に比べて日本人が長尺が好きだという根拠はないので、自然な流れとしてそちらに移行する可能性は高いと思います。

アルゴリズムと個人の選択の共犯関係

水谷

有り難うございます。YouTubeやTikTokは、アルゴリズムによるレコメンドの仕組みがかなり違いますよね。そういうソーシャルメディアの構造、特にアルゴリズムの部分とユーザーの情報摂取との関係については何かありますでしょうか。

谷原

日本で主流のYouTube、X、TikTokのアルゴリズムの特長は三者三様です。わかりやすいのはTikTokで、一番クローズドというか、とにかく「あなたの好みに最適化します」ということなんですよね。ある意味流行りもシャットダウンできてしまうぐらい、強烈なフィルターバブルを生むのです。

またYouTubeは2010年代にとても批判されて、かなり抑制的に運用する方針になった。ポリシー違反すれすれの有害な誤情報や、誰かを傷つけるようなきつい動画は、削除も非表示もしないけれど露出を減らしますよ、と明示的に言っています。さらに権威あるマスメディアが下ろしているコンテンツは最優先でプッシュする、と言っています。

確かにYouTubeのレコメンドに従うと、どんどん穏健なものを見ていくことになっていくという報告もある。だから党派性が強い動画が出てくるのはむしろ個人の選択であって、それをYouTubeが学習するのです。ある種アルゴリズムと個人の選択の共犯関係で党派性が強まっていくというのが、データサイエンスが明らかにしてきたことです。

Xに関しては、For Youタイムラインの50%はフォロー外のポストを入れているのです。ただあれも結局「バズった」ポストばかり、あるいは右派的なポストがおすすめされる。

なので、それなりに偏りやあるいは安全性にまだ問題があるということはデータサイエンスが明らかにしてきましたが、フィルターバブル悪玉論というほど単純ではなく、むしろ個人の選択と、それぞれ癖のあるアルゴリズムの共犯関係によって表示される傾向があるということです。

水谷

共犯関係というのは、結構重要ですね。シナン・アラルが、著書『 The Hype Machine (邦題:デマの影響力)』の中でアルゴリズムはそれ単体で存在しているわけではなく、ユーザーの行動を延々と学習し、フィードバックしながら「おすすめ」を強化しているのだと指摘していますね。技術決定論的ではなく、人間と技術の相互関係のようなところが、ソーシャルメディアの功罪にも関係しているかなと思います。

選挙とニュース

水谷

絹川さんは記者の立場から今回の参院選についてはどのように感じていますか。

絹川

今回NHKは、参院選での候補者全員の第一声を全文紹介し、内容によっては注釈をつけて報道したのですが、私自身はそれが実際に視聴者にどこまで届いたのか、まだよくわからないと感じています。

もともと選挙期間中は情報が山ほど出てきます。その中で私たちなりに一生懸命、多くの人に届けようと思い、切り取りだと受け取られないようにと考えて取材しているのですが、それが十分に届いたのか、届いた人と届かなかった人ではどこに違いがあったのかなど、今後、検証していく必要があると感じています。

水谷

なるほど。視聴者に届いていないのではないか、というのは課題ですね。今子さん、今回の参議院選でもそれ以外でもいいのですが、ヤフーニュースのコメント欄やヤフーニュースの配信の部分で、選挙対策として取り組まれたことはありましたか。

今子

偽・誤情報の観点から、選挙期間中は特に、信頼性の高い情報をみていただきやすい場所で確実にお届けすることが大切であると考え、ヤフーニュース トピックスで偽・誤情報の打ち消し記事を載せたり、選挙特集のページでファクトチェックされたコンテンツパートナーの記事を配信したりしました。

今回素晴らしいと感じたのは、ファクトチェック機関だけでなく、新聞社やテレビ局など多くの社がファクトチェックを行ったことです。ヤフーニュースにも配信していただきましたので、ヤフーニュース トピックスで取り上げることができ、とても良かったと思っています。

その他、ユーザー自身の考えに近い政党を教えてくれるサービス「政党との相性診断」を提供し、350万人を超えるユーザーに使っていただきました。これは前回(2022年)の数値から大幅に上昇しており、選挙への関心の高まりを感じました。

ヤフコメでは、偽・誤情報が蔓延しているという状況ではないですが、候補者についての虚偽の事項を書き込むことや名誉毀損については公職選挙法等でも禁止されており、ユーザーに注意喚起をし、問題がある投稿については確認して対応を行っています。

デジタル広告と情報健全化

水谷

さて、馬籠さん、デジタル広告というのは基本的にはマーケティングの話で、選挙や民主主義とは関わりが薄いように思われてきたわけですが、収益を得るために偽・誤情報とか陰謀論を流すという人たちも残念ながら存在する。そういう部分をデジタル広告のエコシステムが支えてしまっている部分があると思うのです。

デジタル広告の分野から、民主主義とか、情報の健全化という点をどう見ていらっしゃいますか。

馬籠

難しいですね。とりあえず広告というのは今とても嫌われているんです(笑)。アドブロックと言われるような、広告を非表示にするアプリが売上ランキングで頻繁に上位に来るように、広告を見たくないユーザーもかなり増えています。

「広告なんか載せやがって」とか、儲けるのがよろしくないね、みたいなことをおっしゃる人も結構いる。しかし、それはちょっと変だなとも思うんですよね。広告が表示されないと運営会社は儲からないわけなので、ユーザーが、広告を受け取ること自体をあまりネガティブに受け取らないでほしい、というところがまず1つあります。

プラットフォームは実際にはただでは使えないわけだから、広告を入れないとそこが成り立たなくなっていく。そうすると、結果的に情報を届けることができなくなっていくという悪循環につながっていくと思います。広告とユーザーの上手い接点はつくらないといけないですよね。テクノロジーがここまで進化してきているのだから、テクノロジーでの解決も何らかしていかないといけないかなと思っています。今ユーザーに対する快・不快みたいな指標はないですよね。

谷原

YouTubeはそのあたりをすごく工夫していますね。ユーザー満足度が高い広告は単価を下げ、かつたくさん表示するようにし、スキップされまくるような広告は単価を上げて、あまり表示されないようにするという運用をしています。

もちろん基準は公開していませんが、良質な広告だけを残そうと努力はしているようですね。

馬籠

そうですね。ただ、いい広告なのかどうかは、また少し違う問題もあるのではないかなと思っています。

マスメディアの存在感

谷原

私は今回の選挙で主要な新聞社さんやテレビ局さんとお話しさせていただいたのですが、ある新聞社さんが、マスメディアの今回の選挙報道は5年前と比べたら隔世の感があるとおっしゃっていた。各社とも大変積極的に、数字的なところも含めて報道していたと。

やはり、一億総評論家になっても、ファクトが出せるのは訓練を受けたプロのジャーナリストだけだと思うのです。そのファクトが、XやYouTube、TikTokで回って皆が論評するという形なので、私はマスメディアの出している情報は意外と切り取られながら届いているのではないかと思っています。

水谷

興味深いですね。絹川さん、そのあたりはどうですか。

絹川

個人的には、切り取られ方によっては、時々ちゃんと伝わっているのかなと感じる部分もありまして(笑)。

谷原

そうですよね。問題なのは、やはりマスメディアの落としているYouTube動画の切り抜き動画って、コメント欄がすごく荒れるんです。自分が出たものを見てもやはり褒められることなどない(笑)。そういう意味で、ネット上に出しにくいなというのもすごく理解できます。

絹川

閉じても感じ悪いですしね。

水谷

ネット上にマスメディアのコンテンツを出すと、たとえYouTubeのコメント欄を閉じても、結局その動画をXにつけてコメントをつけるというのは、よくあることですしね。

水谷

ネット上にマスメディアのコンテンツを出すと、たとえYouTubeのコメント欄を閉じても、結局その動画をXにつけてコメントをつけるというのは、よくあることですしね。

絹川

むしろ積極的ないわゆる「アンチ」の方々はしっかりチェックしてくれる部分もあるのですが、逆にライト層、あまり関心のない方々に、いかに情報を届けるかというのが各メディアの課題なのかなと思います。

水谷

そうですね。僕がよく学生に言うのは、新聞社やテレビ局が誤情報を一切出さないかと言うと、そんなことはないわけです。誤報も出すし、なぜこんなミスリードな編集をしたんだろうというようなこともある。

他方で、ファクトを出すための姿勢というか、ある種の報道倫理も含めたプロセスをしっかりもっているわけですよね。では、それがYouTuberにありますか、ということだと思います。その部分の価値は、ソーシャルメディアの時代になっても確保しなければならないとは思うところです。

ファクトとフェイク

谷原

ただ問題は、ファクトを取る作業が金にならないということですね。そこに公共的役割が本当に認められているのか。NHKさんはちょっと違いますが公共的役割とビジネス主体であることのジレンマだと思うのです。

水谷

おっしゃる通りですね。「刺戟」的なフェイクのほうが注目を引きやすく、お金になりやすいのが、残念ながら今のアテンション・エコノミーの状況だということですね。

NHKは公共放送なので受信料で成り立っていますが、絹川さんは一記者として、記事のPV(ページビュー=閲覧数)とか気にしますか。

絹川

私は気にします。やはりどれだけ読まれるか、どれだけページに滞在されるかは気にするようになっています。その中で思うのは、やはりネットでよく見かける過激な釣り見出しというのはPVの面では強いんだなと。アテンション・エコノミーとも密接に関わっていると思いますが、恣意的に関心を引くために本質を外しているような見出しを見ると、どうなのかなという気持ちになります。

またコストで考えると、嘘の情報を発信するのは一瞬ですが、ファクトを1つ1つ検証して、専門家の方にも取材し、それを記事にまとめてチェックをして映像をつけて出すというのはとんでもないコストがかかる。そういう意味ではずっと不利な戦いをしているという感覚はありますね。

水谷

僕は本来アテンション・エコノミーから最も遠いところにあるはずの公共メディアの制度は今こそ重要だと思っています。でも、その最も遠いはずのNHKの記者さんですらページビューを気にするという。それは収益とは違う、モチベーションなのでしょうか。

絹川

モチベーションも大きいですが、やはりせっかく手間暇かけて、取材先にも協力していただいて出した記事は「届けてなんぼ」かなと思うのです。テレビやラジオしかなかった頃だったら、基幹ニュースでバンと出せば、それだけで多くの人に伝わったと感じられたのかも知れませんが、今はそうした時代ではなくなってきています。同世代にはテレビを持っていない人も多いです。どれだけの人に届いたかを判断する目安として、また、これだけの人にウェブ上で届いたと説明するためにも、数字はやはり気になります。

奪われる時間とアテンション

水谷

一種の「数値」の魔力ですね。アテンション・エコノミーは、最初は新聞から始まったと言われています。タブロイド紙の問題やテレビも視聴率競争の問題は常にありました。

そうすると、いわゆるオールドメディアが中心になっていた時代のアテンション・エコノミーと今のアテンション・エコノミーは、どう違うのか。馬籠さんはどう思いますか

馬籠

今はネット上に面白いものが多過ぎると思っています(笑)。例えば10代、20代の方々って毎日かなりの時間を、インターネットに費やしているわけですよね。

面白いことが多すぎるのが、時間の奪い合いの最たる要因なのかなと思っています。なので、メディア自体が衰退しているということではなく、競争相手がものすごく増えてきたということですよね。先ほどタイパの話が出ましたが、それはやはり面白いコンテンツが目白押しになっているという話なのかなと思っています。

ですから考える時間が、だんだん少なくなっているのではないか。そうなると、今見たものにそのまま意識が持っていかれて、影響を受けやすくなってくるのではないかと思うんです。ですから、情報的健康といった概念が大事になるのかなと思います。

水谷

本質的なご指摘だと思います。学生と話していると、ソーシャルメディアで「時間が溶ける」と言うんです。うまく現状を表しているなと。

要するに溶けるということは、気づいたら数時間経っているとか、日が暮れているみたいなことですよね。まさに、自分で自分の時間や興味関心をコントロールできていないのではと思います。単にコンテンツの問題ではなく、ソーシャルメディアがそれをいかに「見せる」かをデザインすることで私たちは時間を「溶かしている」。そういう「構造」を持っているという話かと。

馬籠

きっとそうですよね。すごく優秀な人たちが自分のアプリやメディアにユーザーに関心を持ってもらおうとしているので、ユーザーサイドでコントロールはなかなか難しい状態になってきているんだろうなと思います。

プラットフォームのデザイン

水谷

いまお話しした「構造」の話と関わるプラットフォームのデザインの話に移りたいと思います。アルゴリズムやユーザーインターフェースそのもののデザインはプラットフォーム側に握られています。ソーシャルメディアでは、そうしたデザインの力が大きく働きます。

僕はこれを情報環境形成力という言い方をしているのですが、一方で、この情報環境形成力は、良い方向にもいろいろと使えると思っています。まさにヤフーニュースのコメント欄の多様化モデルの話などがそうだと思いま す。プラットフォームのデザインの点で、LINEヤフーが取り組まれていることをお話しいただきたいと思います。

今子

プラットフォーマーの社会的責任ということになるかもしれませんが、ヤフーニュースでは、以前から健全な情報空間を目指してサービスを運営しています。

今ご紹介いただいた「コメント多様化モデル」は、AIを活用して、コメント一覧の上位に似た内容のコメントばかりが並ばないようにして、ヤフコメの内容の多様性を確保する、という仕組みです。特定の意見が増幅される「エコーチェンバー現象」の軽減効果も期待できるのではないかと考え導入しました。また、付け加えると、2024年に「コメント添削モデル」の提供を開始しました。コメントの閲覧者が不快と感じる可能性のある表現に対して、投稿を完了する前にAIが表現の見直しを提案するというものです。

ガイドライン違反かどうかがグレーでも、他のユーザーを不快と感じさせる可能性のある投稿は、大量に投稿されたりすると場が荒れてしまいます。そのような投稿を検知した場合に「コメント添削モデル」のAIが発動し、表現をハイライトして、「ご確認ください」と見直しを促し、冷静になって考える時間を持ってもらいます。これにより場の健全化につながったという結果が出ています。コメント添削モデルの導入前の4週間平均と導入後の4週間を比べると、不快と感じる可能性のあるコメントの投稿は24%ほど減少したことが確認できました。

ソーシャルメディア時代では、じっくり考えるよりも、「システム1」と言われるせっかちに答えを出す脳の働きが強くなってしまうことがあるようなので、AIが見直しを求めて考える時間を与えることもまた、解決の1つかもしれないと思いました。

水谷

アーキテクチャで対策を考えることの重要性がよくわかるお話でした。私は法律によってもっと厳しいネットの誹謗中傷規制をすれば、誹謗中傷はなくなるのでは、と言われることがあるのですが、そんなことはあり得ないと思っています。

表現の自由の問題ももちろんあるし、そもそも法規制そのものが事後的対応がメインなので、どうしても限界があるのです。ですからナッジとかスラッジといったアーキテクチャ的な手法で対応する方策が1つあると思います。今お話にあった添削モデルというのは、ある意味スラッジなのかもしれません。ボタンを押す指を止めさせるような仕組みですね。

しかし残念ながらそうした取組を積極的に行う事業者ばかりではない。なかなか自主的にそれをやるインセンティブがない中で、これをどうやっていくかが課題になりますね。

情報空間を支配するプラットフォーム

谷原

今主流のプラットフォームは、Xもフェイスブックも中央集権型のサーバーです。言ってみればトップの一存で情報空間が決められてしまう。Xはイーロン・マスクになってから、研究者がアクセスできるAPI(Application Programming Interface)が有料でしかも限定的になりました。フェイスブックも申請が面倒でTikTokは米欧にしか認めていない。その状態は健全でないと思っています。

それに対してBlueskyとかMastodonは分散管理型のサーバーなので、かなりの程度ユーザーが自分の情報空間をカスタマイズできるんです。もちろんそれはそれで批判はあるのですが、新聞が一紙しかないような状態よりは、私はましだと思うのです。

ユーザーが自分の好きな仕様のソーシャルメディアが選べる自由があれば、まだ健全な情報空間形成になるのではと思っています。少なくとも今のイーロン・マスクとマーク・ザッカーバーグの一存ですべての情報空間が変わってしまうのはしんどいと思うのです。

水谷

わかります。Threads(Meta)もフェディバース(独立したソーシャルネットワークを相互に接続・運用する仕組み)と提携しているし、「ミドルウェア」という提案もあります。

谷原

そうですね、ThreadsはMastodon 由来のポストが見えるようになりました。だからそこはネットワークのポータビリティのさらに先で、DMAで言うと7条の相互運用ですよね。まさにGmailと他のメールサーバーがやりとりできるような感じでメッセージの相互運用ができる。そういう未来もあると思うのです。

ただ技術的なハードルや、第三者の情報を持っていけるんですかといったハードルはたくさんあるのですが、今の数社による寡占というのは何とか打破しないといけないと思っています。

水谷

ただ分散型ソーシャルメディアとかミドルウェアは、谷原さんもおっしゃられたように、実は批判も結構あり、分散することによって余計ひどくなるのではないかと。コンテンツモデレーションは、中央集権的な仕組みで、プラットフォームがルールを決めて、ヘイトやフェイクや誹謗中傷などルール違反のものを管理して、AIも使って削除している。ところがこれが分散型になっていくと、管理の基点も分散してしまう。それぞれがしっかりやってくれるという保証はないよね、と。ですが、私は1つの方向性として、分散型の未来のソーシャルメディアの可能性はあるのではと思います。

谷原

おっしゃる通りです。例えばBlueskyは、政治系の話題を全く見たくなければ、ラベルをつけて非表示にすることができる。それはフィルターバブルではないか、と言われるかもしれませんが、少なくとも誹謗中傷や偽・誤情報を見たくないという人のニーズは満たせると思うのです。

何より、自分の情報空間を選ぶ権利が、今それがほぼソーシャルメディアにおいてはないので、良くないのではないかと思っています。

事実上、今の日本では、選ぶことはできないんですね。テキストはXで、そこにフォロイーとフォロワーがいるので、今さらBluesky に移ってゼロから始めますかと言ったら、始めない。映像だったらYouTubeとTikTok。画像だったらInstagramですよね。そこですでにネットワークを築いてしまっているので、皆他に移ってゼロからやらないわけです。

でもヨーロッパだと、例えばガーディアンはXをやめてBlueskyに行っていますし、欧米の研究者も、結構XをやめてBluesky に行っています。それはやはりXのコンテンツモデレーションのあり方に不満を覚えて、Blueskyで自分でできたほうがまし、という判断なのだと思うのです。しかし今の日本では、独占状態で他に移ろうという気にならないと思うんです。

水谷

やはり日本だと皆、かなりXに残っていますよね。BlueskyのアカウントもつくっているけれどそこにXでフォローしていた人たちが来ているかと言うとほとんど引っ越していない。

だからある意味、引っ越しの自由のような、選択の機会自体が現状日本にはないという感じですね。

谷原

フランスなどは、一応Xはネットワークデータのダウンロードはできるので、研究者が、それをWebアプリみたいなものにアップロードすることで、Blueskyにアカウントのある友達は半ば自動的に再構築できるみたいなシステムをつくったりしています。

「ビヒモス」にどう立ち向かうか

水谷

絹川さん、記者の視点から、プラットフォームの権力について経験的に思うことは何かありますか。

絹川

一番は、海外の事業者は取材が難しいと感じることが多いということです。取材をしても、詳しいことは聞けず、こちらを読んでくださいとポリシーだけが送られてきたこともありました。今の時代、プラットフォームの影響力は大きく、巨大な「権力」になっていると言えるかもしれません。

それなのに、詳しいルール運用の実態や実際のアルゴリズムもわからないという状況が生まれています。プラットフォームが事実上のルールメーカーになっているということに、取材者としてどう向き合っていくべきかを日々、考えています。

水谷

プラットフォームの権力の問題は、ケイト・クロニックという有名な法学者が、「The New Governors(新たな統治者)」だと評しています。政府そのものではないけれど、それぐらいの権力をコンテンツモデレーションの領域において有している、と。山本龍彦先生も海の魔物「リヴァイアサン」にたとえられる国家に対して、プラットフォームは陸の魔物「ビヒモス」のような存在だと指摘されていますね。

谷原さんのご指摘は、権力が中央集権で集中しているところを、分散していくところに1つの解決策を見出したものですね。

もう1つの方向性は、その集中した権力の使い方です。これを民主的な法律によってコントロールするのはなかなか難しい。EUはDMAもデジタルサービス法も、それ以外の個人情報保護もGDPR(一般データ保護規則)などの法制度設計でコントロールしていこうという発想がとても強い。

一方でアメリカは基本的に自由至上主義です。これはトランプ以前からで、プラットフォームを規制しようとすると、どうしても表現の自由が関わってくる。なのでアメリカでは、独禁法とか競争法の規制の議論になりますが、それも成功しているかは疑問で、アメリカはコントロールというよりはリバタリアニズム的傾向が強いですね。

アテンション・エコノミーではない設計とは

水谷

その中で日本はどういう立ち位置で今後やっていくかを議論したいと思います。先ほど谷原さんから法規制は筋悪ではというご指摘があり、僕もある意味でその通りかなと思う一方、放送制度をはじめ法学はメディアのデザインの一端を担ってきました。競争政策でデータポータビリティも含めた分散型にしていくためには、法規制が必要になる部分もあると思います。それ以外にも、こういう制度があればいいのではというご提案はありますか。

谷原

何か公権力的なものが必要かなと思うのは、PV至上主義は何とかならないかなと思っています。

最近、PV至上主義がすべての領域において浸透してきて、某新聞社さんも、結構釣り見出しを使うようになっている。中身を読めばすごくしっかりした記事なのに、なぜPV至上主義になるかと言うと、やはり広告モデルだからだと思うんですよね。メスを入れるとしたらそこかなとは思います。

水谷

やはりアテンション・エコノミーの話に関連してきますね。PVとか、アテンション重視の指標が重宝され過ぎていると思っています。

その点で結構面白い試みだなと思ったのは、ヤフーニュースでは、ニュース記事の評価ボタンに「学びがある」「わかりやすい」「新しい視点」という3つのボタンを導入されましたよね。あれはアテンション重視ではない指標だなと思ったのですが。

今子

「いいね」という直感的に押せるボタンだと、やはりアテンション・エコノミーに引っ張られてしまうところがあります。そこで、ワンクッション置いて、考える時間を与える仕組みとして「学びがある」「わかりやすい」「新しい視点」という3種類の「記事リアクションボタン」を記事の下部に導入しています。考えてボタンを押していただいたということは、ユーザーが価値ある記事だと評価したということで、各コンテンツパートナーへのお支払いにも反映することとしました。

記事の質をどのように測っていくかはすごく難しいことで、有識者の先生方にもお伺いして検討していきたいと考えています。プラットフォーマーがトップダウンで決めてしまうことの弊害がありうるので、様々なご意見を伺いながら慎重に検討する必要があると思っています。

水谷

記事の質的評価の基準を誰が決めるかという問題は難しいですよね。ヤフーニュースさんの話で言うと、媒体社に対してプラットフォームであるヤフーさんは優越的地位にあるので、そこでの評価指標基準を一方的に決めることには問題もある。アテンション重視ではない評価基準のようなものを、誰がどのようなプロセスで設計していくかが今後の課題ですね。

定量化の弊害?

水谷

ところで広告の分野からはPV至上主義は何とかなりませんか。

馬籠

難しいと思います。と言いますのも、現在のビジネス構造は、やはりPVなどの数字で決まっている部分が多い。その部分をいきなりひっくり返すのはなかなか難しいと思います。

ただ、今子さんが言われたように、仕組み自体が変わることで、変わってくることもあるだろうとも思います。クライアントに問題意識がないかと言えば、そうではなく、PV至上主義は皆さんどうにかしたいとは思っているのですが、突破口が見つかっていないのかなと思っています。われわれも、情報空間が悪くなれば、クライアントに対していい結果を返せなくなっていきますので、それでよいとは全く思っていません。

今のところユーザーに広告を評価していただく、アドベリフィケーション(広告の検証)のユーザー版みたいなものを指標として備えていくのがよいのかなと思っています。

谷原

でも社会学的には広告というのは本来その時代のカルチャーに貢献するようなメディア表現のはずなんです。しかし、ネット広告にその要素があまりない。そのようにネット広告を語る人がいないですよね。

水谷

『アテンション・エコノミーのジレンマ』で馬籠さんが使っている「クリエイティブ」という言葉について、私の中のイメージと少しズレがあるように思いました。

馬籠

私たちは、ただ広告物のことをクリエイティブと呼ぶのですが、普通の人は違和感があるみたいです。

おっしゃるとおり、表現物として認識しているのでクリエイティブと呼ぶわけですが、今はクリエイティブの要素も多様に分解されています。PV至上主義につながる話ですが、この要素を入れたらもっとCTRが上がるよねというものも計算してつくっているので、だいぶ変わってきているとは思います。

水谷

広告を専門とされている先生が、デジタル広告になって、アテンション・エコノミーが加速すると、アーティスティックな要素がどんどん失われているとおっしゃっていました。

谷原

定量化の弊害ですね。KPI的なものを設定してしまうと、それに縛られてしまうということですよね。

絹川

でも直接のクリック数は出ないけれど、広告のいいイメージが残っているから店舗で買ってみたといった、目に見えない効果も本来はあるはずだと思うんです。

谷原

そうですよね。

水谷

そのようなイメージがあることをどうやって汲み取るかは打開点のような気もします。今は定量化できていないけれど、別の指標でできるようにしたほうがいいのでしょうか。

谷原

定量化できないものを定量化するのが私の仕事です。CTRが取れなくても、最終的なコンバージョン率(CVR)は高かったりするかもしれないですよね。私はそこはどこまでも定量化で何とかしたい。というか、何とか定量化をしないと、やはり意思決定できないと思うんですよね。

プラットフォームのチェックの必要性

水谷

広告主の皆さんに、今のデジタルメディアの、アテンション・エコノミーやPV至上主義によって起こる弊害のようなものを、きちんと認識してもらうことも重要ですね。

出稿した広告がヘイトスピーチ動画に流れているかもしれないということをどう考えるのか。フジテレビからは広告を引き上げる一方で、今年1月にMeta社がヘイトスピーチのルールを緩和した際に、それに反応した日本の広告主はどれほどいたのか。でも、プラットフォームを支えているのは、広告主なんですよね。自分たちの貴重な広告費が有害情報の流通を支えてしまっているかもしれないという点に、もっと問題意識を持ってもらう必要があると思います。

絹川さん、今後、プラットフォームに対して既存メディアの役割をどうお考えでしょうか。

絹川

対プラットフォームでは、利用者目線で、「あなた方はこれだけの影響力と公共性を持っているんですから透明性の確保や安全管理を徹底してください」と愚直に取材していくしかないのかなと思っています。現場の一記者としてできることとしては、コツコツ自分の持ち場で取材し、その成果を発信していくことでしょうか。

水谷

政府に対する監視やチェック&バランスも必要ですが、「新たな統治者」となったプラットフォームに対して監視する役割を、今後はマスメディアに担ってもらわなければいけないと思います。

併せて、報道機関には報道倫理をはじめ、大切にしてきたものがあると思うんですが、PV至上主義で釣り見出しが多くなるといったことのように、報道機関自身が、アテンション・エコノミーに取り込まれないよう、アップデートすることも必要ですね。

フェアネスな空間に近づけるために

谷原

マスメディアで1つ思うことは、特に地上波テレビは視聴者の知的水準を少し低く見積もりすぎではないかと思うんです。私が少し難しい話をすると基本全カットです。横文字すら使わせてもらえません。それに対してYouTubeの政治経済系メディアは、私が話した因果推論とか難しい話をそのまま届けてくれる。すると、それがわかる層には滅茶苦茶刺さるんです。

地上波テレビは、もう少し視聴者の知的水準を高く見積もってもいいのではないか。わからないことも調べさせるぐらいのスタンスでもいいのではと思うんですが。

絹川

個人的にはより専門的な内容を伝えても良いのではという部分について全面同意ですが、やはりプロセスの中で難しいところから削られていくというのがありますね。

水谷

僕も年配の方々にもわかるように他の言葉に直せませんかと言われたことがあります(笑)

絹川

そうすると若い人が離れていくんですよね(笑)。

水谷

だから世代間の分断というのは本当にソーシャルメディアが悪いのか? 新聞や既存メディア側が離れられる要因をつくってしまっているのではないかという点を思い起こす必要があると思います。若者に対するエンゲージメントを怠っているところがあるのではと。

馬籠

一方で視聴者、ユーザーのほうも、「ビヒモス」を乗りこなしていく方がとても多くなったと思うんですね。そしてそれを悪用するような人も生まれるので、そこの部分をどうするか。そういう人たちが勝っていく世界にしていくと、本当に殺伐としてくるような気もします。

水谷

そうですね。アテンション・エコノミーは「買い手危険負担」の世界観を加速させると思います。要するに商品を買って何か起こったときには、注意しなかったおまえの責任だという話です。

しかしながら、消費者保護の領域では、それはおかしいよねとなっているはずです。買う側の消費者と売る側の企業の間に大きな力関係の差、特に情報の非対称性があるからこそ、企業側は売り手としてやるべきことはやりなさいということで、消費者問題は解決を目指してきました。

ところが言論空間になると、リテラシーを高めて自分で管理するべきと、受け手側の責任にしてしまいます。送り手側が嘘を並べようが、受け手がそれを信じて選択しているんだから自己責任でしょうと。それで収益を得ていたりする。でもそれは、「阿漕(あこぎ)」だよなと思うので、どうやってもう少しフェアネスな空間にしていくか。

慶應のX(クロス) Dignityセンターでは情報空間のエコシステムの課題に民間主導で取り組むプロジェクトを進めています。特効薬はありませんが、プラットフォームもメディアも、広告主も、われわれ大学もより一層連携していかなければいけないと思います。

本日は皆さん、長時間有り難うございました。


(2025年8月29日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。