執筆者プロフィール

鈴木 二正(すずき つぐまさ)
一貫教育校 幼稚舎教諭
鈴木 二正(すずき つぐまさ)
一貫教育校 幼稚舎教諭
2021/11/05
1.幼稚舎におけるデジタルテクノロジーの活用について
デジタル化の進展や、AI(人工知能)技術の発展により、Society 5.0 時代を迎えています。しかし、社会や時代が変わっても、慶應義塾幼稚舎(以下幼稚舎)で学ぶ児童たちには、確固たる信念や自信とともに、柔軟性を兼ね備えた未来の先導者として、また、真の独立自尊の人として、学びを進めて欲しいと考えています。そこで、幼稚舎では、2018年9月から、デジタルテクノロジーやデジタル機器の試行的かつ段階的な導入・運用を進めてきました。デジタルテクノロジーを、新しい学びのしかけとして活用することで、学校、児童、家庭がつながる新しいチャンネルが1つ増えることになります。
デジタルテクノロジーの活用の1つは、新しい文房具として、児童1人1台ずつのタブレット端末を授業に導入することです。もちろん、これまでの「話すこと・聞くこと・読むこと・書くこと」などの基礎基本の部分は大切であり、教科書に沿った内容で進めること、副教材として辞書で調べること、児童が手書きでまとめることといった実際の手作業の部分に変わりはありません。ただ、授業中や家庭学習において、新しい文房具としてのタブレット端末を利用する機会や場面が増えるということです。例えば、理科、英語科、情報科といった専科授業での文房具(学びのツール)としての利用や、クラス担任が担当する国語、算数、社会などの授業での調べ学習や発表ツールとしての利用、クラスメイトとの協働学習の場面での利用、そして課題や宿題の提出・フィードバックなどでの利用を試行してきました。
理科では、地球を俯瞰できるアプリを使って、川の上流・中流・下流の違いの観察や、AIロボットを使った研究授業でも利用しています。さらに、貝がらの名前調べを図鑑とともに、タブレット端末でも調べ、実験や野外観察のときに記録として撮影に利用することも行っています。
英語では、自分のスピーチを録音・録画し、発音を自らの振り返りとしてチェックしています。交流校であるハワイの現地校の生徒とタブレット端末で自己紹介や学校案内の動画を共有する実践も行っています。動画共有アプリによる交流は、ライブ感に溢れ、世界との繋がりを実感できる貴重な機会となっています。
情報科の授業では、タブレット端末の基本的な操作方法を学ぶとともに、それを使って写真やビデオを撮影して短い映画を作ったり、プログラミングをしてロボットや、ドローンをコントロールしたりします。1人1台ずつのタブレット導入が始まったことで、よりその使い方に関するルールやマナーについて学習することの重要性が高まっています。
クラス担任の担当している国語、算数、社会などの授業においては、グループ学習、調べ学習の場面や、実際の発表時に、タブレット端末が効果的に使われている場面が数多くあります。さらに、指導者用および学習者用デジタル教科書+デジタル教材の導入・活用とともに、クラウド型授業・学習支援アプリの導入により、学校での授業と家庭での学習がシームレスにつながる新しい学びのスタイル(デジタルテクノロジーを活用した授業)が実践されています。
幼稚舎におけるデジタルテクノロジー活用の2つ目は、専用のWebサイト(ポータルサイト)の構築と活用です。いわゆる、BYAD(Bring Your Assigned Device)の実現を目指して、タブレット端末を家に持ち帰り、ポータルサイトにアクセスすることで、学校の日程や、給食の献立、図書室での本の利用状況、過去の漢字読み大会の問題などを確認できます。また、本ポータルサイトは、児童の登下校時にメール配信を行うシステムと共に、お知らせ機能も備えており、全校児童・保護者への一斉通知や、学年ごと、クラスごとへのお知らせといった情報配信のためのプラットフォームとしても利用することができます。
このように、幼稚舎では、2018年から新しい文房具として、タブレット端末をすべての児童に導入しての段階的な授業での試行を進めてきました。導入の背景にあったのは、社会から切り離された、いわゆる閉じた状態の教室空間で、内容が固定された教科書を使用した従来の授業だけで満足・安心するのではなく、日常生活で当たり前のように使っているデジタル機器を導入して授業で文房具の1つとして活用し、教員も学び続けていく必要があるという半学半教のマインドセットが重要と考えたからです。
ここに至るまで、教員間でも様々な議論がありました。タブレット端末を導入すれば夢の教育ができるわけではありません。導入することによるデメリットも予想されます。例えば、タブレット端末に頼り会話が少なくなる、遊び時間もタブレット端末を使って外で遊ばない、登下校中のマナーやルールについては大丈夫か、など。タブレット端末の導入は「先ず獣身をなして後に人心を養う」という幼稚舎の大切にしている教えを阻害することなく、健康でたくましく、デジタル機器も幼稚舎生を育む一助にしていこう、という考えが根底になければいけないのは間違いありません。
その意味で、当初、タブレット端末導入は試行として、児童各々のホームルーム(教室)に設置してある充電キャビネットで管理する形で、校内のみでの利用からスタートし、MDM(Mobile Device Management)によるタブレット端末の一元管理の態勢を整え、取扱いやルール、マナー面などについて、しっかりと確認しながら利用経験を積み重ねてきました。そのようにして授業での活用の様子を見て、セキュリティ面での準備も整えて十分な試行を重ねた後、2019年4月からタブレット端末の家庭への持ち帰りであるBYADを含めた本格的な運用と利活用を開始しました。
幼稚舎の教育システムは、6年間を通じて担任持ち上がり制で、クラス替えがないことが特徴の1つです。筆者が現在、担任している小学3年生のクラス(児童数36名)も、児童たちが1年生の入学時点である2019年度に、1人1台のタブレット端末を導入しています。そのようにして低学年生の段階からタブレット端末を身近な文房具として活用し、小学校生活6年間を通じて各種デジタル機器を、新しい文房具の1つとして、子どもたち自らが様々な学習場面で上手に活用することを、その目標として設定しています。
2.コロナ禍でのタブレット端末を活用したオンライン学習実践
タブレット端末の全児童への導入が始まると、それを活用した授業も相当数増え、これまでのコンピュータ教室だけでの活用から、自分たちの教室や専科教室での活用の場面が広がり、学校の授業だけではなく、課題のために自宅に持ち帰る事例も増えてきました。こうした活用が日常化する過程で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けた2020年3月2日、突然の臨時休校が決まったのです。事態は収束することなく新学期を迎え、政府から緊急事態宣言が発出された時点で、幼稚舎ではすぐにオンライン学習を開始しました。筆者が当時担任していた2年生のクラスでも、児童がタブレット端末を駆使し、クラウド型授業・学習支援アプリを活用した課題配信・提出、そしてWeb会議ツールを利用したオンライン学習をスタートさせました。
担任していた児童は、2年生ではあるものの、これまで情報科など様々な授業において、クラウド型授業・学習支援アプリの使い方について既に練習していたので、写真や動画を撮影して提出するという基本的な操作はできるという前提で、国語と算数を中心に据えた課題の設定をしました。2年生を担任する先生方との連携を密にしながら、学年共通の課題を学校ポータルサイトからのお知らせ機能のチャンネルを使って確実に保護者と児童に伝え、課題の提出は、児童のタブレット端末にインストールしてあるクラウド型授業・学習支援アプリで提出することとしました。
◎課題の配信の頻度と、その提出
毎週水曜日に、翌日から取り組む課題(学習する内容と範囲)を各家庭に配信しました。ポータルサイトから配信されるお知らせ通知1回分には、土日を除いた5日分の課題を盛り込みました。児童が毎日課題に取り組み机に向かうことが大切と考え、日々のスケジュールに沿って計画的に進められるように、学習のポイントも示し、日付とその日に取り組む学習内容を記すような文面としました。
児童には、タブレット端末にインストールしてあるクラウド型授業・学習支援アプリを使って、毎日、午後4時頃を目安に課題を提出するように伝えました。ノートや、教科書上で学習作業を進め、それをカメラで撮影し、画像をクラウド型授業・学習支援アプリで指定された提出箱に提出することにしました。2020年4月8日の「2年生の第1週課題」の配信から、学校への登校が再開となる2020年6月15日までに配信した課題は、合計10回となりました。
◎課題の内容について
担任教員の担当する国語・算数において課題設定する際に、共通の方針は、次のようなことです。
・基本的に教科書に沿った内容で進めていくこと
・既習の知識で、児童自身が自分で進められる課題・内容であること(国語であれば物語文・説明文の読解や教科書の課題、算数であれば長さのくらべ方・グラフの作成などの課題)
・教師による説明が必要であったり、グループで話し合ったりする活動のものは、課題に含めないこと(国語の文法に関することや、算数のひっ算の繰り上がり、繰り下がりなど)
・新出漢字は2文字ずつ進めること
・漢字の他に、週の課題の中に計算問題を含めたり、また、漢字の確かめとして書き取りも含めたりすること
・友人とのつながりや、心身の安定を図るため、動画を課題にして、全員が見られるように共有したこと
以上の方針で、課題内容を吟味したうえで、毎週配信を行いました。休校期間中は、定期的に教員間で課題内容を相談する打ち合わせを毎週のようにWeb会議ツールを使って行いました。必要があれば、すぐにお互いに連絡がとれるような体制も整えたことで、学年を担当する先生同士の連携が上手く機能したと言えます。
3.Web会議ツールを利用したオンライン学習の支援
このように休校期間中でも家庭での学習が行えるように課題配信を行いましたが、やはり児童とリアルタイムにオンライン学習の支援を行いたいと思い、Web会議ツールを使用し普段の朝の会や、ホームルームの時間をオンラインで行うことにしました。
MDMを使って、児童のタブレット端末にWeb会議ツールをインストールした後、2020年4月10日に初めてのWeb会議(ホームルーム)を実施しました。以降、学校が再開する6月15日までの間に合計19回のWeb会議を実施しました。Web会議の内容は、挨拶から始まり、出席をとる、本の紹介、配信してある課題の復習、配信中の課題の補足説明、新出漢字の書き順の確認、その他雑談など、30分程度におさまる内容としました。
学校の教室と同じような雰囲気で、子どもたちはしっかり静かに話を聞くことができ、そしてまた問いかけた際には発言するなど、オンラインでもスムーズに進行することができました。参加児童の音声を一度もミュートにする指示が必要なかったほどです。お互いに場所は違っていても、友だちや教員と交流を図ることができるように、グループの構成は都度、変えるようにも工夫を施しました。
また、5月初旬には、「個別お話しタイム」の日を設定し、クラスの児童1人1人とWeb会議ツールを使って、担任と児童とが個別に話をする機会を作りました。休校期間が2カ月近く経ち、外出を控える日々が続いている中、子どもたちの様子を知るため、嬉しかったこと、困ったこと、課題についての質問など、話す内容はフリーテーマとしました。個別に子どもたちの話を聞くことで、メンタルヘルスのケアとともに、子どもたちが少しでも安心できる時間・機会になればと考えました。グループで行っているWeb会議とは、また違った気軽な雰囲気の中で、児童(と保護者)とのオンラインでの個別の会話を楽しむ時間となりました。
計19回のクラス・Web会議では、デジタル教科書も必要に応じて活用しました。オンライン学習の課題は、毎週配信され、毎日勉強する項目が設定されています。Web会議中に、教員のコンピュータからデジタル教科書の画面を皆で共有し、国語であれば「ほたるの一生」の単元において、文中の大事なところにマーカー機能でポイント解説を行ったり、算数であれば「時こくと時間」や「長さのくらべ方やあらわし方」の単元で、時計ツールや定規ツールを使って復習をしたりするなど、効果的に活用することができました。
デジタル教科書は、ポップアップ、ズーム、アノテーション、ページオープンなど様々な機能を有していますが、特に、デジタル教科書の拡大表示(ズーム)機能を使うことで、漢字の終筆(とめ・はね・はらい)の部分や、算数でのものさしや時計の細部をはっきり提示することができたのは効果的な機能でした。リモートではあっても、デジタル教科書を活用することで、的確に解説することができ、また児童にとっても理解の一助になり、デジタルならではのアドバンテージを認識することができました。
一方で、通信環境の問題から、表示しているデジタル教科書の画面の品質安定性の担保については課題もありました。また、算数の問題文の読み上げや、国語の物語文の音読など、音声を伴う学習活動については、特に低学年生では、オンライン学習だけではなく対面授業での一斉学習の場面が必要であるといった課題もあるように思いました。
4.今後のデジタル教育
このようにタブレット端末の活用を始めて2年目に、期せずして長期に亘るオンライン学習の機会が訪れました。1人1台のタブレット端末の導入をしていたことが、オンライン学習を円滑に進められた1つの要因であるとともに、クラウド型授業・学習支援アプリや、Web会議ツール、デジタル教科書の利活用が、教員・児童の双方にとって学習する機会を共有できる有効なものであることも本実践を通じて得られた知見と言えます。このことを、コミュニケーションモデルの観点からとらえると、様々なアドバンテージを教育現場の中に見出すことができます。
* 一人ひとりの児童が即時性・記録性・双方向性の観点から、色々な局面においてわかりやすく情報発信したり意見・主張できたりする可能性(個別最適な学び)。
* クラス全員がグローバルな知識と情報の共有・交換を行える機会を普遍化できる可能性(協働的な学び)。
多種多様なデジタルメディアを学習課題解決のための道具として、あるいはコミュニケーションツールの1つとして自然に駆使するようになると、1人ひとりの子どもが主役になれると同時に、教育内容や方法そのものの幅を拡大し、学習場面に知的情報のリアリティをもたらすことが可能となります。教室という学習空間にとらわれずに、様々なデジタル機器を自由自在に利用し、いつでも自由に個別最適および協働的に発想できるようにすること、すなわち主体的・対話的で深い学びを促進・発展させることのできる学習のための道具・環境を整えることは、今後の学校教育の学習活動にとってきわめて大切な要素と言えます。
テクノロジーの活用については、SAMRモデル(「代(Substitution)」、「拡大(Augmentation)」、「変容(Modification)」、「創造(Redefinition)」)というものがあります。テクノロジーの活用が授業や学習者への影響度を測る尺度と言えるものです。「代替」とは、これまで行っていたことと同じことを代用するレベル、「拡大」とは、従来の機能を大幅に改善した使い方ができ、学びが充実するレベル、「変容」とは、これまで行われていた活動そのものが変化し、学びそのものが学習者主体となるレベル、「創造」とは、学び方そのものを学習者が自己決定し、これまでにない全く新しい活動が創り出されることを指します。
デジタルテクノロジーの導入・活用により、これまでの学びを「代替」「拡大」するだけにとどまらず、学びそのものを「変容」「創造」していくことを前提に含めた学習環境と授業構築のビジョンを持つことが、デジタル教育のこれからを議論していく上では肝要と言えるでしょう。
今後は、デジタルの学習環境の上で何を学ぶかといったソフトウェア面・コンテンツ面の充実や、児童の学習履歴データ・ログからなる教育ビッグデータを蓄積しての解析と活用、そして、セキュリティ面に対するリスク管理を含めた教員のICT活用指導力のさらなる向上を図ることなどが重要な課題としてあげられます。あくまでもデジタルテクノロジーの学習環境整備は、目的ではなく手段に過ぎません。色々なものに触れて、本物の知識を見つけ出していくためにも、デジタル学習環境の中でバランスのとれた教育活動の充実を図ることが今後も引き続き大事であるということは言うまでもありません。
初めてのWeb会議を終えた時に、保護者からは、「子どもなりに普段と違う生活に不安や不満を感じていると思うので、Web会議で皆と繋がることはとても有り難かった」といった肯定的なコメントをいただきました。また、児童からも、「Web会議でクラスの友だちには会えていたから、その時間が自分にとってとても大事な時間になりました」といった前向きの感想を聞くことができました。
今回の機会は、デジタルテクノロジー・デジタル機器が、児童をはじめ保護者にも身近な存在として、今後の授業でも使うことのできる文房具の1つとして受け入れていただけるきっかけになったといえるでしょう。
社会がデジタルテクノロジーの浸透により、急速な変容と革新が進みつつある今、教育の現場でも、デジタイゼーションとデジタライゼーションが進展しています。今後も、デジタル教育の授業実践データの蓄積を重ねて、学びのDX(デジタル・トランスフォーメーション)に関する研究を進めたいと考えています。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。