登場者プロフィール
紀平 哲也(きひら てつなり)
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)ワクチン等審査部長1995年大阪大学大学院薬学研究科修士課程修了。同年厚生省入省。2014年6月より厚生労働省医薬・生活衛生局総務課において薬剤師・薬局関連施策、薬剤師国家試験等を担当。18年8月より現職。
紀平 哲也(きひら てつなり)
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)ワクチン等審査部長1995年大阪大学大学院薬学研究科修士課程修了。同年厚生省入省。2014年6月より厚生労働省医薬・生活衛生局総務課において薬剤師・薬局関連施策、薬剤師国家試験等を担当。18年8月より現職。
上原 明(うえはら あきら)
その他 : 大正製薬ホールディングス代表取締役社長その他 : 理事・評議員塾員(昭41経)。1977年大正製薬株式会社入社。82年代表取締役社長就任。2011年より現職。世界大衆薬協会、日本一般用医薬品連合会等の会長を歴任。現在、上原記念生命科学財団理事長。
上原 明(うえはら あきら)
その他 : 大正製薬ホールディングス代表取締役社長その他 : 理事・評議員塾員(昭41経)。1977年大正製薬株式会社入社。82年代表取締役社長就任。2011年より現職。世界大衆薬協会、日本一般用医薬品連合会等の会長を歴任。現在、上原記念生命科学財団理事長。
佐藤 淳子(さとう じゅんこ)
その他 : 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)国際部長その他 : 特選塾員1990年共立薬科大学卒業。医学博士。国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター審査官、PMDA国際部国際規制情報調整課長、国際協力室長を経て2018年8月より現職。
佐藤 淳子(さとう じゅんこ)
その他 : 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)国際部長その他 : 特選塾員1990年共立薬科大学卒業。医学博士。国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センター審査官、PMDA国際部国際規制情報調整課長、国際協力室長を経て2018年8月より現職。
鈴木 孝治(すずき こうじ)
研究所・センター JSR・慶應義塾大学医学化学イノベーションセンター(JKiC)研究部門長その他 : 名誉教授塾員(昭52工、57工博)。助手、専任講師を経て1993年慶應義塾大学理工学部応用化学科助教授。98年同教授。工学博士。専門は医学と化学、分析化学。2017年より現職。
鈴木 孝治(すずき こうじ)
研究所・センター JSR・慶應義塾大学医学化学イノベーションセンター(JKiC)研究部門長その他 : 名誉教授塾員(昭52工、57工博)。助手、専任講師を経て1993年慶應義塾大学理工学部応用化学科助教授。98年同教授。工学博士。専門は医学と化学、分析化学。2017年より現職。
金澤 秀子(司会)(かなざわ ひでこ)
薬学部 学部長薬学研究科 委員長共立薬科大学大学院薬学研究科後期博士課程修了。特選塾員。薬学博士。共立薬科大学専任講師、助教授を経て2004年同教授。08年慶應義塾大学薬学部教授。専門は物理化学、物理薬剤学、分析化学。17年より現職。
金澤 秀子(司会)(かなざわ ひでこ)
薬学部 学部長薬学研究科 委員長共立薬科大学大学院薬学研究科後期博士課程修了。特選塾員。薬学博士。共立薬科大学専任講師、助教授を経て2004年同教授。08年慶應義塾大学薬学部教授。専門は物理化学、物理薬剤学、分析化学。17年より現職。
2018/10/05
この10年を振り返って
薬学部・薬学研究科は今年で開設10周年を迎えました。2008年に共立薬科大学と法人合併し、慶應義塾大学薬学部が誕生したわけですが、ちょうど2006年に薬剤師教育年限が延長され、6年制の薬学教育がスタートしたばかりというタイミングで、新しい薬学教育の時代を歩み続けてまいりました。
共立薬科大学という単科大学から、総合大学である慶應義塾大学となって何が変わったのか。まず、この10年を振り返っていただきたいと思います。
はじめに、上原さん、慶應に薬学部ができたことに関し、どのように思われていらっしゃいますか。
今は一つの学問領域を深掘りしていくというよりも、関係のある領域が融合、協力し合って、教育、研究を広げるということをやらなければいけない時代になっているわけです。そういうことから、2008年、10年前の慶應義塾大学薬学部の誕生により、慶應が持っている医学部、理工学部、看護医療学部をはじめ、他の学部と薬学部がご一緒できたということは、慶應義塾全体にとっても絶妙のタイミングだったのではないかと思っています。
これからはさらに産官学を含めて高齢長寿社会にどれだけ貢献できるかということが問われています。ますます発展されることが楽しみです。
鈴木さんは合併当時は理工学部の教授でいらっしゃいまして、様々な学部との共同研究に取り組んでいらっしゃいました。薬学部が慶應に加わることで、どのようなことを期待されていましたでしょうか。
10年前、当時の安西祐一郎塾長が創立150年に向けて様々なことを考えられた中で、共立薬科大との法人合併に踏み切ったという経緯があったと記憶しています。特に一貫校から来る高校生に薬学に関する研究をしたいという要望があったこともあり、慶應の中でも望まれていたのだと思います。
上原さんがおっしゃったように、非常にタイミングよく10年前に慶應に入っていただき、このフィールドができたおかげで、医学部、看護医療学部、それから薬学部という、人に近いところの研究や教育体制が強化されたということで、慶應としても非常に嬉しい話でした。
ちょうど薬学教育の6年制に対応する形で慶應薬学部がスタートしたわけですが、紀平さんは厚労省のお仕事の関係で、よく芝共立キャンパスにはお越しいただいていました。慶應薬学部のこの10年をどのようにお感じになられていますでしょうか。
もともと共立薬科大は薬学の研究・教育という学問の部分と、附属薬局をつくって薬剤師を育てるという両方に力を入れていたことが、他の大学と比べても特色となっていました。
慶應と一緒になるときに、慶應が病院に加えて附属薬局を持つことになるがいいのかという話もありましたが、附属薬局を持っている薬学部が、医学、理工系も含めた研究・教育課程を持つ総合大学と一緒になったということで、結果として薬学部としての土台が広がったのではないかと思います。
この10年、薬学教育、薬剤師教育の分野で、その特色を生かすような活動をされてきたと思っています。
芝共立キャンパスの薬局と信濃町キャンパスの病院が離れているところが附属薬局存続のためには、よかったのでしょうか(笑)。
薬学部のキャンパスの敷地内に実際に患者さんが来る附属薬局を開いているのは私どもだけです。キャンパスの敷地が狭いので門から近く、患者さんが処方箋を持って来やすいんですね。
附属薬局では、処方箋の受付だけではなく、OTC(一般用医薬品)も棚に並べられていますよね。
佐藤さんは共立薬科大の卒業生で同窓会(KP会)の理事もお務めで、薬学部の講義もお願いしています。この10年間で薬学部はどのように変わったと感じていらっしゃいますか。
正直、慶應と合併するというお話を聞いたときには、自分たちの卒業した大学の名前がなくなることがちょっと寂しいな、という感覚がなかったかと言えば嘘になります。しかし、10年間を経て、長い歴史を持ち、様々な学部を持つ慶應義塾と一緒になったことによって、学問領域的にも国際的にもグッと幅が広がったのではないかと感じています。
上原さんから学問領域の協力体制という話がありましたが、さらに、慶應義塾は国際的な視野もたくさん持っているので、それらを上手く融合した形になっているのではないでしょうか。
私が学生の頃は、海外留学をする薬学部生はほとんどいませんでしたが、今は多いですし、海外から学生も訪れてきます。この合併によって幅が広がり、日本、世界の薬学研究をリードできるような学生を輩出しつつあるのではないかと感じています。
海外留学については門戸をもっと広げたいと思っています。慶應はサポート体制が非常にいいですし、今スーパーグローバル事業もあり、それも後押しになっています。
他にも慶應にはたくさん海外留学プログラムがあるので、もう少し専門領域の留学先を増やしたいと思っています。そのため薬学部では4学期制を取り入れていて、2学期は必須科目や実習をなくして短期留学できるような機会を増やしています。
産学連携と異分野融合
共立薬科大学という単科の大学から、総合大学の慶應の薬学部になり10年が経ちましたので、義塾の中での薬学部の役割や、産学連携についてももう少し力を入れていかなければいけないと考えています。
特に医学部、看護医療学部とは医療系3学部合同教育で、初期教育は日吉、中期教育は湘南藤沢、そして後期は芝共立と信濃町で行っていますが、医療の現場でチーム医療を推進するためにも大変いい機会となっています。慶應病院の新病院棟には合同の教育スペースもでき、今年度の薬剤師の実務実習はそこを使わせていただいています。
総合大学の薬学部としての役割について、産学連携について期待する部分も含めて伺いたいと思います。
産学連携についてですが、現在、私どもでは上原記念生命科学財団というものを持っています。これは1985年に設立したものですが、従来は第1部門が東洋医学、薬学、体力医学、栄養一般を対象に助成し、第2部門が基礎医学、第3部門が臨床医学を助成しました。
しかし、データベースやエンジニアリングといった工学系の技術がものすごく進歩したことから、単なる医学専門領域内の研究だけでは医学の進歩につながらないということで、今年から第4部門として、他部門との共同研究も支援の対象とすることになりました。
例えばデジタル化、データ分析等の工業技術と医学・薬学の研究が協調し合うことにより大きな進歩を遂げることが可能であり、そのための協調体制づくりが必要なのではないかと思っています。
確かに薬学や医学だけではなく、例えばビッグデータなどを活用することでこれから研究も変わってくると思います。上原記念生命科学財団の助成を皆励みにしていますので、今後もぜひよろしくお願いいたします。
産学連携がご専門の鈴木さん、いかがでしょうか。
私は理工学部の応用化学科に長くいて、2年くらい前にJSR(株)という一般企業に入り、現在は医学部内の産学連携研究センターのJKiCに勤めています。JSR(株)は、もともとは高分子化学が得意でゴム材料製造から始まった企業ですが、現在はライフサイエンスを3つの主要事業のうちの1つにして積極的に事業展開を進めています。
医学部内の産学連携体制に協力しているわけですが、学内の異分野融合に密接な関わりがあります。デジタル科学、つまり数値を扱う情報分野、分子などを含めてモノを扱うことが得意な理工学分野、人についての生命メカニズムを究め、人を治療し、健康をどうやってうまく維持していくかという考え方をする薬学、医学分野。それらは、今までは人や情報の行き来が少なく、慶應の中においてもまだ医工薬連携は足りないと思っています。
今はもうゲノム医療が当たり前になってきており、慶應病院でも遺伝子診断が始まっていますが、これからはガンでも他の疾病でも、まずはゲノム解析からやっていく時代になりました。さらに先端研究ではゲノムを越えてメタゲノム、プロテオーム、それからメタボロームといった高分子から低分子までを全部見ていきたい。そうすると人体に何が起こり、何が問題なのかが分かってくるのです。
ですから、医学部であれ薬学部であれ、データを扱うことはもう当たり前のことになってきています。そこにデータを扱うのが得意な理工学部および薬を扱うのが得意な薬学部の出番があります。これからの創薬に関しても、現在は免疫、たんぱく質性医薬品開発が流行りですが、その先の核酸医薬などについての研究も活発化してきていて、そういうところでは多くの医療情報をどのように扱い、研究・教育に取り入れていくかが重要です。
薬学部をはじめそれぞれの学部には得意な分野がありますから、それを学内で融合すれば将来の社会に適応する非常にいい教育・研究ができると思います。
薬剤師が必要な知識
薬学部では従来、生命科学の基礎研究が多かったものですから、出口の産業と結びつくところが薄かった面があるかと思います。医学部や理工学部と協力して、教育も含めて新しい分野にイノベーションを起こすため、間口を広くする必要がありますね。
学問領域そのものがどんどん融合していく状況ですが、薬学関係者は薬学という領域を狭く捉えがちで、中に籠っているようなイメージがあるんですね。
現在、薬学では、情報、医学、工学など他分野の知識を使って研究を進めることは当然必要でしょうし、逆に他分野に薬学の知識を使ってもらうことも必要なのだと思います。
さらに、薬剤師育成という役割の中で考えたときに、例えば、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の中で規制されているのは医薬品だけではなく、医療機器、再生医療等製品、医薬部外品、化粧品もあり、当然それぞれについて薬剤師の役割があります。つまり、薬学の知識が必要な分野は医薬品だけではないので、それぞれの分野で薬剤師がまだまだ活躍できるのではないかと思います。
確かに広がっていますね。
そのほかに、昔から薬剤師自身が薬局を経営してきましたが、そのためには、在庫管理や会計処理など経営の知識が必要となっていました。現在、薬局の運営がどんどん複雑化している中で、経営や経済に関する知識はますます重要になってきています。
また、薬局の形態が個店からチェーンに移り、企業に雇われる形の薬剤師が増えています。その中で薬剤師として求められるものをあらためて見つめ直す必要があると思います。薬学の専門知識は当然ですが、薬剤師としての職業意識や倫理観、使命感も問われます。会社からの指示に基づいて行動した結果、薬剤師として処分を受ける事態も起こりかねません。
薬剤師が、医師や弁護士など、いわゆる「士業」と呼ばれる資格者と同様に、自らの職業倫理に基づいて行動できるようになるためには、薬学の専門知識や、経済、経営の知識のほかに、法学や社会学的な知識も身につけなければいけないと思います。
そう考えると、単科大学よりも総合大学内の薬学部でできることは、きっと多いのではないかと思います。
確かにそうですね。三田にも近いですので経済学や法学も学ぶことができます。これまでも少ない人数ですが、経営管理研究科(KBS)との連携で経営学修士と薬科学修士の2つの学位を取るようなコースも設置しています。今後もぜひ強化したいと考えています。
もともと慶應には、例えば医療経済とか、他の大学にはあまりない分野で活躍されている先生もいらっしゃいますよね。
おっしゃるとおりですね。私自身も合併直後に、医療経済の話を三田の講演会で伺って、こういうお話が同じ大学内で聞けるのは素晴らしいと思いました。学部内でもバイオ産業論のような科目の中でKBSの中村洋教授に講義していただいたりしていますが、さらに力を入れて進めたいと思います。
佐藤さんは総合大学の中での薬学部の役割については、どのように考えていらっしゃいますか。
総合大学で一番いいな、と思えるところは、学生時代に日常的に、法学の視点を持ったり、化学の視点を持ったり、医学の視点を持った人たちと、サークル活動などで意見を交わしつつ過ごせるということだと思います。
紀平さんの話にもありましたが、薬学を志望する人というのは、狭い世界で同じことだけを考えている集団になりがちです。
しかし、他の学問を専攻した人は、例えば同じ疾患一つでも違う視点で見ていたりする。そういう人たちと日常的に話をすることによって視野が広がる機会というのが、総合大学の場合は多いのだと思います。
そのように人間観が形成される学生時代に、いろいろな視点を持った人たちと日常的に交流できるということは、将来、視野の広い薬剤師を育てるために有益なのではないでしょうか。
研究で言えば、今、医薬品の開発方法がだんだんと変わってきていて、コンピュータグラフィクスによる医薬品の創出などもあり、アカデミアの役割もだいぶ変わってきているようです。
昔は各企業が研究所を持ち、そこで医薬品をつくっていたのが、今はアカデミアが素晴らしいものを創出したら、それをもとに企業が途中から融合して一緒に製品化までしていくということが増えてきているように思います。
また、経営学的な観点の話がありましたが、特許の部分などで純粋な研究者が損をしてしまうということもあると思います。すごくいい研究をしたのだけれど、研究成果として発表することばかり考えて、製品化しようと思ったときに、横からいきなり知らない人が特許申請していたという話もあります。そういった観点からでも、いろいろな専門性を持った方がいる大学は、創薬創出にも有利なのではないかと思います。
また、どうしても薬学部の学生は患者が見えない人が多い。実際、薬剤師として薬局に勤めている方も、医師や看護師などほかの医療職に比べると、患者さんとの距離が遠い感じがします。
信濃町キャンパスでは薬学部の学生も患者さんに近いところで教育が受けられるようになったということですので、患者さんのことをイメージしやすくなり、将来にとってとても有益なのではないかと思います。
そうですね。今年から薬剤師になる6年制の学生も、希望すれば正式に医学部の先生に卒論を指導していただけるようになりました。これまでも個人的に共同研究等で医学部に学生を出していたのですが、さらに関係が深まっています。
これからの薬学教育
次のテーマは慶應義塾として目指す薬学教育についてです。この10年は私どもも慶應という組織の中で上手く流れに沿うように、また6年制の改革と相俟ってやってきたのですが、慶應の目指す教育の中で、これからの薬学部としての人材育成について、期待を含めてお話しいただければと思います。
企業の経営戦略を考えるときに、「着眼大局、着手小局」という言葉を大切にしています。「着眼大局」というのは、国内外を問わず、政治・経済すべての領域で今起こっていることは何なのか、そういう時代の流れを摑むということですね。
ここ20年ほど、事業計画を中長期で考えるときに、いつもそれを意識しているのですが、そのような時代の流れを念頭において、どのように薬学部の教育、あるいは慶應の特色を培っていけばいいのかを考えるべきなのではと思います。
私の考えを申し上げると、今の大きな時代の流れは技術革命が先導しており、それもミクロの技術が大変進歩したと思うのです。デジタル化が進み、計算速度がどんどん速くなり、量子コンピュータなども出てくる。通信は光ファイバーになっている。その結果、情報技術、あるいは交通、物流、医学、物理学、化学、工学等、あらゆるものが進化してきた。
それに加えて、投資マネーが世界中を動き回ることによってグローバル化が進み、国家間の経済格差が縮小してきた。そして未開拓である市場が少なくなっているという状況だと思うんです。
そのようなことから、今、新しい社会が出現してきた。それは何かというと、生活者主権の社会、市場なのだと思うのです。さらに、高齢長寿社会が出現して、その最先端を走っている日本では社会保障費が莫大になってきた。こういう状況の中で、今、第4次産業革命と言われるようなものが求められているのです。
昭和30年くらいまで、GDPに占める比率は第1次産業と第2次産業を合わせて約3分の2、第3次産業は3分の1でしたが、昨今はサービス産業である第3次産業が3分の2以上です。こういった中で産官学にどんな影響が出てきたかというと、技術および学問領域の融合により、さらなる発展が期待される新しい技術、新しい市場をつくらなければいけなくなっている。
それから、既存の規制は安全性重視でした。これは素晴らしいことですが、産業競争の中では発展阻害要因になることもある。だから、例えば自動運転自動車などはカリフォルニアとか、規制がないところでやっています。
振り返ってこれからの薬学教育というのは、高齢長寿社会に伴う社会保障費の急激な増加にどう対処すべきか。あるいは、生活者主権となった社会に、どう対応できるかが問われていると思うのです。そのようなことに対応できる人材を育てるべきではないかと思うんですね。
現在、薬学部の学生はどういうところに、どれくらいの比率で就職しておられるのですか。
現在、薬局や病院の薬剤師になる方は、6年制の卒業生150名のうちの40%くらいですね。共立のときは6、7割が薬剤師になっていましたが、企業に行く方が多くなっています。それも製薬企業に限らず、食品、化粧品会社などにも行っているようです。また、最近は治験の会社、CRO(開発業務受託機関)みたいなところに行く学部卒業生が多いですね。
そういう意味では、他の私立薬科大学とは少し違い、薬剤師だけを目指す人は慶應では少ないかもしれません。
なるほど、そうですか。これはわれわれの反省もありますが、今まではメーカーや小売り等の売り手側からの情報だけを伝えていたんですね。しかも、それらの情報は薬学、生理学、病理学、栄養学等すべて縦割りだったんですよ。
ところが今、世の中が変わってきている中で、薬剤師のメインの仕事が薬の扱い・研究から、一般の人に向けた健康についてのコンサルティングに移っていくと思うんですね。ですから、もっと栄養学から生理学、体力医学、あるいは睡眠、ストレス等ありとあらゆる情報を身につけなければいけないのではないか。それらすべてを4年や6年の大学学部教育の中だけで身につけるのは無理なので、生涯学習が必要になると思います。
これからは街の薬剤師さんを中心にした社会づくりが必要になってくると思うのです。薬剤師さんによる街づくり、コミュニティづくりや高齢長寿社会への貢献をぜひお願いしたいと思っています。
有り難うございます。かなり大きいアドバイスをいただきました。
それらは山登りにたとえるならば、目指す山頂に相当するものです。いきなり頂上には登れませんから、10年後を目指して現在の位置(ベースキャンプ)から中間目標(第1キャンプ、第2キャンプ等)を設定して歩き始めるのが重要であると思っています。
「薬から人へ」
薬学部には、薬剤師を目指して入ってくる学生が多いのですから、基礎からしっかり積み上げて教育体制をつくられていることは非常にいいことだと思います。その積み上げの中で、ロボットや人工知能、あるいは自動化ということが急速に進む社会の中で薬剤師はどういう立場にあるのかということを考えながら、ゲノム解析や細胞・組織工学など、少し先を見た教育をしっかりしておくことが大事だと思います。
今後ますます「薬から人へ」ということになってくるのだと思います。今は世界的に、研究・開発も含めて免疫が流行りですが、免疫に関しては薬だけではなく人間のほうを十分に知らなければいけない。そこは薬学部と医学部が慶應の中で強固な協力体制をつくって教育・研究をされると社会ニーズに合う人材育成になると思います。
JKiCもまだ始まったばかりで、今は医学部中心に研究開発を行っていますが、いずれは薬学部、理工学部に大いにコミットしていただきたいと思っています。そこでは薬だけでなく、健康長寿社会といった社会構造も含めながら、人をどのように見ていくのかということが大事だと思っています。
慶應の薬学部も薬剤師だけではなく研究にも強い人材を多く育てようとしていると思いますが、それに向けて、学生時代に積極性が身につき、視野が広がるような教育をしていただきたいと思います。
おっしゃるとおりですね。薬学部の学生は少しおとなしいところがありまして、SFCなどでは起業マインドを植えつけるようなことがすごく盛んですが、なかなか自分で何か新しい会社を起こそうという学生はいない。他のキャンパスと交流することで、そういう気持ちも出てくるのではないかと思います。
国立大学は少人数の薬剤師教育ですが、私どもは150名が薬剤師の免許を持ち、彼らが企業で活躍するというイメージですので、そこの特長も出していきたい。
こういった観点から紀平さん、今後、慶應薬学部に期待することはございますか。
はい、いっぱいあります(笑)。まず薬学という学問領域で言えば、慶應には4年制もあるわけですから、研究にも力を入れていただかなければいけないですね。薬を「つくる」には創薬と製薬とがありますが、創薬のほうでは薬のシーズの見つけ方が先端技術を使ったものに変わってきている中、日本を引っ張っていただきたい。
もう一つの製薬のほうは、特に最近世界の主流となっているバイオ医薬品は、国内には製造する人材が足りないんですね。酒造りにたとえれば、酒蔵はお金をかければつくれるけれど杜氏がいない、というのが今のバイオ医薬品の状況なのです。バイオ医薬品の製造に携わる人材は、慶應に限らず日本全体として育成しないと、今の世界の流れにはついていけないだろうと思います。
薬剤師については、病院・薬局を問わず、どの分野に行っても、一薬剤師というよりも、その分野を引っ張るような人材を育成するという役割が、慶應義塾大学の立ち位置から考えても必要なのだろうと思います。
例えば、6年制になって以降、6年制卒で薬剤師免許を持って厚生労働省に入ってきた方は、慶應が一番多くなっています。今、東大などの国立大学は、6年制の定員が少ないために、薬剤師免許を持つ新卒者の母数が増えないのです。
また、厚労省の審議会等に入っていただいている慶應の先生方もたくさんいらっしゃいます。
薬学教育のリーダー養成の課題
もう一つ、これは日本の薬学部全体で、20年後、30年後の薬学部の教員養成を考えたときに、どこかで研究をして、博士号を取って教職に入るという過程が当然必要ですが、少なくとも今、6年制の後に大学院に進んでいる人たちだけで賄えるわけがないんです。
ですから、薬局に行こうが、病院や企業に行こうが、薬剤師がアカデミックな活動を行えるような環境を大学が提供して、大学との間で人材の行き来ができるような形をつくっていかないと、いずれ薬学部を維持することさえ苦しくなる時期が来るのではないかと懸念します。そういうところでもぜひ、慶應が引っ張っていっていただきたいと思います。
嬉しいことに、今年は6年制修了後に博士課程(4年間)に来てくれる学生さんが非常に増えました。将来教員になりたい、薬剤師の中でもリーダーになりたいという学生が増えてきています。
おっしゃるように、6年制の一番の問題だと私が考えているのは、薬学部の教員で臨床経験がある人がほとんどいなかったことです。大学の教員としての研究能力もあって、医学部の教授と同様に臨床経験もあるような教員が出てこないと、本当の6年制の完成形ではないと私は思っています。
ですから、薬剤師であり、研究もできるという人材を多数、養成していかなければいけません。慶應に入った学生は国家試験に合格するのは当然ですが、さらに博士課程に進んでもらう。もしくは社会人経験を積んでから、大学院に来て博士の学位を取得するような学生を養成しなければリーダーを輩出できないと思っております。
6年制導入について反省点を挙げるとすると、6年制という形をつくることが先になって、そこで何を教えるかが後回しになってしまったことではないかと思っています。それから10年経った今、金澤さんがおっしゃるとおり、もう一度ここで6年制教育をどのようにするのかを考え直す時期に来ているのではないかと思います。
先ほど薬学部生がおとなしいという話が出ていましたが、例えば、日本薬学生連盟という活動の中で、慶應の学生が中心になって、今年の夏にアジア太平洋薬学生シンポジウムを主催されて、動き回っていたのを目にしていますので、きっとおとなしい学生だけではないのだろうと思います。
確かに。例えば、入院中の子供たちのための学習支援プロジェクト「Your School」を立ち上げ、昨年、慶應ビジネスコンテストでKBC賞を受賞したような薬学部の学生も出てきていますので、これからはぜひ期待していただきたいと思います。
今まではそういう学生に、薬学部としては何もサポートしていなかったので、そういう学生が活動しやすくしてあげることが必要でしょう。意欲的に活動している学生さんのサポートはしていきたいと考えています。
人材育成というところで、佐藤さんはいかがでしょうか。
もともとレベルの高い学生が入って、知識や経験をさらに培って学生生活を送られているのだと思いますが、私が一つ思うのは、私が知っている慶應の医学部、薬学部の卒業生のお人柄がすごく良いということです。
私はまさか将来合併するとは知らずに、共立薬科大学時代、慶應医学部のボート部に関わっていました。当時の方々は、今は信濃町で教授になっている方も、他大学で教授になっている方もいらっしゃるのですが、皆さん、視野が広いし、お人柄が良くて、患者さんに好かれる医師、医療職になられている方が多いのです。
また、平成11年から東京医療センターで院内感染対策のコンサルトをやらせていただいていますが、そのとき上についてくださった医師も慶應のご出身の先生でした。その先生に、患者さんやほかの医療職の人とどうお付き合いするのがいいのかを教えていただきました。皆さんお人柄が良くて懐が広いというか、患者さんに好かれる方が多いと思うんです。
長寿高齢化を迎えたこの社会において、薬剤師としてうまく立ち回っていくためには、いくらコンサルトで素晴らしい内容を言っても、相手の心に入っていけなければ相手も聞く気にならないと思います。
この学び舎で学んだ皆さんが共通で持っている人柄の素晴らしさ、人に好かれるものを生かして、真に患者さんや他の医療者の方と意見交換ができる薬剤師として、その能力を120%生かしていくために必要なのはコミュニケーションスキルだと思うんです。
それを磨いていけば、ますます素晴らしい社会人として病院や企業、また他の場所でも活躍できるのではないかと思います。
コミュニケーションについては6年制教育でも力を入れているところです。なかなか難しいところはありますが、ぜひ、少しでも新しいところを取り入れて強化したいと思います。
高齢長寿社会のキーマンとして
それでは、今度はこれからの10年で目指すもの、薬学部への期待ということはいかがでしょうか。
僕は薬剤師が、これからの高齢長寿社会のキーマンになると思っているんですね。医師や看護師、また理学療法士も臨床検査技師も、患者さんが来院されて初めて出会うわけですが、街の薬局には健康な方も来られるわけです。
その中で、ぜひ紀平さんにもお願いしたいと思うのですが、既存の法律の一部を改正して、薬剤師も血液の採取などができるようにしてほしいのです。街の薬局などでも簡単に薬剤師が血液検査等ができるようになれば、病気の早期発見、早期治療ができるし、患者さんの健康寿命の延伸にも貢献できます。特に人口過疎地域は病院へ健診に行くのも困難ですので、街の薬局がある程度支援できるとよいと思うのですね。
もし心配だったら認定制度をつくればよいと思うのです。薬剤師さんは専門の知識を活用して貢献でき、精密検査を薦められた患者さんは医院を訪れて軽症段階で治療を受けることができます。医療費も効率よく使われ、保険財政にも貢献できることになります。
今は社会の中心である生活者に対して、軽い症状は自主服薬、重い症状は早期発見、早期治療を薦める方法が十分でないことが問題だと思います。
薬剤師が採血をするということはなかなか制度的には厳しいのですが、6年制教育の中でフィジカルアセスメントも取り入れております。現在、例えば私どもの附属薬局では、患者さんご自身で採血して、すぐに検査に回せるような仕組みをつくっております。薬局内だけでなく地域に場所をお借りするなどの試みも少しずつですが実施しています。薬局に来れば、ご自分で血圧も測れるということも私どもの薬局では始めています。
私自身、病院の研究所にもおりましたし、薬剤師の経験もありますが、例えばケガをした患者さんが、血を流しながら薬局に入ってきたとしても、薬剤師はそれを止血できないんです。薬剤師は患者の治療をすることを禁止されています。
何をやってはいけないかというと、いわゆる医療行為をやってはいけないという話なんです。ただし、消費者自身が自分で手当てすることについては問題とならないものがあるということかと思います。
消費者が健康を維持するために自らをケアするセルフケアやセルフメディケーションの推進については、それをサポートするのが、薬剤師の役割なのではないかと思います。
消費者から相談を受けて、医師でしか対応できないことだったら、「すぐに病院に行って」と伝えることが大事になりますし、「自分でこうやって止血してから病院に行きましょう」ということを薬剤師が教えてあげるなど、やり方はいろいろあると思うんです。いわゆる薬局でのトリアージと言われるものがこれに当たると思うんですよね。
医師の代わりを薬剤師がするというよりも、患者自身がやることを教えたり介助してあげたりするのが、セルフメディケーションにおける薬剤師の関わり方なのではないかと思います。
なるほどそうですね。それでは鈴木さん、これからの10年、薬学部への期待をお話しいただきたいと思います。
私は35年も大学にいた後、企業に入りました。産学ともお互いの長所、短所、両方ありますが、企業のほうが人やお金、場所などの自由度が高い。ですから、やりたいことがあれば、トップが決めさえすればですが、大学より自由にできる。
ただ一方、企業はお金を儲けていかないといけないので、どうしても短期的なテーマと早期産業化の出口にこだわってしまう。大学のほうは、人やお金、場所などには縛られて自由度が狭められますが、中長期的な研究開発をやれる環境がある。
ですから、産学連携の研究開発は重要なのです。慶應が日本や世界をリードする研究開発をしっかりやるということには企業はかなり期待しています。慶應から将来的な産業化のシーズを多々生み出してくれると思っています。
それから慶應の場合は病院も持っていますので、医療の出口ニーズのほうも今、何が必要とされているのかが分かるのが利点です。JKiCはそういう意味では非常にいいところにあります。信濃町ですと、医学部でシーズを知って、病院でニーズも知ることができるわけです。薬学部も同じように、これからの10年、20年先に向けた産学連携の研究体制ができるようにすることを考える必要があるのではないかと思います。
これからは、上原さんがおっしゃったように、薬だけではなく健常者や高齢者も含めて人を見ていくことが薬学の大事な役割になると思います。それを教育の中に含めて、どうやって健康長寿社会をつくっていくのか。しっかりサポートできるものを薬学教育の中に入れていただきたいと思っています。
人としての「コア」を教える
紀平さん、今後10年についてはいかがでしょうか。
薬学部の教育というのは、教えなければいけないことが多いという声をよく耳にします。6年制スタートに合わせて薬学教育モデル・コアカリキュラムが策定され、平成27年からは改訂コアカリキュラムに従った薬学教育が行われています。
今後も定期的に見直しが行われると思いますが、まず教科書に従って教えて、教えられたことを覚えて国家試験に臨むというところで薬学教育が閉じていると、その先の広がりがないと思うのです。学んだことから何を身につけて、いろいろな変化にどう対応できるようになるかというところが大事だと思います。
今、厚労省で薬局制度見直しの議論が進められていますが、薬剤師のあり方や薬局そのものが変わろうとしている時代に、「今、薬学はこうですよ、薬剤師はこうですよ」と教えたところで、10年後には役に立たないことがたくさんあるはずです。
ですから、薬学教育としてやるべきことは、表面的に教えることだけでなく、その中から何を人のコアとして身につけさせて、将来に生かしてもらうことができるのかが大事なのではないかと思います。薬剤師としてだけではなく、大学で教育を受けた者、あるいは慶應で教育を受けた者として、身につけなければいけないコアな部分をしっかりと教え込むというのが、忘れてはいけない部分ではないかと思います。
おっしゃるとおりだと思います。コアカリのコアではなくて、本当の薬剤師のコアということですよね。
薬剤師としてというよりは、人としてでしょうか。
そうですね。医学部の学生は、必ずしも薬学部の学生みたいに真面目に授業に出ていないようですね(笑)。このあいだアメリカに医学部の4年生の学生を連れて行ったのですが、授業に全然出ていないからアメリカで話を聞くと、初めて聞いたと言う。でも、それは絶対、医学部で習っているはずなんです。
しかし、彼がすごく優秀な学生だということは、一週間一緒にアメリカに行って分かりました。先ほど佐藤さんがおっしゃったように、慶應医学部の人はキャパシティが大きいということなのかもしれません。それに比べて薬学部生は真面目で、ノルマがあると、片っ端から丁寧にやって、それでいっぱいになってしまう。本当はもっと違うこと、慶應だからこそ教えられるものがあるはずですね。
大学の教育って、昔のイメージだと、教科書に書いてあることは「読んで覚えてこい」くらいしか言わないで、講義では教科書の話なんてしないでもっと奥の深い、幅広い話をしているという気がするんです。
今、多くの薬学部は学生のレベルが厳しいので、きちんと教え込まないとなかなか育たないという面があると思うのですが、慶應に来るような学生だったら、もっと先を目指してできると思うので、期待しています。
ゲートオープナーという役割
おっしゃるとおり、われわれの教育の仕方を見直す時期でもあるのかなと。コアカリキュラムだとどうしても金太郎飴みたいな薬剤師をつくろうとしますが、慶應らしい薬学部をつくっていくというところを考えていきたいですね。佐藤さんはいかがですか。
大学とか大学院は人間形成の場だと思うんですね。もちろんカリキュラムがあって、学ぶのですが、それだけだったら教科書を読めばいいということですよね。いかに素晴らしい場を持てるかということが、その後、その人が社会人になって社会をリードする世代になったときに生きてくるところではないかと思います。
日本人のいいところでもあり、悪いところでもあるのですが、何か規制などがあると、それが固定観念になって変えられない。でも、規制だってしょせん人間がつくったものなので、つくったときはそれがリーズナブルなものだとしても、社会の変化によっていろいろ変わってくるわけです。
変える必要があるのであれば、どう変えるのがいいのか、きちんと共通理解のもとでどんどん変えていくべきものではないかと思います。
私は慶應でも講義を持たせていただいていますが、「パブリックヘルスのゲートキーパーであり、ゲートオープナーになりましょう」と話しています。ある規制やルールをつくってそれを守ることは社会の秩序を守るためには必要なことですが、このルールがあるから、ここまでしかできないというのではなく、培った知識や経験をもとに、今あるものをまた変えていくことも重要なのではないかと思います。
われわれは日本人なので、まず一義的には日本ということを考えますが、国という壁にとらわれずに、日本だけではなくアジアや世界のリーダーになれる学生がたくさんいらっしゃるのが慶應ではないかと思います。この学び舎でいろいろな知識や経験を積んで、それをベースにいかに社会にはばたいていくか、世界のリーダーになっていくかということが、求められているのではないかと思います。
グローバルなプロジェクト等もすでにあるとのことですが、慶應に来たからこそ経験できることがあると思いますので、学生時代にできる経験をたくさん積んでほしい。慶應の学生は、他の学問領域や他国の人と触れ合うことで、新しいアイデアを得て、それを行動に移していくことができる能力を持っている学生なのではないかと思います。そうしてよりよい新薬や、よりよい公衆衛生環境を提供するためのリーダーになっていただけたら素晴らしいと思います。
有り難うございました。だんだん責任が重くなってきました(笑)。
結局、どういう人材をつくれるかなんでしょうね。社内を見ても、同じ部署でも伸びる人と伸びない人がいる。本人のアンテナの問題、感受性の問題で、高く広くアンテナを広げ、さらに深く広げられるか。これは薬剤師でも、あらゆる仕事に就く人でも同じだと思います。
できるだけ他の学部と交流したり、あるいは4、5年の臨床だけではなく、街のハンバーガー店でアルバイトでもいいからお客さまと接するとかいろいろな経験をして、「これはなぜだ」というような気づき、要するに座学だけではなく、体験をさせることが必要ではないかと思うのです。
おっしゃるとおりですね。10周年式典のときに宣誓してくれた博士課程1年の男子学生が、僕はラオスの研修で現地の医療を見て博士課程に進学しようと思ったと話してくれました。
もともと看護医療学部がラオス研修を始め、そこに医学部や薬学部の学生が一緒に行っているのですが、何でもある日本とはまるで違い、何もないところで学ぶことが大いにあって、これを何とかするには僕の今の知識では足りないから、博士課程に行かなければ、と思ったようなんですね。
慶應は能力の高い学生が入ってきますから、その学生を伸ばすような教育システム、これまでの薬学ではあまり行われてこなかったようなところも、ほかの学部を参考に積極的に取り入れ、視野をグローバルに広げた活動をしていきたいと思っています。
薬学部としても、今回皆さまに言っていただいたことが、もうここまで来ましたよと、次の機会にお話しできるようにしていきたいと思っております。
本日は有り難うございました。
(2018年8月20日収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。