登場者プロフィール
丸物 正直(まるもの まさなお)
その他 : 公益社団法人全国重度障害者雇用事業所協会専務理事経済学部 卒業塾員(昭49経)。大学卒業後住友銀行入行。本店人材開発部長等を歴任。2007年SMBCグリーンサービス代表取締役社長就任を機に障害者雇用に関わる。12年より現職。17年内閣総理大臣表彰。
丸物 正直(まるもの まさなお)
その他 : 公益社団法人全国重度障害者雇用事業所協会専務理事経済学部 卒業塾員(昭49経)。大学卒業後住友銀行入行。本店人材開発部長等を歴任。2007年SMBCグリーンサービス代表取締役社長就任を機に障害者雇用に関わる。12年より現職。17年内閣総理大臣表彰。
出縄 貴史(いでなわ たかし)
その他 : 株式会社研進代表取締役法学部 卒業塾員(昭53政)。大学卒業後三井住友海上火災保険(株)入社。2005年より現職。福祉分野に企業的営業手法を導入し、ホンダとの取引を中心に、施設外就労、福祉施設自主製品の販売促進等、事業の多角化を推進。
出縄 貴史(いでなわ たかし)
その他 : 株式会社研進代表取締役法学部 卒業塾員(昭53政)。大学卒業後三井住友海上火災保険(株)入社。2005年より現職。福祉分野に企業的営業手法を導入し、ホンダとの取引を中心に、施設外就労、福祉施設自主製品の販売促進等、事業の多角化を推進。
三井 正義(みつい まさよし)
その他 : 株式会社リクルートオフィスサポート執行役員法学部 卒業塾員(昭61法)。大学卒業後リクルート入社。人事・広報等スタッフ部門勤務後、狭域事業ディビジョンカンパニーオフィサー、HRマーケティング執行役員等を歴任し、2012年より現職。
三井 正義(みつい まさよし)
その他 : 株式会社リクルートオフィスサポート執行役員法学部 卒業塾員(昭61法)。大学卒業後リクルート入社。人事・広報等スタッフ部門勤務後、狭域事業ディビジョンカンパニーオフィサー、HRマーケティング執行役員等を歴任し、2012年より現職。
関村 友一(せきむら ゆういち)
その他 : あさがお年金社会保険労務士オフィス代表経済学部 卒業塾員(平12経)。社会保険労務士 年金アドバイザー。自身の経験を生かして、精神障害の理解を広げる活動を展開。神奈川県社会保険労務士会障害年金部会所属、社会保険労務士三田会幹事。
関村 友一(せきむら ゆういち)
その他 : あさがお年金社会保険労務士オフィス代表経済学部 卒業塾員(平12経)。社会保険労務士 年金アドバイザー。自身の経験を生かして、精神障害の理解を広げる活動を展開。神奈川県社会保険労務士会障害年金部会所属、社会保険労務士三田会幹事。
中島 隆信(司会)(なかじま たかのぶ)
商学部 教授塾員(昭58経、63経博)。博士(商学)。2001年より現職。07年~09年内閣府大臣官房統計委員会担当室長。専門は応用経済学。著書に『新版 障害者の経済学』等。
中島 隆信(司会)(なかじま たかのぶ)
商学部 教授塾員(昭58経、63経博)。博士(商学)。2001年より現職。07年~09年内閣府大臣官房統計委員会担当室長。専門は応用経済学。著書に『新版 障害者の経済学』等。
2018/12/05
障害者雇用数の増加とその歪み
今日は障害者雇用をテーマに、実際に様々なかたちで関わっている方々にお集まりいただき、お話を伺いたいと思います。
2006年に障害者自立支援法が施行されてから10年以上が経ちました。その後、障害者雇用促進法(1960年制定)の改正、障害者総合支援法や障害者差別解消法の施行など、いろいろな法律が整備され、障害のある方たちを職場に、そして社会に受け入れていこうという素地はある程度できてきたかと思います。様々な偏見も徐々になくなってきているように思われますし、障害の「医学モデルから社会モデルへ」という大きなパラダイムシフトも起きました。
また、本年4月から精神障害の方の雇用義務が発生し、障害者の法定雇用率がさらに上がり、今まさに障害者雇用が大きな転機を迎えているのではないかと思います。このような中、この夏には中央省庁などでの障害者雇用水増し問題が報道を賑わせるということもありました。
今日は、精神障害当事者の方にも参加いただき、忌憚のないお話をしていただければと思います。
まず、日本の障害者雇用がここ10年でかなり進展してきたことは確かですが、その間、具体的にどのような進展があったのか、それぞれの立場からどのような評価をされているか、お話しいただければと思います。はじめに丸物さん、いかがでしょうか。
まず、国、厚生労働省の施策ということからお話しいたします。国としては、国連の障害者権利条約(2006年採択、2014年日本の批准が承認)の批准を第一に考えて法整備を大急ぎでやってきました。また、厚生労働省は、雇用の量的拡大を一番に目指し、着実に雇用数を伸ばしてきました。特に本年の4月より「精神障害者の雇用の義務化」が行われると、この動きは加速され、法定雇用率もグンと上がりました(民間企業で2.0→2.2%)。ただ、この施策を急速に進めたがために、様々な問題点が出てきました。
障害者雇用というのは、その負担の大半が障害者を受け入れる企業や団体にかかってきます。短期間に大きい数字を義務付けられると、障害者を受け入れる側に「なぜ障害者雇用をやらなければならないのか」という本質的なことを考える余裕がなくなり、ただ法定雇用率を達成するための数合わせに走ってきてしまったという感があります。その典型が、最近騒がれている「水増し問題」なのだと思います。
この問題を解決するため、今後は、「雇用の量」といった数に力点を置いた施策から、「雇用の質」といった働きやすさに力点を置く施策に変えていく転換期に来ていると思います。
「福祉」と「雇用」のあいだで
量的にかなり増えたので、一応の成果はあった。しかし、役所も企業の尻をたたいてきた結果、いろいろな歪みも出てきたということですね。
次に出縄さんにお話を伺いたいと思います。出縄さんは企業で働かれた後、福祉の仕事をされていらっしゃいます。障害者の方たちの就労を支えるお立場から、この10年の歩みを振り返っていかがでしょうか。
私は福祉分野をずっとやってきたわけではなく、父が14年前に亡くなった後、それを継ぐかたちで企業から福祉の世界に入りました。社会福祉法人進和学園という平塚にある知的障害者の施設です。
500名ぐらい利用者がいらっしゃって、そのうちの200名ぐらいが就労系で、ホンダさんの自動車部品の組み立てを中心にいろいろやっています。株式会社研進は、その進和学園の営業窓口会社です。
私が福祉の世界に入ったのは2005年ですが、翌年の障害者自立支援法施行は、福祉の現場でも半世紀ぶりの大改革でした。それまでは「措置時代」と言われていました。自立支援法で何が変わったかというと、「利用者」という言葉が出てきました。これは障害のある方が措置されるのではなくて、福祉サービスを利用する消費者の立場となるということを意味します。
その一方で、丸物さんがおっしゃったとおり、障害者雇用という労働施策も急激に進んでいきました。それとある程度リンクするかたちで、福祉政策も「福祉から雇用へ」というのが一つの合い言葉になり、障害者自立支援法に基づく「就労移行支援事業」という新しい事業ができました。
これは福祉施設を利用している方を一般雇用の形で就労させるため、報酬単価が高く設定された公的資金が補助金として福祉施設へ支給されるのです。この就労移行支援事業にはどの施設も飛びつきました。これは2年間という有期のプログラムの中で、養護学校から来た方々を訓練して一般就労へ送り出すという事業です。
障害のある方が一般企業で雇用されて働くということは理想的ですが、現実はそれほど甘くはない。一般雇用へ行ける方というのは、はっきり申し上げて、ごく一部の方だと思います。多くの方は引き続き福祉施設の中で働いていかなければいけない。それ以前から福祉と雇用の差は大きかったのですが、ますます福祉と雇用の格差が広がっていったわけです。
そこで、格差があまりにも広がるのはよくないということもあり、障害者自立支援法の中で「就労継続支援A型事業所」というものができたんですね。事業所が障害者と雇用契約を結ぶといういわゆる「雇用型」というもので、国もこれを積極的に推奨しました。そのためA型事業所の数が2010年の707から2016年の3455へと、たかだか5〜6年で約5倍にも増えました。
急激に増えすぎましたね。
そうです。これがまた歪みをもたらしました。企業にとってみると、A型をやると福祉の予算、つまり助成金がつくわけで、その助成を目当てにした「悪しきA型」という事業所がかなり出てきました。
これではいけない、A型の健全化を図ろうということで、3年ほど前に全Aネット(就労継続支援A型事業所全国協議会)という全国組織ができました。国もA型を健全化するための指導を行っており、今後、A型は淘汰されるものと思います。
一言で言えば、この10年、労働施策も福祉施策も、量的な拡大を図ったということになると思います。今後は、福祉と雇用のハイブリッド型など多様な就労の場がもっとできて、いろいろと障害のある方が選択できる、質と量がバランスよく整合し、トータルベストを目指した制度・施策が求められると思います。
非常にいい点をご指摘いただきました。福祉の現場と企業の就労の間にはかなりの差があるにもかかわらず、ともかく雇用率を上げていったわけですが、福祉のほうに通っている方たちはそんなに簡単には一般の就労には入れない。
それなのにA型事業所を増やしたことにより、相当不自然なことが起きてしまったわけですね。本来はその間の差をある程度埋めていく作業がもう少し必要だったと。
特に「就労継続支援B型」という、いわゆる雇用契約を結ばない非雇用という形で働かざるを得ない方々への配慮が非常に欠けていると思います。かつて授産施設とも言われたB型で働いている方の中でも能力の相当高い方もいらっしゃいますが、そうは言ってもA型にも行けないし、一般雇用も難しい。
A型へ行かれた方は労働者としての権利が保全されますが、B型の方は訓練生とされるので残業もできない。これはB型で働いている人の人権問題だと思います。ILOからも、日本の授産施設における利用者の就労形態は勧告違反との指摘を受けていますし、福祉施設で働く方の労働者性の問題とも言われています。
企業からのチャレンジ
次に、リクルートで障害者雇用に関わっていらっしゃる三井さん、企業の立場から、この10年の進展についてお話しいただきたいと思います。
10年前というとリーマンショックが起きた年でしたが、その後、景気が回復していきました。僕は今から7年ほど前にこの仕事に就いたんですが、その時期から、障害者雇用については、法的な部分の拡充と併せて、まさに拡大に次ぐ拡大という時代だったと思っています。
課題はいろいろありますが、まずポジティブな部分で考えると、法定雇用率という数字があるがゆえに、企業としてのわれわれはいろいろなことにチャレンジせざるを得なかった。
僕が来てからのチャレンジは3つあったかと思います。1点目は、それまでは受け入れていなかった精神障害者の方を受け入れました。仲間としてどうやって働けるか、いろいろ工夫して彼らの能力を生かせるところを模索してきました。
2点目は、免疫障害の方を受け入れました。この方たちは身体障害というより社会的障害というところで、一緒に働くことについて周囲がまだまだ抵抗があったと思います。そのような方たちを会社の中で受け入れる素地を、勉強会などを開いて徐々に作り、今、30人ぐらいの方を受け入れていて各部署に1人ずつぐらいいる、という感じです。このようになると皆さん、「じゃあこの会社で働こう」と来ていただける。
3点目は、地方の在宅勤務の方の受け入れです。地方に住む障害を持った方の中には、優秀なのに仕事にリーチできないために働けずにいる方がいるのではないか、という仮説を立てて、それを始めました。今、52人の障害のある方が地方の在宅勤務というかたちで働いています。目標を高く置いたので大変でしたが、だからこそ、これまでになかったことをいろいろやっていかないと駄目だ、とポジティブに思いながらやっています。
ネガティブな部分で言えば、中にはちょっと怪しいような偽装雇用みたいなことをする会社も出てきてはいる。そこのところはどうなのかなとは思っています。
なるほど、法定雇用率がだんだん上がってきたのを、「よしっ、じゃあチャレンジしてみよう」とポジティブに受け止めた会社もあれば、それにかなりの負担感を抱いた会社もあるわけですね。
特にリクルートの場合は、ヒューマン・リソースに関わる仕事がメインですから、そのへんはポジティブに受け止めている感じですね。
そういうふうにやっていかなければいけない立場にある会社なのかなと思っています。
障害者の長所を伸ばす雇用
では、関村さん、精神障害当事者の立場から、この10年間をどのようにお考えなのか、振り返っていただきたいと思います。
職場で自分の障害をオープンにできない障害者は、まだまだたくさんいると思うのです。私は主に社会保険労務士として個人事業主の立場で働いているのですが、他のところでも雇用されるかたちでちょっと働いています。また、統合失調症の当事者として、自分の障害をオープンにして理解を広める活動もしています。
障害者の中には、声を上げられない人も多いのが現実の社会です。ですから、私は彼らの代弁者となり、人々の障害への理解を深め、差別をなくすということをテーマにして活動してきました。
私自身は、今、社会保険労務士としての障害年金の仕事もそうですし、雇用されて働いている部分も、好きなことをやっているのでストレスもかからないですし、自分がこのように好きな活動をしていられることが本当に幸せなんですね。
でも、こういう幸せを感じられる障害者はごくわずかで、大多数の方はまだまだ雇用されることができず、社会との接点を持つことができていません。障害者の利点というか、長所を伸ばしていくような雇用、職場が増えれば嬉しいなと、統合失調症の当事者としては思います。
三井さん、精神障害の方についてこの10年でいろいろな取り組みをしてこられたとのことですが、企業側としては、そういった当事者の方が得意としていることをやってもらうというような配慮はあるのでしょうか。
企業はそこまで配慮するところまでは行っていないかもしれません。今は、「とにかく受け入れよう」という段階で、それも「ある一定のレベルを超えられた方は受け入れる素地があります」というレベルかもしれません。
大きな障害特性を抱えている方を受け入れるということは、少なくとも毎日通勤するということを考えると、まだ難しい面があるかと思います。朝、オフィスに来て「おはようございます」と挨拶をし、「普通」の振る舞いをして過ごすことが求められてしまっている。この「普通」ということが、特に精神障害の方にとってはつらいことが多いのかなと思っています。
これが在宅になると、「普通」の幅がもっと広がるんです。先ほど在宅の方が52人いると言いましたが、統合失調症の方も結構いらっしゃって、「宇宙人と会話をしているのだ」と言う方とかもいるんですよ。
僕もそうでした(笑)。
「この間、北海道で地震が起こったのは俺の責任だ」とか言う。でも、その方も自宅という環境で、テレビ会議で朝「おはようございます」といって、普通にチャットで仕事をすることはできるんですよね。なので、僕は、ICTの活用で精神障害の方の雇用がもう少し広がるのではないか、という感じを持っています。
なるほど、興味深いですね。出縄さん、福祉の現場で精神障害の方を福祉から雇用へ結びつけていこうとしたとき、従来型の知的障害の方とはやり方が違いますよね。そのあたりは福祉サイドとしてどういう工夫ができるのでしょうか。
そこは難しくて、いつも悩んでいますね。私どもがやっている進和学園はもともと知的障害者の方の施設ですが、知的障害と精神障害では支援の仕方が真逆のときがあるんです。
知的障害の方は知能指数は低いかもしれませんが、体は元気で精神的にも安定していますから、朝来て、「おはよう、今日も頑張ろう」と言うと、「オーッ」と、明るく応じてくれるんです。ところが、精神障害の方にそれをやってしまうと、逆に負担に感じてしまう。
後で「頑張ったね」と言うのはいいけれど、「頑張ろう」と言っては駄目だ、と精神障害を専門とする福祉施設の職員に私どもは諭されました。私はいつも「頑張るぞ!」とやってしまうので(笑)。
ちゃんと調子を見て言葉をかけるんですね。
そうなんです。やはり障害特性に合った支援の仕方をしっかり研究していかなければいけません。
障害者自立支援法で3障害(身体、知的、精神)の垣根が取り払われて、障害のある方すべてを受け入れられるようになりましたので、進和学園でも精神障害の方をどんどん受け入れていかなければいけないのです。
でも、職員サイドが経験を積んでいないものですから、そこがなかなか難しい。福祉サイドも、もっと勉強しなければいけないと思います。
法定雇用率をどう考えるか
今年、企業の法定障害者雇用率が2%から2.2%に上がった根拠は、精神障害の方の雇用が義務化されたからということです。しかし、実際の統計を見ると、精神障害の方たちを本気で雇用の現場に受け入れようと考えたら、わずか0.2%の上積みなんてありえないぐらい低い数字です。
この0.2%というのは、社会的な状況などを踏まえた上での、言葉は悪いけれど、さじ加減的なものを含めた上での数字だと私は解釈しているんです。丸物さん、実際0.2%ポイントの上昇で、今いろいろな課題を抱えている精神障害の雇用は進んでいくと思われますか。
精神障害者に関する限り、法定雇用率0.2%の引き上げで、「働きたい」という精神障害者を受け入れられるかというと全く足りませんね。中島さんが、「社会的な状況などを踏まえた上でのさじ加減」とおっしゃいましたが、私も同感ですね。ただ、急激な引き上げは受け入れ側の雇用意欲を削ぐことになると思います。だから「激変緩和措置」で、バランスを取った雇用率だと思います。一方で、雇用率未達の企業が50%もあるのですから、ここにいかに雇用してもらうかを考えることが大切でしょう。
いずれにしても、はじめにも言いましたが、数字合わせの雇用ではなく、障害者雇用の「本質」を考えての雇用をしてほしいと思います。
また、「精神障害の義務化」と言われていますが、企業は何%の精神障害者を雇用しなければならないと決められているわけではないので、管理手法が確立されていない精神障害者は、採用の場である合同面接会では敬遠されることもあると聞いています。ただ、地域によって若干違うようですが。
出縄さん、福祉サイドから見て、法定雇用率が上がっていくのは望ましいことなんでしょうか。
私は法定雇用率、いわゆる割当制はいいと思います。ドイツ、フランスも採用していますし、数字がないとなかなか評価できません。ただ、数合わせだけで終わらせないように、そこに質的な担保をうまく絡めて、全体としての調和を図るということが大切ですね。
特に、労働と福祉の連携や融合ということはずっと言われていますが、厚労省へ行っても、労働の部局のほうへ行くと福祉を全然分からない方がやっている。逆に福祉の部局へ行くと、労働のほうは全然分からない。
それでも少しずつよくはなっていると思います。福祉の場で利用者が消費者になったことは大きな前進だと思います。障害者の方が福祉サービスを選ぶ、ということがないと競争が起きませんので悪い施設が淘汰されません。
障害者自立支援法ができたとき、2007年から工賃倍増5カ年計画というのができました。授産施設や就労継続支援事業所を利用し働いている障害のある方の平均工賃を倍にしようというものです。厚労省はこれに相当力を入れていましたが、中身は何かというと、経営コンサルタントを入れて自主製品の品質を高めましょう、ということでした。
その成果が上がったかというと、B型の福祉施設での工賃は現在も平均1万5千円(月額)です。確かに少しは上がっているので、まったく駄目だったとは言いませんが、当初描いていたのとはほど遠い結果です。やはり福祉施設に良質な仕事はないんです。自主製品で勝負しろと言われても難しい。
昔は福祉施設というとクッキーやパンを焼いています、というのが定番でした。うちの施設は、お蔭さまで「湘南みかんパン」というヒット商品が生まれたのでよかったのですが、他のところは本当に苦労されています。
「みなし雇用」の意義
ですので、やはりそこは、中島さんが提言されている「みなし雇用」という考え方がよいのだと思います。
「みなし雇用」というのは福祉サイドと就労という企業サイドが連携し、いきなり一般就労というのはなかなか難しいので、福祉サイドが仕事を請けて、精神障害の人などに短時間でも仕事をしてもらう。そのときの様子を見て、働ける人たちに働いてもらい、企業側も福祉サイドに発注した業務量に応じて障害者雇用に一部カウントしていくというやり方です。
福祉施設に良質な仕事が提供される仕組みですね。働く障害者、仕事を発注してくださる企業、支援する機関、みんなにとってハッピーな、まさに福祉と労働のハイブリッド型ですね。
企業側は雇用率を上げるために障害者を雇わなければいけない。その一方で、福祉サイドではA型は給料を払わなければいけないから生産性を上げなければいけない。B型は工賃を増やせと言われる。それらを全部達成するのは非常に難しいわけですよね。
企業側としては、福祉サイドからそれなりの生産性の高い人材が入ってこないと障害者の方を雇えないですよね。
そうですね。やはり厳しいのは、300人とか400人くらいの規模の中堅中小企業かなと思います。あと1人、2人で雇用率を達成できるという会社が過半なのです。その1人、2人がなぜできないかというと、障害者という方がどういうものか分からないし、採用したところでそこにマネジメントコストをかけられない、という問題になってくるのかなと思います。
そうなってくると、中島さんがおっしゃったように「みなし雇用」というかたちで理解してもらうことがまず第一歩としてあるのかなと思います。
リクルートグループの場合は完全に特例子会社が障害者を雇用しているという状況でしたので、僕自身もこの会社へ来るまで、障害者の方とは接点もなかった。だから、分からなかった。分からないものに対しては、怖い、もしくは手を出してはいけないとなる。そこをつなげるような「みなし雇用」のような仕組みがあれば、「分からない」という部分が変わり始めるのではないかなと思いますね。
関村さんは他の精神障害の方ともお付き合いがあると思います。現状の雇用率が0.2%上がったことについて、どのように受け止めていますか。働き方という点でどのような影響がありそうでしょうか。
精神障害者の仲間は、「ピア」と言うんですが、ピアの方は皆、障害者雇用率が上がった、と期待をしていましたが、なかなか職が決まらないという方が多い。現状は何も変わっていないような気がするんですよね。
このまま進んでいけば多少変わってくるのかなという気はしているのですが。
先ほど三井さんがおっしゃった、1人2人足りないところに精神障害の方がポツンと1人で入って普通に仕事ができるかというと、働く側にも不安があるのではないですか。
おっしゃるとおり、確かに「えっ」ということになるかもしれませんね。
「みなし雇用」のようなフレキシブルな働き方というのは当事者の方から見てどうですか。いきなり企業に行って毎日フルタイムで働くということには難しい面もあるのではないかと思うのですが。
それはちょっと難しいという気がします。体調の波もありますし、やはり週40時間フルに働くという固定化したものではなくて、もう少し柔軟に考えて、2日仕事をしたら1日休めるような柔軟な働き方ができることがものすごく大切だと思います。
しかし、企業サイドはそれをいきなり本業の場で、全ての部署にそういったシステムを導入するのは、全体のシステムを急に変えなければいけないので大変ですよね。
そうですね。われわれのような特例子会社だと、皆でこの作業をしましょうと、一斉に始めて、一斉に終わるという仕事がどうしても多くなります。そうすると、時間的に「9時〜5時はちゃんと仕事をしよう」となってしまって、フレキシブルにはなりにくい。5時で終わるから残業なし、という仕組みは導入しやすいんですが。
インセンティブを上げる施策
出縄さん、福祉の現場でいうと、「みなし雇用」の制度が導入されたら、もっと仕事をとれるという自信とか、期待みたいなものはありますか。
非常にあります。うちは45年間、ホンダさんの仕事を受注していますが、2006年度に特例調整金という制度ができました。障害者雇用促進法の中に、在宅就業障害者支援制度というものができ、通勤できない身体障害の方が在宅勤務で仕事をするときなどに、企業が雇用ではなくて仕事を発注し、その支払われた工賃に対して一定の特例調整金という助成金を発注企業に支給する仕組みです。自宅に加えて一定の条件を満たした福祉施設も対象とされています。
障害者雇用促進法では、直接雇用の場合に障害者雇用調整金や報奨金が支給されますが、それに上乗せして支給されるのが特例調整金、特例報奨金です。これは極めて画期的な制度でした。
それまで、ホンダさんが障害者のための仕事をいくら出しても、ホンダさんにとって社会的な評価につながるものが何もなかった。法定雇用率を満たした上で福祉的就労分野にも仕事を出してくださっているにもかかわらずです。それが、この制度ができたことから、2008年からホンダさんに特例調整金が出るようになりました。今、自動車業界では唯一、ホンダさんだけです。
また2015年には、厚生労働省の優先発注企業等厚生労働大臣表彰という、福祉施設に仕事を積極的に発注している企業を表彰する制度ができ、ホンダさんをはじめ花王さんやJR九州さんなど10社が表彰されました。障害者雇用ではなくて、福祉施設に優先的に仕事を発注して福祉の底上げに寄与しているということで表彰してくれたのです。これは非常によい施策だと思います。
「みなし雇用」やこういった発注奨励策をもう少し強化していけば、企業も助成金を得てメリットがあるでしょうし、法定雇用率に加算されるとなれば、相当に状況は変わってくると思います。なおかつ、企業は価格、品質、納期をちゃんと守ってくれるところを探すはずですから、福祉施設の中で競争原理が働きます。これは福祉制度の中で工賃を上げるインセンティブになってくると思います。
今、福祉施設に工賃をアップしようというインセンティブがないのです。中島さんも著書でご指摘のように、福祉施設の職員の給料は公的資金の自立支援給付費から出ていますので、工賃が1万5千円から3万円に上がっても職員の給料はほとんどど変わりません。これが福祉的就労が沈滞している大きな原因になっていると思うんですね。
そうですね。それに今もらっている給付金を障害者の給料に回してはいけないことになっていますから、むしろ自分たちの労働時間を障害者の人たちの仕事に回している。それで何とか工賃を出すということですね。
私はそういったことをしている福祉施設は、むしろ偉いと思うのです。要するに、自分たちのお給料を削って障害者の人たちの工賃に回しているわけです。それをけしからんと言う厚労省の方がおかしいのです。
ただし、今後、「みなし雇用」が導入され、頑張る福祉施設が企業に売り込みに行って仕事を確保すれば売上が伸びます。これを作業会計と言いますが、この中で障害者に支払う目標工賃を設定していますから、これをまずクリアしたら、次のステップとして職員の方に還元すればいいのです。
インセンティブになりますね。
これが本当に理想であり、目指すところです。
柔軟な制度設計は可能か
丸物さん、例えばフランスでは法定雇用率が6%ですが、そのうちの3%ぐらいまでは多様な障害者雇用ができることになっていますね。例えば障害者の人たちと個別に労働協約を結んでもいいし、あるいは施設サイドに発注してもいい。このようにいろいろなかたちで、結果的に6%を達成しましょうということです。
それに比べて、日本の場合は直接雇用で、それもだんだん雇用率が上がっていき、企業側としてはこの先どこまで上がるのかという懸念もあると思います。一方で福祉施設の経営はかなり苦しいところもある。
そういう中で、全体の制度を考えたときに、もう少し柔軟さを高めていったらいいのではないかと思うのです。関村さんから精神障害の方たちは柔軟な働き方のほうが働きやすいというご指摘もありました。全重協(全国重度障害者雇用事業所協会)の専務理事をお務めになっている中で、そのあたりはどのように評価されますか。
私は「障害者にとって何が一番いいのか」と考えたとき、「実際にいろいろな仕事がどれだけ数多くあるか、自分たちがどれだけ職に就けるか」ということが重要だと思うのです。そのためには実雇用率の無理のない上昇が理想です。
今、中島さんがおっしゃったように、法定雇用率はフランスでは6%、ドイツでは5%だそうです。でも、実際の雇用率はその半分ぐらいと聞いています。日本は彼らと比べると法定雇用率は低いですが、実際には少しずつきちっと上がっていって、多くの障害者の方々が働けるようになっています。私はこの形が一番よいと思います。
今のように上がり続けて、多くの企業・団体がもう付いていけないという段階で、「みなし雇用」を検討すべきだと思います。そのとき、ベースになる部分は実雇用にし、上乗せされた部分には「みなし雇用」を認める、というように2つに分けてはどうかと思います。
例えば、2%のところまでは実雇用でやる。そこからオーバーする分については「みなし雇用」でやってもいいとするわけです。大企業の雇用率は、中小企業に比べかなり低い時代がありました。大企業にとって、慣れない精神障害者雇用をするよりも、「みなし雇用」で雇用率を達成するほうが楽だということになれば、企業は一斉にそちらに動き出すのではないかと懸念しています。社会の障害に対する理解が進み、数合わせと言われない障害者雇用が早く来ることを望んでいます。
施設外就労の重要さ
これからの日本社会にとって障害者雇用をどのように位置づけていくべきなのか。雇用率そのものを目標にすること自体は弊害もあるというお話はすでに出ていますが、そのあたりについてご意見をいただきたいと思います。出縄さん、いかがでしょうか。
「ディーセント・ワーク」という言葉があります。「働きがいのある人間らしい仕事」という意味です。このディーセント・ワークを、福祉的就労においても、あるいは特例子会社であろうと企業の一般就労であろうと、どこにおいても実現していくことが大切だと思います。
ハンディを持っている方にはいろいろな方がいらっしゃいますが、一般就労で最低賃金法に見合う職業能力を発揮できる方は、やはりほんの一握りだというのが私の実感です。そういう意味では、今、20数万人の方はB型の福祉施設で働いているわけですから、私の立場としては「自立可能な福祉的就労」ということを、生意気ながら目指しているところです。
具体的には、障害基礎年金というのが6〜7万円出ますが、その年金と自分たちの働いた工賃を合わせて自立できることが目標です。厚労省の試算では、最低賃金の3分の1以上、月額5万円程度の工賃が必要になるわけです。
そうすると、今、B型の福祉施設の平均工賃が約1万5千円ですから、3倍ぐらいは頑張らなければいけない。それにはどうしたらいいか。パンやクッキーを焼いているだけでは至難の業です。だから、仕事は企業からの「みなし雇用」などで受注する。
丸物さんがおっしゃるとおり、企業での直接雇用を例えば2%まで義務づける。それを上回る部分については福祉施設に発注する。そうすると、福祉的就労のところで底上げができて、そこで支払われた工賃を最低賃金で割り返せば、「みなし」にできますよね。
そうですね。
先ほどご紹介した特例調整金制度は、助成金というかたちで一部に「みなし雇用」を考慮した内容なのですが、非雇用型のB型にだけ適用され、雇用型のA型は対象外とされます。これが制度上の矛盾になっていますので、その整合性を上手くとる必要がある。
また、福祉サイドからは「施設外就労」、別の言葉で言うと「企業内就労」が非常にいいと思います。ディーセント・ワークを福祉施設の中で感じるのはなかなか難しいからです。
今、私どもは地元の平塚に11店舗ある「しまむら」さんというスーパーマーケットに2チーム出しています。職員が1人付いて、利用者さんが4、5人で1チームですが、このチームでバックヤード業務をやるのです。
野菜の袋詰め、店頭への品出し、掃除もするし、駐車場の草むしりもやる。そうすると、お店に来た地元のお客様が、「頑張っているわね」と声をかけてくれる。彼らは本当に嬉しいですし、「僕たちは役立っているんだ」というのが分かりますよね。しまむらストアさんは法定雇用率もちゃんと遵守した上で発注し、スーパー業界で初めて特例調整金を受給されています。
平塚にある地元密着型のスーパーがやっているのですから、これを全国に広げていけばいいのではないか。それを「みなし雇用」で評価してあげるというのがいいのではないかと思っています。
社会とのつながりを持つには
社会的に必要とされている仕事を福祉という枠の中に囲い込むのではなくて、もっとオープンに出していくということで社会とのつながりもできていくわけですね。
そうです。障害者への就労支援という意味では、施設職員は企業の方々よりもノウハウや比較優位がありますし、企業の労務管理の負担も軽くなる。障害者の働き方を見て本当に優秀な人は直接雇用することもできる。そして障害が重くなったり、不安定になったら施設へ戻っていただく。その企業で働くということは変わらない。ご本人にとっても行ったり来たりできるという仕組みはいいのではないかと思います。
今のお話は、まさにスウェーデンがやっているサムハル型です。サムハルという国営企業では、そこで働いている障害者の人たちはいろいろな企業へ行って、清掃や品物を揃えたり、様々な仕事をする。生産性の面では直接雇用するほど給料は払えないので、企業が直接雇用しているわけではない。
私の施設ではしまむらさんで働く場合、今、時給400円です。パートさん2人分を4、5人でカバーするというかたちです。
サムハルの場合は人件費の9割を補助金でカバーしています。でも9割までしか補助金を出していない、ということは、1割分は社会的な余剰が発生している。そういう点では必要とされている仕事をやっているということになるわけですね。
時給400円というのは、最低賃金の3分の1以上をクリアしていますから、B型の福祉施設にとっては大変有難いのです。自立可能な福祉的就労のモデルになり得る。工賃還元率は極めて高いのです。
本当に戦力になっていますよ。
今、人手不足ですので、スーパーさんもすごく喜ばれています。
三井さん、社会にとっての障害者雇用について企業の立場からどのようにお考えでしょうか。
障害者の方はやはり一様ではなく、すごく多様な存在なのだと思っています。僕も障害者雇用を知らない段階では障害者という存在はモノトーンで画一的な存在でした。でも、あらゆる方がいらっしゃる。いろいろな生き方、いろいろな志向、いろいろな能力の方がいらっしゃるので、その能力を生かしていける環境をいろいろ用意できればと思います。
出縄さんが企業での雇用は難しいというお話をされていましたが、本当にそうです。われわれは今、障害者の方に1年間に1000人会って、採用できるのは20人ぐらいなのです。でも、彼らの中には、特例子会社という守られた世界ではありながらも、リクルートグループの中で他と伍しながら仕事をするんだと思っている方もいます。一方、福祉的な就労を前提にした方もいらっしゃいます。ですから、いろいろなものが用意されているかたちがよいのではないか。
民間企業がどこまでできるかということはありますが、民間企業で働きたいという方には、幅広く選択肢を用意していきたいと思っています。
社会に役立つという実感
関村さん、今、日本は世界と比べても精神科の病床数が人口比で突出して多いですし、入院期間も長いと言われています。そういう中で精神障害の方が社会と、とりわけ雇用を通じてどのように関わっていくか。今後どのような社会を望むか、お話しいただけますか。
健常者の方もそうかもしれませんが、障害者にとって仕事を得る、お金を得るというのは、とてもかけがえのないものなのです。
お金を得ることだけであれば障害年金もありますが、それにプラスして仕事の収入を得るという機会にはなかなかめぐり合えないわけです。お金がすべてということではないのですが、障害者にとって仕事をしてお金を得るということは本当に大切なものです。
お金があれば友達とも交流できるし、いろいろな場にも出られる。でも、なかったとしたら社会との接点がなくなり、孤立を深めてしまう。お金というのは、そのくらい障害者にとって大切なものだということを理解していただきたいと思います。
私は前職は介護士をやっており、今は社会保険労務士として障害年金の仕事をしているので、その部分でも障害者とお付き合いがあります。統合失調症である自分でも、クライアントさんや介護利用者さんから「有り難う」と言われることがある。仕事をすることが人の役に立ち、こんな自分に「有り難う」と言ってくれるんだと思うと涙が出てくるんですね。
自分が社会に役立っている、ということを実感できるという意味で、仕事というのは障害者にとって本当に大切なものですし、仕事に就くことによって体調が回復される方も中にはいらっしゃいます。初めて給料をもらったときの喜びはいまだに忘れられませんね。本当に嬉しかったです。
職場で障害者を雇うということは、根本的には障害への理解だと思うんですよね。そこが欠けると何もなくなってしまう。
上智大学や淑徳大学などに、統合失調症の体験談や障害年金の基礎知識を教えに行く機会がありますが、若い学生さんたちへのメンタルヘルス教育は将来の日本の精神保健福祉にとって、大切な先行投資になります。
この活動は、障害当事者として大きな社会貢献の1つだと自負しておりますし、このような活動が全国に広まっていったらいいな、と思っています。
有り難うございました。当事者の方ならではのお話でした。
最後に一番長く障害者雇用に携わってこられた丸物さん、今までのお話を踏まえて、今後に向けてどのような方向性をお考えになっているか、お話しいただければと思います。
関村さんが「仕事をすることで、社会に役立っていると感じられた」とお話しになりましたが、まさにそれを実感できる社会というのがこれから目指す社会だと思うんですよね。
今、一番社会に欠けているのは障害者に対して理解しようという気持ちです。それを、これからどのように醸成していくかが長期にわたってやらなければいけないことです。
精神障害の方は仕事とのミスマッチが多く、短期間で辞めてしまう方も多いのです。これは、周囲の人たちの障害に対する理解不足から生じていることが多いと思います。
また、関村さんがおっしゃらなかったので申し上げたいのですが、障害者がお互いに平等の立場で話を聞き合う、「ピア・カウンセリング」が最近また見直されています。精神障害は自分の苦しいことを他の人にいろいろと話すことによって楽になる。また他の人からその人の経験談を聞くことによって自分の対応方法を考えます。健常者も同じですが、聞いてもらうというのはすごく大きな意味のあることなのです。
ところが、主治医である精神科医は非常に忙しいので、1人の患者さんに対して15分も30分も聞いてくれない。そうすると、精神障害の方にとっては非常に不満が残り、主治医をどんどん変えていき、結局、信頼できる主治医がいないという方がたくさん出てくるのです。
そこで主治医はピア・カウンセラーを連れてきて自分の代わりに患者の話を聞いてもらうようにする。ピア・カウンセラーはもともと精神障害の当事者ですから、置かれている状況もよく分かるし、相手もストレートに何でも話してくれる。
そうやって聞いた話をコンパクトにまとめて、精神科医に伝えるのです。精神障害の当事者の方にピア・カウンセラーとなって仕事をしてもらうことは、精神科医にとって、とても有り難いことなのです。
また、ある会社に全盲の課長さんがいて、この方は視覚障害者向けの新しい商品を開発する仕事をしています。視覚障害者である自分が一番困っていることをアイデアにして、商品開発をしているのです。
企業はこのような障害当事者だからできる仕事を幅広く見つけ、作り出していくことが大切だと思います。障害者の方にその仕事をやってもらうことによって、社会の人たちは、「この人がこういうことをやってくれたから自分たちは楽になった」と実感する。そうすることによって、障害者は社会における居場所ができる。居場所ができると、社会における共生という考え方が当然出てきます。
だから、私たちがやらなければいけないのは、障害当事者でなければできない仕事を数多く作ることだと思います。そうすることで障害者に対する理解が深まっていくのではないでしょうか。
どうも有り難うございました。大変いいお話でした。
皆さんのお話を伺って、障害者雇用は、実は障害者だけの話ではないのではないかという感じがしました。本人とちゃんと向き合って、その人にとってどういう環境や働き方が一番望ましいのか。その人に本当に合った仕事は何か。障害者の方にとってはそのことが目の前の重要な課題ですが、これはすべての働く人にとっても必要です。
障害者雇用の重要性をそのように位置づけていかないと、雇用の現場の人たちに関心を持ってもらえないという感じもいたします。そして、今日の座談会を通じてまさに実感したことですが、今、注目されている「働き方改革」も、柔軟な雇用形態によって「働き方を人間に合わせる」という障害者雇用の発想を取り入れれば、幸福度と生産性の向上という一石二鳥の効果につながっていくと思います。そういう点では障害者雇用は「社会を映す鏡」といえるのではないでしょうか。
今日は本当に有り難うございました。
(2018年10月19日収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。