執筆者プロフィール

古谷 知之(ふるたに ともゆき)
総合政策学部 教授その他 : SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム代表
古谷 知之(ふるたに ともゆき)
総合政策学部 教授その他 : SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアム代表
2023/12/05
1 担い手不足と物流量の増加
日本の物流業界が抱える課題は、何と言ってもドライバー不足にある。小口配送の増加にばかり関心が寄せられがちだが、長距離ドライバーの労働環境は劣悪といっても過言ではなく、故に物流企業がドライバーを適切な人数雇用するのは、容易ではなくなっている。もちろんその背景には、人口減少と少子高齢化にともなうドライバーの成り手の絶対的減少と、配送取扱個数の増加があるのは、言うまでもない。
電子商取引(EC)の普及により、取扱個数が増加し、配達時の不在による再配達の増加が、非効率な物流を生じさせている一因にもなっている。結果、配送用車両の低環境負荷化にもかかわらず、絶対的な物流量増による環境負荷の増大を生み出している。
2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の960時間上限規制と改正基準告示が適用され、ドライバーの労働時間が短縮化されることにより、輸送能力が激減し、物が運べなくなるという、いわゆる「2024年問題」が指摘されている。
こうした状況の中で、物流の無人化・省人化・自律化に高い期待が寄せられている。ドローンやロボット、自動走行車両、自律航行船舶が物流の一翼を担う日は、そう遠くない時期にやってくるのだろう。
本稿では、いわゆるドローンを中心に、ロボティクス技術が活用される物流の現状と今後の展望について簡単にまとめる。まず物流で活用されている要素技術を示し、次に国内におけるドローン活用の現状を整理する。その上で、現時点での社会実装上の課題を示し、今後の展望を述べることにする。
2 ドローン物流の現在地
一般的にはUAV(Unmanned Aerial Vehicle)のことをドローンとしてイメージする人が多いだろう。筆者は、「人工知能(AI)とセンサーを搭載した領域を限定しない多機能自律型システム」をドローンと捉えている。そこで本稿では、物流用途に活用されている陸上の無人走行車両(Unmanned Ground Vehicle :UGV)、無人航空機(UAV)、無人航行船舶(Unmanned Surface Vehicle :USV)を対象に活用事例を示す。これらの中には、有人で運用されていたものを無人化(Unmanned)したものに加え、人工知能(AI)やロボティクス技術を使って自律化・自動化されたものが活用されている。化石燃料を動力とするものもあるが、近年では電動化されることが多いため、低環境負荷化への期待も高い。
2-1 空のドローン物流
空のドローン物流で比較的早い段階の取り組みとして、楽天によるドローンサービス「そら楽」がある。2016年から完全自律飛行可能なマルチコプター型ドローン「天空」と専用のオンライン買い物アプリを活用して、ゴルフ場での買い物を可能とするサービスを開始している。
UAVを活用したドローン物流の実証実験は、各地で展開されている。過疎地や離島での生活物資配送を想定したものとしては、ANAホールディングス株式会社が福岡県福岡市や長崎県五島市で実施した事例や、株式会社エアロネクストが山梨県小菅村で実施した事例がある。これらの実証実験が背景とする地域課題として、将来買い物難民が発生することが挙げられる。
医薬品配送需要を想定した実証実験として、豊田通商株式会社が米ジップライン社の固定翼機を使って長崎県五島市で実施した事例が知られている。また農作物の運搬を想定した実証実験として、筆者が代表を務める慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムが神奈川県小田原市で実施した事例がある。
2022年12月に、いわゆる「レベル4」と呼ばれる、市街地での補助者なし目視外遠距離飛行に関する新制度が創設されたことから、今後UAVでの物流の事業化や社会実装が進むものと期待される。現状では、レベル4の国家資格を有する事業者が限られることから、社会実験をする際にも大勢の補助者が必要となり、そのための費用(ほとんどが人件費)が事業全体を圧迫しているため、UAVドローン物流が普及するまで事業者が事業を継続できるかどうかという問題もはらんでいるのが実情である。
海外では、米国を中心にエアモビリティを活用したドローン物流が実用化の段階に入っている。2020年にウォルマート社がノースカロライナ州とテキサス州でドローン配送のサービスを展開したのをきっかけに、アーカンソー州・フロリダ州・テキサス州・ユタ州・バージニア州など6州でドローン配送のネットワークを拡大する計画を公表した。この計画では、400万世帯を対象に年間100万個以上の小包を配達可能であるとしている。
2013年にアマゾン・プライム・エアの構想に言及した米アマゾン社は、2022年6月にカリフォルニア州でドローン配送を開始した。同社は2024年後半にはドローン配送の地域をイギリスとイタリアにも拡大するとしている。
米グーグル社は、傘下のグーグル・エックス社がドローン開発を手掛け、2018年に子会社ウイングがドローン配送を行っている。米国テキサス州、オーストラリア・クイーンズランド州およびフィンランドの3カ国で合計14万件以上(2021年現在)の配送実績がある。
米UPS社も衣料品を病院へ輸送するサービスを2019年に着手している。
2-2 陸上のドローン物流
2023年4月の改正道路法の施行により、人が遠隔監視する自動運転車両が公道を走行することが可能となった。それにより、陸上でのロボットを活用した物流も今後盛んになると期待される。これまでにも、ENEOSホールディングス株式会社がロボット開発ベンチャーのZMP社と共同で東京都心部で実証実験を行った事例や、ヤマトホールディングス株式会社が北海道石狩市で個人向け配送の実証実験を行った事例、日本郵便が名古屋市のオフィスビルでロボット宅配の実験を行った事例などがある。
日本の自動運転に関する国家戦略では、物流用大型トラックの自動化・無人化とラストワンマイルの旅客運送が、2つの柱として示されている。このうち自動運転トラックについては、開通前の新東名高速道路上で、複数のトラック車両を追随走行させる実験などが実施された。
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスでも、2018年にローソンとZMP社と連携するかたちで、構内での宅配ロボットによる配送実験を行った経緯がある。
米国では、幹線輸送・域内配送・末端輸送の3つのレベルで、自動運転トラック物流が進められている。すでに実用化が進む自動運転タクシーと比較してやや慎重な動きではあるものの、着実に動いているようである。
幹線輸送に関しては、2017年に創業したオーロラ・イノベーション社が2024年末までにテキサス州ダラス〜ヒューストン間で運転手なしでの自動運転トラックシステムを実現させるとしている。スウェーデンを拠点とするアインライド社は開発中の自動運転大型トラックを米国やドイツに展開するとしている。
中距離での域内輸送では、ウォルマート社が米アーカンソー州〜カナダ・トロント市間で倉庫と店舗間の貨物の定常運行に自動運転トラックを活用している。スーパーマーケットチェーンのクローガー社も自動運転車両を活用した食料品配達を行うほか、タイソン・フーズ社は自動運転トラックを使って配送センターと倉庫との間の商品を配送するなどしている。イケア社の米国現地法人は、テキサス州の倉庫と店舗間との配送に運転手同乗の下での大型自動運転トラックの試験運行を実施している。
末端輸送については、一般道を自動運転車両が走行する個別宅配と、側道や私有地内などを宅配ロボットが走行する配送とに分けられる。末端輸送は走行速度が低く、1台あたりのコストも低廉であるため、ベンチャーなどの新規参入がしやすい。一般道の個別宅配の事例では、ドミノピザやセブンイレブン、ウーバーなどと提携するニューロ社が知られるが、従業員の大量解雇などもあり、進捗はあまり知られていない。エストニア発ベンチャーであるクレボン社はテキサス州で配送サービスを行っているほか、ジョージア州のスマートシティでの運用テストにも参加している。側道や私有地内でのロボット宅配については、アマゾン・スターシップテクノロジー社やサーブ・ロボティクス社の取り組みがあるが、近年では規模を縮小しているようだ。
2-3 海上でのドローン物流
無人運航船による海洋物流の取り組みでは、日本は世界の先端を行く*1。
無人運航船の開発はまだ途上であるが、日本郵政やNTTが中心となるコンソーシアムでは東京港〜津松阪港間の往復約790キロを内航コンテナ船の模擬的な自律航行に成功している他、商船三井が中心となるコンソーシアムでは敦賀港〜境港間の約270キロを内航コンテナ船で無人運行することに成功している。無人運航船の開発に、世界でいち早く手掛けたのは英ロールス・ロイス社であり、2015年に産学連携でのプロジェクトAAWAを立ち上げたのち、2018年にはフィンランドのフィンフェリー所有のフェリーを完全自律運行することに成功した。今後、自社工場と輸出港との間を運行する自動コンテナ船を実用化し、2030年に無人の遠隔操縦船、2035年に完全無人船を実用化するとしている。
ノルウェーのヤラ・インターナショナル社とコングスベルグ社が提携したヤラ・ビルケランド社が開発した電動完全自動航行船舶が、2022年春からノルウェーのポルスグルンで商業運行を開始している。
3 ドローン物流の課題
これまで見たように、近年では陸海空でドローンによる物流が展開されている。ドローン開発の費用が廉価で市場参入しやすいという点で、空を飛ぶドローンによる物流の社会実装が、陸や海と比較して進度が早いようだ。しかし筆者としては、空と陸のドローン物流については、今後淘汰が進み、商業利用という点では海のドローン物流が一歩先に行くのではないかと考えている。今後ドローン物流を商業利用していくために、さまざまな課題がある*2が、そのおもな点を以下に整理しておく。
(1)社会受容性
ドローンは物流における無人化・省人化・効率化・低環境負荷化という観点から利点が認められるにもかかわらず、社会実装に時間を要する一因は1つに、社会受容性にある。とくに空を飛ぶドローンや陸上の自動走行車両は、墜落や衝突による事故を生じさせる危険がある。
米国でも自動運転タクシーの事故が頻発しているが、ときに致死性の事故を生じさせるような危険な車両や機体の運用自体が受け入れられないことがある。空を飛ぶドローンの場合、荷物を運んでもらう着地側の住民には利便性があるものの、発地側の住民にとっては騒音の発生源としか捉えられない場合がある。このような社会受容性をクリアして初めて、社会実装が可能となるのだ。日本人の「ゼロリスク信仰」も、ドローンを始めとする先端技術の社会実装を難しくしている一因だ。
(2)運用コスト
ドローン物流の運用には、安全運行管理のために多大なコストを要する場合がある。ドローンはしばしば「無人機」と言われるが、操縦者が搭乗しないという意味で無人なのであって、安全運行管理のために一定数の人員を割く必要がある。日本では空を飛ぶドローンを操縦するために免許を必要とするため、運用には有資格者を複数名用意する必要がある。
UAVを使ったドローン物流の社会実験を行う場合、数名から十数名程度が安全運行管理を行うため、社会実験費全体が人件費で圧迫されることが少なくない。有資格者の人員確保には、ドローンスクールの協力が必要となるため、ドローンスクールの意向が強く反映されがちだ。「無人化」や「自律化」への抵抗は強く、もはやドローンスクールのビジネスを維持するための社会実験と言われても仕方がないほどだ。こうした状況が改善できなければ、日本でのドローン物流が普及するとは考えにくい。
(3)機体開発
ドローン物流に活用される機体はさまざまだ。空を飛ぶドローンでは回転翼機と固定翼機およびVTOL機(固定翼機と回転翼機を組み合わせた機体)が使われる。陸上輸送に使われる車両には、自動運転トラックのほか、配送用パレット、宅配ロボットなどがある。海上輸送には無人運航船が活用されている。それぞれ、運送距離やペイロードに応じて開発されている。
ベンチャー企業や大企業含め、さまざまな企業が機体開発に関わっているが、ペイロードの大きい物流用回転翼機の開発は、必ずしも容易には進まないのではないかと考えられる。エンジニアの絶対数が不足しており、各機体の開発においてエンジニアの奪い合いとなっているほか、資金獲得難による給与未払いや企業間の給与格差の拡大などにより、機体開発がなかなか順調に進まないということもあるようだ。
ここで挙げた課題がすべてではないが、こうした課題を克服できて初めて、ドローン物流が社会実験段階から社会実装段階へと移行することができるのだろう。
4 ドローン物流の社会実装に向けて
ドローン物流は現在指摘されている物流分野の諸課題を解決するために、有益な手段である。今後は、陸海空のドローン物流の技術が出揃った段階で、地域社会にふさわしいドローンの最適な組み合わせについての議論が進められることだろう。
ドローン物流を社会実装するための諸課題に立ち向かい、ロボットと生活を共にする社会を構築することで、2024年問題を乗り越えられるだろうか。
漫画「ドラえもん」の世界では、エア・チューブやロボット、自動運転トラックなどによる物流技術が描かれている。ドラえもんが生まれる22世紀まであと77年(誕生日までは89年だが)。「未来」はもう私たちの目の前に来ている。
〈参考文献〉
*1 日刊工業新聞「発進 無人運航船(上)海運・造船変革の時 オールジャパンで挑む」、2023年7月26日
*2 国土交通省(2023)「ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドラインVer.4.0【本文】」ドローンを活用した荷物等配送に関するガイドライン
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。