慶應義塾

【特集:「在宅ケア」を考える】座談会: 高齢社会を支える「在宅ケア」の時代

登場者プロフィール

  • 辻 彼南雄(つじ かなお)

    医療法人社団互酬会理事長、水道橋東口クリニック院長

    1984年北海道大学医学部卒業。群馬大学病院、東京大学病院等を経て現職。東京大学医学部非常勤講師。一般社団法人ライフケアシステム代表理事。専門は内科、老年内科。日本在宅ケア学会理事。

    辻 彼南雄(つじ かなお)

    医療法人社団互酬会理事長、水道橋東口クリニック院長

    1984年北海道大学医学部卒業。群馬大学病院、東京大学病院等を経て現職。東京大学医学部非常勤講師。一般社団法人ライフケアシステム代表理事。専門は内科、老年内科。日本在宅ケア学会理事。

  • 渡邊 宏樹(わたなべ ひろき)

    湘南藤沢徳洲会病院リハビリテーション室長

    秋田大学医療技術短期大学部理学療法科卒業。神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科修了(リハビリテーション修士)。理学療法士。慶應義塾大学看護医療学部非常勤講師。

    渡邊 宏樹(わたなべ ひろき)

    湘南藤沢徳洲会病院リハビリテーション室長

    秋田大学医療技術短期大学部理学療法科卒業。神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉学研究科修了(リハビリテーション修士)。理学療法士。慶應義塾大学看護医療学部非常勤講師。

  • 金山 峰之(かなやま たかゆき)

    株式会社ケアワーク弥生小規模多機能型居宅介護ユアハウス弥生部長

    日本社会事業大学社会福祉学部卒業。大手介護企業、NPO法人を経て現職。介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員。訪問入浴、訪問介護、通所介護など在宅介護を中心に現場を経験。

    金山 峰之(かなやま たかゆき)

    株式会社ケアワーク弥生小規模多機能型居宅介護ユアハウス弥生部長

    日本社会事業大学社会福祉学部卒業。大手介護企業、NPO法人を経て現職。介護福祉士、社会福祉士、介護支援専門員。訪問入浴、訪問介護、通所介護など在宅介護を中心に現場を経験。

  • 岩本 大希(いわもと たいき)

    その他 : 訪問看護サービスWyL株式会社代表取締役看護医療学部 卒業

    塾員(2010看)。看護師、保健師。北里大学病院救命救急センターICU勤務後、ケアプロ株式会社で訪問看護事業を立ち上げる。2016年WyL株式会社を設立し、ウィル訪問看護ステーション江戸川を開設。

    岩本 大希(いわもと たいき)

    その他 : 訪問看護サービスWyL株式会社代表取締役看護医療学部 卒業

    塾員(2010看)。看護師、保健師。北里大学病院救命救急センターICU勤務後、ケアプロ株式会社で訪問看護事業を立ち上げる。2016年WyL株式会社を設立し、ウィル訪問看護ステーション江戸川を開設。

  • 永田 智子(司会)(ながた さとこ)

    看護医療学部 教授

    2000年東京大学大学院医学系研究科単位取得退学。博士(保健学)。東京大学大学院医学系研究科准教授を経て、2017年より現職。専門は在宅看護学。日本在宅ケア学会理事。

    永田 智子(司会)(ながた さとこ)

    看護医療学部 教授

    2000年東京大学大学院医学系研究科単位取得退学。博士(保健学)。東京大学大学院医学系研究科准教授を経て、2017年より現職。専門は在宅看護学。日本在宅ケア学会理事。

2019/12/05

身近になった「在宅ケア」

永田

現在、高齢社会が進展し、社会の構造が様々な面で変わっていく中で、医療・介護では「在宅ケア」あるいは「地域包括ケア」と呼ばれるものが国レベルでも推進されています。『三田評論』の読者の中にも在宅ケアのユーザーの方もいらっしゃると思います。今、病院外での「在宅ケア」では医療・看護・リハビリ・介護など、いろいろな実践がされていますが、知られていない部分もあるかと思いますし、技術の進歩や制度改革などでこれから変化していく領域でもあります。

今日は在宅ケアを支え、実践されている、それぞれの専門領域の方に、現在行われている取り組み、また、その課題、さらに将来の展望や可能性などについてお伺いしたいと思います。まずは、それぞれの現場でどんなことをされているか、お話しいただければと思います。

私の専門は老年内科ですが、在宅医療には1990年ぐらいから、もう30年近く携わっていることになります。外来診療と訪問診療で、特に高齢者の方を千代田区周辺で診ています。

昔話になりますが、1990年頃は、在宅医療は必要であるにも拘らず、まだ何もないという状態でした。しかし、2000年に介護保険制度もでき、他の制度も徐々に整ってきて、今、活発になってきている。皆さんのように若い方々がこの分野に参入してこられることは嬉しい限りです。

当初の在宅医療というのは往診する医師と、訪問看護をする看護師とのペアで始まりました。それが、現在はリハビリテーションや介護の方々、薬剤師や歯科領域の方々も入ってこられています。

これは非常に感慨深いものがあります。私が始めた頃は、訪問医療というのは変わり者がやる完全なアウトサイダーでした(笑)。今、主流とは言いませんが、少しは発言できるポジションになってきたし、国の政策としても主流になり、医療を受ける国民の皆さんにも身近になってきた。このことをとても喜ばしく思っています。

渡邊

私は湘南藤沢徳洲会病院で理学療法士をしています。また、全国にたくさんある徳洲会病院全体のリハビリ部門のマネジメントの長をしており、都市部だけではなく、地方の状況もときどき見に行きます。

徳洲会病院というのは急性期の病院で救急車を断らないのが基本スタンスです。平均入院日数が9日から10日で、救急の患者をすべて診て、ある程度良くして家に帰す、という病院です。

介護保険が始まる前から、当院では訪問リハビリをしていました。これは珍しいことでした。なぜ訪問リハビリを始めたかと言えば、我々が病院で関わった障害を持った人は、退院して家に帰っても障害が治っているということはないからです。

患者さんを帰した後、面倒を見るシステムは、昔はありませんでした。そこで必要に迫られ、「自分たちが行ってリハビリしましょう」と始めたのです。

先ほどアウトサイダーとおっしゃいましたが、急性期病院の中での在宅のリハビリも、最初は「変な事業を始めましたね。それは私たちの役目なんですか」という感じでした。しかし、こちらからしたら「先生、中途半端に治して帰すのですか」ということです。

もともとは茅ヶ崎徳洲会という病院から始まっていますが、病院が古くなって隣の町の藤沢に移ってきました。訪問リハビリとして茅ヶ崎市内で95%以上のシェアを取っています。つまり、訪問リハビリをやっているところは本当に少ない。ここ数年、少し増えてきていますが、全然間に合っていません。私たちは全部で10人ぐらいのスタッフですが、在宅リハビリをできる人を増やすのが目下の目標です。

永田

利用者さんはどういう方が多いのですか。

渡邊

一番多いのは高齢者で特に脳卒中や骨折後に自宅にいる方です。訪問リハビリというのは、病院付属から訪問リハビリに出るパターンか、訪問看護ステーションに所属して、訪問看護の一種として行くしかないのです。

制度上、訪問リハビリステーションというものは立ち上げることはできません。ここに大きな問題が立ちはだかっています。

金山

私は文京区の小規模多機能型居宅介護事業所というところに勤めている介護福祉士です。

介護保険制度が始まる前、税金で介護、医療を全部行っていた「措置時代」には、拘束など今では御法度のケアが普通に行われていました。その時にお年寄りたちに普通のケアをしたい、と有志の人たちがつくった宅老所というものを国が制度化し、利用者のニーズに応じて、訪問と通いと宿泊とケアマネジメントが複合になっているワンストップな事業形態が小規模多機能型事業所です。

私は就職氷河期最後の世代で、福祉職を志して介護の仕事を始めました。訪問介護、訪問入浴、デイサービス、小規模多機能と在宅の支援をずっとやってきました。

今まで、貧困の方や独居の方など、困難ケースと言われるような人たちを見ることが多かったです。今の職場は文京区なので明らかな貧困の方は少なく、主に認知症の方をメインに見ています。半分ぐらいは独居で、そういった方々が地域で生活することを支えています。

岩本

私は自分で会社をつくり、訪問看護をやっています。江戸川区に1つ目を、去年隣の江東区に2つ目をつくり、他に沖縄と福岡と岩手県の一関にそれぞれ事業所があります。看護師たちは全部で60人ぐらいです。

私は看護師になって10年目ぐらいですが、最初の2年だけ北里大学病院の救命救急センターにいて、後はずっと訪問看護をやっています。

救急の看護では、90代の高齢の方が心肺機能停止で運ばれてくる。それで家族がパニックになっている中で、「挿管しますか」と聞き、「全部やってください」と同意をとって、延命治療を行います。挿管したり、強心剤を射っても救命は難しくて、機械だらけの治療室の中で最期を迎え、家族もショックを受ける。これが人生の最期でよかったのかと思うし、看護をしている私たちもここまでやる必要があるのだろうかと思います。しかも、ここにはすごいお金が投入されている。そう考えた時、皆、一生懸命やっているのに誰もハッピーじゃないと思ったのです。

望まない医療をあまりしなくても済むように、その手前から一緒に考える機会があるべきではないか。そう考えると、「それは在宅ケアで、権利擁護をする役割であるナースの仕事なのでは」と思い、在宅看護を始めました。

私たちの訪問看護の特徴は24時間対応だけでなく、土日祝日も365日営業しているところです。そして、「すべての人に家に帰る選択肢を」という理念を大事にしています。「すべて」というのは、「あらゆる疾患」ということです。精神障害の人も、小児も、難病の人も、高齢者も全部です。

永田

それはすごいことですね。

岩本

「子供や精神障害は専門ではないので看られない」と訪問看護に断られてしまい、家に帰れないことがあります。それが悔しいので、僕は全部やる、特に受け皿の少ないところをメインでやりたいと思ったのです。

もう1つ、地方での展開はフランチャイズチェーンの形態にしています。地元でそこに住む人たちをずっと看ていきたいというナースたちがいます。ナースの地産地消という形で、沖縄は今、15人ぐらいのチームで看護師含め全員が沖縄出身です。また、どこのステーションも平均年齢が30代前半で働き盛りの中堅どころのナースが多いのも特徴です。

様々な「在宅」の事情

永田

皆様それぞれの立場から伺いましたが、辻さんのところは、どんな患者さんが多いのでしょうか。

私は老年内科が専門なので、高齢者で、認知症の方が多いのです。やはり認知症と他の病気がある方々が増えています。もう1つ実感しているのは独居の方が多いことです。地方は分かりませんが、東京では、ご家族は一緒に住んでいないのが普通です。

そういう方々のケアをどうやっていくかということに直面しています。

永田

独居の方だと、周りの人から家にいるのが大変だ、と思われたりすることもあると思います。

独居が無理だと思ったら僕らのほうから言いますが、ご本人が家にいたいと言うことが多いのです。ご家族も本人がそう言うなら、それを尊重したいというスタンスの方が多い。そうするとやるしかない。

30年前は褥瘡(じょくそう)の手当ての仕方とか、膀胱に入っているカテーテルの扱い方といった介護法をナースとともにご家族に指導し、介護を応援する感じでした。ところが、今はご家族がいないので僕らがやりますが、24時間いられるわけではない。でも、ご本人は家にいたいと言う。そのあたりの難しさがありますね。

岩本

私は最近、家族がいるほうが家で過ごすのは大変だな、と思うこともあります。本人は家にいたいと言う。でも、家族がいろいろな出来事に疲れてしまうというケースが多い。一人で暮らしている方は、自由気ままで、家族がいないほうが楽に過ごせることも結構あるなと感じています。

ああ、そうかもしれませんね。

金山

家族がいると利害関係が複雑なところがあるかもしれませんね。この間、地域ケア会議というところで、こんな事例が出されました。

認知症がある一人暮らしのおじいちゃんが朝いなくなってしまった。ヘルパーさんや隣の人が探しても見つからない。そうしたら夕方ぐらいにフラッと帰ってくる。遠くに住んでいる妹さんは施設に入れたいんですがどうしましょうか、というお題です。

皆、頭を抱えていました。でも私は、「帰ってくるのであれば、別にいいじゃないですか」と言ったのです。徘徊していても夜帰ってくるんだからOK、という発想にどうしてならないのかと思うのです。

今年に入って20回以上保護されている人がいます。文京区から明治神宮まで行って見つかって、パトカーで送ってもらったりしました。お巡りさんに「こういう人、多いですか」と聞くと「毎日いますよ」と。

岩本

お巡りさん、慣れていますよね。

金山

つまり、そういった徘徊する方は地域で十分支えられているのに、「それではいけない」という風潮がすごくおかしいと思うのですね。

岩本

結構近くのお巡りさんと仲良くなりますね。「今、来てお茶、飲んでいるよ」とか(笑)。

永田

警察だけではなくて、地域のお店もそうですよね。

金山

軽い認知症のお金持ちのおばあちゃんがいます。一人で電車に乗れるぐらいの症状で、要介護1です。

そのおばあちゃんが急に化粧をし出したのです。彼氏ができたんですね。年配のおじさんですが、ある日、僕が訪問したら、電話がかかってきて出て行ってしまった。本人の権利を侵害していますが、僕は尾行して、カフェの横で座って話を聞いていました。そうしたらその彼氏は詐欺師なんですよ。

永田

やっぱり。そうかなと思いました。

金山

さて、どうするか。お巡りさんと民生委員さんと町会長さんと家族とでそこら中に包囲網を張った。お巡りさんは最初、「こんな人、早く施設に入れなければ駄目でしょう」と言ったのですが、怒りを抑えて説得したら、「こういう人、増えるから、地域で守らなければね」と言ってくれて、何かあったら必ず連絡して、ということになりました。

そのように何とか地域に支えられて生きている人も多いわけです。

「在宅医療」はどこまで可能か

金山

医療の人たちに伺いたいのですが、今の日本はインフラ的な課題がクリアできれば、どんな状態の人でも在宅で暮らせるのでしょうか。

岩本

在宅でできることはすごく増えています。クリニックさんによりますが、最近うちでは輸血をすることもあります。抗がん剤も普通に外来通院しながら、ぶら下げて帰ってきたりしています。集中治療とオペ以外は、本人と家族の同意のもとであれば、ある程度はできると思います。

ただ、白血病など血液系の疾患の方を家に帰すのはまだ難しいことが多いし、小児がんは在宅側の受け入れ先がすごく少ない。

金山

高齢者に関して言うと、病院は在宅の資源が分からないということもあるし、ケアマネジャーや我々も入院したら病院任せで、退院の目処が立つまで関心が低くなるセクショナリズムがあり、在宅生活再開の1つの障害になっていると思います。そっちのことは分からないからという感じです。

永田

病院の医師やナースは、病院のようにちゃんとした状態でないと心配で、「この状態で帰って大丈夫なのか」とか、「病院と同じようなケアや医療ができないと駄目なのではないか」という思考になりがちです。「本当は大丈夫なんだ」ということがだんだん分かってくると、もう少し敷居が低くなってくるのかと思います。

岩本

訪問看護師同士で「病院の看護師さんって本当に分かってないよね。なんでもっと早く帰せないの」という愚痴を聞くことがあります。でも、「在宅で働いたことがなければ、分かるわけがないじゃん」と僕は思うんです。

これは夢なのですが、僕らが病棟に「こんにちは」と行って、「この人、帰れます、この人、帰れません」と定期的にコンサルテーションをするラウンドをしてみたい。

永田

それをやっている病院も出てきていると思います。

渡邊

病院はどこまで整えて帰したらいいのかということですよね。逆に病院側は整ったと思って帰しているけれど、まだ全然ということがあります。家に手すりが付いたので帰ったというから、見に行ったらバスタオルを掛ける吸盤のものだったり(笑)。

永田

でも、とりあえず帰しながら、ちょっと調整してという場合もあるのかなと思うのです。

渡邊

リハビリ的な視点でいくと、事前に訪問して家をチェックしてから帰していますが、それだけで終わっているところがほとんどです。

そんなところになぜベッドを置いてしまったの、ということもあります。「麻痺している側を壁側にして、どうするんですか」って。ですから、私たちは基本、訪問リハビリを必ず入れるということで家に帰します。

永田

病院からの退院直後の移行期をしっかりと支える。そうするとその後は何とかなるということでしょうか。

渡邊

リハ的には何とかなります。あとはお任せでいけるので、最初の1週間、帰ったその週にいかに訪問するかが大事です。

自立を促すケアとは

岩本

うちは「訪問看護を卒業する」ということをすごく大事にしているのです。もちろん物理的に卒業できない人もいますが、長期ケアなので一生看護しなければいけないというイメージを持たれている気がするのです。

渡邊

そう思っている訪問看護師さんがたくさんいますね。

岩本

でも、介護報酬とか診療報酬は社会保障費からもらっているわけですよね。次のサポーターに移していくとか、地域の人につなげていけば、訪問看護は要らないかもしれない。

自立できるような人にも「安心だから」と行き続けたら、税金や保険料はもったいないし、本人の健康を阻害することにもなりかねません。ですから、卒業できる人は卒業しよう。退院直後は手厚くして、減らせるならば減らす。そうやって福祉につなげたり、地域の方や資源、本人のセルフケアを高めることなどを上手く行いながら、自分でできることを増やしていくべきだと思うのです。

渡邊

リハ単独では現実的に人員が少ないのです。私のような理学療法士(PT)は15万人。作業療法士(OT)が7万人です。でも、今もっとも在宅で必要とされているのは言語聴覚士(ST)なんです。

在宅の高齢者は誤嚥する方が大勢います。だからSTの介入が必要なんですが、STは3万人しかいません。しかもそのうちの3000人は働いていません。ですので、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など難病の方以外は基本的には期限を切って、変化があった時にもう一度オーダーしてください、としないと回りきれない。当然、地方に行けば状況はより深刻です。

永田

人的資源を上手に使うという考えはすごく大事なことだと思います。ただ、訪問看護ステーションの方の中には長くお付き合いするのをよし、とするところもあって、現場でもそのあたりは難しいところだと感じます。

岩本

評価が分かりづらいのですね。ケアに介入して、その評価のポイントをどう見るのか。看護というのは社会的な要請で入るケースもあるので、「具体的にどこがよくなった」と示していくことは難しい。だから多職種のチームでディスカッションして、プランを適宜変えていくことが望ましいと思っています。

高齢者だと老いもありますし、肉体的な機能が持ち上がるのはなかなか難しいけれど、社会的な意味で引き出しが増えたり、びっくりするぐらい社会的・心理的な健康面が変わることもあるので、それに合わせてケアを「引いていく」ことができればいいと思います。それも本人や家族と、目標やケア内容、できるようになったことなどを相談しながら、一緒にやっていく感じでしょうか。

金山

すごく理想的なケアをされているように感じます。その要にケアマネジャーがいると思いますが、ケアマネジャーは本人の自立のために、できるならばケアを差し引いていこうという視点は持っていると感じますか。

岩本

精神障害を持つ方へのケアマネジメントを中心に行う人たちはすごく上手だと思います。プランを自立の変化に合わせて上手く意図して変えていきます。

誰のための介護か

金山

介護保険制度が始まってから2007年ぐらいまでは介護も質を重視していたように思いますが、リーマンショックぐらいから量が重視されるようになってきていると思います。今、予算的にも頭数を増やすために、新任者をどんどん入れているのです。

それはそれで必要ですが、ミドルマネジャーが育っていないところに、学歴も年齢も違う新しい人、それこそ外国人の方も入ってくるので、そういう人たちをマネジメントするのは非常に困難です。そして事業所からマネジメントができる人が抜けてしまうと、介護のことをよく分からない新任者が介護している状態になる。

「介護離職ゼロ」の政策が言われたぐらいから、本人のことよりも家族の介護負担を減らす方向に流れているのを、すごく感じています。傾向として一番分かりやすいのは、デイサービスの利用がすごく増えている。訪問介護とか訪問看護より、デイサービスで1日預けているほうが家族も安心だと。

岩本

自分の時間も取れるし。

金山

そうです。ケアマネジャーもそういう状態です。紹介される時も週7でデイサービスとかあるんです。

岩本

すごいですね。

金山

独居なら、まだ分からなくはないけれど、家族のニーズによってそうなっている。ネットを見ると、「こういうふうに使えるよ」とか介護保険が財テクみたいになっていますよね。

介護側も事業所として出来高を増やすために、たくさんサービスを入れたほうがよいというインセンティブが働くので、サービスは増やせても、減らすことはなかなかしない。

そういった事情もあり、本人のためとか、専門職としてのケアがやりにくくなっていることを実感しています。

永田

本来、介護保険というのは自立支援のはずなのに、ニーズに応えるということが求められ、そのニーズも利用者の本当のニーズなのか、よく分からないものが増えてしまっているのかもしれませんね。

確かにデイサービスを利用されている方も多いので、訪問診療する日が限られますね。昔は、カレンダーを見ると「医者が来る日」しか書いていなかった(笑)。

おっしゃる通り、ご家族の要望通りにサービスを入れられるだけ入れてしまって、リハビリのようなちゃんとした目標に基づいて行うという発想が、看護や昔からの福祉の方にはあまりない場合も多い。実は医者もあまりなくて、もうよくなったから頻繁に来なくていいよねとは言わない。

僕は、医者はそんなに訪問しなくてもいいのではないかと思っています。それよりも看護師さんやリハビリの方に行ってもらったほうがいい。

でも、逆にこんなにリハビリ入っていなくていいよ、という例もありますね。元気に家の中を歩いているけれど、週3日リハビリが入っているとか。

永田

お守りみたいになってしまっているところがありますよね。

お薬と同じで、いくらでも増えればいいとなると問題が出てくる。サービスと薬と治療は言われるままに出していると増えてしまうものなのです。やはり厳密に評価するというのが研究者の、在宅ケア学会などの1つの役割だと思います。

脱病院の時代へ

金山

国民の側のお医者さん神話みたいなものがありますよね。文京区は大学病院がすごく多いので、ことあるごとに大学病院へ行かれる方がいます。でも、クリニックでいいんですよね。

20世紀は病院の時代だったのです。医療というのは病院で行われるもの、教育も病院で行われるもので、僕らもそこで育ったわけです。そちらが本流で、往診は出前と思われていました。お店で食べさせるのが本当で、出前は冷えて味が落ちると。

でも、訪問診療は絶対に出前ではなく、別の料理なのだと思うけど、病院内の特に古い医者は、どこまで病気の人を家で診られるかを学んでいない。30代ぐらいの若い世代は、医学部でもさすがに在宅ケアを教えるようになってきたので話をすれば分かります。しかし、それ以前の医者は連携の話もチーム医療の話も頭にない。すべては医学教育の問題だと思います。

岩本

日本に看護師が200万人ぐらいいて、就業しているのは150〜160万人ですが、訪問看護をやっているのは5万人、約3.4%です。そもそも全看護師中、男性は5%しかいない。掛け合わせると……。

永田

とても少ない(笑)。

岩本

訪問看護のキャリアが本流ではないというのはすごく感じます。不思議なのは、「10年以上のベテランにならないと訪問看護をやってはいけない」と病院の先輩たちは言うけれど、「訪問看護なんてお茶を飲んでお喋りしているだけでしょう」と同じ口で言ったりする(笑)。

だから、無知な上にポジショントークであって、実際には優劣があるわけではまったくないと思います。社会の要請もあり、家に帰る人は今後どんどん増えるので、それを看る人が必要になってくるのは間違いないことです。

永田

在宅看護を教える時、学生たちが訪問看護ステーションに実習に行く前に、どんなことを学びたいかを書いてもらうと、「なぜ家に帰ろうと思っているのか」とか、「療養、治療が必要な状態で、なぜ家にいようと思うのか分からないので聞きたい」と書いてくる学生がいます。

岩本

「君はそうじゃないの?」って(笑)。乖離しているんですよね。「患者」という存在の人がいて、「患者さんって病院にいるものでしょう」と。

病院で生まれ育ったみたいに思っている。だから「帰る」という発想になるんです。別に帰るのではなくて、たまたま病院に入っただけなのに。

でも、僕も在宅を始めるまでは、患者さんというのは病院に来るものだと思っていました。研修医の頃は病院外を歩いている人は皆、健康だと思っていた。でも、老年内科をやったら、病院に来られない人が多いのだと分かった。また、中途半端に治って病院から帰っていく人がいる。

最初に神経難病の方を受け持った時に難しい診断名だけをつけて、「以上、退院となります」みたいなプレゼンでした。しばらくたって、あの人はどうなったんだろうと思った。

また、当直の時、回診したら元気そうにしているおじさんがいたのです。「先生、帰りたいんだけど、帰してくれないんですよ」と言う。医局に戻って担当医に聞いたら、「あの人はがんの末期です」と言うのです。

30年前だから本人に告知されていないんですよね。「帰りたいと言っていますよ」と言ったら、家族は帰してくれるなと言っていると。医療サイドと家族側による人権無視の時代でした。病院は刑務所みたいだなと思いました。

私は30代で、皆さんと同じぐらいの年齢で在宅ケアの現場に出ました。その時、やはり「在宅に出るのはまだ早い」と言われた。医者の場合も40、50ぐらいまで病院でキャリアを積んで、その後、開業したり、跡を継ぐというのが1つのコースでした。

でも40歳まで待っていたら訪問できなくなるかもしれないから、若いうちにしようと飛び出した。早くやり始めるのが大事です。真っすぐな心を持った医学生のうちは、新鮮に「いいですね」と言ってくれます。それがだんだんすれていってしまうというか。

永田

看護師も病院へ行ってしまうといつの間にかというのがあります。

病棟実習の前に、在宅の現場に連れていってしまうのがいいと思います。こちらが普通の生活だと。

スペシャリストかゼネラリストか

渡邊

看護もそうだと思いますが、小児も来るし、おじいちゃんも来るし、難病は来るし、脊髄損傷は来るし、がんも来ますので、リハって専門がないのです。だから、在宅リハに行く時は技術的にはオールマイティーのほうが使えるのです。

自分は脳卒中は診られるけれど、心臓の悪い人は分からないとなってしまったら、その人は使えない。うちでは最低限、5年間、いろいろなチームを回った人を訪問に出します。1対1で、訪問の現場でそれを学んできなさい、ということでは利用者さんに対して申し訳ない。

金山

介護は全然事情が違います。基本的に介護福祉士の養成校でちゃんと専門教育を受けた人は施設に入ることが多い。そして介護教育を十分受けていない方たちがヘルパーの資格で在宅に入ります。つまり、専門性で言えば低い人たちが在宅を回している。

岩本

オールマイティーの方が在宅に行くのは、僕もそのほうがいいと思っていますが、最近はちょっと違うなあと思います。

というのも、うちは精神疾患や神経難病などの重症な方や、子供もほぼ重症心身障害の子です。がん末期も年間4、50人看取るという感じなのです。でも、全領域を十分に経験したナースなんて探してもいないのです。

渡邊

僕が言っているのは、スペシャリストではなく、多くの分野を見ることができるゼネラリストということです。領域が10あるとして、その全部のスペシャリストになってくれとは言わないけれど、老人しか診たことのない人が、いきなり子供のところへ行っても何をしたらよいかも分からない。

お金を払ってくれる人に害を与えず、利益を与えられる存在として、自力でやれる最低限のところは取ってくれという考えです。小児も老人も難病もスペシャリストというのとはちょっと違います。

岩本

僕も同じ考えです。入ってくるナースは若い人が多いので、バックグラウンドは一領域か二領域です。そうすると経験がないこともありますが、それはナーシングチームとしてカバーする。得手、不得手をサポートし合う形で、チームとしてゼネラルに対応するということにしています。

金山

逆に経験がなくても、患者さんのケースによって、訪問看護に行くこともあるんですか。

岩本

うちの場合は、今、体制がそれなりに整っていて、それぞれの専門家がバックにいます。ですから、OJTなど学習の体制があって、準備しながら経験できるようにしています。

立ち上げ当初はどうしようか、というケースはありました。その時は利用者さんの家族に、「僕はこれぐらいのお子さんを診たことがないけれど、サポートを受けながらだったらできると思います。どうしますか」と聞くと、全然構わない、とにかく来てくれればいい、私が教えられる、ということが結構ありました。

永田

小児だとお母さんのほうが詳しかったりすることがありますものね。

岩本

やはりお金をもらっているという観点からすると、ジレンマがあり、他のナースとよく議論になります。僕は精神科のバックグラウンドはないけれど、精神科の患者さんの訪問を結構受けていると言ったら、精神科だけを対応している訪問看護師さんから「緩和ケアを経験したことのないナースががんの看取りをやってお金をもらうなんておかしいでしょう、それと同じではないですか。あなたは看るべきではないのでは?」と言われました。

確かにその観点はあると思いますが、「受け皿がなくて断られて家に帰れない人たちがたくさんいる中で、その人たちはどうするんでしょう? あなたが全部看るんですか? 看れる体制を社会に作ろうとしていますか?」と返すと、「それはできない」と言う。

であれば、「僕らでも本当にいいですか」ということを開示し、学習しながら、ケアを始め、その中でできるだけ帰る人を受け止めていくのが誠実ではないかと。量と質で言えば量の話になるのでしょうか。でも、ちょっと胸がチクッとはします。

必要となるネットワーク

永田

まだまだ資源は足りませんが、在宅でもだんだんとスペシャリストみたいな話が出てきているのは、ある意味、資源が少し増えてきたから言えるところもあるかと思います。

でも、在宅で専門性の高い医療を求められたことはあまりないですね。

金山

4、5年ぐらい前から、都内では、営業的な売りだと思いますが、うちはこういうのが専門ですというクリニックが増えていますね。ケアマネジャーに聞くと、領域別に在宅の医師を紹介してくれます。それがいいのかは分かりませんが。

今、都会では専門分化が流行りですよね。訪問専門クリニックでも、がん専門、小児専門、心臓病専門というところが脚光を浴びています。

永田

全部診られる人がいたほうがいいような気がしますが。

うちには認知症で生活に支障の出ている人たちをよく紹介されます。別に認知症を専門としているわけではないですけれど。

総合診療専門医という専門医制度が一応、始まっていますね。開業医の団体である日本医師会もかかりつけ医という名前でいろいろ研修し、小児から精神から認知症から在宅医療までやらないと単位をもらえない。ゼネラリストと臓器別の専門医の並列時代になってきたと思います。

でも、在宅で求められているのは、やはりゼネラリストだと思う。そして従来の専門医や専門看護師に指導してもらえるような連携ネットワークがあればいい。大きいクリニックではがんの得意な先生、心臓の得意な先生を持っていらっしゃるから、そこで研修していると思えばいいわけです。

うちのクリニックも5つの在宅療養支援診療所、1つの病院で、御茶ノ水ドクターズネットワークというネットワークをつくっています。1つは神経内科専門のクリニック、1つはがんの緩和ケアをやっています。お互いにカンファレンスを毎月やっていますから、「先生、やっぱり診て」という場合もあるし、指導を受けながら診ることもあります。看護やリハビリでも、お互いにお願いできるような関係やネットワークがあればいいと思います。

永田

褥瘡の大変な人がいたら、病院の外来の専門看護師に地域に出ることを頼むことなどはあるのですか。

岩本

頼むのですが、来てくれないです。だから一方的にメールで写真を送って電話して、「どう思いますか」と聞くことが結構あります。

忙しくて出るのが大変なんだと思います。半日がかりで来て、病棟に穴を空けることになってしまうので。

人的資源を上手く活用するには

写真を送って、コメントをもらうだけでも、いい関係だと思います。専門職の人はまだ病院にいらっしゃるし、在宅にすぐ出てこられない。医者もそうです。最低限度の研修をしていれば、ネットワークさえあればやっていける。今はICTが発達にしているわけですから、地方の不便なところでも東京に相談してもいいのではないかと思っています。

診療報酬はどうなるか、という話は出てきますが、どの領域でも動画や写真を送ってもらってアドバイスをすれば、研修医や看護師さんに行ってもらってやれると思います。そうすると、地方の医師不足を全部解消しなくても大丈夫なのではないかと思います。

永田

人材がどうやっても完全に充足することがないとしたら、ICTを活用せざるをえないし、それで質が上がることもあると思います。訪問看護だと、そのへんはどうですか。

岩本

うちは全部社内のビジネス用のSNSでつながっていて、地方で、「これ、どうしよう」ということがあれば、訪問先で写真を撮って社内の専門家に相談することができます。法人を超えた時の個人情報や責任の問題はありますが、グループ内であれば実際に今もできています。

地域には医者よりも看護師資源のほうがすごく多いのです。だから、フロントはナースでやるのでお医者さんは夜寝ていてください、死亡確認と、指示がほしい時は連絡します、あとはやります、という対応を連携先とは基本にさせてもらっています。ファーストコールは全部うちにして、先生のほうは患者をたくさん診ていてほしい。

ナースの受け持てる人数は頑張っても2、30人です。医師は基本、100人単位で診ていて、それに緊急対応があるので、全体で見るとすごく効率が悪い。ナースがフロントで対応して、必要なところだけ医師に来てもらうほうが絶対にいいと思います。

でも、たまにとても熱い先生がいて、緊急対応もちょっとした困りごとも全部往診に行くと言う。先生、社会保障費も医師のほうが単価が高いからもったいないです、と言うと、「おまえら、そんなに仕事がほしいのか」と(笑)。

地域に行くとすべて診療報酬的に動いているから、クリニックは24時間体制で、一応自分たちでやることになっているし、当直を置かないといけないから、置いた以上は行かないと損みたいなところがある。

僕なんて時間外の往診はほとんどしません。夜出かけるのは看取りの時だけです。また、完全に治癒可能な救急は救急車を呼びます。だって心筋梗塞や脳卒中で往診してどうするのかという話です。CTもないし、処置もできない。だけど、往診の数だけを誇ったようなクリニックがときどきある。熱が7度2分で往診とか、医療費がいくらかかっていると思っているのか(笑)。これは資源の無駄遣いです。

岩本

介護のサービスで定期巡回・随時対応型訪問介護看護というのがあります。これは生活に合わせて介護のヘルパーさんや福祉のサービスが入るのですが、とても密に連絡があるのです。

金山

連携を前提とした介護・看護ですね。

岩本

そうです。医師がいて、看護師がいて、さらにヘルパーさんが手厚くいるので、僕らも本当に必要な時だけ行くことができる。さらに必要なときはスクリーニングされて医師が行く。すごく合理的なのです。

永田

そうやって資源を上手に配置する、利用するという方向にいかないと回っていきませんよね。

介護に横たわる課題

金山

皆さんは質の話に焦点を当てていて、うらやましいと思ってしまいます。介護は人材は足りないし、十分育成されていない新任者が現場へ行っているのが現実です。そういう人でも来てもらわなければ回らない。

私は介護職を増やしていくことが本当に必要なのかと思っているのです。施設では、「人員配置基準が国の基準よりも多く、手厚く配置しています」ということを売りにしていますが、これは生産性が悪いということですよね。「人の頭数が質だ」というのがまだ介護の常識で、人の手神話みたいなものがあるわけです。

教育は尊厳とか寄り添うとか情緒的なものを訴えていますが、テキストにはテクノロジーの使い方などは一切書いてありません。介護機器など現場に出て初めて見て、リフトにバスタオルがかかっているという状態です。

認知症の本当に初期で、生活に支障はあるけれど体は元気な人たちがこれからどんどんと増えていく。ところが、そこを支える在宅の介護職は追いついていない。そこに対してコンセンサスのないまま、専門職ではないボランティアさんが地域で見ていきましょうという流れが今の状況なのです。

永田

ボランティアさんというのは、介護の専門性を持っていなくても大丈夫なのでしょうか。

金山

正直なところ、できる、できないというより、やらざるをえないのだと思います。専門性というもので生活の支障をちゃんと見て、適切に医療と連携できるような介護職でやるのであれば、僕はある程度ふるいにかけなければいけないと思います。

下位資格をどんどんつくって裾野を広げていますが、それをすればするほど専門性は薄れます。それならば待遇をしっかりさせた上で、ふるいにかける。そういう人たちがテクノロジーを利用して、生産性の高い介護をすることができればよいと思うのですが、それには原資が必要です。

国民の福祉の負担を増やすのか、という議論がないまま、善意の介護職にしわ寄せが出て、地域のボランティアをつくりましょう、というかけ声だけが進んでいる。その歪みが、今後すごく出てくるのではないかと思います。

医療職の方々が在宅で、イニシアティブを取ってやってくれたほうがいいのではないかとも思うのです。

岩本

でも、それはそれで生活自体のコントロールを管理的に考え始めたりすることもあるのではないかと思います。生活については福祉の人たちはプロフェッショナルだと思います。本人よりも家族のほうが優先されるようなことがあると、医療中心というのはどうなのかとは思いますけれどね。

金山

イニシアティブというのは、在宅における本人や家族を含めて、あるべき姿みたいなものを一緒に考えていくことのできる人材ということです。

在宅ケアの可能性

永田

これからの在宅ケアの可能性について、ご自身の分野で、一歩進んでこんなことができたら、というような展望を最後にお話しいただければと思います。

岩本

これからやりたいと思っていることは2つあります。1つは、ケアのことや事例検討などにおいては、基本的にケアを提供する側の人たちばかりが議論しています。提供される側、当事者の人たちこそ常にその議論の場にいるべきだと思っているのです。

だから、事例検討会という自分たちの勉強会に、ご自分の事例検討をやりませんか、と言って、その当事者とご家族を呼んだのですが、これがすごくよかったんです。家族も、本人も、そこに今、実際に介入しているチームも全員でやりましたが、ご本人が、この時自分はこう思った、家族は実はこんなことを思っていたんだ、と分かります。そもそも自分のケアのことを検討されるのに当事者自身が議論に参加していないのが不思議で、それを普通のことにしたいと思っています。

もう1つ、在宅ケアの成果はすごく見えづらいので、報酬も何につけたらよいか分かりづらい。多職種が関わっているので、効果としていろいろな要素があると思いますが、定量的なデータは絶対に必要だと思います。

なぜなら、とてもいい介入、いいチームワークで成果が出た、ということが、ナレッジベースではたくさんあるからです。でも、それは体験した人しか知らないので、これから本当にそのサービスが必要な人には届いていない。それがすごく残念です。今、その定量的な成果を測ることに取り組んでいます。

永田

ナレッジベースということに関しては、大学としてもやらなければいけないことがいろいろありますね。

金山

ケアというのはすごく広いと思っていて、専門職同士で連携し合うのがまず大前提ですが、そこから先にいかにつなげられるか。ファーストコンタクトを取るのは商店の人だったり郵便局の人だったりしますが、そういった人たちと、もっとつながることはできないだろうか、と思っています。

地元のコンサルをやっている友達に、生産価値もないようなお年寄りや障害者を税金を使って支えることに意味があるんだろうか、と言われたことがあります。これが僕の原点です。自分たちの仕事は何なのだろうといつも考えます。僕が現場で出会っている本人たちの存在まで否定された感じがして、何か一緒にできることはないかといつも模索しています。もっともっと多様な現場に出たいと思っています。

また現在進行形の取り組みとして、介護福祉分野で研究を積み重ねる土壌をつくりたい。本人の自立生活や尊厳の支援が職人技ではなく、全国で行われるためには医療が歩んできたように現場ケアの研究が大事だと思うからです。

渡邊

先ほども言いましたが、在宅の高齢者は誤嚥する方が大勢いるので、言語聴覚士(ST)の養成は急務だと思っています。在宅のリハビリは、今まで理学療法士がやっていた。動かない手を動かすとか、歩けない足をなんとか歩けるようにするというイメージでしたが、これからはどう考えてもSTが在宅に出るべきです。

徳洲会は今、STを在宅に回しましょうという取り組みをしています。ただ、そもそもの資源が少ないので、田舎では特に厳しい。ニーズにまったくマッチしていません。

STというのはPTやOTから40年も経ってから国家試験が始まりました。STの歴史は介護保険の歴史と同じですので、そもそもの数が少ないのです。そして、実は医師でもSTがやっている仕事の概念をよく知らない方が多い。STを世に出すというのが、今の私のタスクです。

病院の中では医者は医者の仕事だけをしていれば済む。ところが、在宅へ行くと、看護師やリハビリの方など、皆さんがどんなことをやっていて、何ができるのか、初めて知ることができます。まずその知識を持たなければいけないと思う。

独立した在宅医学講座というのはまだ医学部にはなく、国家試験にもわずかしか出ない。この分野では看護が一番進んでいます。国民も医者も、とにかく病院が医療だと洗脳されてきたので、病院で働いている人のほうが偉いと思い、在宅は、誰でもできることをやっていると見られていました。

しかし、そういう発想をもう変えなければいけない時代です。病院医療は、今後もなければいけませんが、急性期医療、集中治療、先端医療に特化し、プライマリケアは病院外でやるものだと、国民と専門職全体が変わらなければいけないと思います。

そのために、やはり1つはエビデンスの蓄積を在宅ケア学会でぜひ発表していきたいと思います。

もう1つは、新しいテクノロジーです。実は在宅療養支援診療所という専門診療所の数は頭打ちなのです。また、介護人材もそれほど増えるとは思えない。やはりこれからは介護ロボットとかICTとかAIとか、日本の得意な分野をもっと活用していただきたい。これは完全に医療の専門外の方々、工学系の方々やビジネス分野の方々が入ってこないと広がらないと思います。

最近はこれから日本の後を追って超高齢化を控える国々に、日本の在宅ケアも非常に注目されていて、中国や台湾や韓国の方が、よく見学に来ますよね。ですから、高齢化を逆手にとって世界に発信し、売り出す。そのための在宅ケアの「メイド・イン・ジャパンモデル」を皆さんと一緒につくっていきたい。それが僕の夢です。

私は30年やってきましたが、皆さんのように若い方々が出てきていることに期待しています。

永田

地球規模に目を向けた夢のあるお話をいただきました。そのためにもエビデンスを蓄積し、提供者だけではなくて、サービスを利用する側、住民全体が在宅ケアについて身近に考えることが大事になってくるのでしょう。

次は自分が利用者になっているかもしれないという視点で、フラットに在宅ケアについて話し合うこともとても大事ではないかと思いました。

是非、今日ご参加の皆様には、さらにご活躍いただければと思います。今日はどうも有り難うございました。

(2019年10月18日収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。