登場者プロフィール
竹中 千春(たけなか ちはる)
立教大学法学部教授1979年東京大学法学部卒業。東京大学法学部・東洋文化研究所助手、立教大学法学部助手等を経て、2000年明治学院大学教授。08年より現職。専門は国際政治、南アジア政治、ジェンダー研究。著書に『盗賊のインド史―帝国・国家・無法者』『ガンディー 平和を紡ぐ人』等。
竹中 千春(たけなか ちはる)
立教大学法学部教授1979年東京大学法学部卒業。東京大学法学部・東洋文化研究所助手、立教大学法学部助手等を経て、2000年明治学院大学教授。08年より現職。専門は国際政治、南アジア政治、ジェンダー研究。著書に『盗賊のインド史―帝国・国家・無法者』『ガンディー 平和を紡ぐ人』等。
二階堂 有子(にかいどう ゆうこ)
武蔵大学経済学部准教授2004年法政大学大学院社会科学研究科経済学専攻博士課程満期退学。同年東京大学社会科学研究所助手。2007年武蔵大学経済学部専任講師。2010年より現職。専門は開発経済学・インド経済。著書に『現代インド・南アジア経済論』(共著)等。
二階堂 有子(にかいどう ゆうこ)
武蔵大学経済学部准教授2004年法政大学大学院社会科学研究科経済学専攻博士課程満期退学。同年東京大学社会科学研究所助手。2007年武蔵大学経済学部専任講師。2010年より現職。専門は開発経済学・インド経済。著書に『現代インド・南アジア経済論』(共著)等。
武鑓 行雄(たけやり ゆきお)
その他 : 元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長理工学部 卒業理工学研究科 卒業塾員(1976工、78工修)。大学卒業後ソニー入社。2008年ソニー・インディア・ソフトウェア・センターに責任者として着任。現在、インドIT業界団体(NASSCOM)の日本委員会・委員長。著書に『インド・シフト 世界のトップ企業はなぜ、「バンガロール」に拠点を置くのか?』。
武鑓 行雄(たけやり ゆきお)
その他 : 元ソニー・インディア・ソフトウェア・センター社長理工学部 卒業理工学研究科 卒業塾員(1976工、78工修)。大学卒業後ソニー入社。2008年ソニー・インディア・ソフトウェア・センターに責任者として着任。現在、インドIT業界団体(NASSCOM)の日本委員会・委員長。著書に『インド・シフト 世界のトップ企業はなぜ、「バンガロール」に拠点を置くのか?』。
神田 さやこ(司会)(かんだ さやこ)
経済学部 教授塾員(1994経、97経修)。2005年ロンドン大学SOAS Ph.D(History)取得。大阪大学大学院経済学研究科講師、慶應義塾大学経済学部准教授を経て2013年より現職。専門はアジア経済史、南アジア史。著書に『塩とインド:市場・商人・イギリス東インド会社』等。
神田 さやこ(司会)(かんだ さやこ)
経済学部 教授塾員(1994経、97経修)。2005年ロンドン大学SOAS Ph.D(History)取得。大阪大学大学院経済学研究科講師、慶應義塾大学経済学部准教授を経て2013年より現職。専門はアジア経済史、南アジア史。著書に『塩とインド:市場・商人・イギリス東インド会社』等。
2019/11/05
圧倒的な生産年齢人口
今日はそれぞれの分野でご活躍の方々とともに、インドについて議論していきたいと思います。
1990年代半ばくらいから、インドは経済成長が著しく、特にモディ政権(2014年〜)となってからは「モディノミクス」という言葉でその経済発展が語られてもいます。そして2020年代には総人口で中国を抜き世界一に踊り出る超大国となりますが、反面、社会の変化は著しく、経済格差や地域格差の問題もあると思います。
まず、読者の方が一番関心を持っているのは経済だと思いますので、そこから話を始めたいと思います。二階堂さんいかがでしょうか。
モディ首相も日本に来るたびに訴えていますが、とにかくインドは若い働く世代、15歳から64歳までの生産年齢人口が圧倒的に多く、それが低賃金労働者の源であり、またマーケットとしても成長の要因になっています。
インドの場合、輸出が昔からそれほど振るいませんので、国内消費が成長のカギを握ります。そこに規制緩和や、グローバル化の進展があり、成長の要因になっているのだと思います。
その巨大なマーケット、労働市場をうまく活かそうということで、モディ首相が、「メイク・イン・インディア(インドでものづくりを)」やベンチャー企業育成のための「スタートアップ・インディア」という政策を打ち出し、モディノミクスと呼ばれるようなスキームを展開しています。
しかし、製造業は経済自由化(1991年)以前からの規制が長く続いていて、例えば労働関連法のなかに産業紛争法というものがあり、100人以上雇用する事業所が労働者を解雇する場合、州政府から許可を得なくてはいけないというものがあります。そのため、中国などのように、海外から大きな製造業の工場が進出することが難しかったのです。
グローバル化の時代に、景気状況に合わせて労働者を調整できないのは、やはり輸出競争力の面で厳しい。また電力などのインフラが未整備であることも、大きなマイナス要因としてありました。そういったことから大きな工業部門がなかなか育ちにくかった面もあります。
その一方、規制と関係がなかったサービス業が経済自由化以降、グローバル化、IT化の波によって伸長しました。サービス業は、供給サイドの成長の源泉として挙げられると思います。もちろん急成長を遂げたIT産業もそうですね。
インドでは中小零細規模の工場が所得と雇用をかなり生み出していて、遅くとも1950年代ぐらいからのインド経済を支えてきたという議論もあります。
小さな工場は、労働関連法などが厳しく適用されずに、フレキシブルに展開しているような形なのでしょうか。
全企業数の90%以上は中小零細企業と言われ、インドはミディアムがなくて大か小しかない、「ミッシング・ミドル」と言われる現状なのですが、中小零細企業は1950年代から政府の優遇政策を受けてきました。
雇用創造や地域間格差のない均整成長のためにも、政府が支援をしてきたのです。しかし、支援政策が長く続き、保護主義的過ぎたので、経済自由化後も輸出競争力がありませんでした。そういったところが中国と違い、日本企業が、ローカルな中小零細企業を使うことが難しかった理由です。
その一方で、政府の政策を上手く利用した中小企業もあると思います。中小零細企業の多くは、労働関連法の適用も受けませんし、経済活動が比較的自由です。ある意味インフォーマルな部門になっている。ですから、やり手の方は会社を大きくせずに分割したり、別会社をつくったりして法の適用を受けないようにしている方もいます。
このようなベネフィットがあることが、大きな企業が生まれない要因にもなっている。政府は今、労働関連法案についても改革を進めていると思いますが、州との共同管轄でもあり、なかなか難しい事情もあるようです。
全体としては貧困率も減少し、経済はよくなっているのだと思います。多くの人々に富が行き渡っているという印象は持っていらっしゃいますか。
私の研究対象は製造業の中小零細企業ですが、2015年に女性起業家の調査のため、バンガロールに住んでいました。スラムも含めて、やはり絶対的な貧困は少なくなっていて、皆、豊かになり、耐久消費財の所有も増えていると感じました。
でも調査をしていくと、収入は得ているけれども情報がない。女性起業家に「あなたの3年後はどうなりたいですか」と聞くと、「考えたことがない」という感じです。おそらく当座の生活自体には問題ないと思います。農業をやりながら食品や手芸品を売るなど自営業を営んでいる人が多く、特に南部は発展していることもあり、月々の収入は割と高いのです。
ただ、そもそも帳簿をつけていない人がたくさんいらっしゃるので、どうやって事業を拡張したらいいかが分からない。現在、政府がベンチャー育成に取り組み、中小零細企業が増えているのですが、事業開始以降のサポートが十分ではありません。起業することは容易になったと思いますが、継続はなかなか難しいという人もいます。
急成長のインドIT産業
バンガロールと言えば、インドIT産業の中心ですね。武鑓さんが見て来られた、バンガロールのインドの人たちはおそらくまた別の様相があるかと思うのです。
私は、ソニー入社後、ずっとコンピューター関係の開発に携わっていました。シリコンバレーに毎月のように通っていた時代もあり、アメリカが圧倒的に世界の中心だと思っていました。ところが2008年10月から「インドのシリコンバレー」、つまりバンガロールに行くことになり、結果、7年そこに駐在しました。
そこには、ソニーの開発の拠点があり、着任当時は600名ぐらいだった従業員が、ピーク時には1800名ほどになりました。しかし、アメリカ勢、ヨーロッパ勢、中国勢、韓国勢のグローバル企業は、バンガロールにもっと巨大な拠点があるのです。
当初はアメリカなど先進国が、英語が通じるし、コストが安いからという感じで始まった産業ですが、今や決して下請け的な仕事ではなく、とてつもなくハイエンドな仕事をやり始めています。しかし、日本の経営者、知識人、IT関係者の多くは、いまだにインドに古いイメージを持っていて、しかもインドに行ったことがないので、インドの変化や、IT業界の最新状況をほとんどご存知ないのです。
そこで、世界中のグローバル企業がなぜインド、特にバンガロールに集中的に巨大拠点を作っているのかを説明するために、昨年『インド・シフト 世界のトップ企業はなぜ、「バンガロール」に拠点を置くのか?』という本を出しました。帯文句は「日本企業はシリコンバレーへ。シリコンバレー企業はインドへ」です。
シリコンバレーの企業は、インドの拠点を拡大し、今まさにGAFAやマイクロソフト、インテルなどのアメリカ企業、またボッシュ、シーメンス、SAPなどのドイツ勢も巨大拠点をバンガロールに置き、新しいテクノロジーの開発をインドで行っているのです。グローバルに技術革新がどんどん進む中、新しいテクノロジー分野ではインドが急速に力をつけてきています。
この「インド・シフト」というのは、「インドマーケットが大きいからインドに行きましょう」というのではなく、企業がグローバルに生き延びるつもりなら、インド市場とは関係なく、インドとどう戦略的に連携するかが非常に重要になっている、ということです。
ベンチャー企業の伸びもすごい勢いのようですね。
最近は、AIとか、IoT、ブロックチェーンなど、新しいテクノロジー関連のスタートアップが増えています。私が2008年に着任した時は、ちょうどスマートフォンが登場したタイミングで、あっという間にこれが普及し、グローバル企業に勤めている若者がスピンアウトして、スタートアップブームが起こりました。
Amazonのインドに勤めていた若者2人が起業した会社がちょうど私の家の前にありました。Flipkart(フリップカート)という会社で、たちまち時価総額2兆円の会社に成長し、最終的には昨年Walmartに買収されている。そのように、目の前でとてつもないことが起こっています。まさにユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場で設立10年以内のベンチャー企業)と言われる会社が続々と登場してきています。
ここ数年でインドで生まれたユニコーン企業は20数社ありますが、日本では1社か2社です。特に今、アメリカのシリコンバレーで経験のあるインド人ベンチャーキャピタリストがインドに戻ってきて支援をしているので、アメリカ市場を最初から狙うスタートアップもいます。そのように驚くことがどんどん起こっています。
インドのIT産業から世界を見ると、9割方がアメリカ、ヨーロッパで、対日本向けというのは1%以下で、非常に小さいマーケットなのです。日本人は、コストが安くて優秀な人がいればいいと思っている節があって、インドが獲得しているテクノロジーのレベルをまったく理解していないと思います。
バンガロールに駐在されている日本企業の方から、「武鑓さん、ここのどこがシリコンバレーなんですか」と聞かれることがあります。駐在されている方は、日本企業の販売拠点や製造拠点の方が多く、IT関連の方は極めて少ないです。従って、生活面やビジネス面でインド的な苦労をされていて、バンガロールのIT業界に関してはほとんどご存知ないのが実情です。
インドのIT産業は400万人の規模で、人口比で言えば0.3%ぐらいに過ぎません。それが世界に大きな影響力を持ち、ここ20年で20倍ぐらいの規模となり、圧倒的に成長しています。構造的に見ても、技術革新が進んで、ビジネスの中心が新興国に移れば移るほど、インドが中心になり、グローバルビジネスの中心的な役割を担う国になるのは間違いない、と私は思っています。
経済成長とその停滞
それでは、竹中さんに政治学の視点から、今のインドをどう見られているか、お願いいたします。
モディ政権は今年から2期目に入りましたが、どのような政策を展開しているか、どのようなビジネス機会が拡大しているのか、国としてどのようなリスクが存在しているのか、という話をしたいと思います。
まず経済成長の面です。21世紀に入った頃からインド経済は急成長を遂げましたが、リーマンショック後に停滞して、外資が逃げてしまい、苦しい時代になった。2014年に成立したモディ政権は、「経済成長10%」と謳ったわけです。世界の市場も歓迎し、モディ政権の1期目は、日印の協力関係が良好だったこともあり、「インドは買いです、投資しましょう」という雰囲気がとても強くなった。実際に7〜8%の経済成長になりました。
ところが、今年、2期目のモディ政権は打って変わって、かなり厳しい予測から始まっています。去年ぐらいから、「実はこんなに高い成長率ではないのでは?」と言われていましたが、7%以上の高い成長率を維持している、と政府は主張し続けました。しかし、最近の政府発表はそれを下方修正し、現在IMFやOECDによると、6%台どころか5%台ではないかとも言われます。インド系のある経済学者は、4%台かもしれないと指摘します。
けれども、成長ファクターは多々あります。二階堂さんがおっしゃったように、非常に若い、20代の半ばぐらいが平均年齢の分厚い人口ボリュームがあって、しかもIIT(インド工科大学)もどんどん増設され、多くのエンジニアを輩出している。ですから、モディ首相が言うように、インドが工業国、「メイク・イン・インディア」になる力は十分に備えていると思います。
実際、武鑓さんがおっしゃったように、ITやテレコミュニケーション、コンピューター、あるいはボリウッド(インド・ムンバイの映画産業)などは非常に勢いがある。それらと結びつくメディア、サービスセクター、アウトソーシングなどは、これからも大きな成長が見込めると思います。
反面、製造業や一般的なサービスセクターは数百万規模の人々を雇用しています。したがって、これらの部門が損失を出してレイオフが続くと、政治も不安定化すると思います。
モディ政権はこれからどのような政策をとっていくのでしょうか。
1期目はとにかく経済成長を優先させましたが、2期目で政権基盤を固めましたので、政権の目標としては、経済成長より「大国インド」をつくる、つまり軍事力の拡大、対外政策の強化、あるいは国内の政治的な支配の強化という方向に、シフトしてきていると思われます。
現在の経済的な停滞を引き起こした要因の1つが、1期目の政策にありました。まず、2016年11月のインドの高額紙幣の突然の廃止です。これによって、経済成長を牽引してきた中小規模のビジネスを担う人々が、現金で決済できなくなった。このことが成長の足を引っ張り、その余波はいまだに残っていると言われます。
もう1つは、2017年の7月、物品サービス税(Goods & Services Tax)という、全国的に統一した税を導入したことです。これは、前首相のマンモハン・シンさんも絶賛し、日本企業を含め、外国企業もインドに投資しやすくなったと歓迎した。だからインド株が上がると思われました。
しかし、中小企業やインフォーマルセクターの人々が売買する時に、州を越える取引には手続きが必要になり、しかも一度税を収めた上で還付請求しなければいけない。つまり、流動資金としてのお金がかかる形になり、しかもデジタル化や複雑な会計処理が要求されるようになった。それによって中小企業やインフォーマルセクターが打撃を受け、成長を阻害しているようです。
2018年は雇用統計でも失業率が高くなり、それが政府批判につながりました。しかし、モディ政権は、雇用もGDPもそれほど落ちていないと宣伝し、2019年の総選挙を強力な政治力で乗り切りました。
ただ、政府の財源が不足気味になっているようです。中央銀行としてのインド準備銀行からお金を融資してもらいながら凌いでいると伝えられます。一般的に総選挙の年には財政が出動し、経済成長を後押しするものなのですが、逆にダウンしている。しかも財政が緊縮しており、厳しい状態にあると報道されています。
2期目のモディ政権のリスク
今後のリスクはどういうことが考えられますか。
ルピーの国際的な価格が下がっていますので、中東情勢が不安定化し、オイルショックが起これば石油価格が上がって、石油を買うインドにはマイナスの影響が出るでしょう。仮に、中東で戦争が起こった場合、中東で働くインド系移民からの本国送金が大幅に減少することもありえます。
もう1つ気になるのは、2期目のモディ政権の経済政策に対し、不信感を持つ国民が増えている点です。まず、一般の人たちです。自分の生活が苦しくなり、リストラに脅えて暮らさざるを得ない人々にとっては、いくら政府が良い統計数字を発表しても、容易には信じられないでしょう。
今のところ、政府の政策に対する国民の信頼回復は、やや困難な感じです。状況を反転させるために、メディアなどへの規制が強められるようなことになると、国外の投資家にとっても不利益になるのではないかと思います。
次に、経済のエキスパートがモディ政権から離れつつあるのではないか、ということです。1期目には、アメリカで活躍するMITやハーバードなどの研究者が、政策ブレーンとして迎えられました。インド準備銀行の総裁を著名なラグラム・ラジャンが務めていたことも、インドへの信頼を高めました。けれども、高額紙幣廃止を前にラジャン氏は辞任し、首相に近いとされる人が総裁に任命されました。この人も昨年末辞めましたが。
つまり、インド経済と、シリコンバレーやアメリカの経済、さらにはグローバル市場をうまくリンクして動かそうとしていた、経済政策のエキスパートが、モディ政権に対する姿勢を変えてきているように見えます。
最後に日本と関わるところで言いますと、マルチ・スズキ・インディアという、インドの自動車市場で半分以上のシェアを持つインド・日本の合弁企業が、今年に入り36%利潤を下げました。3000人の雇用をカットし、2つの工場を一旦休業したと伝えられます。つまり、インドの国内市場で車が売れていない。先頭を切るスズキがそうなので、ほかはもっと下げています。
多くの人々を雇用し、経済成長を引っ張ってきた企業のこうした数字は、経済成長が鈍化している事実を示しています。モディ政権はここからの回復をもたらすことができるか。それが問われていると思います。
キャッシュレス社会の進展
バンガロールのグローバルなIT産業についてモディ政権は、どのようなスタンスなのでしょうか。
インドのIT産業というのは、基本的に政府が余計な関与をしなかったから成長してきたという考え方があります。
モディ政権の前の国民会議派(コングレス党)政権のときに、UIDAI(インド固有識別番号庁)が、アーダール(Aadhaar)という、国民の指紋と目の虹彩を取って識別する国民識別制度を導入しました。今ではインド13億人のうち12億人以上が目の虹彩と指紋を登録し、いろいろなサービスを受けています。非常によくデザインされたアーキテクチャーで、モディ政権も、前政権の政策を否定せず、それを受け入れて推進しています。
もともとインドは銀行口座を持っていない人が多かったのですが、導入の結果、銀行口座を持つ人が増え、キャッシュレス化もどんどん進展しています。私がインドに住んでいた2015年ぐらいまでは、まだキャッシュで生活していたのですが、最近インドの知人に聞くと、2016年の高額紙幣廃止以来、ほとんど現金を使っていないと言います。
アーダールをはじめとして「インディア・スタック」というアーキテクチャーがあり、日本でも実現できていない、新しいテクノロジーを使ったプラットフォームが活用されています。インド社会はどんどん変化しているように私には見えています。
私もIT分野は、インド経済の一番の強みであり続けると信じています。今後、5Gやスーパーコンピューターについて、日本が技術的な突破を目指すなら、インドとの連携は必須ではないでしょうか。
モディさんはスマートシティーとかデジタル化は大好きなんですよ。商人の出で、子どものときからチャイワラ(チャイ=お茶、の売り子)だったという話は有名ですが、ごちゃごちゃして貧乏くさいことは、たぶん好きではないのですね(笑)。
だから、北欧みたいなキャッシュレス社会にしたいと夢見て、高額紙幣を廃止したりする。逆にIT業界やインド工科大学の先端的な技術者もモディさん大好き、というところがある。ですから、今後もITにはかなり力点を置いていくと思います。
2016年11月の高額紙幣廃止のとき、私は北東部のメーガーラヤ州のチェラプンジという世界で最も雨が多い場所にいたのですが、平地に下りてきたら現金が使えなくなっていることに衝撃を受け、そこから私の中でキャッシュレス化が始まりました(笑)。
その直後から、コルカタの某銀行で資料の閲覧をしていたのですが、銀行内のATMだと希少になった100ルピー紙幣が出てくるのに、外で並ぶと新しい2千ルピー紙幣しか出てこない。私はたまたま銀行内にいたので、行員と同じようにすごく得をしたんです。外の人は長い列をつくっていました。
私も並びましたよ。
2千ルピーというのは、やはり「おつりはない」と言われ、使えないですよね。普段買っている八百屋でモノが買えなくなってしまった。そうしたら、その八百屋もIT化し始めて2カ月でペイティーエム(インドの電子決済)が使えるようになったんです。
そうしないと生きていけなかったんです。
また、Uber(ウーバー)やOla(オラ) Cabなどの配車アプリは、日本ではなくても困りませんが、インドだと圧倒的にベネフィットがありますね。値段交渉をしなくていいですし、言葉が通じなくても行き先が伝えられますので画期的です。
UberやOla Cabがあることによって、女性が動きやすくなったという面も、すごくあると思います。ルートがスマホに表示されるので、違う道を通っていないかどうかも全部分かりますし。
存在感の薄い日本
いろいろな動きのある中で、アメリカ・トランプ政権の厳しい移民政策は、インド人の思わぬ動きをもたらすかもしれません。例えば、シリコンバレーにいるインド系の人々のビザがどこまで更新されるのかが注目されています。アメリカを去る人々が少なくないとも予想されます。逆に言えば、そうした人々を日本に招き入れるためには、またとないビジネス・チャンスとなるかもしれません。
さらに、米中が貿易戦争で対立し、中国製品に頼ることが困難になりつつあり、先端的なソフトウエア開発や工場生産について、インドに期待したいという声は強まっています。
アメリカのビザが厳しくなったら日本がチャンスというのは、その通りです。しかし、インドの若者が将来どこに行きたいか、というとやはり圧倒的にアメリカなのです。アメリカに行くと、マイクロソフト、グーグルのCEO、ハーバード・ビジネススクールの学長になって活躍をしています。
では、日本に行ったらどうなるかというと、まったく先が見えないわけです。そういう話を日本人にすると、「じゃあインドのIITに日本語学校をつくろう」という話が出てきます。日本の考え方は、インドを東南アジアと同じように捉え、インドのトップ大学で日本語教育をしてもらい、日本に来てくださいという発想なのです。
しかし、日本が必要としている技術系人材を獲得するには、いかに日本が魅力的な国で、ITだけではなく、様々な技術分野が進んでいることを上手くアピールすることが重要です。
実際、アメリカに留学しているインド人の留学生の総数は、10万人以上なのに対し、日本は約千人と、まさに1%以下です。日本と同じく言葉の問題がある中国やドイツへは、1万人以上が留学しています。やはり日本の魅力がインドの若者に伝わっていないのでしょう。
日本側が危機感を持って、もっと積極的に動いていかないと、何も起こらないというのが私の考えです。
日本に優秀なグローバル人材を迎えようとすると、困難なのは給与面だそうです。MITを出たばかりでも4、5千万円の年収を稼ぐような研究者を、日本の大学や研究機関、日本企業が雇用できない。
中国の大学や研究機関は、潤沢な資金をもとに巨額の給与や研究費をオファーして、優秀な外国人を採用しています。独特な文化や言語も理由に挙げられますが、何よりも日本的な組織と給与体系、研究費の規模やあり方が、外国人には魅力がないと指摘されます。この点はとても深刻です。
彼らはやはりキャリア志向で、自分が何を学べ、成長できるかを考えるのです。日本と違って大手企業に長く勤めたいという発想を持っている若者は少ないと思います。逆に、尖ったテクノロジーを持っている中小企業ややスタートアップ企業であれば、優秀なインド人材を採用できる可能性があります。ただ、「日本語をしゃべってほしい」と言った途端に難しくなる。
インドのトップ人材を受け入れられるかどうかは、まさに、その企業がグローバルに勝負するのかどうかの、1つの試金石になるのではないかと思っています。
日本でインドの話をすると、少し前までは「インドなんて女性をレイプする国で、貧しくて、発展するわけがない」という、頑なな考えを持っている人たちが少なからずいたように思います。
日本で流れるインドのニュースもすごく良いニュースとすごく悪いニュースしかない。かなり偏向したニュースが入ってくるので、ネガティブな印象を持った人も少なくない。それは私たちがまだ発信できていないのかなとも思い、反省もしています。
やはり、日本には少し上から目線でインドを見ている方が多いように思います。だから、インド人のほうから日本に来てくれるだろう、という思い込みがある。他方、ソフトバンクはいち早くインドのユニコーン企業に投資して、その技術を使ってOYO LIFEやペイペイ(Pay Pay)を開発しているのです。
ペイペイとインドのペイティーエムの画面は一緒ですものね。
今までのモノと情報の技術、人は、先進国から途上国という流れでした。でも今は逆になってきている。そのことは認めないといけない。まさに武鑓さんの本にあった「多様性と困難がたくさんあるからイノベーションを生む素地がある」ということなのだと思います。
ITやフィンテックを使って困難な社会をよりよくしていこう、といった考えが出てくるのは、インドならではだと思うのですね。インドが抱えている問題は全世界の課題でもあると思います。そういった意味からも、日本でインド理解がもっと深まるといいと思います。
企業のセミナーに呼ばれても、あまり情報をお持ちでなく、割と基本的なことを知らないので、インドに進出したいと思っている企業は、統計では増えていても、まだ遠い国なんだなと思います。
停滞する日本、変化が激しいインド
インドに住んでいるとやはり不便なことがいっぱいあるので、たまに出張で帰ってくると、日本は本当によくできている社会だなと思います。ところが何が問題かと言うと、インドはどんどん変化して発展している一方、日本は、なんとなく停滞していて変化がないところです。ほかの国がとても真似ができないぐらい素晴らしく、特別な国になっている気がします。ただ、将来、この国で生まれた子どもたちが、この環境が当たり前だと思って育っていくと、世界に出ていけないだろうなと思うのです。
インドでは、お金持ちの家に生まれても、一歩家を出ると、カオスの中で翻弄されながら生きざるを得ないのです。そういう人たちは、アメリカでもどこでも生きていけるのです。やはりインドに育った若者たちのあのアグレッシブさ、環境をマネージする力というのは圧倒的に強いのではないかという気がしています。
7、8年前、日本のいくつかの大学が合同で、スタディー・ジャパンツアーでインドに行ったんです。デリーとチェンナイとハイデラバードと、いくつかの都市を回ったのですが、本当に人が来なくて。
来た人に、なぜ日本に留学したいのかと聞いたら、8割は治安がいいと聞いたから、と答えていました。治安がいいことしか知られてないというのがちょっとショックでした。
そこはモディ政権になって変わりました。最近では日本関係のイベントをすると多くの人が集まります。2014年以降は、日本語を勉強したいインド人も確実に増えています。
ソニー本社でもIITから採用をしていて、内定が決まった後に、2カ月ぐらい集中的に日本語を勉強させると、それなりに話せるようになります。もともと英語や、ヒンディー語、さらにはインドのローカル言語をしゃべっていますから、その気になれば、日本語の壁なんてすぐに乗り越えられる人材も多いのです。
インド人学生を交換留学や企業のインターン制度で、日本に2カ月ほど滞在させると、日本が素晴らしい国だというのが理解され、日本に留学したい、就職したいという気になるのですが、インドにいる若者たちに、どうやってその魅力を伝えるか。そこが日本としてのチャレンジだと思っています。
工業専門学校が日本経済の成長を支えたという発想から、インドに進出する日本企業は人材育成に関心を向けています。トヨタ、ダイキン、日立などの主要企業が、政府の推進する「日本式ものづくり学校」に参加しています。CSR的な役割も果たしており、とても良いことだと思います。
バンガロールにはトヨタさんの生産拠点があるのですが、その側にトヨタ工業技術学校というものがあります。カルナタカ州の貧しい子どもたちを毎年60名ぐらい採用しているそうです。そこで3年間のトレーニングをして、成績のいい人はトヨタに入ることができるそうです。ノートを見せてもらうと、驚くほどきれいな字を書いています。貧しい家庭に生まれた子供でも、きちんと教育をすればすごく伸びていくそうです。そういう人たちが、トヨタ車の生産を担っていて、当時私が乗っていた車種は彼らがつくったものだ、と言われて感動しました。
最近は、社内の技能オリンピックなどでも、インドのチームが結構頑張っているそうです。多様性のある人材がいるので、貧しい人の中にも本当に優秀な人がいる。そういう人々を支援することも重要なのだと思います。
進む女性活躍
二階堂さんが女性の起業家の研究をされているとお話しされましたが、インドの女性進出についてはいかがでしょうか。IT業界では、現実にどのくらい女性の活躍できる場が提供されているのでしょうか。
ソニー・インディア・ソフトウェア・センターではインドの大学から、毎年5〜60名を採用していたのですが、そのうち2割から3割は女性でした。女性でもエンジニアリング系の大学に進めば、IT企業などの条件のいい仕事に就ける可能性があるので、優秀な方々は、男女問わずエンジニアリング系の大学を目指します。その中で、女性はインド社会では虐げられていたということもあり、非常に頑張るのだと思います。
ただ、大学の中での女性比率はIITなどを見ても10%ぐらいでそれほど高くはない。でも、入社後、男性は条件がよい会社に次々と転職することがあるのに対し、女性は定着率がよく、結婚してしまえばほとんど動かない。そのこともあって、IT業界の中では、結構女性は活躍しているような印象を私は持っています。
インドのIT系のスタートアップの創業者にも女性が増えています。ついこの間も、インドで初めて女性の創業者の企業がユニコーン企業になったという話がありました。バンガロールには、Bioconという世界的なバイオテクノロジーの会社がありますが、女性が創業者で現在もトップで活躍されてます。日本以上に女性が起業して、成功している方が多いと思います。
インドでは、宗教やカースト、民族など、女性に厳しい古い規範や慣習が根強く残っています。逆に、身分の高い豊かな家の女性には、特権的な扱いもなされてきました。ジャワーハルラール・ネルーの1人娘インディラ・ガンディーさんは首相になりましたし、父から大会社を継ぐ女性もいます。
とはいえ今日では、貧しい家庭に生まれても、努力して奨学金を獲得して大学で学び、自分の能力を生かして活躍する女性が、経済、政治、大学などさまざまな分野で登場しています。
少し前までFICCI(インド商工会議所)会長や、インド第2位のICICI銀行のCEOも女性でした。日本では大手銀行の頭取に女性がなったことはないと思います。その点では、インドには先進性があります。
数年前ですが、世界的な通信機器メーカーであるCiscoのチーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)はインド人女性でした。途中から、彼女はチーフ・ストラテジー・オフィサー(CSO)も兼務しました。これはすごいことだと思いました。
昨年までは、ペプシコのCEOもそうでしたし、先日IMFのチーフエコノミストもインド人女性がなりましたね。本当に驚くほど世界にも出て行っています。
インドでは6年前に会社法が全面的に改正され、取締役会に1人必ず女性を置かないといけないのです。
今は大学に合格する男女比を見ても変わらない。テストのトップで入ってしまうくらい優秀な女性が多いです。でも、勉強している間はいいのですが、卒業すると、家からのアレンジド・マリッジ(見合結婚)のプレッシャーがあるので、高等教育を受けた方でも、家事手伝いをしたり、すぐに結婚しなければならず、あまり人材が活かされていなかった面があると思います。
インドのMBAの大学院大学では、コマース系やファイナンス、アカウンティングに女性が増えてきて、その背景には結婚時期を遅らせたいという理由もある。さらに知識を付けて、専門家として働けるのであれば、結婚してからも働きたいと思っています。最近はエンジニアだったり、プロフェッショナルな部分で、女性も進出し継続してキャリアを積んでいるのかもしれないですね。
10年ぐらい前までは、エンジニアは男子学生が圧倒的でしたね。女性は文系か、あと数学科はやたらと女性が多い。
そうですね。力仕事で手を汚すみたいなところにはあまり行かないで、ファイナンス、コンピューター、IT、経営の分野には、女性は結構多いと思います。
社会構造の変化に合わせたビジネス
農村の貧しさを背景に、田舎から都会に出稼ぎに来た人々が安い賃金で仕事をする。そういう社会は高度成長とともに変わり、出稼ぎの人々にももっと良い雇用の機会が増えて、相当なお金持ちでないと家内で働く人を確保できなくなってきました。中流の家庭では、多くの家事を自ら行うようになっています。保険やヘルスケアなども必要になってきています。
戦後日本は経済成長によって都市化・核家族化が進み、電化製品の普及や社会サービスの充実によって家事労働を補完してきました。そういう生活に関わる領域で、日本とインドのウィンウィンの協力が、もっと進められるのではないかと思っています。
家事労働の負担はインドでも日本でも一緒ですね。また高齢化も同じように辿っていくはずなので、日本の経験とインドの技術を活かしたものができるといいですね。
生活家電はもちろんですが、保険、年金、ヘルスケアなど社会サービスや高齢化への対応についても、日本は強みがあると思います。洗濯機もずいぶん普及しましたし。
パナソニックが、カレーの汚れが落ちるものをつくったんですよね。
それは日本でも売ってほしい(笑)。
昔は洗濯を生業としていた方が、従来のカーストを離れて違う仕事に就いているということだと思うのです。カースト意識が薄れてきたというのもあるかもしれません。
生活密着型のビジネスをやるのであれば、日本から、インドへ出張して、マーケット調査をして、日本中心に企画・開発するモデルというのは、成り立たなくなりつつあります。インド人を含めた、インドに根付いたチームをつくり、そういう人たちを中心にして考えなければいけないと思います。
日本企業にとって競争相手になる、グローバル企業の巨大拠点はインドにあり、ハイエンドな研究開発やソフトウエア開発、製品開発に携わっています。そして、もともとはインド向けはやっていなかったのに、最近はやり始めています。
日本企業は、日本人同士で議論して、素晴らしい製品やサービスを企画・開発して、世界で販売することで、過去に成功してきました。ただ、このモデルは限界に来ています。すでに競争相手は、インドで、新興国向けの製品を開発する体制ができつつあります。今後ビジネスの中心が先進国からインドを含めた中東、アフリカなどの新興国にシフトするにあたり、「インドとどうつきあうか」が、私は勝負だと思っています。ここで腰が引けると、グローバルビジネスはかなり厳しいと思います。
巨大マーケットをどう捉えるか
これだけの市場と労働力がありますものね。先日の台風では関東地方でも停電がたくさん発生しましたが、数年前に、バッテリー装備で停電時にも使用できるテレビを東芝がインドで販売する、というニュースを見たことがありました。そういった製品は、日本も逆輸入すればいいのになあ、と思った記憶があります。
バンガロールにナラヤナヘルス病院という心臓手術で有名な病院があるのですが、そこでは1日30件以上の心臓手術をしています。日本の10倍以上の数です。圧倒的な数の患者とその治療経験を通じて大量のデータが集まってきます。そしてITテクノロジーを活用する力を持っています。
これらを組み合わせると、私はIT産業以上に、医療産業でもいろいろなことが起こってくるような気がしていているのです。実際、ヘルステックと言われる分野のスタートアップも増えています。
日本は、やはりいろいろなソリューションなどの技術開発をもっとインドと連携すべきだと思います。
また、インドではエンターテインメントが大変な巨大産業で、ボリウッドもそうですが、ネットフリックスなども水準が高いんですね。
日本にもアニメーションなど、インド人が関心を持つものがある。エンターテインメントの分野でも、ソニーや日活など日本の代表企業がインドの企業とどんどん協力してもらいたいです。ハリウッドはすでに、アウトソーシング先にボリウッドを使っているので、高い水準の技術を持っています。
インドに着任した頃に世界的にスマホが普及し始めました。当然、インドでもそうでしたが、日本で売られているようなハイエンドモデルではシェアは取れません。やはり本気でミッドレンジを強化すべきだと思いました。一般に日本企業は高付加価値のほうが儲かると考えて、難しい市場では、ハイエンドに行く傾向があります。しかし、インドでは、爆発する市場にむけて、ミッドレンジからローエンドに力を入れないと勝てないのです。韓国企業、中国企業はそこに注力しています。
日本の方々は、インドは薄利多売で難しいと言いますが、インドではその価格帯ですごい勝負が行われているわけです。
決して薄利ではないですよね。
そうです。巨大マーケットなので、ここを外せないという認識を持っていないといけないと思います。
インドが東南アジアと違うのは、すでに地場企業として昔から財閥の企業があって、そこが競合相手になることですね。ミドルやローエンドの部分はその地場産業のブランドが強くて、彼らは豊かになっても、TataやRelianceといったところの製品を使うんですね。
韓国企業がそのローエンドからミドルを攻めているということは、消費者がハイエンドになったとしても、サムソンの冷蔵庫を買うということなんです。サムソンとLGの冷蔵庫が画期的なのは、鍵が付いていることです。これは、子供のためでなくメイドさんが勝手に開けないためです。それが割とスタイリッシュで、安価で売られているのです。
日印交流をより活発にするために
私がインドにいるとき、インド人メンバーを10名ぐらい選び、日本から30歳前後の若手の優秀なエンジニアを10名連れてきて、インドで3週間一緒に研修するプログラムをつくりました。そして、研修中は日本人とインド人、2人の相部屋にしたのです。
朝起きると隣にインド人の同僚がいて、一緒にクラスルームに行って、英語でいろいろなディスカッションをし、夜は夜でチームに分かれて、ソニーの新興国戦略について議論させました。
日本とインドの同じ世代の同僚が、対等にそれぞれの経験や知識を共有しながら、戦略をまとめていくというプロセスは極めて重要だと思いました。インド人はよく喋りますが、日本人は黙って聞いている傾向があります。そういう中でいかにリーダーシップを発揮できるかが大きな課題だと思います。
アメリカ、カナダ、オーストラリアなどに留学すると、インド人学生がいっぱいで、学生寮ではインド人と相部屋の人が多い。でも、案外同じアジア人だからか仲がいいみたいです。
インド人の考え方は、家族を大事にしたり、シニアをリスペクトしたり、どちらかというと、日本の昔よかった部分をどこか持っていて、結構そこは似通っているように思います。
私はムンバイにある、中央銀行が設立した研究所に留学していました。2002年で印パ緊張のため日系企業は退避して、ムンバイにもほとんど日本人がいなかった時期でした。
個室のゲストハウスに6カ月いたのですが、日本人の留学生が珍しいというのもあってか、ホームシックにならないぐらい、毎日、誰かしら話しにやって来る(笑)。
大事にしてくれますよね。ファミリー待遇になって。
留学の時のネットワークで、今も一緒に研究をしたりと、皆、世界中に散らばっているので、とても恩恵を受けています。やはり絆を築くと非常に強いと感じますね。
この8月には学生を連れてコルカタに行きました。コルカタは、日本との関係も深く、知識人が多く、ノーベル賞受賞者も出している地域です。
おなかを壊した学生もいましたが、ゴミ処理場や太陽光発電の倉庫などを見せてもらい、ジャダプール大学で学生同士が交流したり、日系のタタ日立さんに伺ったり、総領事からお話を伺ったりで、本当に学生が毎日成長していく姿が見られました。
帰ってきて、どうだったと聞くと、「ぐちゃぐちゃで何が何だか分からなかった」という答えが返ってくる。豊かな人も貧しい人もいるし、上手く答えが見つからないけれど、本当に視野が広がったようですね。
アメリカの大学や研究機関、IMFや世界銀行などの国際機関も、インド系の経済学者が多い。インドはグローバルな存在感を増しています。
政治学としては、「モディ政権の行方がやや不透明なので、成り行きを注目しましょう」というコメントになりますが、これからの日本や世界にとってインドは欠かせない存在になります。もっといろいろな方が日印の関係を切り開いていってほしいですね。
私のゼミの卒業生は、卒業して数年間、日本のいくつかの企業で働いたのち、一念発起して、今インドでMBA取得を目指して猛勉強中です。研究職を目指して学生時代に留学したり、就職してインドに駐在するだけではなく、新しい形でのインドとの関わりが生まれているようにも思います。語学留学先としても選ぶ若者も増えているようですし、今日はお話しできませんでしたが、文化・芸術面での交流も様々なチャンネルが生まれています。
予定時間をずいぶんと超過してしまいました。話が尽きないというのもインドの魅力でしょうか。本日は、有り難うございました。
(2019年9月20日収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。